ひとりじゃない
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「カラスバさんですか?…セイカ、そちらにいたりしませんよね?」
珍しくデウロからカラスバのスマホロトムに着信が入った。声のトーンから慌ただしくも不安気な様子が感じられた。
「来ておらへんけど…。ジプソ来たか?」
日が傾き始め、お日様は影を少しずつ伸ばしていた。サビ組の部屋には窓が無く、目の前のパソコンのデジタルの時刻表示に目を移す。サビ組のトップとしては、常に何かしら業務を抱えているが、ごく一般的な終業時刻を迎える頃であった。
「いえ、本日はセイカさんの来客対応はしておりません。」
他社とのスケジュール管理を担うジプソに確認をする。下の受付までセイカが来たとしてもまずはジプソに連絡が入るので来ていないことは間違いないようだった。
「なんやあったんか?」
「実は─」
デウロは今日の午前のダンスレッスンが終わり次第、セイカと一緒にカフェやブティックを見に行く約束をしていた。カフェの約束の時間になっても、集合場所のカフェには現れず、何度もスマホロトムで呼び出ししても、呼び出し音は鳴るもののセイカが出ることはなかった。
AZさんが居なくなった後のホテルは、アンシャのドーナツ作りの手伝いを当番制にしており、ガイ以外のMZ団メンバーも清掃作業などホテルの業務を少しずつ増やしていた。
今日はピュールが担当の日であったため、デウロは一番にピュールに電話をかけた。
「ピュール?セイカみなかった?」
「見てないですけど、昨日は帰ってきたところをロビーでみかけましたよ。」
「そうだよね…。私もおかえりなさいって会話したもん。」
「ガイなら知ってるのでは?」
「今日はガイはマスカットさんと出張でしょ?」
この日はガイがクエーサー社からの依頼で出張中であり、ホテルに居るのはアンシャとピュールだけだった。
「そしたら、部屋にいませんか?風邪ひいて寝込んでいるとか…。」
「たしかに…もう少しでホテル着くから待ってて!」
今朝、デウロが自室を出た時、セイカの部屋のドアが少し開いていたことを思い出す。同じ女同士であっても隙間から部屋を覗くのは野暮かなと思い、その時は換気をしているんだろうなと推測し、そのままエレベーターに乗ってホテルを後にしたのだ。
女性の部屋とあってさすがにピュール一人に様子を見てもらうわけにもいかず、デウロの到着まで待機してもらうことになった。
「ピュール!お待たせ!」
「では、部屋みてみますか…。」
「うん!」
いつものようにエレベーターに乗るが、二人に緊張が走る。居てくれたら安心するし、居なかったら居なかったで、いつものようにどうせ外のベンチでごろごろしてるはずと願いながらエレベーターはすぐに2階についた。
デウロが今朝みかけたとおりのまま、扉はよくみないと気付かないくらいの隙間が開いていた。
「あ、やっぱり開いてる…。朝から開いてたの。」
「すみません。僕は気づきませんでした。」
「とりあえず、入るよ?」
まだお昼を過ぎた頃なので窓からの明かりだけでも、わずかなドアの隙間から十分内装の雰囲気がわかる。いつもと変わらないような感じはする。
「…セイカ?入るよ?」
おそるおそる扉をゆっくり開けながら中に入る。倒れてませんようにと願いながら固唾を呑む。お部屋の内装は他の部屋と配置はほとんど同じで、奥まで進むとベットや収納家具がある。
部屋にセイカはいなかった。
しかし、いつも身に着けているはずのスマホロトム、ポーチ、6つのモンスターボール、そして、MZ団のロゴが入ったブルゾンが部屋に残されていた。
「え、どういうこと…。」
「セイカさんは観光客としてミアレにきたんですよね…。帰っちゃったんでしょうか。」
「そんな、今日はカフェ行こうって約束してたのに…。」
タワーの暴走から異次元ミアレの調査とせわしない状況が続いたが、アンシャの願いのポケモンを捕獲したことで、MZ団含むそれぞれの関係者もひと段落したところである。
「…ポケモンたちも残してはいかないですよね…。あ、あれは…。」
ピュールが見つけたのは、セイカがミアレに到着した時から持ち歩いていたカバンだ。
「カバンがあるってことは…」
「帰ったわけじゃなさそう…。探そう!なんか嫌な予感しちゃう…。」
「サビ組のあの人に聞いてみてはどうでしょう。」
サビ組といえば、どこかで見てるかのようにタイミングよく着信がくる。もしかしたら、セイカの行方を追えるかもしれない。
「─ということなんです。サビ組ならセイカの動向追えてたりしませんか?」
