ダグラス主 隠れ家
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ムーンロードが架かる時間を予測して、出立の準備を終え、私はいつものようにダグラスさんに別れの挨拶をする。
別れと言っても永遠の別れと言うわけではない。
姫と王子の立場柄、こうして会うことができる時は限られているけれど、それはお互い承知の上のこと。
本当はアンキュラに滞在してほしいと考えてくれているのは分かっているけど、私はそうすることができない。トロイメアの姫として務めを果たさなければいけないから──。
恋人がダグラスさんでなければ、きっと長期に渡り不在にすることを許可しては貰えなかっただろう。
ダグラスさんも海賊としてアンキュラのあちらこちらを航海し、一度航海に出ればいつ戻れるか定かではない。これは私達だからこそ、譲歩できることだと思っている。
「姫、そろそろ行こうか?」
「はい。ボニータ、また来るからそれまで元気にして……ボニータ?」
隠れ家のエントランスに仁王立ちしているボニータは動くことなく、まるで私を阻むかのように小さな両手を広げた。
宝石のように澄んだ瞳に涙を浮かべ、その滴はぽたりぽたりとボニータの頬を伝う。
──行かないで。帰っちゃいや。もっとここにいてほしいの。
彼女の言葉はわからないけれど、そう言っているかのように見えた。
「ボニータ、姫が困ってるってわかってるだろう? 姫は俺達だけのお姫様じゃない。俺達にしかできない仕事があるように、彼女にしかできない仕事があるんだ。だから笑顔で見送ってあげよう、ボニータ」
ボニータはダグラスさんの言葉に耳を貸さず、力いっぱい首を横に振る。
ボニータと共に過ごしてもう数年が経っているわけだけど、私にとって彼女がかけがえのない存在になっているように、ボニータにとって私も同様の存在となっているからこそ駄々をこねているのか、と考えたら彼女が愛しくてたまらない。
私が姫でなければ。姫としての責務を放棄することが許されるなら、永遠にアンキュラで過ごしたい。
食事の支度をしている際は構ってほしくてスカートの裾を掴んだり、口付けで私を起こしてくれたり。
ダグラスさんとボニータとの生活は私の癒しになっていた。
「ボニータ、いつもみたいにちゃんと帰ってくるよ。だって私が帰る場所はトロイメアかアンキュラしかないもの。私がいない時はダグラスさんや船員さん、みんなを支えてほしいの。これはボニータにしかお願いできないことなの、わかってくれる? 帰ってきたらたくさん遊ぼうね。美味しいもの食べて、ひなたぼっこするの。それまでいい子にしてて、ね?」
ぬいぐるみのようにふわふわで柔かな小さな体を抱きしめる。
言葉は分からなくても、私がボニータを大好きだという気持ちは抱きしめることで伝わると信じて。
ボニータを抱擁から解放すると私は彼女に目線を合わせる。
するとボニータは涙を拭って笑顔を見せてくれた。
少し無理をしているようにも見えたけど、私を送り出そうと必死に気持ちを押し殺しているのだろう。
「ボニータ、ありがとう。ちゃんと戻ってくるって約束、守るからね。ボニータの笑顔、大好きだよ。無理言った分はいっぱい甘えさせてあげるからね。私も頑張ってくるから、ボニータもダグラスさんのことお願いね。体壊さないように気を付けてね」
ボニータはこくりと頷くとダグラスさんの肩に乗り、両手で手を振ってくれた。
これは永遠の別れの挨拶じゃない。また再会するための挨拶だ。
だから私達は『さようなら』なんて口にしたことは一度だってない。またアンキュラに戻り、大好きな笑顔に会えると心の底から信じているから。
「君も体には気を付けて。君は大丈夫なんて言いながら、体調が悪くても無茶をするからね。
──いつでもここに帰っておいで。そして旅の話を聞かせてほしいんだ」
「はい、いってきます! ダグラスさんのお話も楽しみにしてますね」
ダグラスさんは私の手を取り、口付けを落とす。
海の加護を受けたダグラスさんの口付けは、どんなお守りよりも効果のある私だけの唯一無二のお守りだ。
海の香りを纏ったお守りを贈られた私は振り返ることなく、予測通りに現れたムーンロードを渡る。
