五条悟
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「五条くんに告白されたの」
高専ではそもそも呪術師見習いとなる生徒の数が少ないため、当然のことながら同期の数は少ない。したがってこういった相談事は硝子ちゃんにしかすることができない。
私がそう告げると、硝子ちゃんは『自覚したのはかなり遅かったけど、あいつの好意知らなかったの◯◯だけだよ』とあっけらかんと言われてしまった。
「だって五条くん、今までそんな素振り見せなかったよ?」
「好きな相手には敢えて意地の悪いことするって意味じゃしてたと思うけど。◯◯が前の彼氏と付き合ってた時はかなり苛ついてたしね」
「それも初耳なんだけど。でもさ、今までそんな目で見てなかったからちょっと困惑してる」
「で、どうすんの? 付き合うの、それともはっきり断った?」
「試しに付き合って、それから私が決めたらいいって言われたから、取り敢えず承諾したの。考えたら五条くんのこと、知らないことだらけだなって思うし」
基本的に何をするにも四人で動いていたし、もちろん友達としか接していなかったから私自身彼のことははっきりいって異性としては何も知らないに等しい。
実は一度だけ任務で一緒になったことがあるのだけど、彼は特級で私は二級。特級と一級でも雲泥の差があるというのだから、私が何をしたって越えられない壁があるというのは事実だ。
二人で行う任務の筈なのに、ほとんど彼一人で片を付けてしまい、私は呪術師としての自信を奪われてしまった。
圧倒的なまでの経験値の差。それは仕方ないことだけれど、また同じようなことがあっては耐えられない、と、もう五条くんと組むのはやめてほしいと自ら願い出た。
術式は努力したって変わるものじゃない。非術師出身の私からみれば羨ましいものしか持ってない彼を憎らしく思うのはそれはちょっと違うような気がしたから、私は彼のいないところでひっそりと稽古に励んだ。
呪術師はロールプレイングゲームでいうところの魔法使いや魔術師に相当する位置付けではあるけれど、MPが高くてもHPが低くては戦力にならないからだ。
格下には格下なりのプライドがある。私も呪術師を名乗っているのだから。
任務ではそれっきり。後は同級生として、友人としての彼のことしか知らない。
「あいつのことだから、なんだかんだ言って丸め込まれそうじゃない? で、付き合ってるんだからデートくらいしたんでしょ? どっか連れてってくれた?」
「ううん、実はまだ。ちなみにもうすぐ三ヶ月過ぎそう」
「せっかく付き合えたってのに馬鹿だね、あいつも。ま、特級だし忙しいのはわかるけどさ」
数少ない呪術師の中でも特級に分類される呪術師はごく僅かしかいないから、当然のことながら多忙を極めることは知っている。
一日に数件もの任務を与えられることもあると聞く。
それはわかっているのだけれど、メッセージのひとつもなく放置されていると流石に心配になってくる。
あの賑やかな声が今は少し恋しい。
『◯◯だけど元気にやってる? 任務なのは知ってるけど呪術師は体が資本なんだから体壊さないでね』
そう送るや否や早速新着メッセージが着ており、送信者は五条くんだった。連絡してくるってことはもう帰りなのかな。
『ごめん。言っとけばよかったんだけど明日やっとそっち帰れそうなんだけど。あれから全然帰ってねーんだ。オマエも任務とか用事とかあるだろうし、帰ったら日程合わせようぜ。あれから二人で出掛けたりとかまだだったしな』
(二人で……ってこれデートだよね)
無機質な文字の羅列に私は頬を染める。友達ではない男女が付き合って、何処かにでかけるなんて分かりきっていたことなのに。
それからほどなくして五条くんが任務から戻り、長期出張であったためか、ご丁寧にお土産を持って私の部屋を訪ねてきた。
二人の休日が重なる日にようやく第一回目のデートが決まった。デートなんていっても、住んでいるところは同じだから待ち合わせなんていうものはないのだけど。
