灰かぶり
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AZさんがいなくなったホテルZは、ガイを中心にホテルの営業は中断することなく続いていた。暴走メガ進化も起こる心配はなくなり、ミアレの街は平穏な時が流れ、MZ団のピュールとデウロもホテル営業の手伝いを少しずつ増やしていき、今では慣れたものだ。
今日はセイカの店番の日、清掃や帳簿管理などの業務は終わっており、ロビーのソファでファッション雑誌を読みながら、一人で来客を待つが、本日の宿泊予約は入っていない。日は傾き始め、屋内に入る明かりは少しずつ陰の割合のが多くなっていた。空室はあるため、時間を待つばかりだ。
─ガチャ
ホテル玄関の扉が開く。入ってきたのは見知らぬ男性だった。消灯時間には締め作業するのには早いのと、日が暮れた頃に入室手続きすることも少なくない。自分も観光客としてこのミアレに到着した時、ホテルは決めていなかった。行き当たりばったりで旅をするのも旅の醍醐味というものだ。
「いらっしゃいま、せ。」
急の来客で歓迎が少し遅れてしまい、慌てて起立する。
「あ、君が、セイカさんだね?」
「あ、はい。そうですが…。」
なぜ名前を知っているのか気にはなっていたが、クエーサー社に出入りしたり、ミアレの救世主として、一躍有名になったことは自分自身も自覚はしている。見知らぬ人から手を振られたり握手したり声掛けられることは今でも日常茶飯事だ。
「私はこういうもので、今、ウェディングドレスのモデルを探しているんです。ぜひ、あなたをスカウトしたい。」
1枚の紙を渡された。内容に目をやると、募集中の文字が大きく書かれ、純白のドレスの写真が印象的だ。どうやら職業がフォトグラファーでファッションモデルを探しているようだった。
「え、えーと…。」
「不審ですよね。報酬はこのとおり。」
現金とお相手のスマホロトムに移された料金表を確認する。
「でも、私、スタイルも自信ありませんよ。」
急の勧誘に戸惑いが隠せず、ガイの借金の件もあって、少し警戒をしながらも、慎重に答える。もし、相手を怒らせて激昂されても、セイカの居住にもなっているこの場所で事を荒立てたくなかった。
「それも問題ございません。ブライダルコースのエステの特典もございます。」
NOを言わせないよう巧みに話を膨らませる。モデルだけの勧誘かと思えば、どうやらエステの勧誘も含んでるようだ。怪しさは置いて、セイカも年頃の女の子であり、これまでポケモンバトル三昧だった自分にミアレらしからぬモデル体験ができるとなっては、気分は揚々、口から手が出るほど、憧れの体験話だった。加えて、目の前の男の顔に見覚えがあり、断りの返しの言葉が出てこなかった。
「…おや、雑誌をみてくださってるのですね。」
ロビーで先程まで読んでいた雑誌は机に開いたままで男の目に写った。見覚えがあると思った理由は、この目の前の男が雑誌の連載に関わっていたからだった。
「ミアレのトレンドを先取りしたファッション雑誌ですよね。お気に入りでよく読んでます。」
街のキオスクで買った女性に人気のファッション雑誌だ。
「スマホロトムでも読めるのにわざわざ購入いただいて嬉しいです。」
有名なファッション雑誌の関係なら悪い人ではなさそう。仕事と思って試してみてもよさそう。
「先ほどのご依頼お受けいたします。」
「嬉しいです。では、詳しい話はまた連絡いたします。」
そういうと、男性はスマホロトムに連絡先を交換し、エステ先の位置情報を送り、ホテルを後にした。
変な依頼受けてしまったことに少し後悔しつつも、人助けはMZらしくもあるなと苦笑いをする。慎重派のデウロがいたらきっと断っていただろう。
それから2週間ほど、ブライダルエステに通った。店舗はプリズムタワーの北にあるレストラン・キワミの近くにある集合住宅の中に構えていた。どれも似たような建物なので部屋を探すのに少し時間がかかった。ミアレは外観を重視した街づくりをしているため看板がないこともおかしい話ではない。担当のエステティシャンは自分より年上のきれいな女性で安心した。一応、警戒は解いてないつもりだが、今のところ目立って変わりどころのないごくごく普通のエステ内容で、施術も丁寧だった。ウェディングというと背中や肩周りを露出する衣装が多いので、オフショルのファッションを好むセイカとしても理想的な内容だ。
(あ~来てよかった~。う~リフレッシュだぁ~。次はフォトの日だけど・・・。たしか、場所は同じマンションで部屋は隣だったよね。さすがに緊張するな。・・・・・・あれ?)