セイカが行方不明ということをデウロから説明を聞き終えたカラスバは目を閉じて一呼吸置いた。ピュールやデウロが思っているとおり、セイカの動向を日々追っているのは本当のことだ。ただ、必ずしも一分一秒逃さず監視しているわけではない。そもそも、タワーの暴走が解決したあたりからMZ団を敵対する必要は無くなった。異次元ミアレの調査も落ち着いたばかりだ。監視しようと思えばできなくもないが、年頃の女性の監視はやはり気が引けるものである。
カラスバは、セイカとバトルを重ねていく中で、異性として意識するようになっていた。セイカを見ていると異次元ミアレの調査に身が入らなくなる。監視を減らしたのは自分なりのけじめのつもりもあった。
だが、今回はそれが徒(あだ)となった。
「…ジプソ、聞いたとおりや。」
「いかがいたしましょう。」
「もちろん、捜索最優先や。まずはホテルZへいくで。」
早急にジプソの運転する車でホテルZへ向かう。ホテルZの前に到着すると、カラスバだけが降りて、ジプソは他の手掛かりを探すために分かれる。
「ジプソ、また連絡するさかい、街中のベンチをあたってえな。サツに連絡はせんといてな。街の救世主が行方不明と知ったら街全体でパニックになってまう。」
「かしこまりました。」
ホテルZへ入館したカラスバはロビーで待ってるデウロとピュールに歩み寄る。
「カラスバさん、わざわざすみません。」
「いや、堪忍な。MZ団の大事なお嬢さんの行方知らずはミアレの異常事態同等や。」
「あの…通話でも話した通り、お部屋にはスマホロトムとアウターが残っていました。あと、ポケモンたちも。」
カラスバが到着するまでの間も、デウロとピュールで部屋やホテル内を捜索したが特に変わった様子はなかった。
後片付けしながらカウンター越しで慌ただしくしているところをみていたアンシャは不穏な様子を察して話に入ってきた。
「あの…セイカさん戻ってきますよね…。これまで無理難題を受けてくださって、嫌になって出て行ってしまったのでしょうか。」
アンシャの言葉に険しそうな顔から珍しくも和らげな顔で答えたのはカラスバだった。
「MZ団とサビ組が手分けして探すさかい、心配いらんで。」
ガイとセイカの二人がいない状況に不安気になっていたピュールとデウロはその表情にハッと気付かされた。
「そうですね。セイカが戻ってきたときのためにおいしいドーナツ用意してくれますか?」
「うん。アンシャがホテルZへ来てくれたおかげで、セイカがホテルで休む機会も増えて安心してたし、私もセイカとたくさん話す機会も造れて嬉しかったんだよ~。ありがとう!夜も更けてきたし、今日はもう帰っていいよ!」
「わかりました。ではみなさま、おやすみなさい。」
アンシャはドーナツの残りを置いて、フーパのワープをくぐって帰っていった。
「さて、一度、セイカの部屋へ案内してもらおか。」
ホテルZの2階にあがった3人はエレベーターが開くとカラスバを先頭に真っすぐにセイカの部屋へ向かう。
「セイカの部屋はここやんな。入るで。」
なんで知ってるんだろうとデウロとピュールは疑問に思いつつも、セイカを探すことが最優先のため飲み込んだ。
カラスバは迷わず部屋の奥へ進む。立ちすくみながら思考を巡らせる。
「いつもと変わらへんな。」
だからなんで知ってるんだよと口から出しそうになりながらも二人は頷くも、セイカ自身がよくカラスバのことを楽しそうに話すのを聞いていたので、カラスバがセイカに好意を寄せているのはデウロとピュールはなんとなく察していた。
「…ここに3人いても、あれだよね。」
「僕は、ホテルZ周辺と駅の方もみてきますね。」
「ああ、ジプソには各ベンチ見に行ってもらってるで。」
「それなら、私は屋上の方へ。」
部屋にはカラスバ一人が残った。今日は宿泊客もおらず、緊急のため、ホテルZの玄関のドアにはクローズの案内板がかかっている。カラスバはセイカがいつも寝ているであろうベッドに腰掛けて視線を落とす。冷静に保っているものの、セイカがいなくなったことにも気づけず、思い当たることはなにもなく。不甲斐なさだけが残る。ミアレにいるセイカしか知らず、突如バトルロワイヤルでランクを急激に上げてこの街の救世主になった彼女は一体どこからきてどんな人物なのだろうか。サビ組として調査をすることも容易いが、知らなくていいこともある。セイカとの距離感を大事にしていた。
(ここはどこ…。夢…?)
セイカは意識を取り戻そうとしていた。何故だろう。瞼を開けるのが怖い。自分が横たわっていることはわかる。
(私は今どこにいるの?何してたんだっけ?)
意識はあるものの、自分がなにものなのか、何をしてたのか、これまでの記憶が思い出せない。
─ずっとここにいて。
自分とは別の声が聞こえた。誰の声だろう。聞いたことがない。
(だめなの。私、帰らなきゃ。でも、どこに?)
