短編
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孫市さんの誕生日を祝う為に屋敷を訪れるのはもう何度目になるだろうか。
屋敷を訪れれば、雑賀衆の皆はまるで仲間を出迎えてくれるかのように、歓迎してくれるのだけれど今年は違っていた。
孫市さんと一緒に門前払いされてしまったのである。
「お帰りなさいませ! と言いたいところなんですが、今日はお二人で過ごして頂きたくて宿を取ってありますので、そちらでゆっくりお過ごし下さい」
「何言ってんだ。そんなこと俺は聞いてねぇぞ?」
「そう仰ると思って黙ってたんですよ。俺達も頭領が不在の時に羽根伸ばしたいですし」
「ったく……それが本音だろうが。まあ今日はお言葉に甘えてゆっくり過ごすとするか。巫女様、疲れてんのにすまねえな」
「いえ、私なら大丈夫ですよ」
孫市さんとの逢瀬は実に7ヶ月振りのことだから、きっと雑賀衆の皆は気を遣ってくれたんだろう。
屋敷で過ごす時は基本的に誰かがいるし、気にしたことはなかったけれど今回は孫市さんと二人きりで過ごすことになる。
一日中共に過ごすのは初めてのことだから変に意識してしまう。
宿泊する宿の前で孫市さんの部下の方と別れ、用意された部屋に通された。
布団が一式しかないけれど、誤って伝えられてしまったのだろうか。
夜の事は考えずにいよう──そう思いながら私達は別々に湯浴みをし、浴衣を身に付け、用意された夕食を頂く。
誰かに、しかも女性にご飯を用意して貰うのはいつぶりだろうか。
戦の国では食事は一日二回、一汁一菜が基本らしいので肉や魚が出されることはなかなかないらしいから、今日の食事は貴重ということだ。
脂ののった鯖の味噌漬けがメインのようだから、味わって食べないといけない。
「いつもと違う場所で寛ぐのも悪くねえな。湯加減も丁度よかったし、酒も飯も旨い。目の前に美人がいりゃあ尚更心地よく感じるもんだ」
「孫市さんってば……。持ち上げたって何も出ないですからね」
孫市さんはお酒を何杯飲んでも顔色が変わらないし、いくらでも飲み続けられるほどお酒に強いはずだけれど、今日は心なしかペースが早い気がする。
孫市さんが酔ってしまう前に、お祝いの言葉とプレゼントを渡しておいた方がよさそうだ。
私は予め用意しておいた包みを孫市さんに差し出す。
中身は湯呑みがひとつ。湯呑みには雑賀衆なら誰もが知っている鳥が刻まれている。
八咫烏──その鳥のシンボルマークは雑賀衆を束ねる当主の家紋だと聞いたこともあるけれど、その鳥は私にも馴染み深いものだった。
きっと孫市さんならこのシンボルマークに気付いてくれるだろう。
「孫市さんにとって生まれた日なんて特別ではないかもしれませんが、改めておめでとうございます。何を贈ろうか悩んだんですが、手元に置いて貰えるものがいいかと思いまして」
「ありがとうな。開けてもいいか?」
私が包みを差し出すと、孫市さんがそれを開く。
呆気にとられた表情はやがて笑顔を形作る。
どうやら八咫烏に気付いて貰えたようだ。
「巫女様はこれが何なのか知ってたのか?」
「聞いたことはありますが、詳しいことは知りません。ですが、私が知っている鳥にも似ているので親近感があって。それに雑賀衆……孫市さんといえば思い浮かべるのがまずこれなので。お茶もお好きなようですから、使って貰えたら嬉しいです」
孫市さんは戦場で過ごすことが大半だから、せめて屋敷にいる時だけは穏やかに過ごしてほしい。
生傷が絶えないことだってそう。本当は戦場へと赴くこと自体やめてほしいくらいだけれど、旅に出ている私が言う権利なんてないのはわかっている。
だからこそ無事に年を重ねるということが大事なのだ。
「誕生日ついでに我儘言わせてもらうが、今夜は俺に時間をくれるか? 積もる話もあるし、なにより……屋敷じゃ二人になれても忙しないしな。今日はゆっくり過ごすとしようぜ」
ぴたりと抱き合えば石鹸とお酒の香りが、私を支配しようと訪れる。
長らく触れあわずにいた恋人を前にして、拒否などできるわけもなく、明けない甘い夜に私は身を投じるのだった。