エステが終わってその部屋をでると、その隣の部屋から見覚えのある外見の人が出てくるのを見つけた。サビ組の部下たちの服装だった。相手もセイカに気付いたようだった。特になにも話すこともないので会釈だけでその場を後にした。
(得意先なのかな??・・・なんか嫌な予感しちゃうな。)
セイカと鉢合わせた部下は、ボスであるカラスバにセイカが入退室していることを漏れなく報告した。
「なんやて、セイカがいたやと?」
サビ組とその男は取引相手だった。この雑誌の関係者だとされる男がサビ組からの借入金返済滞納に加えて、脱税行為をしているとの情報を掴んでおり、逃がすまいと泳せているようだった。それだけではなく、別の問題も発覚したばかりで、取引相手の身の上調査や周辺の関係を調査している最中だった。
(なんでそんなとこおるんや…。)
中央のいつもの席でデスクに両肘を立てて手を組み、顎を支える。
「隣の部屋のエステの方から出てきましたぜ。」
(まあ、そういう年頃か…。)
「私も様子を見てきましょうか?」
「いや、ええわ。すぐけりつけたる。」
ジプソの大柄な大男は警戒されやすい。セイカの動向を注視することになった。
セイカも鈍いわけではない。サビ組が出入りしていることに胸騒ぎがした。ホテルZに戻ると、即刻、エステ先の口コミを確認しようとスマホロトムのマップを開くが口コミの投稿は一切確認できなかった。利用者が少ないのか、書かれた口コミが削除されてしまうのか、口コミ件数はゼロだった。調べ足りないと思いつつも、翌日は、フォトを控えているため、早めにベッドに入ることにした。
その翌日、スタジオ向かう途中、セイカは複数の女性たちに声をかけられた。
「MZ団のセイカさんですよね。私たちの話を聞いてほしいです。」
スタジオ入りまで時間があるため話を聞くことにした。自分と同じように街でスカウトされ、スタジオの撮影を行っていたそうだが、報酬は支払われることはなく、ましてや、女性の身体を触るなどの過激な行為もされたとのこと。口封じのために無防備なショーツ一枚となったエステ中の彼女らの写真を脅しで使うんだとか。声をかけた者の中にセイカを担当したブライダルエステの施術者もいた。
サビ組とどんなつながりがあるかわからないが、エステの特典で若い女性を釣り、金銭問題が発生している。人助けポケモン助けのエムゼット団の切り札が黙ってみてるわけにもいかない。
「話してくれてありがとう。私に任せて!」
(リーダーのガイではなく、私に相談したってことは、私じゃないとできないこと。なおさら、いかないと。)
「やあ!セイカさん、よくきてくれました!さ、さ、こちらへ!」
(スタジオって他のスタッフさんもいるかと思ったけど・・・。)
今、この部屋にいるのは彼一人だった。ウェディングドレスは一人で着るのも大変で数名雇うものだと思っていた。この地方では見かけないポケモンたちが彼の助手のようで、手先の器用なマスカーニャが着付けを行い、ヘアセットはゴチルゼルが整えてくれた。
(頼りになるポケモンたちだな~。話の通りならこの男には勿体ない。)
─カシャ
純白のドレスを身に着けたセイカが更衣室から現れるとシャッターを切るのはその男。
「セイカさん…美しい・・・。」
「あ、ありがとうございます。ポケモンたちのパートナーはあなたですか?とても器用ですね!」
作り笑顔で返事をする。これからどうなるのかわからないが胸のあたりがざわざわして気持ち悪い。
「・・・あなたがここの広告塔になっていただけたら幸いです。あなたと組めれば千載一遇のチャンス。」
男はセイカに近づき、腰に手を回し、距離が縮まる。吐きそうだ。
「あ、あの、私は体験だけのつもりで・・・。」
裸とも同然の姿の施術中の写真を目の前に突き付けられた。今日、相談してくれた女の子たちはこうやって脅しをかけられたんだ。
「・・・あなたはそうやって多くの女性を騙していたんですね。あなたのポケモンたちも悲しみますよ!」
我慢ならないセイカは男の顔を睨みながら罵る。
「・・・なんのことです。」
目の前の男の顔付きに影が入ったように暗くなった。セイカの身長を超えており、濁った目付きで見下ろす。密室で二人だけの空間では、この男の威圧感に普通の女性なら耐えられないだろう。
「ホテルZまで来て、私を勧誘したあなたなら、私がどんな団体に所属しているかご存知ですよね。私は、MZ団の切り札ですよ。多くの女性たちを傷つけたこと、許せません。お縄についてもらいます。」
『お縄』といっても、今日の今日で警察との連携はできていない。女性たちの相談事は疑うことはなかったが、確証がなかったのと、サビ組との関係性もわかっていないから、まずは自分で解決を目論む。
セイカはモンスターボールからメガニウムを出そうと腰に手を当てるが今の自分の恰好はウエディングドレスの姿でポーチは更衣室に残されていた。
(しまったー!)
