ゲーニッツが夜寝ていると寝苦しさから目を覚ました。
季節も気づけば初夏。気温のせいで目を覚ましたと思ったが胸が変にざわついていた。
隣で寝ている彼女を起こさないようにベッドを降りる。
台所に行きコップ一杯の水を飲む。
少し落ち着いたが変わらず胸騒ぎがした。
彼女、林子と暮らして早数カ月。林子の情緒が安定してきてるのが嬉しいと感じている。
しかし本当に自分がこんな事をしてていいのかと悩む時がある。まさに今ゲーニッツ自身そう思っている。
オロチに仕える者としてなぜ人間と同居してるのかとふと我に返る。
使命を忘れる程〝人間〟の〝彼女〟を愛してしまったのが運の尽き。
はぁ、と大きな溜息がゲーニッツの口から出る。
(少し夜風にあたりますか…)
静かにベランダの窓を開ける。
夜は昼間と比べて風が涼しく気持ちがいい。
空を見上げると満月で周りの木々たちを優しい光で照らしていた。
身体全体で自然を感じ心が落ち着いていくのが分かった。
しばらくの間何も考えず外の景色を見ていた。
「…ゲニさん？」
急に背後から名前を呼ばれた。
振り返ると心配そうにゲーニッツを見つめる林子がいた。
心配そう、というか悲しそうな表情にも見て取れた。
「寝れないの？」
あまりにも泣きそうな声色だった。
林子に近づいて抱きしめる。
「大丈夫ですよ。…少し寝苦しくて夜風に当たってました」
胸の中で唸る声が聞こえた。
きっとゲーニッツがいなくて不安で起きてきたというのがわかった。
「大丈夫、大丈夫です。さぁ布団に戻りましょう」
林子をなだめて部屋に戻る。
ふたたび布団に二人で入る。
布団の中で林子がゲーニッツの方へ向き手を握る。
「よく寝れるおまじない。嫌な事も忘れて寝れるはずだから。私はここにいるよ」
ゲーニッツの胸が少し傷んだ。
自分が何かに悩んでる事が彼女に筒抜けだったことが。
「…ありがとうございます」
彼女の優しさに目頭が熱くなった。