タイムリミットは夜明けまで
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
食事を済ませた後、ビルの最上階に案内された。
どうやらホテルになっているようで、案内された部屋は一段と見晴らしの良いものだった。
「こんな素敵な部屋……初めてです」
「ここからの眺めが好きで。貴方を貰うならここが良いと思ったんです」
「峯さんには、やっぱりなんだか叶わない気がします」
「そうですか?」
そんな会話もそこそこに、緊張してしまって座ることを促された椅子から身動きができないでいた。
峯はというと、水をついでくれている。
本来はお酒でも嗜みたい空間であるが、病気である手前飲酒は禁物だった。
さらりとそれらを配慮してくれる峯。
その水で緊張で乾ききった口内を潤しながら、お互いの話をした。
話を聞くと、驚くことにこの部屋、というかこのビルごと峯のものらしい。
「大変な努力を積まれたんですね」
不意に出た言葉。
だが峯は少し硬直して、眉間に皺をよせた。
不味いことを言ってしまっただろうかと思ったけれど、その口元は微かに笑っていて。
「そう言っていただけるのは、嬉しいです」
初めてみたその切なげな表情に、ドキリとするのがわかった。
____
余命半年。
今日食事をしたその女は突然にそう告げたのだった。
その時、何か峯の中で何とも言い難い感情が弾けた気がした。
同情とかそういう類ではなくて、独占欲、と言えばいいのだろうか。
初めて出会った時から感じた儚さはまさに現実であって、今目を離したらすぐにでも泡のように消えてしまいそうなその人。
好奇心とも言うべきだろうか、そんな不思議な感情が湧いてきた。
彼女のその残り半年を自分が握ることが出来たら。
自分のずっと求めていた〝上辺だけじゃない関係〟に近ずけるのではないかと。
そんなことを思いながら夜の誘いをした。
彼女はだいぶ混乱していたようだったが、受け入れてくれた。
まあいい歳をした男女が、食事後そのまま……なんてのはよくある話ではあるのだが。
それから不思議に彼女に惹かれてしまったのは、やはり今までの人間とは少し異なるからなのかもしれない。
話をしているときに時折感じる、どこか物事を達観するような視点は彼女の残り時間から来ているのだろうか。
〝努力を積まれたんですね〟
その言葉がやけに胸をざわつかせた。
今まで実績やら見てくれやらを褒めてきた輩はごまんといた。
しかし、それまでの過程を褒めてきた人物は初めてだった。
自分は誰よりも金のために貪欲に、ただひたすら努力を積み重ねてきた。
それがようやく、認められたような気がしたのだった。
_____
会話もそれなりに弾み、緊張も解れてきた頃。
シャワーを先にすませた名前はひとり、部屋でシャワー中の峯を待つ。
シャワーを浴びてもスッキリするどころか、これからの事がいやでも想像されて、悶々とするばかり。
しかし、こんなこともきっと最後の最期だろうからと思えば、なんだかなんでも出来るような気さえもしてくる。
それにしたって、やはりこれは現実なのかとグルグル考えてしまっていると、
ガチャリ、ドアをあける音。
ついに峯も浴室から出てきたようだった。
その峯の姿を見て、名前は思わず息を飲んでしまった。
髪は先程よりラフになり、前髪が垂れて幼さが少しでた。
なのにそれに反して、スーツに隠されていた鍛え上げられた上半身が顕になっている。
かなりがっしりしているなとは思っていたものの、
ここまでとは……。
「苗字さん、ひとつお話があります」
「は、はい!」
見とれていて少し反応が遅れてしまった。
すると、くるりと峯が後ろをむく。
それをみればそこには、背中いっぱいに隆々と刻み込まれた麒麟がいた。
「……っ、綺麗……」
初めて見たそれは、所謂刺青というやつ。
「綺麗、ですか。はは、あんたらしいですね」
面白いというように笑う峯。
姿も話し方も先程までとは少し違っていて、ますますクラクラしてしまいそうだった。
「初めて刺青を見たのでびっくりもしましたけど……ここまで見事なものを目にするのも初めてです。
まるで生きてるみたいですね、この麒麟」
逞しく駆けあがっていくような背中に刻まれた麒麟からは、目が離せなくなるような不思議な力があった。
「話をしたかったのは……この刺青のことです。この通り、俺は実は極道の人間です。それも大組織の幹部。それでも俺にあなたの半年をくれますか?
