安息のとばり
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本部には、多忙極まる構成員のために用意された仮眠室が存在する。ここはその一つであり、ジョルノがなまえに与えた専用の仮眠室だ。ベッドはふかふかで、バスルームまでついている。さすがにキッチンはないけど、食事できるほどの小さなテーブルが備え付けられている。
親衛隊になってから、なまえはここで寝食をすませるようになっていた。待機命令ではなく、自分の意思でそうしている。
帰る間も惜しいくらいに多忙だったという理由もあるが、それ以上に誰もいないあの家に帰るのが嫌だった。
兄が帰ってくるかもしれない。そう思ってどれだけ遅くなっても体を引きずって家の戸を開けていたときもあったけれど、待ってるのは冷たい暗闇ばかり。おかえり、と記憶の中にある柔らかい声が迎えてくれることはなかった。
しんとした静寂は耳に痛いほどで、慣れ親しんだはずの家なのに、自分の居場所じゃないみたいに感じる。ぽっかり空いた心の穴に隙間風が吹き込むような気分になって、耐えきれなかった。
そのうち家に帰ることはなくなり、稀にもらえる僅かな休みもここに帰ってくるようになった。
ジョルノはそれを咎めなかった。「好きにするといい」と穏やかに笑みすらたたえながら言い放った彼は、むしろ、元から彼女がこうなることを初めからわかっていたようだった。
ベッドに横になっているとドアから小気味良いノックが響き、目を開く。
窓から差し込む光は既に月明りに代わっており、無機質な部屋は青白い闇で満たされていた。
「おいなまえ、いるかよ」
ミスタの声だ。なまえはベッドから立ち上がり、抱いていたクマのぬいぐるみをベッドサイドに戻す。昔、大学に進学する兄がボローニャに発つとき、寂しくないようにとプレゼントしてくれたものだ。家からここへ持ち出した数少ない私物だった。
ドアを開くと、ミスタはうおっとビビり声をあげた。まるで幽霊にでも会ったような、失礼なリアクションだ。
「いるよ」
「あ、ああ……出てきてもらえりゃ、そりゃわかるよ。……おまえ大丈夫か。またジョルノのやつに振られたな」
「うるさいな…………あんたも一枚かんでるクセに。ムカつくこと言うんじゃあないよ」
眉間に力が入って、ミスタを睨む。彼はちょっと気の毒そうな顔をしていたが、情に流されてジョルノを裏切るような真似はしない。一見陽気で気がよくギャングらしくない彼だが、その実内には冷酷さを持っている。ギャングになって僅か一年にも関わらず、ジョルノの手足として働けているのがその証拠だ。
なまえがふーと息をついて頭を冷静にしてから、何か用かと聞くと、ミスタは後ろ手で隠していた酒瓶をジャーンと見せてみせた。
「ここんとこお互い忙しかったろ。一杯やろうぜ」
人懐っこい笑みを浮かべるミスタを部屋に招き入れる。明かりをつけると、オレンジ色の光が部屋にを照らして、ほのかに温かい色になった。
ミスタは慣れた様子で小さな丸テーブルをベッドの横に持ってきて、同じようにセットの椅子を引きずってくる。
跳ねるように出世し前のような気軽さで共に食事できなくなった代わりに、時折ミスタはこうやって酒を持ってなまえのもとを訪ねてくる。それは彼女の気分が落ち込んでいるときに多く、彼の気まぐれというよりも野生的な勘の良さからくる気遣いなのかもしれない。
「ジョルノはなんだって?」
ミスタは椅子に座って、グラスに赤ワインを注いでいる。
つまみのクラッカーやチーズをテーブルに並べ終え、なまえはベッドに腰を掛けた。椅子は部屋に1つしかないため、彼が訪ねてきたときのお互いの定位置は既にそこと決まっていた。
「……いつまでも不在の人を追うな、仕事に専念しろってさ。もう何も聞いてくれるなって感じだったわ。次に同じことを尋ねたら、ついに罰されるかも。あたし首飛ぶかなぁ。飛んだらにいさん、会いに来てくれるかなァ……」
「さあな。フーゴがどうするかは知らんが、コッチはおめー分の仕事受ける余裕ねえよ。だからよ、自分から首飛ぶようなことすんなよ?頼むぜ……おまえが今いなくなったら困るよ」
「あら、敏腕幹部にそう言ってもらえるなんて光栄だね」
「おッ?褒めてもらっても何も出ねーぜ。でも、もっと言って!」
