タイムリミットは夜明けまで
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タクシーを降り、最後の希望を確かなものにするため、急いで病院の入口にむかう。
「確かここでぶつかって……」
必死に探すもののそのネックレスはなかった。
時折、病院に訪れた人々の視線が痛い。
落としたのはここではなかったと諦めを認めざるを得ないと感じた時。
「……どうなさったんですか」
ふと上から降り掛かってきた低い声。
パッと顔を上げてみれば、あの時の支えてくれた男性だった。
「あ、先程はどうも……えっと、もしかしたらあの時にネックレスを落としてしまったかもしれなくて……」
「ネックレスですか。受付には聞きましたか?」
「えっ、いや、まだです」
「もしかしたら誰かが届けているかもしれません、私が聞いてきましょう。
貴方は先程より顔色が悪くなっている。そこのベンチで座って待っていて下さい」
「あ、ありがとうございます……お願いします……」
やはり抑揚のないその声に少し圧倒されて言われるがまま、近くにあったベンチに腰を下ろすことになった。
座った途端に自分の疲労を強く感じる。
ネックレスを探すことに夢中になりすぎて気づかなかったものが、全て降り掛かってくる感覚だった。
それにしても、あの男性は今病院から出てきたのだろうか。
また再び病院に戻らせてしまって、申し訳ない気持ちになる。
そんなことを考えているとすぐに男性は戻ってきた。
「こちらでしょうか?」
「!!これです!!ありがとうございます!!」
私は思わずネックレスが握られているその手に、自分の手を重ねて喜んでしまった。
「良かった、それにしてもあれからずっとここで探していたんですか?」
冷静になり手を触れてしまったことに今更恥ずかしさを感じつつも、ネックレスが戻ってきたことに安堵して改めて男性を見やる。
こちらに気を使ってか、男性がベンチに腰掛けたので自分も隣に座る。
「いえ、一度帰宅してから気づいて……両親の形見だったので見つかって本当に良かったです」
「形見……ですか。お役に立てて何よりです」
「先程と言い、ネックレスと言い……なにかお礼ができればいいのですが……」
どうしたものかと考えあぐねる。
「……そうですね、ならご一緒に食事でもどうですか?」
「え?」
男性からの予想外の提案に、私は思わず聞き返してしまった。
「病院を出た時もなんだかうかない様子でしたし、そういう時は美味いものでも食べるのが良いかと思いまして。
だが今は体調の回復を優先して下さい、食事はまたの機会でも良いので」
そう言って彼は名刺を差し出した。
それを受け取って思わず驚く。
白峯会会長 峯義孝と書かれたその名刺。
まさか会長様だったとは。
その白峯会を知っているわけではないが、峯義孝さんと言うらしいその男性の身なりを見れば、相当な立場の方であると予想はついた。
「峯義孝さん、ですね。ご配慮までありがとうございます。
お食事、是非ご一緒させて下さい。体調も明日になったら回復すると思います」
食事を拒否する理由もないし、むしろそれでお礼ができるならと了承した。
「なら早速明日行きましょう。……名前をお伺いしても?」
自分が名乗っていないことに気づき、恥ずかしくなる。
「あ!すみません、私は苗字名前です。
今、名刺も携帯も持ち合わせていなくて……」
「苗字さんですね。ではお暇な時に名刺の番号にかけてください」
「わかりました……」
なんだかすっかり峯のペースだ。
「このあとはどうなさるんですか?」
「ネックレスも見つかったので、タクシー拾って帰宅しようと思います」
「あぁ、なら送りますよ」
「えっ、悪いですよ!」
「いえ、むしろこちらの無理を明日聞いてもらうんだ。送らせてください」
「なら……お願いします」
ここで断り続けるのも逆に失礼になるかもしれないと了承する。
案内された車は黄色の外車で、やはり自分とは住む世界が違う人なんだと感じた。
「どうぞ」
そう言って自然な動作でドアを開け、車に乗らせてくれるその行為に思わずドキリとする。
まるでエスコートされてるみたいだ。
こんなことをされるのは勿論初めてで、これはもしかして自分の人生に絶望した私がみている、都合のいい幸せな夢なのではないかと錯覚してしまう。
家までの道のりは実際ほんの数分程度なのだけれど、借りてきた猫のようにガチガチに緊張してしまっている自分には、その時間が長いのか短いのかすらわからない有様だった。
「ここです、ありがとうございました」
「じゃあ明日もここに迎えに来ます。それではまた」
「はい、また」
あぁ、明日のことも考えて送ってきて下さったのかと、改めて何もかもが完璧に思えてしまう峯には頭が上がらない。