「お嬢さんお困りでっか?」
二人しかいないはずの空間に聞き覚えのある声が後ろから伝わった。振り向くと声の主、カラスバが立っていた。
「カ、カラスバさん!?」
セイカを上から下まで見るとニヤッと口角を上げる。
「なんやその格好・・・。お姫様やん。」
「・・・あ、え、これはその。」
セイカの身につけている純白なドレスはウエストから裾にかけて大きく膨らんだプリンセスラインが強調されており、上品な光沢のサテンの生地が輝いている。どこからどうみても、花嫁姿だ。急な羞恥心で顔が真っ赤になる。
「ほれ、これがポーチやろ。」
「ありがとうございます!カラスバさんどうしてここへ?」
「せやな、こいつに貸しあってん。全然返済があらへんからカラスバさんも困ってたんよ。毎度毎度拠点先を変えて所在地をだましよって。」
口コミが少ない理由はカラスバの言うとおり、所在を転々としていたことが原因だと合点がいった。
「っ・・・私とて、ここで引くわけにはいかないのだよ。」
カラスバの登場にたじろぐ男は部屋の外へ飛び出す。
夜は更けて街は人影が少なくなっていた。
「逃げんなや。」
ウェディングドレスの裾を引きずりながら久しぶりに履いた慣れないピンヒールでカラスバの後に続いて一緒に追いかける。少し遅れて掛け寄ると、カラスバがギャルリ・クレールドリュヌの中央でロズレイドの草むすびによって転倒した男を追い詰めていた。
負けずとその男もモンスターボールに手をかけ、フーディンとジバコイルの2体のポケモンたちを繰り出してきた。マスカーニャやゴチルゼル同様、見るだけでも随分と育成が行き届いたポケモンたちを連れているようだった。
セイカも自然と体が動いて、メガニウムを繰り出し、カラスバと横に並んだ。この並びにすごく覚えがあった。
プリズムタワーが暴走したあの日、同じこの場所で。
高揚し、胸が高鳴る。
(またカラスバさんと共闘できる日がくるなんて・・・。)
「すぐ終わらすで。」
手に力が入る。カラスバはロズレイドを戻すと相棒のペンドラーを繰り出しメガ進化させる。
相手を逃すわけにもいかない先手必勝で最短で相手を仕留めたい。セイカもメガ進化で勝負を仕掛ける。
「メガニウム、ひかりのかべを貼って、ジバコイルにだいちのちから!」
「ペンドラー、フーディンにシザークロス!」
どちらも効果は抜群の技で相性で攻め立てる。フーディンはサイコキネシス、ジバコイルは10万ボルトを出してきた。ペンドラーはサイコキネシスを真っ向から受けるものの、ひかりのかべで保護された空間ではダメージは軽減され、ひるむことなくフーディンへ技を繰り出した。フーディンは一撃で倒れ、頑丈なジバコイルはギリギリにところでこらえた。
「…っジバコイル!だいばくはつ!」
手詰まりの男はジバコイルに最後の指示を下す。こればかりはポケモンどころか人間の私たちまで危ない。
メガニウムは指示を受けることもなく、自らリフレクターでセイカ、ペンドラー、カラスバを囲った。爆風が収まるとセイカはへなへなと腰を落とす。
「メガニウムありがとう!」
「おおきにな。」
嬉しそうなメガニウムは座っているセイカに頬をくっつけてすり寄る。
物理的ダメージは免れたが爆風でカラスバの真っ黒のスーツには灰色の粉塵、純白のドレスは黒く汚れていた。カラスバはしっかり足を地面につけて立っている。カラスバはセイカを見下ろし、セイカはカラスバを見上げる。お互いに顔を見合わせると笑いが込み上げてきた。
「せっかくの純白なドレスが台無しやな。めっちゃ似合おうてるで。」
「それ褒めてます?」
「褒めてるで、ぞっこんや。」
「もう、すぐそういう~・・・。でも、ありがとうございます。」
カラスバはいつも嬉しい言葉をくれる。何度目の胸の高鳴りだろう。先程まで一人であの男の前にいたときとは違う胸の鼓動を感じる。熱く、苦しい。きっと赤いであろう顔を見られないためにも下に目線を泳がせる。
(勘違いするからやめてほしいな~。)
