このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

出会い(序章)

最近、繰り返し教会に祈りに来る者がいた。
長髪の黒髪の彼女だ。
この教会の牧師であるゲーニッツは参拝者のその彼女を気にかけていた。
それはいつも教会を閉める時間間際に来ていてゲーニッツが「閉めますので」といつも声をかけていた。
そういうと彼女の顔は悲しげな表情になって帰って行くのを見ていたからだ。
ある晩、いつも通り彼女に声をかけたら急に泣き始め座り込んでしまった。
どうしたものかとゲーニッツは悩みとりあえず彼女を教会の中の椅子に座らせ扉に鍵をかけた。
彼女が落ち着くまで隣に座っていた。
落ち着いたのを見てゲーニッツが声をかけた。
「落ち着きましたか?お名前を伺ってもいいでしょうか」
「林子、です。ごめんなさい、泣いてしまって」
うつむいたままの彼女、林子の声は震えていた。
「よかったらお話聞かせて頂いていいでしょうか?」
そうゲーニッツが言うと林子はぽつりぽつり話始めた。
 家では両親の喧嘩が絶えない事や周りの人が怖く感じてしまう事、周りに頼れる人がいなくてつらい事。
すべてが嫌になりそれでこの教会に足を運んで死なせてくださいと願って祈っていた事。
「自分にはなにもないのです…。だから自分を傷つけたり、死のうとしてるけど怖くて、だから死なせてくださいと祈ってたのです」
思わずゲーニッツは笑いが込み上げてきそうになった。
ここまで愚かで無能の人が目の前にいるのが可笑しく思えた。
が、落ち着いた声でゲーニッツは言った。
「いつか『人』は滅びるものだと思っています」
そこで初めて林子は顔を上げゲーニッツの顔を見た。
驚いたような疑うような表情で林子はゲーニッツの顔を見た。
「人は傲慢な生き物です。争いや自然破壊などをする恐ろしい生き物です。ですので貴女が思う『人が怖い』は合っていると思います。それと人は死ぬのが早いか遅いかなだけです」
ニコっと笑いこう続けた。
「なので貴女が死ぬのを遅くできるのであればいつでも声をかけてください」
林子は瞳に大粒の涙を浮かべ俯いて
「…あ、ありがとう、ございま、す」と言った。
嗚呼、脆い。酷く悲しい生き物だ。と心で嘲笑ってしまうゲーニッツ。
この彼女が壊れて死んでいく様を見届けてみようと思い、あることを閃いた。
「奥に懺悔室があります。よければ特別に開けますのでいかがです?」
林子は、なんでもいい。この心の痛みが止まるならとすがる思いで頷きゲーニッツの手にひかれて行った。
1/1ページ
スキ