瞼を開ける自分の手元を確認することができた。あたりは真っ暗だが自分の姿や服の色彩もはっきりと確認できる。服や手の感触もある。服はお気に入りのオフショルとジーンズだ。服に物足りなさを感じつつも具体的に思い出せない。
─やっと会えたんだから。
ミアレに来る前のセイカは、各地方を巡りながら、それぞれの地方に転々と移り住んでいた。忙しそうにしている両親は家にいることが少なく、子供の頃から一人でいることが多かった。転々とする中で各地方の野生のポケモンたちとも出会いと別れを繰り返していた。ポケモンを追って、一人で森の中で迷ってしまったことがある。そのころの記憶がふと頭の中でよぎる。森の中で迷ったことをきっかけに、幼いころから暗闇に苦手意識があり、大人になるにつれて少しずつ克服していたはずだった。
(独りぼっちはいやだ。)
その時と同じ感情が溢れてきた。
─大丈夫、僕がいるよ。
誰の声かもわからない。けれど、答えなくちゃいけない。夢なら覚めればいい。眩しくはない。とにかく、外の光が届かないところにいるようだ。まるで、異次元ミアレの中にいるような気分だった。しかし、ミアレの建物は見当たらない。例えるならブラックホールだろうか。
(そうか、私ミアレって地方にいたんだ。)
ミアレは成人になったことをきっかけに初めて自分一人だけの旅の始まりの土地であった。いつも独りならいっそのこと家を出てしまえと踏み出した土地。
ベッドに腰を落としていたカラスバは、チェストの横にあるセイカのカバンに目をやる。
(これひとつで来たとか言うとったな…)
座ってるだけではいつまでも進行しない。外に探している連中からの連絡もない。カラスバはセイカの匂いがする部屋で深く息を吸って、ため息のように吐いて立ち上がる。窓から指す光はいつの間にか街灯と月灯りになっていた。部屋を出ようとすると、扉に異次元ミアレの空間が漂っている。入ったときにはなかった。
(まさか、この中か…。)
普段ならフーパの輪っかを繋いで入る。それ以外で入れるかどうかは試したことがない。でも、ミアレの街中には、異次元ミアレのポケモンたちが増えている。通れないことはない。自分にはポケモンたちがいる。ポケモンを所持していないセイカが、この中にいるとしたら…。入るしかないだろう。いつもあいつはこの中に一人で入って調査をしている。自分が迷う理由がない。黒い空間へ手を伸ばすと抵抗なく入ることができた。
(セイカ、いるか…?)
ミアレというより殺風景な黒い空間だった。後ろを振り向くが異次元と現実のミアレに繋がるはずの空間は無くなっていた。どこだという言葉は当てはまらなく。ただ無限に暗かった。遠いも狭いもない。ただ、その中に、縮こまった白い影があった。ドンピシャだった。セイカのブルゾンを脱いだ時の白いオフショルが光って見えた。足をお山に折りたたんで顔をうずめて座っていた。
「…セイカ。迎えにきたで。」
ゆっくり近付き、しゃがみ込んで声をかけると、セイカはゆっくりと顔上げた。目は今にも泣きそうな顔をしていた。じわじわと涙を貯めて、セイカはカラスバに抱きつく。
「…カラスバさん、どこにもいかないで。」
「…安心し、オレはここにいる。」
「…す、すみません…。昔のことを思い出して、また一人になるんじゃないかって…。」
珍しく弱音を吐くセイカがいつもよりも小さく繊細な女の子なんだと初めて知った。サビ組のボスが柄にもなく、頭を撫でながら優しく慰める。
「セイカは一人やない。今日かてデウロとカフェの約束してたやんか。心配してるで。」
「…あ、そうだ…。日は進んでいるんですね。」
寒いのかブルっと体を震わせる。セイカお気に入りのオフショルスタイルは肩を露出している。いつものブルゾンは部屋に残されたままだ。カラスバは自分のスーツジャケットをセイカの肩に被せる。
「これでも着とき。」
「ありがとうございます。なんだか冷えてきて…。」
さっきまでカラスバが着ていたジャケットはとても暖かかった。背丈はあまり変わらないはずだけど、すこし自分には大きいようで、カラスバの男らしさをジャケット越しに感じると、心もぽかぽかしてきた。
「…せや、なんで一人でこんなとこおるん?」
「わからないです。気づいたらここにいて。カラスバさんこそどうやってここへ?」
「お前の部屋から入ったんや。」
「やっぱりここは異次元ミアレなんでしょうか…。私も気付いたらここにいたので。」
「そうみたいやな…。」
「どうやったら帰れるんだろう…。」
「フーパのワープがないと入口と出口が不安定になってしまうやな。また調査することが増えたな。」
「すみません。手間をとらせてしまって…。」
「ええで。二人きりになれたんわ。むしろご褒美やな。」
「えっ!えっ!」
ニヤっと口角をあげるカラスバに、赤面するセイカ、ジャケットをまとってから胸の鼓動が気になっていたが、さらには胸が熱くなる。
「と、とにかく!ここ!でないとですね!」