「カラスバさま!セイカさま!」
サビ組の部下たちを連れたジプソがカラスバへ駆け寄る。爆風を受けたのは相手の男も同様だった。男は仰向けで倒れている。
カラスバとセイカはポケモンをモンスターボールに収める。
「ジプソ、そいつサツの御用なったって。」
「かしこまりました。」
ジプソは部下たちを数人連れて、男に近寄る。意識はあるようだった。観念したのか脱力していた。男を担いだジプソがセイカたちの前を横切る。
「すみません、ジプソさん、その人に一言いいですか。」
セイカは腰を落としたまま、男を見上げる。
「どうぞ。」
「…あの、ポケモンたちはあなたをとても信頼してるように見えました。どうかポケモンたちを悲しませないで。以上です。」
目線は合わなかったが言葉が届いていることを願う。自分が甘いことを言ったのはわかってる。
残った部下たちは瓦礫の撤去や周辺のブティックに傷がないかなどチェックに当たっていた。
セイカは一連の作業を眺めながら動けずにいる。サビ組のボスは自分たちを日陰者という。その言葉にもやつく。
カラスバは未だ体を動けないでいるセイカに寄り添う。
「・・・バトル楽しかったですね!覚えてますか?ここでカラスバさんと共闘したの…。あの時は、メガ進化したサーナイトとエルレイドが相手でした。」
「そうやな。」
「不謹慎かもしれないんですけど、あの時を思い出せてとっても嬉しくなっちゃいました!」
「オレら、息ピッタリやな。ほんまサビ組にほしいわ。」
屈託のない笑顔にカラスバは安堵した。女一人で立ち向かう姿はよく見てはいるが、今回の事件は、ポケモン勝負とは別の次元の話だ。セイカの動向を追っていたから、あの時すぐに駆け付けれたが、自分が元々関わっていた案件だったのが不幸中の幸いだ。そうでなかったら違う結末になっていたかもしれない。
「ただな…。ひとりで突っ走るな。ガイかておるやろ。」
「うぅ…すみません。」
「まっ、こういうのはサビ組のがお得意やで。」
「さて、帰るで。」
カラスバの差し出す手を取り体を起こすと、ぐらついてカラスバの胸に倒れ込む。
「…あ、ごめんなさい。」
頬から耳がじわっと熱をもつのがわかる。足元をよくみると靴の踵が折れていた。
急に宙に浮いたと思えば、カラスバにお姫様抱っこされていた。
「あ、ちょっ!歩けますぅ!」
「嫁入り前のお嬢さんを裸足で歩かせて怪我なんかさせれへんわ。」
「さっきの部屋にお前の荷物あるやろ。あそこは今調査中やねん。あとで回収するさかい。今日はウチにおいで。」
「・・・えっ、えっ!」
「この格好でホテルZ帰っていいん??」
ジプソのいない今、歩けもしないセイカを運び届けることができるのは紛れもなく今目の前にいるカラスバ。お姫様抱っこされて戻るところを他のMZ団のメンバーにみられたらどう反応されるか。
「あ、い、それは・・・。」
「しょっちゅうベンチで夜明かしてるんやから、朝帰りでも問題ないやろ。」
「あ、あ、朝帰りぃ?」
カラスバから『朝帰り』という単語を聞くと妙にいかがわしさが増してしまって心臓がバクバクする。ベンチで仮眠とっているのもバレてるし、その行動をみられていたことも恥ずかしくてたまらない。
「そないなもん着るなら、ちゃんとカラスバさんに相談するんやで。」
「…うぃ」
「なんやねん、その返事。」
後日、ネットニュースでは、雑誌の関係者のあの男が逮捕されたと報道された。
サビ組の調査のあと、根城になっていたスタジオやエステ店舗にも警察の家宅捜査が入った。調査の中に、盗撮されていた女性たちの写真は残らず削除されたことをジプソからセイカの耳に伝わる。
ただし、秘密裏にセイカのウェディング姿の写真を除いて。そのデータはサビ組のボスのデスクトップの壁紙になったとか。
─終─
今日はセイカの店番の日、清掃や帳簿管理などの業務は終わっており、ロビーのソファでファッション雑誌を読みながら、一人で来客を待つが、本日の宿泊予約は入っていない。日は傾き始め、屋内に入る明かりは少しずつ陰の割合のが多くなっていた。空室はあるため、時間を待つばかりだ。