「ええ~?パッショーネNo.2は欲しがりなひとだな~~~~~」
笑いながらワインを揺らすなまえに、ミスタは血相を変えた。ガン、とテーブルに肩肘をついて詰め寄り、涼しい顔でワインをあおるなまえの鼻先に指を突き付ける。
朗らかな空気が殺伐としたものに塗り替わっていくのを感じて、なまえは(しまったな……)と思った。
「オイッ。なんか違ってるぜおまえ……オレはNo.2じゃあなくてNo.3だ!2はかけたら4になると言っとるだろーが!不吉なんだよッ!オレをNo.2だなんて間違っても呼ぶんじゃあねえ!No.2はポルナレフって決まってんだよッ」
「構成員のなかじゃあ、あんたがNo.2ってことになってるよ。んで、あたしがNo.3。照れちゃう。やっぱ、ミスタは敏感すぎだって。そんな迷信いつまでも信じてさあ。それにさ、ポルナレフさんがNo.2に入るなら、あたし、No.4よ?不吉そのものじゃん!」
「いーや、オレたちにNo.4なんてもんは存在しねえ」
ミスタの言葉に、なまえは怪訝しげに眉を寄せる。
「? ……。あたし、あんたのピストルズの話は今してないけど」
「オレだってしてねえ!組織の話だ。いいか、重要だぜ、ココ。トップってのは基本的にあるのはNo.3までだ。表彰台があるのは3位までだろ。もし、表彰台がパルテノン神殿の破風彫刻みてーにズラッと横に伸びてたらよ、1位の存在が薄れるってもんだぜ」
「でもさでもさ、表彰は5位まである場合だってあるじゃない」
「ああ、確かにあるな。だがオレたちの序列ってのは名誉のためにだけにされる表彰とはわけが違う。トップの下が見えすぎるってのはよくねーことだ。捉えようによっちゃ、ボスまでの道のりに見えないこともないからな。『ボスは自分たちじゃ到底手の届かない遥か上にいるんだ。敵いっこない』。序列ってのはそう思わせるためにあるんだ」
なるほど、となまえは真面目くさった顔で頷いた。一理ある。
しかし、いま、ミスタがどれだけそれっぽいご高説を垂れても、ポルナレフの存在を知っている人間はごく一部しかいないため、結局彼が構成員たちにNo.2扱いされるのは変わらない事実なのだ。
無論、それを言ったらまた彼が騒ぎ立てることをなまえは知っているので、何も言わずにワインをあおった。
親衛隊になってから、なまえはここで寝食をすませるようになっていた。待機命令ではなく、自分の意思でそうしている。
帰る間も惜しいくらいに多忙だったという理由もあるが、それ以上に誰もいないあの家に帰るのが嫌だった。
兄が帰ってくるかもしれない。そう思ってどれだけ遅くなっても体を引きずって家の戸を開けていたときもあったけれど、待ってるのは冷たい暗闇ばかり。おかえり、と記憶の中にある柔らかい声が迎えてくれることはなかった。
しんとした静寂は耳に痛いほどで、慣れ親しんだはずの家なのに、自分の居場所じゃないみたいに感じる。ぽっかり空いた心の穴に隙間風が吹き込むような気分になって、耐えきれなかった。
そのうち家に帰ることはなくなり、稀にもらえる僅かな休みもここに帰ってくるようになった。
ジョルノはそれを咎めなかった。「好きにするといい」と穏やかに笑みすらたたえながら言い放った彼は、むしろ、元から彼女がこうなることを初めからわかっていたようだった。
ベッドに横になっているとドアから小気味良いノックが響き、目を開く。
窓から差し込む光は既に月明りに代わっており、無機質な部屋は青白い闇で満たされていた。
「おいなまえ、いるかよ」
ミスタの声だ。なまえはベッドから立ち上がり、抱いていたクマのぬいぐるみをベッドサイドに戻す。昔、大学に進学する兄がボローニャに発つとき、寂しくないようにとプレゼントしてくれたものだ。家からここへ持ち出した数少ない私物だった。
ドアを開くと、ミスタはうおっとビビり声をあげた。まるで幽霊にでも会ったような、失礼なリアクションだ。
「いるよ」
「あ、ああ……出てきてもらえりゃ、そりゃわかるよ。……おまえ大丈夫か。またジョルノのやつに振られたな」
「うるさいな…………あんたも一枚かんでるクセに。ムカつくこと言うんじゃあないよ」
