日常シーン10題
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「いらっしゃいませ!あ、柏木さん!」
ガラリと開いたドアの方を見れば、この店の常連、柏木の姿があった。
その姿に、胸を高鳴らせているのはこの店で長らくアルバイトをしている、名前。
「おう、名前。こんな時間にすまねぇな。まだやってるか?」
「冷麺の具材ならありますよ!ね、店長?」
「こらこら、柏木さんが冷麺とは限らないだろ?」
少しおどけながら話すこの店の店長の口振りからも、柏木がこの店にかなり通いつめていることが分かる。
「冷麺を食いに来たんだ、期待通りだよ」
柏木も穏やかな表情だ。
「ほら!なら大丈夫です。座ってください」
そう言って名前は柏木に座るよう促した。
トントントンと子気味良い包丁の音が響く店内。
「最近この辺で痴漢がでてるって話、知ってるかい?柏木さん」
店長が冷麺を作りながらおもむろにそう尋ねた。
「ああ、サツも警戒してるようだが最近は余計に活発になってるみてぇだな」
「そうなんだよ……なあ柏木さん、1つ頼まれちゃくれねえかい?」
「痴漢を捕まえろとでも?」
「いや、名前ちゃんを送っていってほしいだけだ。今日のお代はチャラでいいからよ」
「え?私をですか?」
横で聞いていた名前は突然会話の中心が自分になり、目を丸くして驚いてしまった。
「確かにこの時間は危ねぇな。ここの店には世話になってるし、わかった。引き受けよう」
「ありがとう!柏木さん!」
店長はホッとした様子だったが、名前は混乱していた。
なぜなら、柏木修はひっそりと名前が想い続けてきた想い人であるからだ。
当然、唐突に好きな人と二人きりイベントが発生してしまえば大いに困惑もするというもの。
「いや~、ほんと今日は急用で真っ先に帰らなくちゃいけなかったんで助かります」
などと笑顔で話す店長に心の中で、オイオイとツッコミを入れながら名前はどうしたものかと考え込む。
「私は大丈夫ですよ!痴漢も私なんて狙わないと思いますし……!!」
営業スマイルを張り付けた言い訳は明らかに不自然だ。
「狙われないことに越したことはないがな。私なんてって言い方はよくねえぞ」
「それはそうなんですけど、何と言いますか……えっと、やっぱり柏木さんに悪いんで大丈夫ですよ!!」
「……そんなに俺に送られるのが嫌か?」
気まずそうに聞いてくる柏木に、名前はどうすることもできない。
「嫌とかそういうんじゃないんです!!ほら、柏木さん忙しそうにしていらっしゃるから……」
「そんな心配ならするな。それに今日はひと仕事終えたからこうしてここに来たんだ」
「それなら……お願いします……」
ここまで言われてしまったら、断る方が野暮だと送って貰うことにした。
「店長、お先に失礼します。お疲れ様でした!」
「名前のことはしっかり送り届けるからな。今日も美味い冷麺だった」
「おうよ!おつかれ!またよろしくな~」
店長と別れ、店の外に出る。
風がひやりと頬を撫でる。
空は曇りがかっていて、路地裏はいつもより暗く感じた。
痴漢のこともあり、いつもより不気味に感じる。
柏木がいてくれて良かったとなんだかんだ安堵する。
「柏木さん、それではお世話になりますね!」
「あぁ、流石に俺といて襲われることは無いだろうから安心していいぞ」
「ふふっ、頼もしいですね」
そんな会話をしながらも、歩いていく。
ネオンが輝き眩しい通り。
逆にその影となるように冷たい空気を放つ路地裏。
いつも通りの帰路だが、今日は全く別物に感じた。
少し緊張しながら隣を見ることも出来なくて、自分の足元ばかり見て歩く。
ふと隣の足がピタリと止まる。
「柏木さん?」