約束していた時刻に寮の玄関の前で待ち合わせ、目的地へと向かう。
白雪のような髪。サングラスで隠したアクアマリンのような瞳。
ベビーフェイスに似合わない鍛え抜かれた体躯。
彼の性格を知らない人は容姿だけで判断するので、眉目秀麗な好青年と勘違いしてすれ違う人みんなが振り返る。まあかく言う私も五条くんと話すまでは他の人と同じように思っていたけれど。
隣を歩く私は気分がいいけれど、同時に複雑な気分になる。
「オマエはこっちな」
「別に気にしなくていいのに」
私が車線側を歩いていると、五条くんが私のシャツの袖を掴み、歩道側へと誘導する。
友人ではなく女性として扱われていることに、私は胸の鼓動が速くなっていることに気付く。
カフェに入り、ウェイターに案内され席に着く。もちろんそれまで黄色い声がBGMとして流れているのは驚くようなことじゃない。
テーブルのサイドに置かれたタブレットでメニューを見る五条くんは、長い指で液晶画面をタップする。
その画面には女性が好きそうなスイーツが映っていた。そう、彼は私と同じく甘党だった。
「久々に呪霊以外の顔見れたらなんか安心したわ」
「なーにそれ。でも大変だったね、五条くんが強いのはわかってるけどちょっと心配になっちゃった」
会話をしている間にウェイターさんが注文したケーキとドリンクをそっと置いて、一礼して去ってゆく。
テーブルの上にはショートケーキとロイヤルミルクティー、そしてザッハトルテとカフェオレが置かれている。前者は五条くんが注文したものだ。
こんなに図体の大きい人が、一口もしくは二口くらいで完食できてしまうケーキを食べるなんて、本人の前では言えないけれどなんて可愛らしいんだろう。
しかし彼の口の悪さがその可愛らしさを打ち消してしまう。
「あっちこっち行かされるから連絡するの後になって、悪かったな。結局二人で出掛けたのなんて今日が初めてだし」
「任務なら仕方ないよ、気にしないで。私も遠方に行くことはあるけど、頻度から言えば任務の少ない私の方が合わせやすいし」
それは卑下でも自虐でもなく、事実だ。
階級が上がる毎に任務の危険度が上がり、特級の呪術師は限られた人数しかいないのだから自然と任務の数もそうなってしまう。
私の返事が不満だったのか、五条くんは口角を下げた。
「素直じゃねぇの。ま、警戒されてなさそうだし今のオマエの表情見てたら、脈ありそうって勝手に思っとくけどオマエはいいの?」
「五条くん、冗談じゃなかったんだね?」
「冗談で好きでもない女にモーションかけるほど暇じゃないんだわ。何で冗談とか思うわけ?」
「だって五条くんモテるじゃない。何で私なのかな、って」
彼は容姿がいいだけではなく、御三家のひとつである五条家の人間なので権力もある。そんな人に女性が好意を寄せない、興味を持たないことは異常だ。惹かれて当然なのだ。
そんなすべてを持ち合わせた人が、私に惹かれる理由がわからない。
呪術師として際立った素養があるわけでもなく、容姿に恵まれたわけでもなく。
呪術師として最低限必要なものは持っていると自覚しているが、階級が示しているようにそれは大したことではない。
「最初興味持ったのは術式。赫とオマエの術式、色が似てたんだよな。術式は自分が望んだものを手にできるわけじゃない。生まれついてのもんだろ」
「まあそうだね」
「あとはまあ──自分のこと放っといて他人の世話焼くし、美人ってわけじゃねぇけどオマエの笑った顔見てたら、なんか気持ちが解れるっつーか」
「それ、本人の目の前で言えるのがすごいよね」
五条くんは思ったことをそのまま口にするせいか、口が悪いという印象がある。逆を言えば嘘を付かない、素直であることが言える。まあ少し伝わりにくいところはあるけれど。
「五条くんってずっと口が悪いと思ってたんだけど、そうじゃなくて思ったこと口にするんだね」
「◯◯、それ貶してんの?」