─ガチャ
ホテル玄関の扉が開く。入ってきたのは見知らぬ男性だった。消灯時間には締め作業するのには早いのと、日が暮れた頃に入室手続きすることも少なくない。自分も観光客としてこのミアレに到着した時、ホテルは決めていなかった。行き当たりばったりで旅をするのも旅の醍醐味というものだ。
「いらっしゃいま、せ。」
急の来客で歓迎が少し遅れてしまい、慌てて起立する。
「あ、君が、セイカさんだね?」
「あ、はい。そうですが…。」
なぜ名前を知っているのか気にはなっていたが、クエーサー社に出入りしたり、ミアレの救世主として、一躍有名になったことは自分自身も自覚はしている。見知らぬ人から手を振られたり握手したり声掛けられることは今でも日常茶飯事だ。
「私はこういうもので、今、ウェディングドレスのモデルを探しているんです。ぜひ、あなたをスカウトしたい。」
1枚の紙を渡された。内容に目をやると、募集中の文字が大きく書かれ、純白のドレスの写真が印象的だ。どうやら職業がフォトグラファーでファッションモデルを探しているようだった。
「え、えーと…。」
「不審ですよね。報酬はこのとおり。」
現金とお相手のスマホロトムに移された料金表を確認する。
「でも、私、スタイルも自信ありませんよ。」
急の勧誘に戸惑いが隠せず、ガイの借金の件もあって、少し警戒をしながらも、慎重に答える。もし、相手を怒らせて激昂されても、セイカの居住にもなっているこの場所で事を荒立てたくなかった。
「それも問題ございません。ブライダルコースのエステの特典もございます。」
NOを言わせないよう巧みに話を膨らませる。モデルだけの勧誘かと思えば、どうやらエステの勧誘も含んでるようだ。怪しさは置いて、セイカも年頃の女の子であり、これまでポケモンバトル三昧だった自分にミアレらしからぬモデル体験ができるとなっては、気分は揚々、口から手が出るほど、憧れの体験話だった。加えて、目の前の男の顔に見覚えがあり、断りの返しの言葉が出てこなかった。
「…おや、雑誌をみてくださってるのですね。」
ロビーで先程まで読んでいた雑誌は机に開いたままで男の目に写った。見覚えがあると思った理由は、この目の前の男が雑誌の連載に関わっていたからだった。
「ミアレのトレンドを先取りしたファッション雑誌ですよね。お気に入りでよく読んでます。」
街のキオスクで買った女性に人気のファッション雑誌だ。
「スマホロトムでも読めるのにわざわざ購入いただいて嬉しいです。」
有名なファッション雑誌の関係なら悪い人ではなさそう。仕事と思って試してみてもよさそう。
「先ほどのご依頼お受けいたします。」
「嬉しいです。では、詳しい話はまた連絡いたします。」
そういうと、男性はスマホロトムに連絡先を交換し、エステ先の位置情報を送り、ホテルを後にした。
変な依頼受けてしまったことに少し後悔しつつも、人助けはMZらしくもあるなと苦笑いをする。慎重派のデウロがいたらきっと断っていただろう。
それから2週間ほど、ブライダルエステに通った。店舗はプリズムタワーの北にあるレストラン・キワミの近くにある集合住宅の中に構えていた。どれも似たような建物なので部屋を探すのに少し時間がかかった。ミアレは外観を重視した街づくりをしているため看板がないこともおかしい話ではない。担当のエステティシャンは自分より年上のきれいな女性で安心した。一応、警戒は解いてないつもりだが、今のところ目立って変わりどころのないごくごく普通のエステ内容で、施術も丁寧だった。ウェディングというと背中や肩周りを露出する衣装が多いので、オフショルのファッションを好むセイカとしても理想的な内容だ。
(あ~来てよかった~。う~リフレッシュだぁ~。次はフォトの日だけど・・・。たしか、場所は同じマンションで部屋は隣だったよね。さすがに緊張するな。・・・・・・あれ?)