……改めて聞かせてください。先程は混乱していたでしょうし」
極道、というと一般的に言う所謂暴力団組織。
でも、名前には不思議なくらい迷いはなかった。
なんだかトントン拍子でここまで来てしまったが、あまり感情が外に出るタイプではないと思っていた峯は、案外感情が複雑に表現されている人であると気づいた。
そんな些細な感情を読み取れた時は少し嬉しい。
功績から見えてくる血のにじむような努力と、流れるような気遣いの奥にある、彼の本当の姿をもっと見てみたいと思った。
__それに、時折見せる切なげな表情がこちらの心を掴んでやまなかった。
「峯さんは、峯さんですから。私は気にしません。むしろ私なんかの人生を任せていいのかどうか……。
もしよろしいのであれば、こちらこそ改めて、よろしくお願いします」
素直な気持ちを口にする。
「……良かった、本当に。あと、俺のことは義孝でいいです」
やはり、峯が笑うのはレアだ。
「義孝さん……っですね、わかりました。私のことも名前と呼んでください」
「わかりました、……名前」
耳元でそう言われて心臓が飛び跳ねるのがわかった。
そのままするりと腰に手を回され、気づいた時には唇を奪われていた。
角度を変えて何度もされているうちに、苦しくなって足元がふらつく。
そんな自分抱き上げて、峯はベットに優しく寝かせてくれた。
自分の人生、どうにかならなかったものかと思っていた昨日。
だけどこれは神様が下さった最初で最期の幸福なのではないかと思いながら、その夜はそのまま2人溶け合った。
どうやらホテルになっているようで、案内された部屋は一段と見晴らしの良いものだった。
「こんな素敵な部屋……初めてです」
「ここからの眺めが好きで。貴方を貰うならここが良いと思ったんです」
「峯さんには、やっぱりなんだか叶わない気がします」
「そうですか?」
そんな会話もそこそこに、緊張してしまって座ることを促された椅子から身動きができないでいた。
峯はというと、水をついでくれている。
本来はお酒でも嗜みたい空間であるが、病気である手前飲酒は禁物だった。
さらりとそれらを配慮してくれる峯。
その水で緊張で乾ききった口内を潤しながら、お互いの話をした。
話を聞くと、驚くことにこの部屋、というかこのビルごと峯のものらしい。
「大変な努力を積まれたんですね」
不意に出た言葉。
だが峯は少し硬直して、眉間に皺をよせた。
不味いことを言ってしまっただろうかと思ったけれど、その口元は微かに笑っていて。
「そう言っていただけるのは、嬉しいです」
初めてみたその切なげな表情に、ドキリとするのがわかった。
____
余命半年。
今日食事をしたその女は突然にそう告げたのだった。
その時、何か峯の中で何とも言い難い感情が弾けた気がした。
同情とかそういう類ではなくて、独占欲、と言えばいいのだろうか。
初めて出会った時から感じた儚さはまさに現実であって、今目を離したらすぐにでも泡のように消えてしまいそうなその人。
好奇心とも言うべきだろうか、そんな不思議な感情が湧いてきた。
彼女のその残り半年を自分が握ることが出来たら。
自分のずっと求めていた〝上辺だけじゃない関係〟に近ずけるのではないかと。
そんなことを思いながら夜の誘いをした。
彼女はだいぶ混乱していたようだったが、受け入れてくれた。
まあいい歳をした男女が、食事後そのまま……なんてのはよくある話ではあるのだが。
それから不思議に彼女に惹かれてしまったのは、やはり今までの人間とは少し異なるからなのかもしれない。
話をしているときに時折感じる、どこか物事を達観するような視点は彼女の残り時間から来ているのだろうか。