ムーンロードの下に広がる、母なる海の深くて優しい色は彼の瞳を彷彿とさせる。
満天の星空を見上げ、私は駆け出すのだった。
別れと言っても永遠の別れと言うわけではない。
姫と王子の立場柄、こうして会うことができる時は限られているけれど、それはお互い承知の上のこと。
本当はアンキュラに滞在してほしいと考えてくれているのは分かっているけど、私はそうすることができない。トロイメアの姫として務めを果たさなければいけないから──。
恋人がダグラスさんでなければ、きっと長期に渡り不在にすることを許可しては貰えなかっただろう。
ダグラスさんも海賊としてアンキュラのあちらこちらを航海し、一度航海に出ればいつ戻れるか定かではない。これは私達だからこそ、譲歩できることだと思っている。
「姫、そろそろ行こうか?」
「はい。ボニータ、また来るからそれまで元気にして……ボニータ?」
隠れ家のエントランスに仁王立ちしているボニータは動くことなく、まるで私を阻むかのように小さな両手を広げた。
宝石のように澄んだ瞳に涙を浮かべ、その滴はぽたりぽたりとボニータの頬を伝う。
──行かないで。帰っちゃいや。もっとここにいてほしいの。
彼女の言葉はわからないけれど、そう言っているかのように見えた。
「ボニータ、姫が困ってるってわかってるだろう? 姫は俺達だけのお姫様じゃない。俺達にしかできない仕事があるように、彼女にしかできない仕事があるんだ。だから笑顔で見送ってあげよう、ボニータ」
ボニータはダグラスさんの言葉に耳を貸さず、力いっぱい首を横に振る。
ボニータと共に過ごしてもう数年が経っているわけだけど、私にとって彼女がかけがえのない存在になっているように、ボニータにとって私も同様の存在となっているからこそ駄々をこねているのか、と考えたら彼女が愛しくてたまらない。
私が姫でなければ。姫としての責務を放棄することが許されるなら、永遠にアンキュラで過ごしたい。
食事の支度をしている際は構ってほしくてスカートの裾を掴んだり、口付けで私を起こしてくれたり。
ダグラスさんとボニータとの生活は私の癒しになっていた。
「ボニータ、いつもみたいにちゃんと帰ってくるよ。だって私が帰る場所はトロイメアかアンキュラしかないもの。私がいない時はダグラスさんや船員さん、みんなを支えてほしいの。これはボニータにしかお願いできないことなの、わかってくれる? 帰ってきたらたくさん遊ぼうね。美味しいもの食べて、ひなたぼっこするの。それまでいい子にしてて、ね?」
ぬいぐるみのようにふわふわで柔かな小さな体を抱きしめる。
言葉は分からなくても、私がボニータを大好きだという気持ちは抱きしめることで伝わると信じて。
ボニータを抱擁から解放すると私は彼女に目線を合わせる。
するとボニータは涙を拭って笑顔を見せてくれた。
少し無理をしているようにも見えたけど、私を送り出そうと必死に気持ちを押し殺しているのだろう。
「ボニータ、ありがとう。ちゃんと戻ってくるって約束、守るからね。ボニータの笑顔、大好きだよ。無理言った分はいっぱい甘えさせてあげるからね。私も頑張ってくるから、ボニータもダグラスさんのことお願いね。体壊さないように気を付けてね」
ボニータはこくりと頷くとダグラスさんの肩に乗り、両手で手を振ってくれた。
これは永遠の別れの挨拶じゃない。また再会するための挨拶だ。
だから私達は『さようなら』なんて口にしたことは一度だってない。またアンキュラに戻り、大好きな笑顔に会えると心の底から信じているから。
「君も体には気を付けて。君は大丈夫なんて言いながら、体調が悪くても無茶をするからね。
──いつでもここに帰っておいで。そして旅の話を聞かせてほしいんだ」
「はい、いってきます! ダグラスさんのお話も楽しみにしてますね」
ダグラスさんは私の手を取り、口付けを落とす。
海の加護を受けたダグラスさんの口付けは、どんなお守りよりも効果のある私だけの唯一無二のお守りだ。
海の香りを纏ったお守りを贈られた私は振り返ることなく、予測通りに現れたムーンロードを渡る。
ムーンロードの下に広がる、母なる海の深くて優しい色は彼の瞳を彷彿とさせる。
満天の星空を見上げ、私は駆け出すのだった。