顔が真っ赤になったセイカは、カラスバが来る前のことを必死に思い出そうとする。そもそも異次元ミアレだったとしたら実は偽物のカラスバさん!?でも、初めてMZ団みんなで入ったときはみんな本物だったし!!と思考をぐるぐるぐるぐると巡らせる。
すると、背中から追いかぶさるようにぎゅっと抱きしめられたのがわかった。
「ほんま、心配させんなや。…会えてよかった。」
セイカの頭の後ろでやや震える声でつぶやいた。カラスバの髪はセイカの頬を撫で、首筋からふんわりと彼がいつも身に纏う香水の香りが漂ってきた。回された手にセイカも手を添える。華奢でありながらもごつごつとした手は自分よりもしっかり大きくて一段と異性であることを意識させる。
「…探しに来てくれたんですね。」
「当たり前や。」
「…カラスバさんは、よく自分のこと日陰者って言いますけど、今日、私を光へと導いてくれたのはカラスバさんです。私にとって、カラスバさんは……。」
その先をいいかけたその時、小型の黒い物体がカラスバにむかってぶつかってきた。
「な、なんや!?」
カラスバはセイカから離れると、セイカの前にそのぶつかってきたであろう小型の黒いポケモンが自分をにらんでいた。
「…ムウマ?なんでこんなところにポケモンが…?」
セイカは自分が気を失う前の状況を思い出した。セイカは昨晩、ホテルZへ帰宅後いつものように身支度を整えて、いざ眠りにつこうとしたとき、扉の方から子供の泣き声が聞こえた。時刻は真夜中だったが、アンシャが泣いているのかなと扉を開けた。そこからセイカの意識は途絶えていた。
ムウマの分類は「よなきポケモン」。人の子の泣き声を真似して人を欺くゴーストポケモンだ。ミアレの街には生息していないポケモンのため、異次元ミアレを通してきたのだろう。ムウマのたいあたりは軽いものだったが、それはムウマにとっての最大の威嚇攻撃でもあった。
「なんや、戦うんか?」
カラスバも自分のモンスターボールに手をかける。
「カラスバさん!待って!」
「…?」
セイカはムウマに近寄る。ムウマをよく見ると幼いころに無くしたと思っていたハンカチを首に巻いていた。
「ムウマ…。あなた、私が小さい時に森で迷子になったとき、助けてくれたムウマね。」
「なんや、知り合いのムウマかいな。」
「ええ、この子のスカーフ、私のなんです。ようやくわかりました。私がここに来たことが…。ムウマも私を探してくれてたみたいです。」
欺いて人を驚かすのが大好きなポケモン。可愛らしい外見ではあるが、他のゴーストポケモンの中でも精神的なダメージを与えるのに特化したポケモン。それがムウマだ。
「そのムウマどないすんの?」
モンスターボールに入れてはいないので野生のポケモンである。
「ムウマはどうしたい?私はあなたに会えて嬉しいな。またそばにいてくれる?」
ムウマはニコニコして頷くとセイカにすり寄る。
「あ、でも私今、ポーチもないし…あとでモンスターボールきめよっかな?」
「ボールなら何個か空いてるのあるで。」
カラスバがポケットからだしたのはすべてダークボールだった。ムウマもそれが気に入ったようで一つボールを選び、ねんりきで浮かせると、それを手にしたセイカは優しくムウマにタッチさせて静かにボールへおさまった。そのボールをぎゅっと胸に寄せる。
「…カラスバさん。今日は本当にありがとうございました。」
「ポケモンにも好かれよって隙みつけるのが大変やで。」
そう安堵しているとフーパのワープが出現した。ワープの向こうから聞きなれた声が届く。
「カラスバさま!」
「「セイカ!!」」
ジプソとMZ団のデウロとピュールが二人の名前を呼ぶ。カラスバがこの空間に入る前に、ジプソには連絡を入れていた。ドーナツを用意し、フーパを連れて入るようにと。1時間しても戻らなければ入ってこいと。ここはもう用はない。無事にセイカも見つけることができた。
「さて、帰るで。」
手を差し伸べたカラスバの手をセイカは柔らかい笑顔で受け取る。その笑顔にカラスバも朗らかになった。
(離さんでほんま…)
ワープをくぐって戻ったそこは、セイカの部屋の入り口だった。
「わー!セイカ!もう!さらわれちゃったかと思ったよ!」
戻った矢先にデウロがセイカに抱き着くと、さっきまで繋いでいた手を放すカラスバ。
「無事でよかったです。一体なにがあったんですか?」
「うん、ムウマってポケモンに異次元ミアレに連れ込まれちゃってさー。」
また、カフェの約束のやり直しをしようねー、ごめんねー。とMZ団の奇怪事件は表沙汰になることなく無事解決に至った。カラスバとジプソは無言でその場を後にしようと、エレベーターへ向かうが、それに気づいたセイカは慌てて声をかける。肩にはカラスバのスーツジャケットはかかったままだ。
「カラスバさん!あ、あのジャケットありがとうございました!クリーニングしてお返ししますね!」
セイカの肩からジャケットを剝ぐ。