〝努力を積まれたんですね〟
その言葉がやけに胸をざわつかせた。
今まで実績やら見てくれやらを褒めてきた輩はごまんといた。
しかし、それまでの過程を褒めてきた人物は初めてだった。
自分は誰よりも金のために貪欲に、ただひたすら努力を積み重ねてきた。
それがようやく、認められたような気がしたのだった。
_____
会話もそれなりに弾み、緊張も解れてきた頃。
シャワーを先にすませた名前はひとり、部屋でシャワー中の峯を待つ。
シャワーを浴びてもスッキリするどころか、これからの事がいやでも想像されて、悶々とするばかり。
しかし、こんなこともきっと最後の最期だろうからと思えば、なんだかなんでも出来るような気さえもしてくる。
それにしたって、やはりこれは現実なのかとグルグル考えてしまっていると、
ガチャリ、ドアをあける音。
ついに峯も浴室から出てきたようだった。
その峯の姿を見て、名前は思わず息を飲んでしまった。
髪は先程よりラフになり、前髪が垂れて幼さが少しでた。
なのにそれに反して、スーツに隠されていた鍛え上げられた上半身が顕になっている。
かなりがっしりしているなとは思っていたものの、
ここまでとは……。
「苗字さん、ひとつお話があります」
「は、はい!」
見とれていて少し反応が遅れてしまった。
すると、くるりと峯が後ろをむく。
それをみればそこには、背中いっぱいに隆々と刻み込まれた麒麟がいた。
「……っ、綺麗……」
初めて見たそれは、所謂刺青というやつ。
「綺麗、ですか。はは、あんたらしいですね」
面白いというように笑う峯。
姿も話し方も先程までとは少し違っていて、ますますクラクラしてしまいそうだった。
「初めて刺青を見たのでびっくりもしましたけど……ここまで見事なものを目にするのも初めてです。
まるで生きてるみたいですね、この麒麟」
逞しく駆けあがっていくような背中に刻まれた麒麟からは、目が離せなくなるような不思議な力があった。
「話をしたかったのは……この刺青のことです。この通り、俺は実は極道の人間です。それも大組織の幹部。それでも俺にあなたの半年をくれますか?
……改めて聞かせてください。先程は混乱していたでしょうし」
極道、というと一般的に言う所謂暴力団組織。
でも、名前には不思議なくらい迷いはなかった。
なんだかトントン拍子でここまで来てしまったが、あまり感情が外に出るタイプではないと思っていた峯は、案外感情が複雑に表現されている人であると気づいた。
そんな些細な感情を読み取れた時は少し嬉しい。
功績から見えてくる血のにじむような努力と、流れるような気遣いの奥にある、彼の本当の姿をもっと見てみたいと思った。
__それに、時折見せる切なげな表情がこちらの心を掴んでやまなかった。
「峯さんは、峯さんですから。私は気にしません。むしろ私なんかの人生を任せていいのかどうか……。
もしよろしいのであれば、こちらこそ改めて、よろしくお願いします」
素直な気持ちを口にする。
「……良かった、本当に。あと、俺のことは義孝でいいです」
やはり、峯が笑うのはレアだ。
「義孝さん……っですね、わかりました。私のことも名前と呼んでください」
「わかりました、……名前」
耳元でそう言われて心臓が飛び跳ねるのがわかった。
そのままするりと腰に手を回され、気づいた時には唇を奪われていた。
角度を変えて何度もされているうちに、苦しくなって足元がふらつく。
そんな自分抱き上げて、峯はベットに優しく寝かせてくれた。
自分の人生、どうにかならなかったものかと思っていた昨日。
だけどこれは神様が下さった最初で最期の幸福なのではないかと思いながら、その夜はそのまま2人溶け合った。