「あ、いや。もしかして……名前、彼氏がいたりするか……?」
彼の口から放たれた言葉が予想外すぎて名前は一瞬固まってしまった。
「えっ……?!いやいやいや!いませんよ!!」
「あぁ、そうか……いやな、もし彼氏がいたらこんな時間に俺と一緒に歩いてちゃ不味いかと思ってな。だから先程店で渋っていたのかと……」
「いえいえ!彼氏なんていません……!それに先程渋っていたのは本当に柏木さんの迷惑になりたくなくて……」
「そうか、ははっ。やはり名前は優しいな」
「いえ、そんな……!」
柏木が優しく微笑むものだから、
その珍しい光景に名前は脳内に必死に納めようとするのだった。
「……それに、俺と名前が一緒にいても親子だと思われるか……」
俺もかなりのおっさんだからなと
少し自嘲気味に笑う柏木に名前は、
なんとも言えない感情で満たされる。
「そ、そんなことないですっ!……私は……確かにお子様かもしれませんけど……柏木さんはカッコよくて!素敵な…………!!」
勢いでそこまで言いかけてハッとする。
「素敵な……?」
柏木も驚いた様子でこちらを見ている。
「えっあっ、いや、今のはえっと……その……」
自分の顔はきっと真っ赤だろうと名前は顔を背ける。
「……まあなんだ、褒められて嫌な気はしないな」
柏木もそんな様子を見てまたゆっくり歩き始める。
暗い路地の街灯1つがそんな背中をうっすらと照らす。
その大きな背中は頼もしいけれど、どこか儚く消えてしまいそうでもある。
……それは彼が極道だからか。
そんなことが頭を過り、
今にも暗闇に溶けてしまいそうな背中に意を決して声をかける。
「柏木さんっ!」
柏木は再び足を止め、こちらを振り返る。
「わ、私……柏木さんのことが……す、」
そこまで言いかけた時、
ブツンという音ともに、光がなくなった。
「えっ?」
突然暗闇になったことで混乱するも、
どうやら街灯が壊れてしまっただけみたいだ。
……なんてタイミングなんだと項垂れる。
「……名前」
「は、はいっ」
柏木の声が聞こえる。だが、暗いせいで彼の表情は全くわからない。
少し目が慣れて、どこに彼がいるのかだけがわかるが、どんどん近づいてきており、名前は固まることしか出来ない。
……言いかけだったけれど、気づかれてしまったかな、私の気持ち。
そんなことを思っていると、
いつのまにか彼に抱きしめられていた。
「柏木、さん?」
「まさか先を越されそうになるとは思わなかったな」
「それってどういう……」
名前は言いかけてその言葉を飲み込んだ。
頬に、柔らかい感触を感じる。
それがキスをされているとわかったのは
ちょうど雲から月が顔を出し、
うっすらとあたりを照らした時だった。
「……こういうことだ」
すると消えていた電灯が点滅して、
再び明かりが灯る。
折角暗闇でお互いの表情が見えず、照れ隠しができていたのにそれができなくなり、2人は無意識に視線を逸らそうとした。
だが、吸い込まれるように見つめあった視線は動かせない。
「柏木さん……」
まだ柏木のんびり暮らしてる唇の余韻が熱く残っている頬に触れて今起きたことを整理しようとする。
まさか柏木も自分を好いていてくれているとは夢にも思わなかった。
その嬉しさと驚きで泣いてしまいそうだった。
そしてキスをされたのがいじらしくも頬だということと、普段顔色を変えない柏木の顔が少し赤らめらていることに気づき、名前には愛しいという気持ちがたまらず湧いてきた。
そしてその想いを伝えるべく、
今度は名前から柏木の唇へと自分を重ねた。
「ん……ふふっ、お返しです」
照れ隠しにそう言ってみせる。
柏木は思いもよらない名前の行動に身を固まらせている。
「やっぱりお前はとんでもないヤツだな」