「ええよ。そんなもん。(セイカの匂いなくなるやん。)それより…ダークボール。タダではないで。」
「あ、そうでした!」
「そうやな。今回の騒動はサビ組全動員やったし、それも含めて、セイカを無期限貸出を要求するわ。ミアレの救世主を救ったんわ、サビ組のボスやで。」
いつもの悪い顔をするカラスバ。さすがに今回ばかりはMZ団も頭が上がらない。そっと、背丈の差のないセイカに顔を近づけると耳元で囁く。
「また二人っきりでデートしような。」
「えっ…?」
「ほな、MZ団のみなさん、おきばりやす。」
顔を真っ赤にしたセイカを残してエレベーターは閉まっていった。
ー終-
珍しくデウロからカラスバのスマホロトムに着信が入った。声のトーンから慌ただしくも不安気な様子が感じられた。
「来ておらへんけど…。ジプソ来たか?」
日が傾き始め、お日様は影を少しずつ伸ばしていた。サビ組の部屋には窓が無く、目の前のパソコンのデジタルの時刻表示に目を移す。サビ組のトップとしては、常に何かしら業務を抱えているが、ごく一般的な終業時刻を迎える頃であった。
「いえ、本日はセイカさんの来客対応はしておりません。」
他社とのスケジュール管理を担うジプソに確認をする。下の受付までセイカが来たとしてもまずはジプソに連絡が入るので来ていないことは間違いないようだった。
「なんやあったんか?」
「実は─」
デウロは今日の午前のダンスレッスンが終わり次第、セイカと一緒にカフェやブティックを見に行く約束をしていた。カフェの約束の時間になっても、集合場所のカフェには現れず、何度もスマホロトムで呼び出ししても、呼び出し音は鳴るもののセイカが出ることはなかった。
AZさんが居なくなった後のホテルは、アンシャのドーナツ作りの手伝いを当番制にしており、ガイ以外のMZ団メンバーも清掃作業などホテルの業務を少しずつ増やしていた。
今日はピュールが担当の日であったため、デウロは一番にピュールに電話をかけた。
「ピュール?セイカみなかった?」
「見てないですけど、昨日は帰ってきたところをロビーでみかけましたよ。」
「そうだよね…。私もおかえりなさいって会話したもん。」
「ガイなら知ってるのでは?」
「今日はガイはマスカットさんと出張でしょ?」
この日はガイがクエーサー社からの依頼で出張中であり、ホテルに居るのはアンシャとピュールだけだった。
「そしたら、部屋にいませんか?風邪ひいて寝込んでいるとか…。」
「たしかに…もう少しでホテル着くから待ってて!」
今朝、デウロが自室を出た時、セイカの部屋のドアが少し開いていたことを思い出す。同じ女同士であっても隙間から部屋を覗くのは野暮かなと思い、その時は換気をしているんだろうなと推測し、そのままエレベーターに乗ってホテルを後にしたのだ。
女性の部屋とあってさすがにピュール一人に様子を見てもらうわけにもいかず、デウロの到着まで待機してもらうことになった。
「ピュール!お待たせ!」
「では、部屋みてみますか…。」
「うん!」
いつものようにエレベーターに乗るが、二人に緊張が走る。居てくれたら安心するし、居なかったら居なかったで、いつものようにどうせ外のベンチでごろごろしてるはずと願いながらエレベーターはすぐに2階についた。
デウロが今朝みかけたとおりのまま、扉はよくみないと気付かないくらいの隙間が開いていた。
「あ、やっぱり開いてる…。朝から開いてたの。」
「すみません。僕は気づきませんでした。」
「とりあえず、入るよ?」
まだお昼を過ぎた頃なので窓からの明かりだけでも、わずかなドアの隙間から十分内装の雰囲気がわかる。いつもと変わらないような感じはする。
「…セイカ?入るよ?」
おそるおそる扉をゆっくり開けながら中に入る。倒れてませんようにと願いながら固唾を呑む。お部屋の内装は他の部屋と配置はほとんど同じで、奥まで進むとベットや収納家具がある。
部屋にセイカはいなかった。
しかし、いつも身に着けているはずのスマホロトム、ポーチ、6つのモンスターボール、そして、MZ団のロゴが入ったブルゾンが部屋に残されていた。
「え、どういうこと…。」
「セイカさんは観光客としてミアレにきたんですよね…。帰っちゃったんでしょうか。」
「そんな、今日はカフェ行こうって約束してたのに…。」
タワーの暴走から異次元ミアレの調査とせわしない状況が続いたが、アンシャの願いのポケモンを捕獲したことで、MZ団含むそれぞれの関係者もひと段落したところである。
「…ポケモンたちも残してはいかないですよね…。あ、あれは…。」
ピュールが見つけたのは、セイカがミアレに到着した時から持ち歩いていたカバンだ。
「カバンがあるってことは…」
「帰ったわけじゃなさそう…。探そう!なんか嫌な予感しちゃう…。」
「サビ組のあの人に聞いてみてはどうでしょう。」
サビ組といえば、どこかで見てるかのようにタイミングよく着信がくる。もしかしたら、セイカの行方を追えるかもしれない。