エステが終わってその部屋をでると、その隣の部屋から見覚えのある外見の人が出てくるのを見つけた。サビ組の部下たちの服装だった。相手もセイカに気付いたようだった。特になにも話すこともないので会釈だけでその場を後にした。
(得意先なのかな??・・・なんか嫌な予感しちゃうな。)
セイカと鉢合わせた部下は、ボスであるカラスバにセイカが入退室していることを漏れなく報告した。
「なんやて、セイカがいたやと?」
サビ組とその男は取引相手だった。この雑誌の関係者だとされる男がサビ組からの借入金返済滞納に加えて、脱税行為をしているとの情報を掴んでおり、逃がすまいと泳せているようだった。それだけではなく、別の問題も発覚したばかりで、取引相手の身の上調査や周辺の関係を調査している最中だった。
(なんでそんなとこおるんや…。)
中央のいつもの席でデスクに両肘を立てて手を組み、顎を支える。
「隣の部屋のエステの方から出てきましたぜ。」
(まあ、そういう年頃か…。)
「私も様子を見てきましょうか?」
「いや、ええわ。すぐけりつけたる。」
ジプソの大柄な大男は警戒されやすい。セイカの動向を注視することになった。
セイカも鈍いわけではない。サビ組が出入りしていることに胸騒ぎがした。ホテルZに戻ると、即刻、エステ先の口コミを確認しようとスマホロトムのマップを開くが口コミの投稿は一切確認できなかった。利用者が少ないのか、書かれた口コミが削除されてしまうのか、口コミ件数はゼロだった。調べ足りないと思いつつも、翌日は、フォトを控えているため、早めにベッドに入ることにした。
その翌日、スタジオ向かう途中、セイカは複数の女性たちに声をかけられた。
「MZ団のセイカさんですよね。私たちの話を聞いてほしいです。」
スタジオ入りまで時間があるため話を聞くことにした。自分と同じように街でスカウトされ、スタジオの撮影を行っていたそうだが、報酬は支払われることはなく、ましてや、女性の身体を触るなどの過激な行為もされたとのこと。口封じのために無防備なショーツ一枚となったエステ中の彼女らの写真を脅しで使うんだとか。声をかけた者の中にセイカを担当したブライダルエステの施術者もいた。
サビ組とどんなつながりがあるかわからないが、エステの特典で若い女性を釣り、金銭問題が発生している。人助けポケモン助けのエムゼット団の切り札が黙ってみてるわけにもいかない。
「話してくれてありがとう。私に任せて!」
(リーダーのガイではなく、私に相談したってことは、私じゃないとできないこと。なおさら、いかないと。)
「やあ!セイカさん、よくきてくれました!さ、さ、こちらへ!」
(スタジオって他のスタッフさんもいるかと思ったけど・・・。)
今、この部屋にいるのは彼一人だった。ウェディングドレスは一人で着るのも大変で数名雇うものだと思っていた。この地方では見かけないポケモンたちが彼の助手のようで、手先の器用なマスカーニャが着付けを行い、ヘアセットはゴチルゼルが整えてくれた。
(頼りになるポケモンたちだな~。話の通りならこの男には勿体ない。)
─カシャ
純白のドレスを身に着けたセイカが更衣室から現れるとシャッターを切るのはその男。
「セイカさん…美しい・・・。」
「あ、ありがとうございます。ポケモンたちのパートナーはあなたですか?とても器用ですね!」
作り笑顔で返事をする。これからどうなるのかわからないが胸のあたりがざわざわして気持ち悪い。
「・・・あなたがここの広告塔になっていただけたら幸いです。あなたと組めれば千載一遇のチャンス。」
男はセイカに近づき、腰に手を回し、距離が縮まる。吐きそうだ。
「あ、あの、私は体験だけのつもりで・・・。」
裸とも同然の姿の施術中の写真を目の前に突き付けられた。今日、相談してくれた女の子たちはこうやって脅しをかけられたんだ。
「・・・あなたはそうやって多くの女性を騙していたんですね。あなたのポケモンたちも悲しみますよ!」
我慢ならないセイカは男の顔を睨みながら罵る。
「・・・なんのことです。」
目の前の男の顔付きに影が入ったように暗くなった。セイカの身長を超えており、濁った目付きで見下ろす。密室で二人だけの空間では、この男の威圧感に普通の女性なら耐えられないだろう。
「ホテルZまで来て、私を勧誘したあなたなら、私がどんな団体に所属しているかご存知ですよね。私は、MZ団の切り札ですよ。多くの女性たちを傷つけたこと、許せません。お縄についてもらいます。」
『お縄』といっても、今日の今日で警察との連携はできていない。女性たちの相談事は疑うことはなかったが、確証がなかったのと、サビ組との関係性もわかっていないから、まずは自分で解決を目論む。
セイカはモンスターボールからメガニウムを出そうと腰に手を当てるが今の自分の恰好はウエディングドレスの姿でポーチは更衣室に残されていた。
(しまったー!)