そう笑いながら柏木は名前の頭を乱暴に撫でた。
そして再び歩き始める。
「あーっ!柏木さん、それどういう意味ですか~っ」
そう言いながら柏木の後を少し駆け足で追う。
そんなふたりの行く道を、壊れた電灯と満月が美しく照らしていたのだった。
ガラリと開いたドアの方を見れば、この店の常連、柏木の姿があった。
その姿に、胸を高鳴らせているのはこの店で長らくアルバイトをしている、名前。
「おう、名前。こんな時間にすまねぇな。まだやってるか?」
「冷麺の具材ならありますよ!ね、店長?」
「こらこら、柏木さんが冷麺とは限らないだろ?」
少しおどけながら話すこの店の店長の口振りからも、柏木がこの店にかなり通いつめていることが分かる。
「冷麺を食いに来たんだ、期待通りだよ」
柏木も穏やかな表情だ。
「ほら!なら大丈夫です。座ってください」
そう言って名前は柏木に座るよう促した。
トントントンと子気味良い包丁の音が響く店内。
「最近この辺で痴漢がでてるって話、知ってるかい?柏木さん」
店長が冷麺を作りながらおもむろにそう尋ねた。
「ああ、サツも警戒してるようだが最近は余計に活発になってるみてぇだな」
「そうなんだよ……なあ柏木さん、1つ頼まれちゃくれねえかい?」
「痴漢を捕まえろとでも?」
「いや、名前ちゃんを送っていってほしいだけだ。今日のお代はチャラでいいからよ」
「え?私をですか?」
横で聞いていた名前は突然会話の中心が自分になり、目を丸くして驚いてしまった。
「確かにこの時間は危ねぇな。ここの店には世話になってるし、わかった。引き受けよう」
「ありがとう!柏木さん!」
店長はホッとした様子だったが、名前は混乱していた。
なぜなら、柏木修はひっそりと名前が想い続けてきた想い人であるからだ。
当然、唐突に好きな人と二人きりイベントが発生してしまえば大いに困惑もするというもの。
「いや~、ほんと今日は急用で真っ先に帰らなくちゃいけなかったんで助かります」
などと笑顔で話す店長に心の中で、オイオイとツッコミを入れながら名前はどうしたものかと考え込む。
「私は大丈夫ですよ!痴漢も私なんて狙わないと思いますし……!!」
営業スマイルを張り付けた言い訳は明らかに不自然だ。
「狙われないことに越したことはないがな。私なんてって言い方はよくねえぞ」
「それはそうなんですけど、何と言いますか……えっと、やっぱり柏木さんに悪いんで大丈夫ですよ!!」
「……そんなに俺に送られるのが嫌か?」
気まずそうに聞いてくる柏木に、名前はどうすることもできない。
「嫌とかそういうんじゃないんです!!ほら、柏木さん忙しそうにしていらっしゃるから……」
「そんな心配ならするな。それに今日はひと仕事終えたからこうしてここに来たんだ」
「それなら……お願いします……」
ここまで言われてしまったら、断る方が野暮だと送って貰うことにした。
「店長、お先に失礼します。お疲れ様でした!」
「名前のことはしっかり送り届けるからな。今日も美味い冷麺だった」
「おうよ!おつかれ!またよろしくな~」
店長と別れ、店の外に出る。
風がひやりと頬を撫でる。
空は曇りがかっていて、路地裏はいつもより暗く感じた。
痴漢のこともあり、いつもより不気味に感じる。
柏木がいてくれて良かったとなんだかんだ安堵する。
「柏木さん、それではお世話になりますね!」
「あぁ、流石に俺といて襲われることは無いだろうから安心していいぞ」
「ふふっ、頼もしいですね」
そんな会話をしながらも、歩いていく。
ネオンが輝き眩しい通り。
逆にその影となるように冷たい空気を放つ路地裏。
いつも通りの帰路だが、今日は全く別物に感じた。
少し緊張しながら隣を見ることも出来なくて、自分の足元ばかり見て歩く。