「─ということなんです。サビ組ならセイカの動向追えてたりしませんか?」
セイカが行方不明ということをデウロから説明を聞き終えたカラスバは目を閉じて一呼吸置いた。ピュールやデウロが思っているとおり、セイカの動向を日々追っているのは本当のことだ。ただ、必ずしも一分一秒逃さず監視しているわけではない。そもそも、タワーの暴走が解決したあたりからMZ団を敵対する必要は無くなった。異次元ミアレの調査も落ち着いたばかりだ。監視しようと思えばできなくもないが、年頃の女性の監視はやはり気が引けるものである。
カラスバは、セイカとバトルを重ねていく中で、異性として意識するようになっていた。セイカを見ていると異次元ミアレの調査に身が入らなくなる。監視を減らしたのは自分なりのけじめのつもりもあった。
だが、今回はそれが徒(あだ)となった。
「…ジプソ、聞いたとおりや。」
「いかがいたしましょう。」
「もちろん、捜索最優先や。まずはホテルZへいくで。」
早急にジプソの運転する車でホテルZへ向かう。ホテルZの前に到着すると、カラスバだけが降りて、ジプソは他の手掛かりを探すために分かれる。
「ジプソ、また連絡するさかい、街中のベンチをあたってえな。サツに連絡はせんといてな。街の救世主が行方不明と知ったら街全体でパニックになってまう。」
「かしこまりました。」
ホテルZへ入館したカラスバはロビーで待ってるデウロとピュールに歩み寄る。
「カラスバさん、わざわざすみません。」
「いや、堪忍な。MZ団の大事なお嬢さんの行方知らずはミアレの異常事態同等や。」
「あの…通話でも話した通り、お部屋にはスマホロトムとアウターが残っていました。あと、ポケモンたちも。」
カラスバが到着するまでの間も、デウロとピュールで部屋やホテル内を捜索したが特に変わった様子はなかった。
後片付けしながらカウンター越しで慌ただしくしているところをみていたアンシャは不穏な様子を察して話に入ってきた。
「あの…セイカさん戻ってきますよね…。これまで無理難題を受けてくださって、嫌になって出て行ってしまったのでしょうか。」
アンシャの言葉に険しそうな顔から珍しくも和らげな顔で答えたのはカラスバだった。
「MZ団とサビ組が手分けして探すさかい、心配いらんで。」
ガイとセイカの二人がいない状況に不安気になっていたピュールとデウロはその表情にハッと気付かされた。
「そうですね。セイカが戻ってきたときのためにおいしいドーナツ用意してくれますか?」
「うん。アンシャがホテルZへ来てくれたおかげで、セイカがホテルで休む機会も増えて安心してたし、私もセイカとたくさん話す機会も造れて嬉しかったんだよ~。ありがとう!夜も更けてきたし、今日はもう帰っていいよ!」
「わかりました。ではみなさま、おやすみなさい。」
アンシャはドーナツの残りを置いて、フーパのワープをくぐって帰っていった。
「さて、一度、セイカの部屋へ案内してもらおか。」
ホテルZの2階にあがった3人はエレベーターが開くとカラスバを先頭に真っすぐにセイカの部屋へ向かう。
「セイカの部屋はここやんな。入るで。」
なんで知ってるんだろうとデウロとピュールは疑問に思いつつも、セイカを探すことが最優先のため飲み込んだ。
カラスバは迷わず部屋の奥へ進む。立ちすくみながら思考を巡らせる。
「いつもと変わらへんな。」
だからなんで知ってるんだよと口から出しそうになりながらも二人は頷くも、セイカ自身がよくカラスバのことを楽しそうに話すのを聞いていたので、カラスバがセイカに好意を寄せているのはデウロとピュールはなんとなく察していた。
「…ここに3人いても、あれだよね。」
「僕は、ホテルZ周辺と駅の方もみてきますね。」
「ああ、ジプソには各ベンチ見に行ってもらってるで。」
「それなら、私は屋上の方へ。」
部屋にはカラスバ一人が残った。今日は宿泊客もおらず、緊急のため、ホテルZの玄関のドアにはクローズの案内板がかかっている。カラスバはセイカがいつも寝ているであろうベッドに腰掛けて視線を落とす。冷静に保っているものの、セイカがいなくなったことにも気づけず、思い当たることはなにもなく。不甲斐なさだけが残る。ミアレにいるセイカしか知らず、突如バトルロワイヤルでランクを急激に上げてこの街の救世主になった彼女は一体どこからきてどんな人物なのだろうか。サビ組として調査をすることも容易いが、知らなくていいこともある。セイカとの距離感を大事にしていた。
(ここはどこ…。夢…?)
セイカは意識を取り戻そうとしていた。何故だろう。瞼を開けるのが怖い。自分が横たわっていることはわかる。
(私は今どこにいるの?何してたんだっけ?)
意識はあるものの、自分がなにものなのか、何をしてたのか、これまでの記憶が思い出せない。
─ずっとここにいて。
自分とは別の声が聞こえた。誰の声だろう。聞いたことがない。
(だめなの。私、帰らなきゃ。でも、どこに?)