「そうじゃなくて褒めてるの。五条くんって自分より弱い術式や階級の低い術師はみんなザコだって思ってるでしょ? 実際面と向かって言われたしね。だから私、五条くんのこと苦手だった時があるんだけど本当は違ったんだな、って」
特級である彼からすれば殆どの術師がザコの部類に当たる。
彼が普通なのではなく、異常なのだ。
術式に加えて生まれついての六眼。そしてそれを後押しするかのような恵まれた体格から繰り出される体術。
自分を基準にするが故に態度や言動は尊大で好ましいとは言い難い。でも蓋を開けてみれば人の好い人だった。ただし口は悪いけれど。
(嘘で人を傷つける人は嫌い。でも五条くんは真実で人の心を少し傷付けてしまう。そういう人よりは好きかもしれない)
高専に入って初めて付き合った人は同い年の窓だった。
任務を通して知り合って付き合ったけれど、予告もなく任務が入ることも多々あり、次第に私達の仲に亀裂が走った。
そこで追い打ちをかけたのが彼の言い訳だった。
『俺も悪かったけどさ、近くにいてくれる子に目がいくのは仕方ないだろ』
確かにそれも一理ある。彼を放置したつもりはないけれど、私は愛されていることに胡座をかいていたかもしれない。
だけど私が呪いを祓っている間に彼が知らない女性に恋をして、愛を育んでいたのだと思うと虚しさが込み上げた。
何も言う気力がなく、別れを了承することしかできなかった。そう、あの日の私は幼かったのだ。
「嘘で人を傷つけるより、私はそっちの方が好き。五条くん、なんだかんだ言って世話好きだもんね」
「──オマエ、今何言ってるかわかってんの? 俺がオマエに告白したってこと忘れた?」
「覚えてるよ。だから今ここにいるんでしょ?」
「もう三ヶ月だけどいつ返事くれんの? 俺はまだ先でもいいと思ってたけど、そんな顔されたら期待するだろ。なあ、◯◯」
氷の溶け切ったグラスに五条くんの瞳が映り込む。
その瞳に射抜かれたようで私は瞬きすることすらできなかったのだけど、これから彼と長く付き合うことをこの時の私は想像すらしていなかったのだった。
高専ではそもそも呪術師見習いとなる生徒の数が少ないため、当然のことながら同期の数は少ない。したがってこういった相談事は硝子ちゃんにしかすることができない。
私がそう告げると、硝子ちゃんは『自覚したのはかなり遅かったけど、あいつの好意知らなかったの◯◯だけだよ』とあっけらかんと言われてしまった。
「だって五条くん、今までそんな素振り見せなかったよ?」
「好きな相手には敢えて意地の悪いことするって意味じゃしてたと思うけど。◯◯が前の彼氏と付き合ってた時はかなり苛ついてたしね」
「それも初耳なんだけど。でもさ、今までそんな目で見てなかったからちょっと困惑してる」
「で、どうすんの? 付き合うの、それともはっきり断った?」
「試しに付き合って、それから私が決めたらいいって言われたから、取り敢えず承諾したの。考えたら五条くんのこと、知らないことだらけだなって思うし」
基本的に何をするにも四人で動いていたし、もちろん友達としか接していなかったから私自身彼のことははっきりいって異性としては何も知らないに等しい。
実は一度だけ任務で一緒になったことがあるのだけど、彼は特級で私は二級。特級と一級でも雲泥の差があるというのだから、私が何をしたって越えられない壁があるというのは事実だ。
二人で行う任務の筈なのに、ほとんど彼一人で片を付けてしまい、私は呪術師としての自信を奪われてしまった。
圧倒的なまでの経験値の差。それは仕方ないことだけれど、また同じようなことがあっては耐えられない、と、もう五条くんと組むのはやめてほしいと自ら願い出た。
術式は努力したって変わるものじゃない。非術師出身の私からみれば羨ましいものしか持ってない彼を憎らしく思うのはそれはちょっと違うような気がしたから、私は彼のいないところでひっそりと稽古に励んだ。
呪術師はロールプレイングゲームでいうところの魔法使いや魔術師に相当する位置付けではあるけれど、MPが高くてもHPが低くては戦力にならないからだ。
