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ふたりで乗り越えること

男の人が自分、林子を見ている。
大声で罵声を浴びせられる。しかし何を言われているかわからない。
耳を塞ごうにも縛られてるのに気づき、できない。
男が林子に銃を向ける。やめて!と言うと同時に引き金を引かれて――
…勢いよく目を開ける。起きると汗が止まらなかった。
フラッシュバック。
誘拐された日からずっとこの夢を見るようになった林子。
ゲーニッツが来なかったら殺されていたのでは。と思うと背筋が凍った。
夢のせいでただでさえ寝つきが悪い林子が夢でうなされて不眠気味になっていた。
心配されたくなくて夢の事、不眠気味なのを言い出せなかった。

一週間ほどすぎ、林子の状態はますます悪くなっていた。
「林子さん、大丈夫ですか?」
ゲーニッツが見てもわかる程だ。
ここで初めて林子が寝不足気味だと答えた、が夢の事はなぜか言えなかった。
季節の変わり目で調子が悪かったのに誘拐の事でさらに心身を崩していた。
ゲーニッツがもし寝れなかったり夜中に起きてしまったら起こしてくださいと言ってきた。
悪いよ。と断るが林子の寝不足を少しでもなんとかしたいと言う。
その日からそうするようになった。
夜、案の定いつもの悪夢を見て起きる。
時計を見ると午前三時を指していた。
少し起こすのを躊躇ったがゲーニッツに声をかける。
ゲーニッツが目を覚ます。
「ごめんね」
「大丈夫ですよ。気分はいかがですか?」
胸が詰まる。喉元まで『ツライ』が来たが言わず留めた。
何も言わない林子を見て頭を撫でる。
「ちょっと待っててください」
そう言い台所へ向かう。
少しすると何かを持って帰ってきた。
手には冷たい飲み物とチョコレートがあった。
「甘い物食べて落ち着きましょう」
コップを渡されて少し飲む。中身は紅茶だった。
ずっと夜中が辛い時間だったためこうしてふたりで起きてる事に安心して涙が零れた。
「抱え込まないでください。林子さんの悪い癖ですよ」
優しい声色でさらに涙が流れた。
やっとの思いで途切れ途切れだが夢の事もゲーニッツに話した。
「ずっと辛い思いをされていたのですね。早く気づけなくてすみません…しかしそうなると私ではどうにもできない事ですので専門的な所に行かない改善されないと思います」
林子自身も薄々と気づいていた。そういう〝病院〟に行った方がいいのかと。
「さっそく明日探して予約取りましょうか」
「そうだね。ゲニさんありがとう…」
「…落ち着きましたか?寝れそうなら横になりましょうか」
ふたりで横になる。林子の手を握る。
「おまじないです」
ニコッと笑う。いつかの林子がやったことだと気づく。
一緒にいるという安心感から林子はすぐ眠りについた。
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