ダグラス主
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私がトロイメアを初めて訪れた時、トロイメアは一言で言うなら天国のような地獄だった。
闇のベールがすべてを包み込み、主人のいない国には人の影すらなかった。
私とナビにとって最も大切な人を喪うこととなり、あれから幾年もの月日が流れ、たくさんの人の力を借りてかつてのトロイメアに近い状態にまで復興することができた。
今も思えば胸が締め付けられて苦しいけれど、今の私があるのはその過去があるから。みんなが陰日向のように寄り添ってくれたから――。
プリンセスサロンでのスピーチを終えたあとは、私室にダグラスさんを招くことになっていた。
コンコン、と軽く扉をノックする音が聞こえ、私は確認することもなく扉を開く。
「姫、確認もせずに不用心じゃないか」
「ここに来る人は限られていますし、この時間はダグラスさんと待ち合わせていましたから――中にどうぞ」
ブルーローズの花束を抱えたダグラスさんは今日のために作られたのであろう、ゴールド系の色味ではあるけれど決して下品ではなく、華美で特別感の印象を与えるライトゴールデンロッドイエローの衣装に身を包んでいた。
ここがトロイメアの夢王の私室だからだろうか、王子として完璧な所作で席に着く。
「素晴らしいスピーチだったよ。新しい一歩を踏み出す君に、何がいいか悩んだんだが受け取ってくれるかい?」
「ありがとうございます……ブルーローズですね。花言葉は夢が叶う・奇跡・神の祝福でしたっけ」
「出会ったばかりの頃の君を見て、俺はお姫様だとすら思わなかった。でも今の君は誰にでも等しく優しくて、勇気のある逞しい女性だ。夢王に相応しい女性は君以外にはもう考えられないと思ってるよ」
「だけど――助けられない人達もたくさんいました。私は本当に夢王に相応しいのかと不安になる時があります……」
夢を与えることができても、救えなかった命もたくさんある。その記憶は傷口に塩を塗りつけるように、私の脳裏に鮮明に刻み込まれている。
そう考えると復興の影には犠牲があったと言えるだろう。私の命があるのもまた、礎となった人達がいたからに違いない。
「俺も君も神様じゃない。だから全ての人を等しく救うことは出来ない。でも君は目の前にいる人々を身を削って助けてきたじゃないか。君に感謝を述べることはあっても恨む人はいないだろう。彼らは目に見えなくても君の傍にいて、トロイメアを見てきっと喜んでいると思うよ。光に溢れた世界を夢王様が取り戻してくれた、とね」
両親や兄、亡くした人を思えば自然と涙が溢れてくる。声は出すまいと唇を噛みしめる。泣いてはいけない、私は夢王なのだから。
「君は荷物をひとりで抱え込みすぎる。今だけは夢王でなく、一人の女性に戻っていいんだよ。おいで、姫」
張り詰めていた糸がぷつり、と切れたのか、ダムが決壊したように、涙がぽろぽろと溢れてきた。
私はダグラスさんの胸に飛び込むと、子供のように咽び泣くのだった。
闇のベールがすべてを包み込み、主人のいない国には人の影すらなかった。
私とナビにとって最も大切な人を喪うこととなり、あれから幾年もの月日が流れ、たくさんの人の力を借りてかつてのトロイメアに近い状態にまで復興することができた。
今も思えば胸が締め付けられて苦しいけれど、今の私があるのはその過去があるから。みんなが陰日向のように寄り添ってくれたから――。
プリンセスサロンでのスピーチを終えたあとは、私室にダグラスさんを招くことになっていた。
コンコン、と軽く扉をノックする音が聞こえ、私は確認することもなく扉を開く。
「姫、確認もせずに不用心じゃないか」
「ここに来る人は限られていますし、この時間はダグラスさんと待ち合わせていましたから――中にどうぞ」
ブルーローズの花束を抱えたダグラスさんは今日のために作られたのであろう、ゴールド系の色味ではあるけれど決して下品ではなく、華美で特別感の印象を与えるライトゴールデンロッドイエローの衣装に身を包んでいた。
ここがトロイメアの夢王の私室だからだろうか、王子として完璧な所作で席に着く。
「素晴らしいスピーチだったよ。新しい一歩を踏み出す君に、何がいいか悩んだんだが受け取ってくれるかい?」
「ありがとうございます……ブルーローズですね。花言葉は夢が叶う・奇跡・神の祝福でしたっけ」
「出会ったばかりの頃の君を見て、俺はお姫様だとすら思わなかった。でも今の君は誰にでも等しく優しくて、勇気のある逞しい女性だ。夢王に相応しい女性は君以外にはもう考えられないと思ってるよ」
「だけど――助けられない人達もたくさんいました。私は本当に夢王に相応しいのかと不安になる時があります……」
夢を与えることができても、救えなかった命もたくさんある。その記憶は傷口に塩を塗りつけるように、私の脳裏に鮮明に刻み込まれている。
そう考えると復興の影には犠牲があったと言えるだろう。私の命があるのもまた、礎となった人達がいたからに違いない。
「俺も君も神様じゃない。だから全ての人を等しく救うことは出来ない。でも君は目の前にいる人々を身を削って助けてきたじゃないか。君に感謝を述べることはあっても恨む人はいないだろう。彼らは目に見えなくても君の傍にいて、トロイメアを見てきっと喜んでいると思うよ。光に溢れた世界を夢王様が取り戻してくれた、とね」
両親や兄、亡くした人を思えば自然と涙が溢れてくる。声は出すまいと唇を噛みしめる。泣いてはいけない、私は夢王なのだから。
「君は荷物をひとりで抱え込みすぎる。今だけは夢王でなく、一人の女性に戻っていいんだよ。おいで、姫」
張り詰めていた糸がぷつり、と切れたのか、ダムが決壊したように、涙がぽろぽろと溢れてきた。
私はダグラスさんの胸に飛び込むと、子供のように咽び泣くのだった。
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