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旅行はいかがです?

 本屋に寄りたいとゲーニッツが言った。
林子もゲーニッツがよく読書をしているのを知っているので快く二人で本屋に入った。
ゲーニッツが読んでいる本は林子にはまったく読めない、どこの国の本かどんな内容かもわからない外国語で書かれた本を好んで読んでいる。
そんな彼のことがカッコイイなと素直に思っていた。
 二、三冊分厚い本を取り買い物は終わりかと思っていたら
「違うのも見てもいいですかね?」
そう言い林子は不思議に思ったが、ふたつ返事でゲーニッツについていく。
足を止めた場所は〝旅行案内本〟のある売り場だった。
「ゲニさん旅行行きたいの?」
目を細めるような笑顔で林子を見る。
「まとまった休みが取れそうなのと、林子さんにリトリートさせたいなと思いまして」
「リトリート?」
「心を癒す旅行のことです」
ほーなるほど。と当の本人は気の抜けた顔で案内本を手に取って見ていた。
林子が真っ先に手に取っていたのは『沖縄』と書かれた本だった。
中を開いて見ているのをお構いなしに彼女の手からその本を抜き取る。
「決まりですね。沖縄で」
そう言いレジまで歩き出す彼に小走りでついていく林子。
 家に着き買ってきた本を出す。
「そういやなんで私の意見聞かず沖縄に決めたの?ゲニさん沖縄って決めてたの?」
「いえ、林子さんと一緒ならどこでもよかったのです。深層心理みたいなものですかね。一番最初に手に取るものって本人が一番興味あるものだと思うのです」
確かに…。と変に納得してしまう林子。
「でも本当に沖縄でいいの?私は沖縄めちゃ行きたかったから嬉しいけど」
「なら尚の事、沖縄でいいと思います。私は貴女がいればどこでもいいと」
すると急に林子が大声でやったー!!と発し勢いよく飛び跳ねる。
突然すぎて驚くゲーニッツだったが明るい顔の彼女が見れて安堵する。
林子にいつ行くのかと問いかけられたと思いきや、本を開きどこ行こう。ゲニさん何食べたい?私はね~!!と彼女の興奮が止まらなくなった。
不意に林子の顔を覆うように抱き寄せる。
するとピタリとマシンガンのように出ていた言葉たちが止まる。
「休みははっきり決まりましたら伝えます。それと追々一緒に旅行の日程は詰めましょう」
あいよッ!と元気よく返事が返ってきた。
 それから毎日のように二人の会話で沖縄についての話が止まらなかった。特に林子から。
ふと思ったゲーニッツがある日林子に聞く。
「林子さん、実は旅行好きだったりしましたか?」
「いや全然!!」
質問に対して意外な返答に気が抜ける。
「では、なぜそのように毎日楽しみにされているのですか?」
あー、といつもの彼女の気の抜けた声が出る。
少し悩んだあとに、
「なんか沖縄だけ特別な感情抱いてるんだよねーこころの故郷ちゅーか。それに私のおばあちゃん沖縄の人だったみたいだし」
ま!一度も行ったことないけど!と付け加えガハハと笑う。
それを聞いたゲーニッツは不思議と、尚の事彼女をその地に連れて行ってあげたいと思った。
 ——気づけば沖縄旅行の前夜だった。
「ゲニさんあたいねれない。薬効いてない。大興奮で」
朝早い飛行機に乗るため、いつもより早い時間にベッドへ入っていたが気づけば日付を跨ごうとしていた。
「それは困りましたね…しかし私も同じようです」
二人で布団から出て夏の夜風にあたりに窓を開けた。
そこで冷たい麦茶をお気に入りのグラスに注ぎ、一緒に飲んで一息ついた。
「明日は楽しみですね。…その、ふたりで旅行も初めてなので私も嬉しくて眠れず」
「そうだねえそういやそうねぇいや本当に楽しみだ。ありがとうゲニさん!」
じわりと、汗が出てきた頃飲みかけの麦茶を飲み干し再びベッドに入り、早く明日が来るよう眠りについたのだった。
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