屋敷を訪れれば、雑賀衆の皆はまるで仲間を出迎えてくれるかのように、歓迎してくれるのだけれど今年は違っていた。
孫市さんと一緒に門前払いされてしまったのである。
「お帰りなさいませ! と言いたいところなんですが、今日はお二人で過ごして頂きたくて宿を取ってありますので、そちらでゆっくりお過ごし下さい」
「何言ってんだ。そんなこと俺は聞いてねぇぞ?」
「そう仰ると思って黙ってたんですよ。俺達も頭領が不在の時に羽根伸ばしたいですし」
「ったく……それが本音だろうが。まあ今日はお言葉に甘えてゆっくり過ごすとするか。巫女様、疲れてんのにすまねえな」
「いえ、私なら大丈夫ですよ」
孫市さんとの逢瀬は実に7ヶ月振りのことだから、きっと雑賀衆の皆は気を遣ってくれたんだろう。
屋敷で過ごす時は基本的に誰かがいるし、気にしたことはなかったけれど今回は孫市さんと二人きりで過ごすことになる。
一日中共に過ごすのは初めてのことだから変に意識してしまう。
宿泊する宿の前で孫市さんの部下の方と別れ、用意された部屋に通された。
布団が一式しかないけれど、誤って伝えられてしまったのだろうか。
夜の事は考えずにいよう──そう思いながら私達は別々に湯浴みをし、浴衣を身に付け、用意された夕食を頂く。
誰かに、しかも女性にご飯を用意して貰うのはいつぶりだろうか。
戦の国では食事は一日二回、一汁一菜が基本らしいので肉や魚が出されることはなかなかないらしいから、今日の食事は貴重ということだ。
脂ののった鯖の味噌漬けがメインのようだから、味わって食べないといけない。
「いつもと違う場所で寛ぐのも悪くねえな。湯加減も丁度よかったし、酒も飯も旨い。目の前に美人がいりゃあ尚更心地よく感じるもんだ」
「孫市さんってば……。持ち上げたって何も出ないですからね」
孫市さんはお酒を何杯飲んでも顔色が変わらないし、いくらでも飲み続けられるほどお酒に強いはずだけれど、今日は心なしかペースが早い気がする。
孫市さんが酔ってしまう前に、お祝いの言葉とプレゼントを渡しておいた方がよさそうだ。
私は予め用意しておいた包みを孫市さんに差し出す。
中身は湯呑みがひとつ。湯呑みには雑賀衆なら誰もが知っている鳥が刻まれている。
八咫烏──その鳥のシンボルマークは雑賀衆を束ねる当主の家紋だと聞いたこともあるけれど、その鳥は私にも馴染み深いものだった。
きっと孫市さんならこのシンボルマークに気付いてくれるだろう。
「孫市さんにとって生まれた日なんて特別ではないかもしれませんが、改めておめでとうございます。何を贈ろうか悩んだんですが、手元に置いて貰えるものがいいかと思いまして」
「ありがとうな。開けてもいいか?」
私が包みを差し出すと、孫市さんがそれを開く。
呆気にとられた表情はやがて笑顔を形作る。
どうやら八咫烏に気付いて貰えたようだ。
「巫女様はこれが何なのか知ってたのか?」
「聞いたことはありますが、詳しいことは知りません。ですが、私が知っている鳥にも似ているので親近感があって。それに雑賀衆……孫市さんといえば思い浮かべるのがまずこれなので。お茶もお好きなようですから、使って貰えたら嬉しいです」
孫市さんは戦場で過ごすことが大半だから、せめて屋敷にいる時だけは穏やかに過ごしてほしい。
生傷が絶えないことだってそう。本当は戦場へと赴くこと自体やめてほしいくらいだけれど、旅に出ている私が言う権利なんてないのはわかっている。
だからこそ無事に年を重ねるということが大事なのだ。
「誕生日ついでに我儘言わせてもらうが、今夜は俺に時間をくれるか? 積もる話もあるし、なにより……屋敷じゃ二人になれても忙しないしな。今日はゆっくり過ごすとしようぜ」
ぴたりと抱き合えば石鹸とお酒の香りが、私を支配しようと訪れる。
長らく触れあわずにいた恋人を前にして、拒否などできるわけもなく、明けない甘い夜に私は身を投じるのだった。
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