格下には格下なりのプライドがある。私も呪術師を名乗っているのだから。
任務ではそれっきり。後は同級生として、友人としての彼のことしか知らない。
「あいつのことだから、なんだかんだ言って丸め込まれそうじゃない? で、付き合ってるんだからデートくらいしたんでしょ? どっか連れてってくれた?」
「ううん、実はまだ。ちなみにもうすぐ三ヶ月過ぎそう」
「せっかく付き合えたってのに馬鹿だね、あいつも。ま、特級だし忙しいのはわかるけどさ」
数少ない呪術師の中でも特級に分類される呪術師はごく僅かしかいないから、当然のことながら多忙を極めることは知っている。
一日に数件もの任務を与えられることもあると聞く。
それはわかっているのだけれど、メッセージのひとつもなく放置されていると流石に心配になってくる。
あの賑やかな声が今は少し恋しい。
『◯◯だけど元気にやってる? 任務なのは知ってるけど呪術師は体が資本なんだから体壊さないでね』
そう送るや否や早速新着メッセージが着ており、送信者は五条くんだった。連絡してくるってことはもう帰りなのかな。
『ごめん。言っとけばよかったんだけど明日やっとそっち帰れそうなんだけど。あれから全然帰ってねーんだ。オマエも任務とか用事とかあるだろうし、帰ったら日程合わせようぜ。あれから二人で出掛けたりとかまだだったしな』
(二人で……ってこれデートだよね)
無機質な文字の羅列に私は頬を染める。友達ではない男女が付き合って、何処かにでかけるなんて分かりきっていたことなのに。
それからほどなくして五条くんが任務から戻り、長期出張であったためか、ご丁寧にお土産を持って私の部屋を訪ねてきた。
二人の休日が重なる日にようやく第一回目のデートが決まった。デートなんていっても、住んでいるところは同じだから待ち合わせなんていうものはないのだけど。
約束していた時刻に寮の玄関の前で待ち合わせ、目的地へと向かう。
白雪のような髪。サングラスで隠したアクアマリンのような瞳。
ベビーフェイスに似合わない鍛え抜かれた体躯。
彼の性格を知らない人は容姿だけで判断するので、眉目秀麗な好青年と勘違いしてすれ違う人みんなが振り返る。まあかく言う私も五条くんと話すまでは他の人と同じように思っていたけれど。
隣を歩く私は気分がいいけれど、同時に複雑な気分になる。
「オマエはこっちな」
「別に気にしなくていいのに」
私が車線側を歩いていると、五条くんが私のシャツの袖を掴み、歩道側へと誘導する。
友人ではなく女性として扱われていることに、私は胸の鼓動が速くなっていることに気付く。
カフェに入り、ウェイターに案内され席に着く。もちろんそれまで黄色い声がBGMとして流れているのは驚くようなことじゃない。
テーブルのサイドに置かれたタブレットでメニューを見る五条くんは、長い指で液晶画面をタップする。
その画面には女性が好きそうなスイーツが映っていた。そう、彼は私と同じく甘党だった。
「久々に呪霊以外の顔見れたらなんか安心したわ」
「なーにそれ。でも大変だったね、五条くんが強いのはわかってるけどちょっと心配になっちゃった」
会話をしている間にウェイターさんが注文したケーキとドリンクをそっと置いて、一礼して去ってゆく。
テーブルの上にはショートケーキとロイヤルミルクティー、そしてザッハトルテとカフェオレが置かれている。前者は五条くんが注文したものだ。
こんなに図体の大きい人が、一口もしくは二口くらいで完食できてしまうケーキを食べるなんて、本人の前では言えないけれどなんて可愛らしいんだろう。
しかし彼の口の悪さがその可愛らしさを打ち消してしまう。
「あっちこっち行かされるから連絡するの後になって、悪かったな。結局二人で出掛けたのなんて今日が初めてだし」
「任務なら仕方ないよ、気にしないで。私も遠方に行くことはあるけど、頻度から言えば任務の少ない私の方が合わせやすいし」
それは卑下でも自虐でもなく、事実だ。