眉間に力が入って、ミスタを睨む。彼はちょっと気の毒そうな顔をしていたが、情に流されてジョルノを裏切るような真似はしない。一見陽気で気がよくギャングらしくない彼だが、その実内には冷酷さを持っている。ギャングになって僅か一年にも関わらず、ジョルノの手足として働けているのがその証拠だ。
なまえがふーと息をついて頭を冷静にしてから、何か用かと聞くと、ミスタは後ろ手で隠していた酒瓶をジャーンと見せてみせた。
「ここんとこお互い忙しかったろ。一杯やろうぜ」
人懐っこい笑みを浮かべるミスタを部屋に招き入れる。明かりをつけると、オレンジ色の光が部屋にを照らして、ほのかに温かい色になった。
ミスタは慣れた様子で小さな丸テーブルをベッドの横に持ってきて、同じようにセットの椅子を引きずってくる。
跳ねるように出世し前のような気軽さで共に食事できなくなった代わりに、時折ミスタはこうやって酒を持ってなまえのもとを訪ねてくる。それは彼女の気分が落ち込んでいるときに多く、彼の気まぐれというよりも野生的な勘の良さからくる気遣いなのかもしれない。
「ジョルノはなんだって?」
ミスタは椅子に座って、グラスに赤ワインを注いでいる。
つまみのクラッカーやチーズをテーブルに並べ終え、なまえはベッドに腰を掛けた。椅子は部屋に1つしかないため、彼が訪ねてきたときのお互いの定位置は既にそこと決まっていた。
「……いつまでも不在の人を追うな、仕事に専念しろってさ。もう何も聞いてくれるなって感じだったわ。次に同じことを尋ねたら、ついに罰されるかも。あたし首飛ぶかなぁ。飛んだらにいさん、会いに来てくれるかなァ……」
「さあな。フーゴがどうするかは知らんが、コッチはおめー分の仕事受ける余裕ねえよ。だからよ、自分から首飛ぶようなことすんなよ?頼むぜ……おまえが今いなくなったら困るよ」
「あら、敏腕幹部にそう言ってもらえるなんて光栄だね」
「おッ?褒めてもらっても何も出ねーぜ。でも、もっと言って!」
「ええ~?パッショーネNo.2は欲しがりなひとだな~~~~~」
笑いながらワインを揺らすなまえに、ミスタは血相を変えた。ガン、とテーブルに肩肘をついて詰め寄り、涼しい顔でワインをあおるなまえの鼻先に指を突き付ける。
朗らかな空気が殺伐としたものに塗り替わっていくのを感じて、なまえは(しまったな……)と思った。
「オイッ。なんか違ってるぜおまえ……オレはNo.2じゃあなくてNo.3だ!2はかけたら4になると言っとるだろーが!不吉なんだよッ!オレをNo.2だなんて間違っても呼ぶんじゃあねえ!No.2はポルナレフって決まってんだよッ」
「構成員のなかじゃあ、あんたがNo.2ってことになってるよ。んで、あたしがNo.3。照れちゃう。やっぱ、ミスタは敏感すぎだって。そんな迷信いつまでも信じてさあ。それにさ、ポルナレフさんがNo.2に入るなら、あたし、No.4よ?不吉そのものじゃん!」
「いーや、オレたちにNo.4なんてもんは存在しねえ」
ミスタの言葉に、なまえは怪訝しげに眉を寄せる。
「? ……。あたし、あんたのピストルズの話は今してないけど」
「オレだってしてねえ!組織の話だ。いいか、重要だぜ、ココ。トップってのは基本的にあるのはNo.3までだ。表彰台があるのは3位までだろ。もし、表彰台がパルテノン神殿の破風彫刻みてーにズラッと横に伸びてたらよ、1位の存在が薄れるってもんだぜ」
「でもさでもさ、表彰は5位まである場合だってあるじゃない」
「ああ、確かにあるな。だがオレたちの序列ってのは名誉のためにだけにされる表彰とはわけが違う。トップの下が見えすぎるってのはよくねーことだ。捉えようによっちゃ、ボスまでの道のりに見えないこともないからな。『ボスは自分たちじゃ到底手の届かない遥か上にいるんだ。敵いっこない』。序列ってのはそう思わせるためにあるんだ」
なるほど、となまえは真面目くさった顔で頷いた。一理ある。
しかし、いま、ミスタがどれだけそれっぽいご高説を垂れても、ポルナレフの存在を知っている人間はごく一部しかいないため、結局彼が構成員たちにNo.2扱いされるのは変わらない事実なのだ。
無論、それを言ったらまた彼が騒ぎ立てることをなまえは知っているので、何も言わずにワインをあおった。
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