捧げ物
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
主さんと所謂恋仲になってどれくらい経つだろうか。
人間と同じく祝言に相応しい紋付き羽織袴に着替えさせられ、ふと思う。
それに兄ちゃんに恋仲の相手はいないのに、弟の俺が先に祝言なんてちょっとおかしいよね。
「浦島、今日からお前は主の夫となるわけだが。だが夫婦になったとはいえ、本来の務めは忘れんようにな」
「長曽祢兄ちゃん、もうそれ十回以上聞いてるよ」
「はは、そうだったか。だがこの本丸にとっても、おれにとっても慶事であることに違いはない。今日一日は任務のことは忘れて、主の夫として過ごしてくれ」
──夫、か。
人は人を伴侶に選ぶのが世の道理。だけど審神者が年々減少傾向にあって、主さんみたいに恋刀を伴侶に選ぶ事も珍しくないらしい。尤も主さんは元々人とそういう関係にはなるつもりがなくて、縁談は悉く断っていたらしいから何か理由があるんだろうけど。
そういうことは無理に訊かないように、って蜂須賀兄ちゃんが言っていたから、それは今もちゃんと守っている。
俺に歴史があるように、主さんにだって歴史があるんだろう。
だから俺はいつか主さんが話してくれるまで待つつもり。ずっとずっと先の事かもしれないけど、それでもいいんだ。
祝言は本丸内で執り行われることになっていた。
主さんの初期刀や顕現した刀剣達が見守る中、白無垢を身に纏った主さんが現れる。
主さんが身なりに気を遣うのは演練や政府に呼び出された時くらいのもので、それ以外は化粧すらしないのに今日は白粉のせいだろうか、陶器みたいに肌が綺麗に見えるし、紅まで引いてまるで違う人みたいだ。
「浦島くん、あの」
「主さん……」
「そういうことは式を終えてからにしてもらえるかい? 仲が良いのはいいことだけれどね。さ、二人の為に早々に終わらせてあげようじゃないか。外野は静かにしているようにね」
主さんと視線が交わると、歌仙さんに釘を刺される。そんなつもりはないんだけど、着飾った主さんは人形のように綺麗で。
式が終わったら、主さんが俺の隣にいるなんてなんだか信じられなかったけど、時間は瞬く間に過ぎていき、主さん以外は目に入らなくて、その時のことは何も覚えてない。
ただひとつ覚えているのは、式が終わったら主さんの部屋に通されて、そこには白無垢と化粧を脱いだいつもの主さんが俺を待っていたってことだけだ。
「主さん、もう着替えたんだ?」
「うん、衣装が重くて少し疲れちゃって。でもやっぱりいつもと同じがいいな、浦島くんの顔見たら安心しちゃった」
主さんの部屋に来る前に俺も普段の格好に着替えて、彼女の隣に座る。
近侍を務めていても、主さんと共に過ごすことは許されず、近侍は襖一枚隔てた部屋で過ごすことになっている。
だけど今日だけは主さんが寝起きしている部屋にいられる。これも恋刀兼伴侶の役得ってやつなのかな。
机の上には端末と書類の束が山積みされていて、色気もそっけもないけどあちこちから主さんの香りが漂ってくる。
その隣には布団が敷かれている。もちろん一組だけ。
今日はあの布団で主さんと一緒に眠るんだろうな。初めてのことだし、緊張と興奮で眠れるだろうか。
この本丸には沢山の刀剣男士がいて、主さんを慕うのは俺だけじゃない。つまりは主さんと夫婦になったって、俺だけの主さんじゃないってこと。
いつの間に俺は我儘になったんだろう。俺だけの主さんでいてほしいなんて。
「主さんにとっての刀剣男士は俺だけじゃないってわかってるんだけどさ、今日だけ。今日だけは俺だけの主さんでいてくれないかな……」
無茶な願いだっていうのはわかってる。
主さんは政府の為に身を捧げて、生きてきた女性だ。彼女にとっては自分自身ですらも道具でしかないだろう。
だけど、だけど──一時くらいは夢を見ても許されるんじゃないのかな。
俺はこれからも主さんの刃として戦い続ける。
だから今だけは人でありたいんだ。
「浦島くん。私ね、普通の奥さんにはなれないと思う。私の命を助けてくれたのは政府で、きっと奪うのも政府。それでも私はこれからも政府の為に生きるだろうし、審神者を辞めるつもりもないの、永遠に。だけどあなたのことは大切にしたいし、あなた以上に大切に想う人はいないの。だからね、今日だけは浦島くんの主じゃなくて、お嫁さんでいさせてね」
主さんが俺の手に小さなその手を重ねる。