階級が上がる毎に任務の危険度が上がり、特級の呪術師は限られた人数しかいないのだから自然と任務の数もそうなってしまう。
私の返事が不満だったのか、五条くんは口角を下げた。
「素直じゃねぇの。ま、警戒されてなさそうだし今のオマエの表情見てたら、脈ありそうって勝手に思っとくけどオマエはいいの?」
「五条くん、冗談じゃなかったんだね?」
「冗談で好きでもない女にモーションかけるほど暇じゃないんだわ。何で冗談とか思うわけ?」
「だって五条くんモテるじゃない。何で私なのかな、って」
彼は容姿がいいだけではなく、御三家のひとつである五条家の人間なので権力もある。そんな人に女性が好意を寄せない、興味を持たないことは異常だ。惹かれて当然なのだ。
そんなすべてを持ち合わせた人が、私に惹かれる理由がわからない。
呪術師として際立った素養があるわけでもなく、容姿に恵まれたわけでもなく。
呪術師として最低限必要なものは持っていると自覚しているが、階級が示しているようにそれは大したことではない。
「最初興味持ったのは術式。赫とオマエの術式、色が似てたんだよな。術式は自分が望んだものを手にできるわけじゃない。生まれついてのもんだろ」
「まあそうだね」
「あとはまあ──自分のこと放っといて他人の世話焼くし、美人ってわけじゃねぇけどオマエの笑った顔見てたら、なんか気持ちが解れるっつーか」
「それ、本人の目の前で言えるのがすごいよね」
五条くんは思ったことをそのまま口にするせいか、口が悪いという印象がある。逆を言えば嘘を付かない、素直であることが言える。まあ少し伝わりにくいところはあるけれど。
「五条くんってずっと口が悪いと思ってたんだけど、そうじゃなくて思ったこと口にするんだね」
「◯◯、それ貶してんの?」
「そうじゃなくて褒めてるの。五条くんって自分より弱い術式や階級の低い術師はみんなザコだって思ってるでしょ? 実際面と向かって言われたしね。だから私、五条くんのこと苦手だった時があるんだけど本当は違ったんだな、って」
特級である彼からすれば殆どの術師がザコの部類に当たる。
彼が普通なのではなく、異常なのだ。
術式に加えて生まれついての六眼。そしてそれを後押しするかのような恵まれた体格から繰り出される体術。
自分を基準にするが故に態度や言動は尊大で好ましいとは言い難い。でも蓋を開けてみれば人の好い人だった。ただし口は悪いけれど。
(嘘で人を傷つける人は嫌い。でも五条くんは真実で人の心を少し傷付けてしまう。そういう人よりは好きかもしれない)
高専に入って初めて付き合った人は同い年の窓だった。
任務を通して知り合って付き合ったけれど、予告もなく任務が入ることも多々あり、次第に私達の仲に亀裂が走った。
そこで追い打ちをかけたのが彼の言い訳だった。
『俺も悪かったけどさ、近くにいてくれる子に目がいくのは仕方ないだろ』
確かにそれも一理ある。彼を放置したつもりはないけれど、私は愛されていることに胡座をかいていたかもしれない。
だけど私が呪いを祓っている間に彼が知らない女性に恋をして、愛を育んでいたのだと思うと虚しさが込み上げた。
何も言う気力がなく、別れを了承することしかできなかった。そう、あの日の私は幼かったのだ。
「嘘で人を傷つけるより、私はそっちの方が好き。五条くん、なんだかんだ言って世話好きだもんね」
「──オマエ、今何言ってるかわかってんの? 俺がオマエに告白したってこと忘れた?」
「覚えてるよ。だから今ここにいるんでしょ?」
「もう三ヶ月だけどいつ返事くれんの? 俺はまだ先でもいいと思ってたけど、そんな顔されたら期待するだろ。なあ、◯◯」
氷の溶け切ったグラスに五条くんの瞳が映り込む。
その瞳に射抜かれたようで私は瞬きすることすらできなかったのだけど、これから彼と長く付き合うことをこの時の私は想像すらしていなかったのだった。
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