「お嬢さんお困りでっか?」
二人しかいないはずの空間に聞き覚えのある声が後ろから伝わった。振り向くと声の主、カラスバが立っていた。
「カ、カラスバさん!?」
セイカを上から下まで見るとニヤッと口角を上げる。
「なんやその格好・・・。お姫様やん。」
「・・・あ、え、これはその。」
セイカの身につけている純白なドレスはウエストから裾にかけて大きく膨らんだプリンセスラインが強調されており、上品な光沢のサテンの生地が輝いている。どこからどうみても、花嫁姿だ。急な羞恥心で顔が真っ赤になる。
「ほれ、これがポーチやろ。」
「ありがとうございます!カラスバさんどうしてここへ?」
「せやな、こいつに貸しあってん。全然返済があらへんからカラスバさんも困ってたんよ。毎度毎度拠点先を変えて所在地をだましよって。」
口コミが少ない理由はカラスバの言うとおり、所在を転々としていたことが原因だと合点がいった。
「っ・・・私とて、ここで引くわけにはいかないのだよ。」
カラスバの登場にたじろぐ男は部屋の外へ飛び出す。
夜は更けて街は人影が少なくなっていた。
「逃げんなや。」
ウェディングドレスの裾を引きずりながら久しぶりに履いた慣れないピンヒールでカラスバの後に続いて一緒に追いかける。少し遅れて掛け寄ると、カラスバがギャルリ・クレールドリュヌの中央でロズレイドの草むすびによって転倒した男を追い詰めていた。
負けずとその男もモンスターボールに手をかけ、フーディンとジバコイルの2体のポケモンたちを繰り出してきた。マスカーニャやゴチルゼル同様、見るだけでも随分と育成が行き届いたポケモンたちを連れているようだった。
セイカも自然と体が動いて、メガニウムを繰り出し、カラスバと横に並んだ。この並びにすごく覚えがあった。
プリズムタワーが暴走したあの日、同じこの場所で。
高揚し、胸が高鳴る。
(またカラスバさんと共闘できる日がくるなんて・・・。)
「すぐ終わらすで。」
手に力が入る。カラスバはロズレイドを戻すと相棒のペンドラーを繰り出しメガ進化させる。
相手を逃すわけにもいかない先手必勝で最短で相手を仕留めたい。セイカもメガ進化で勝負を仕掛ける。
「メガニウム、ひかりのかべを貼って、ジバコイルにだいちのちから!」
「ペンドラー、フーディンにシザークロス!」
どちらも効果は抜群の技で相性で攻め立てる。フーディンはサイコキネシス、ジバコイルは10万ボルトを出してきた。ペンドラーはサイコキネシスを真っ向から受けるものの、ひかりのかべで保護された空間ではダメージは軽減され、ひるむことなくフーディンへ技を繰り出した。フーディンは一撃で倒れ、頑丈なジバコイルはギリギリにところでこらえた。
「…っジバコイル!だいばくはつ!」
手詰まりの男はジバコイルに最後の指示を下す。こればかりはポケモンどころか人間の私たちまで危ない。
メガニウムは指示を受けることもなく、自らリフレクターでセイカ、ペンドラー、カラスバを囲った。爆風が収まるとセイカはへなへなと腰を落とす。
「メガニウムありがとう!」
「おおきにな。」
嬉しそうなメガニウムは座っているセイカに頬をくっつけてすり寄る。
物理的ダメージは免れたが爆風でカラスバの真っ黒のスーツには灰色の粉塵、純白のドレスは黒く汚れていた。カラスバはしっかり足を地面につけて立っている。カラスバはセイカを見下ろし、セイカはカラスバを見上げる。お互いに顔を見合わせると笑いが込み上げてきた。
「せっかくの純白なドレスが台無しやな。めっちゃ似合おうてるで。」
「それ褒めてます?」
「褒めてるで、ぞっこんや。」
「もう、すぐそういう~・・・。でも、ありがとうございます。」
カラスバはいつも嬉しい言葉をくれる。何度目の胸の高鳴りだろう。先程まで一人であの男の前にいたときとは違う胸の鼓動を感じる。熱く、苦しい。きっと赤いであろう顔を見られないためにも下に目線を泳がせる。