主さんが頼りにしてくれるような男にきっとなるから、お婆ちゃんになってもこうして手を握っててね。
人間と同じく祝言に相応しい紋付き羽織袴に着替えさせられ、ふと思う。
それに兄ちゃんに恋仲の相手はいないのに、弟の俺が先に祝言なんてちょっとおかしいよね。
「浦島、今日からお前は主の夫となるわけだが。だが夫婦になったとはいえ、本来の務めは忘れんようにな」
「長曽祢兄ちゃん、もうそれ十回以上聞いてるよ」
「はは、そうだったか。だがこの本丸にとっても、おれにとっても慶事であることに違いはない。今日一日は任務のことは忘れて、主の夫として過ごしてくれ」
──夫、か。
人は人を伴侶に選ぶのが世の道理。だけど審神者が年々減少傾向にあって、主さんみたいに恋刀を伴侶に選ぶ事も珍しくないらしい。尤も主さんは元々人とそういう関係にはなるつもりがなくて、縁談は悉く断っていたらしいから何か理由があるんだろうけど。
そういうことは無理に訊かないように、って蜂須賀兄ちゃんが言っていたから、それは今もちゃんと守っている。
俺に歴史があるように、主さんにだって歴史があるんだろう。
だから俺はいつか主さんが話してくれるまで待つつもり。ずっとずっと先の事かもしれないけど、それでもいいんだ。
祝言は本丸内で執り行われることになっていた。
主さんの初期刀や顕現した刀剣達が見守る中、白無垢を身に纏った主さんが現れる。
主さんが身なりに気を遣うのは演練や政府に呼び出された時くらいのもので、それ以外は化粧すらしないのに今日は白粉のせいだろうか、陶器みたいに肌が綺麗に見えるし、紅まで引いてまるで違う人みたいだ。
「浦島くん、あの」
「主さん……」
「そういうことは式を終えてからにしてもらえるかい? 仲が良いのはいいことだけれどね。さ、二人の為に早々に終わらせてあげようじゃないか。外野は静かにしているようにね」
主さんと視線が交わると、歌仙さんに釘を刺される。そんなつもりはないんだけど、着飾った主さんは人形のように綺麗で。
式が終わったら、主さんが俺の隣にいるなんてなんだか信じられなかったけど、時間は瞬く間に過ぎていき、主さん以外は目に入らなくて、その時のことは何も覚えてない。
ただひとつ覚えているのは、式が終わったら主さんの部屋に通されて、そこには白無垢と化粧を脱いだいつもの主さんが俺を待っていたってことだけだ。
「主さん、もう着替えたんだ?」
「うん、衣装が重くて少し疲れちゃって。でもやっぱりいつもと同じがいいな、浦島くんの顔見たら安心しちゃった」
主さんの部屋に来る前に俺も普段の格好に着替えて、彼女の隣に座る。
近侍を務めていても、主さんと共に過ごすことは許されず、近侍は襖一枚隔てた部屋で過ごすことになっている。
だけど今日だけは主さんが寝起きしている部屋にいられる。これも恋刀兼伴侶の役得ってやつなのかな。
机の上には端末と書類の束が山積みされていて、色気もそっけもないけどあちこちから主さんの香りが漂ってくる。
その隣には布団が敷かれている。もちろん一組だけ。
今日はあの布団で主さんと一緒に眠るんだろうな。初めてのことだし、緊張と興奮で眠れるだろうか。
この本丸には沢山の刀剣男士がいて、主さんを慕うのは俺だけじゃない。つまりは主さんと夫婦になったって、俺だけの主さんじゃないってこと。
いつの間に俺は我儘になったんだろう。俺だけの主さんでいてほしいなんて。
「主さんにとっての刀剣男士は俺だけじゃないってわかってるんだけどさ、今日だけ。今日だけは俺だけの主さんでいてくれないかな……」
無茶な願いだっていうのはわかってる。
主さんは政府の為に身を捧げて、生きてきた女性だ。彼女にとっては自分自身ですらも道具でしかないだろう。
だけど、だけど──一時くらいは夢を見ても許されるんじゃないのかな。
俺はこれからも主さんの刃として戦い続ける。
だから今だけは人でありたいんだ。
「浦島くん。私ね、普通の奥さんにはなれないと思う。私の命を助けてくれたのは政府で、きっと奪うのも政府。それでも私はこれからも政府の為に生きるだろうし、審神者を辞めるつもりもないの、永遠に。だけどあなたのことは大切にしたいし、あなた以上に大切に想う人はいないの。だからね、今日だけは浦島くんの主じゃなくて、お嫁さんでいさせてね」
主さんが俺の手に小さなその手を重ねる。
主さんが頼りにしてくれるような男にきっとなるから、お婆ちゃんになってもこうして手を握っててね。