瞼を開ける自分の手元を確認することができた。あたりは真っ暗だが自分の姿や服の色彩もはっきりと確認できる。服や手の感触もある。服はお気に入りのオフショルとジーンズだ。服に物足りなさを感じつつも具体的に思い出せない。
─やっと会えたんだから。
ミアレに来る前のセイカは、各地方を巡りながら、それぞれの地方に転々と移り住んでいた。忙しそうにしている両親は家にいることが少なく、子供の頃から一人でいることが多かった。転々とする中で各地方の野生のポケモンたちとも出会いと別れを繰り返していた。ポケモンを追って、一人で森の中で迷ってしまったことがある。そのころの記憶がふと頭の中でよぎる。森の中で迷ったことをきっかけに、幼いころから暗闇に苦手意識があり、大人になるにつれて少しずつ克服していたはずだった。
(独りぼっちはいやだ。)
その時と同じ感情が溢れてきた。
─大丈夫、僕がいるよ。
誰の声かもわからない。けれど、答えなくちゃいけない。夢なら覚めればいい。眩しくはない。とにかく、外の光が届かないところにいるようだ。まるで、異次元ミアレの中にいるような気分だった。しかし、ミアレの建物は見当たらない。例えるならブラックホールだろうか。
(そうか、私ミアレって地方にいたんだ。)
ミアレは成人になったことをきっかけに初めて自分一人だけの旅の始まりの土地であった。いつも独りならいっそのこと家を出てしまえと踏み出した土地。
ベッドに腰を落としていたカラスバは、チェストの横にあるセイカのカバンに目をやる。
(これひとつで来たとか言うとったな…)
座ってるだけではいつまでも進行しない。外に探している連中からの連絡もない。カラスバはセイカの匂いがする部屋で深く息を吸って、ため息のように吐いて立ち上がる。窓から指す光はいつの間にか街灯と月灯りになっていた。部屋を出ようとすると、扉に異次元ミアレの空間が漂っている。入ったときにはなかった。
(まさか、この中か…。)
普段ならフーパの輪っかを繋いで入る。それ以外で入れるかどうかは試したことがない。でも、ミアレの街中には、異次元ミアレのポケモンたちが増えている。通れないことはない。自分にはポケモンたちがいる。ポケモンを所持していないセイカが、この中にいるとしたら…。入るしかないだろう。いつもあいつはこの中に一人で入って調査をしている。自分が迷う理由がない。黒い空間へ手を伸ばすと抵抗なく入ることができた。
(セイカ、いるか…?)
ミアレというより殺風景な黒い空間だった。後ろを振り向くが異次元と現実のミアレに繋がるはずの空間は無くなっていた。どこだという言葉は当てはまらなく。ただ無限に暗かった。遠いも狭いもない。ただ、その中に、縮こまった白い影があった。ドンピシャだった。セイカのブルゾンを脱いだ時の白いオフショルが光って見えた。足をお山に折りたたんで顔をうずめて座っていた。
「…セイカ。迎えにきたで。」
ゆっくり近付き、しゃがみ込んで声をかけると、セイカはゆっくりと顔上げた。目は今にも泣きそうな顔をしていた。じわじわと涙を貯めて、セイカはカラスバに抱きつく。
「…カラスバさん、どこにもいかないで。」
「…安心し、オレはここにいる。」
「…す、すみません…。昔のことを思い出して、また一人になるんじゃないかって…。」
珍しく弱音を吐くセイカがいつもよりも小さく繊細な女の子なんだと初めて知った。サビ組のボスが柄にもなく、頭を撫でながら優しく慰める。
「セイカは一人やない。今日かてデウロとカフェの約束してたやんか。心配してるで。」
「…あ、そうだ…。日は進んでいるんですね。」
寒いのかブルっと体を震わせる。セイカお気に入りのオフショルスタイルは肩を露出している。いつものブルゾンは部屋に残されたままだ。カラスバは自分のスーツジャケットをセイカの肩に被せる。
「これでも着とき。」
「ありがとうございます。なんだか冷えてきて…。」
さっきまでカラスバが着ていたジャケットはとても暖かかった。背丈はあまり変わらないはずだけど、すこし自分には大きいようで、カラスバの男らしさをジャケット越しに感じると、心もぽかぽかしてきた。
「…せや、なんで一人でこんなとこおるん?」
「わからないです。気づいたらここにいて。カラスバさんこそどうやってここへ?」
「お前の部屋から入ったんや。」
「やっぱりここは異次元ミアレなんでしょうか…。私も気付いたらここにいたので。」
「そうみたいやな…。」
「どうやったら帰れるんだろう…。」
「フーパのワープがないと入口と出口が不安定になってしまうやな。また調査することが増えたな。」
「すみません。手間をとらせてしまって…。」
「ええで。二人きりになれたんわ。むしろご褒美やな。」
「えっ!えっ!」
ニヤっと口角をあげるカラスバに、赤面するセイカ、ジャケットをまとってから胸の鼓動が気になっていたが、さらには胸が熱くなる。
「と、とにかく!ここ!でないとですね!」
顔が真っ赤になったセイカは、カラスバが来る前のことを必死に思い出そうとする。そもそも異次元ミアレだったとしたら実は偽物のカラスバさん!?でも、初めてMZ団みんなで入ったときはみんな本物だったし!!と思考をぐるぐるぐるぐると巡らせる。
すると、背中から追いかぶさるようにぎゅっと抱きしめられたのがわかった。