小さなアパートの前に止まる黄色の外車は、やはりどこか不思議なもので。
どこか現実味を帯びないその車が見えなくなるまで、その場から見送った。
「確かここでぶつかって……」
必死に探すもののそのネックレスはなかった。
時折、病院に訪れた人々の視線が痛い。
落としたのはここではなかったと諦めを認めざるを得ないと感じた時。
「……どうなさったんですか」
ふと上から降り掛かってきた低い声。
パッと顔を上げてみれば、あの時の支えてくれた男性だった。
「あ、先程はどうも……えっと、もしかしたらあの時にネックレスを落としてしまったかもしれなくて……」
「ネックレスですか。受付には聞きましたか?」
「えっ、いや、まだです」
「もしかしたら誰かが届けているかもしれません、私が聞いてきましょう。
貴方は先程より顔色が悪くなっている。そこのベンチで座って待っていて下さい」
「あ、ありがとうございます……お願いします……」
やはり抑揚のないその声に少し圧倒されて言われるがまま、近くにあったベンチに腰を下ろすことになった。
座った途端に自分の疲労を強く感じる。
ネックレスを探すことに夢中になりすぎて気づかなかったものが、全て降り掛かってくる感覚だった。
それにしても、あの男性は今病院から出てきたのだろうか。
また再び病院に戻らせてしまって、申し訳ない気持ちになる。
そんなことを考えているとすぐに男性は戻ってきた。
「こちらでしょうか?」
「!!これです!!ありがとうございます!!」
私は思わずネックレスが握られているその手に、自分の手を重ねて喜んでしまった。
「良かった、それにしてもあれからずっとここで探していたんですか?」
冷静になり手を触れてしまったことに今更恥ずかしさを感じつつも、ネックレスが戻ってきたことに安堵して改めて男性を見やる。
こちらに気を使ってか、男性がベンチに腰掛けたので自分も隣に座る。
「いえ、一度帰宅してから気づいて……両親の形見だったので見つかって本当に良かったです」
「形見……ですか。お役に立てて何よりです」
「先程と言い、ネックレスと言い……なにかお礼ができればいいのですが……」
どうしたものかと考えあぐねる。
「……そうですね、ならご一緒に食事でもどうですか?」
「え?」
男性からの予想外の提案に、私は思わず聞き返してしまった。
「病院を出た時もなんだかうかない様子でしたし、そういう時は美味いものでも食べるのが良いかと思いまして。
だが今は体調の回復を優先して下さい、食事はまたの機会でも良いので」
そう言って彼は名刺を差し出した。
それを受け取って思わず驚く。
白峯会会長 峯義孝と書かれたその名刺。
まさか会長様だったとは。
その白峯会を知っているわけではないが、峯義孝さんと言うらしいその男性の身なりを見れば、相当な立場の方であると予想はついた。
「峯義孝さん、ですね。ご配慮までありがとうございます。
お食事、是非ご一緒させて下さい。体調も明日になったら回復すると思います」
食事を拒否する理由もないし、むしろそれでお礼ができるならと了承した。
「なら早速明日行きましょう。……名前をお伺いしても?」
自分が名乗っていないことに気づき、恥ずかしくなる。
「あ!すみません、私は苗字名前です。
今、名刺も携帯も持ち合わせていなくて……」
「苗字さんですね。ではお暇な時に名刺の番号にかけてください」
「わかりました……」
なんだかすっかり峯のペースだ。
「このあとはどうなさるんですか?」
「ネックレスも見つかったので、タクシー拾って帰宅しようと思います」
「あぁ、なら送りますよ」
「えっ、悪いですよ!」
「いえ、むしろこちらの無理を明日聞いてもらうんだ。送らせてください」
「なら……お願いします」
ここで断り続けるのも逆に失礼になるかもしれないと了承する。
案内された車は黄色の外車で、やはり自分とは住む世界が違う人なんだと感じた。
「どうぞ」
そう言って自然な動作でドアを開け、車に乗らせてくれるその行為に思わずドキリとする。
まるでエスコートされてるみたいだ。
こんなことをされるのは勿論初めてで、これはもしかして自分の人生に絶望した私がみている、都合のいい幸せな夢なのではないかと錯覚してしまう。
家までの道のりは実際ほんの数分程度なのだけれど、借りてきた猫のようにガチガチに緊張してしまっている自分には、その時間が長いのか短いのかすらわからない有様だった。
「ここです、ありがとうございました」
「じゃあ明日もここに迎えに来ます。それではまた」
「はい、また」
あぁ、明日のことも考えて送ってきて下さったのかと、改めて何もかもが完璧に思えてしまう峯には頭が上がらない。
小さなアパートの前に止まる黄色の外車は、やはりどこか不思議なもので。
どこか現実味を帯びないその車が見えなくなるまで、その場から見送った。