(勘違いするからやめてほしいな~。)
「カラスバさま!セイカさま!」
サビ組の部下たちを連れたジプソがカラスバへ駆け寄る。爆風を受けたのは相手の男も同様だった。男は仰向けで倒れている。
カラスバとセイカはポケモンをモンスターボールに収める。
「ジプソ、そいつサツの御用なったって。」
「かしこまりました。」
ジプソは部下たちを数人連れて、男に近寄る。意識はあるようだった。観念したのか脱力していた。男を担いだジプソがセイカたちの前を横切る。
「すみません、ジプソさん、その人に一言いいですか。」
セイカは腰を落としたまま、男を見上げる。
「どうぞ。」
「…あの、ポケモンたちはあなたをとても信頼してるように見えました。どうかポケモンたちを悲しませないで。以上です。」
目線は合わなかったが言葉が届いていることを願う。自分が甘いことを言ったのはわかってる。
残った部下たちは瓦礫の撤去や周辺のブティックに傷がないかなどチェックに当たっていた。
セイカは一連の作業を眺めながら動けずにいる。サビ組のボスは自分たちを日陰者という。その言葉にもやつく。
カラスバは未だ体を動けないでいるセイカに寄り添う。
「・・・バトル楽しかったですね!覚えてますか?ここでカラスバさんと共闘したの…。あの時は、メガ進化したサーナイトとエルレイドが相手でした。」
「そうやな。」
「不謹慎かもしれないんですけど、あの時を思い出せてとっても嬉しくなっちゃいました!」
「オレら、息ピッタリやな。ほんまサビ組にほしいわ。」
屈託のない笑顔にカラスバは安堵した。女一人で立ち向かう姿はよく見てはいるが、今回の事件は、ポケモン勝負とは別の次元の話だ。セイカの動向を追っていたから、あの時すぐに駆け付けれたが、自分が元々関わっていた案件だったのが不幸中の幸いだ。そうでなかったら違う結末になっていたかもしれない。
「ただな…。ひとりで突っ走るな。ガイかておるやろ。」
「うぅ…すみません。」
「まっ、こういうのはサビ組のがお得意やで。」
「さて、帰るで。」
カラスバの差し出す手を取り体を起こすと、ぐらついてカラスバの胸に倒れ込む。
「…あ、ごめんなさい。」
頬から耳がじわっと熱をもつのがわかる。足元をよくみると靴の踵が折れていた。
急に宙に浮いたと思えば、カラスバにお姫様抱っこされていた。
「あ、ちょっ!歩けますぅ!」
「嫁入り前のお嬢さんを裸足で歩かせて怪我なんかさせれへんわ。」
「さっきの部屋にお前の荷物あるやろ。あそこは今調査中やねん。あとで回収するさかい。今日はウチにおいで。」
「・・・えっ、えっ!」
「この格好でホテルZ帰っていいん??」
ジプソのいない今、歩けもしないセイカを運び届けることができるのは紛れもなく今目の前にいるカラスバ。お姫様抱っこされて戻るところを他のMZ団のメンバーにみられたらどう反応されるか。
「あ、い、それは・・・。」
「しょっちゅうベンチで夜明かしてるんやから、朝帰りでも問題ないやろ。」
「あ、あ、朝帰りぃ?」
カラスバから『朝帰り』という単語を聞くと妙にいかがわしさが増してしまって心臓がバクバクする。ベンチで仮眠とっているのもバレてるし、その行動をみられていたことも恥ずかしくてたまらない。
「そないなもん着るなら、ちゃんとカラスバさんに相談するんやで。」
「…うぃ」
「なんやねん、その返事。」
後日、ネットニュースでは、雑誌の関係者のあの男が逮捕されたと報道された。
サビ組の調査のあと、根城になっていたスタジオやエステ店舗にも警察の家宅捜査が入った。調査の中に、盗撮されていた女性たちの写真は残らず削除されたことをジプソからセイカの耳に伝わる。
ただし、秘密裏にセイカのウェディング姿の写真を除いて。そのデータはサビ組のボスのデスクトップの壁紙になったとか。
─終─
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