「ほんま、心配させんなや。…会えてよかった。」
セイカの頭の後ろでやや震える声でつぶやいた。カラスバの髪はセイカの頬を撫で、首筋からふんわりと彼がいつも身に纏う香水の香りが漂ってきた。回された手にセイカも手を添える。華奢でありながらもごつごつとした手は自分よりもしっかり大きくて一段と異性であることを意識させる。
「…探しに来てくれたんですね。」
「当たり前や。」
「…カラスバさんは、よく自分のこと日陰者って言いますけど、今日、私を光へと導いてくれたのはカラスバさんです。私にとって、カラスバさんは……。」
その先をいいかけたその時、小型の黒い物体がカラスバにむかってぶつかってきた。
「な、なんや!?」
カラスバはセイカから離れると、セイカの前にそのぶつかってきたであろう小型の黒いポケモンが自分をにらんでいた。
「…ムウマ?なんでこんなところにポケモンが…?」
セイカは自分が気を失う前の状況を思い出した。セイカは昨晩、ホテルZへ帰宅後いつものように身支度を整えて、いざ眠りにつこうとしたとき、扉の方から子供の泣き声が聞こえた。時刻は真夜中だったが、アンシャが泣いているのかなと扉を開けた。そこからセイカの意識は途絶えていた。
ムウマの分類は「よなきポケモン」。人の子の泣き声を真似して人を欺くゴーストポケモンだ。ミアレの街には生息していないポケモンのため、異次元ミアレを通してきたのだろう。ムウマのたいあたりは軽いものだったが、それはムウマにとっての最大の威嚇攻撃でもあった。
「なんや、戦うんか?」
カラスバも自分のモンスターボールに手をかける。
「カラスバさん!待って!」
「…?」
セイカはムウマに近寄る。ムウマをよく見ると幼いころに無くしたと思っていたハンカチを首に巻いていた。
「ムウマ…。あなた、私が小さい時に森で迷子になったとき、助けてくれたムウマね。」
「なんや、知り合いのムウマかいな。」
「ええ、この子のスカーフ、私のなんです。ようやくわかりました。私がここに来たことが…。ムウマも私を探してくれてたみたいです。」
欺いて人を驚かすのが大好きなポケモン。可愛らしい外見ではあるが、他のゴーストポケモンの中でも精神的なダメージを与えるのに特化したポケモン。それがムウマだ。
「そのムウマどないすんの?」
モンスターボールに入れてはいないので野生のポケモンである。
「ムウマはどうしたい?私はあなたに会えて嬉しいな。またそばにいてくれる?」
ムウマはニコニコして頷くとセイカにすり寄る。
「あ、でも私今、ポーチもないし…あとでモンスターボールきめよっかな?」
「ボールなら何個か空いてるのあるで。」
カラスバがポケットからだしたのはすべてダークボールだった。ムウマもそれが気に入ったようで一つボールを選び、ねんりきで浮かせると、それを手にしたセイカは優しくムウマにタッチさせて静かにボールへおさまった。そのボールをぎゅっと胸に寄せる。
「…カラスバさん。今日は本当にありがとうございました。」
「ポケモンにも好かれよって隙みつけるのが大変やで。」
そう安堵しているとフーパのワープが出現した。ワープの向こうから聞きなれた声が届く。
「カラスバさま!」
「「セイカ!!」」
ジプソとMZ団のデウロとピュールが二人の名前を呼ぶ。カラスバがこの空間に入る前に、ジプソには連絡を入れていた。ドーナツを用意し、フーパを連れて入るようにと。1時間しても戻らなければ入ってこいと。ここはもう用はない。無事にセイカも見つけることができた。
「さて、帰るで。」
手を差し伸べたカラスバの手をセイカは柔らかい笑顔で受け取る。その笑顔にカラスバも朗らかになった。
(離さんでほんま…)
ワープをくぐって戻ったそこは、セイカの部屋の入り口だった。
「わー!セイカ!もう!さらわれちゃったかと思ったよ!」
戻った矢先にデウロがセイカに抱き着くと、さっきまで繋いでいた手を放すカラスバ。
「無事でよかったです。一体なにがあったんですか?」
「うん、ムウマってポケモンに異次元ミアレに連れ込まれちゃってさー。」
また、カフェの約束のやり直しをしようねー、ごめんねー。とMZ団の奇怪事件は表沙汰になることなく無事解決に至った。カラスバとジプソは無言でその場を後にしようと、エレベーターへ向かうが、それに気づいたセイカは慌てて声をかける。肩にはカラスバのスーツジャケットはかかったままだ。
「カラスバさん!あ、あのジャケットありがとうございました!クリーニングしてお返ししますね!」
セイカの肩からジャケットを剝ぐ。
「ええよ。そんなもん。(セイカの匂いなくなるやん。)それより…ダークボール。タダではないで。」
「あ、そうでした!」
「そうやな。今回の騒動はサビ組全動員やったし、それも含めて、セイカを無期限貸出を要求するわ。ミアレの救世主を救ったんわ、サビ組のボスやで。」
いつもの悪い顔をするカラスバ。さすがに今回ばかりはMZ団も頭が上がらない。そっと、背丈の差のないセイカに顔を近づけると耳元で囁く。
「また二人っきりでデートしような。」
「えっ…?」
「ほな、MZ団のみなさん、おきばりやす。」
顔を真っ赤にしたセイカを残してエレベーターは閉まっていった。
ー終-
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