ふと隣の足がピタリと止まる。
「柏木さん?」
「あ、いや。もしかして……名前、彼氏がいたりするか……?」
彼の口から放たれた言葉が予想外すぎて名前は一瞬固まってしまった。
「えっ……?!いやいやいや!いませんよ!!」
「あぁ、そうか……いやな、もし彼氏がいたらこんな時間に俺と一緒に歩いてちゃ不味いかと思ってな。だから先程店で渋っていたのかと……」
「いえいえ!彼氏なんていません……!それに先程渋っていたのは本当に柏木さんの迷惑になりたくなくて……」
「そうか、ははっ。やはり名前は優しいな」
「いえ、そんな……!」
柏木が優しく微笑むものだから、
その珍しい光景に名前は脳内に必死に納めようとするのだった。
「……それに、俺と名前が一緒にいても親子だと思われるか……」
俺もかなりのおっさんだからなと
少し自嘲気味に笑う柏木に名前は、
なんとも言えない感情で満たされる。
「そ、そんなことないですっ!……私は……確かにお子様かもしれませんけど……柏木さんはカッコよくて!素敵な…………!!」
勢いでそこまで言いかけてハッとする。
「素敵な……?」
柏木も驚いた様子でこちらを見ている。
「えっあっ、いや、今のはえっと……その……」
自分の顔はきっと真っ赤だろうと名前は顔を背ける。
「……まあなんだ、褒められて嫌な気はしないな」
柏木もそんな様子を見てまたゆっくり歩き始める。
暗い路地の街灯1つがそんな背中をうっすらと照らす。
その大きな背中は頼もしいけれど、どこか儚く消えてしまいそうでもある。
……それは彼が極道だからか。
そんなことが頭を過り、
今にも暗闇に溶けてしまいそうな背中に意を決して声をかける。
「柏木さんっ!」
柏木は再び足を止め、こちらを振り返る。
「わ、私……柏木さんのことが……す、」
そこまで言いかけた時、
ブツンという音ともに、光がなくなった。
「えっ?」
突然暗闇になったことで混乱するも、
どうやら街灯が壊れてしまっただけみたいだ。
……なんてタイミングなんだと項垂れる。
「……名前」
「は、はいっ」
柏木の声が聞こえる。だが、暗いせいで彼の表情は全くわからない。
少し目が慣れて、どこに彼がいるのかだけがわかるが、どんどん近づいてきており、名前は固まることしか出来ない。
……言いかけだったけれど、気づかれてしまったかな、私の気持ち。
そんなことを思っていると、
いつのまにか彼に抱きしめられていた。
「柏木、さん?」
「まさか先を越されそうになるとは思わなかったな」
「それってどういう……」
名前は言いかけてその言葉を飲み込んだ。
頬に、柔らかい感触を感じる。
それがキスをされているとわかったのは
ちょうど雲から月が顔を出し、
うっすらとあたりを照らした時だった。
「……こういうことだ」
すると消えていた電灯が点滅して、
再び明かりが灯る。
折角暗闇でお互いの表情が見えず、照れ隠しができていたのにそれができなくなり、2人は無意識に視線を逸らそうとした。
だが、吸い込まれるように見つめあった視線は動かせない。
「柏木さん……」
まだ柏木のんびり暮らしてる唇の余韻が熱く残っている頬に触れて今起きたことを整理しようとする。
まさか柏木も自分を好いていてくれているとは夢にも思わなかった。
その嬉しさと驚きで泣いてしまいそうだった。
そしてキスをされたのがいじらしくも頬だということと、普段顔色を変えない柏木の顔が少し赤らめらていることに気づき、名前には愛しいという気持ちがたまらず湧いてきた。
そしてその想いを伝えるべく、
今度は名前から柏木の唇へと自分を重ねた。
「ん……ふふっ、お返しです」
照れ隠しにそう言ってみせる。
柏木は思いもよらない名前の行動に身を固まらせている。
「やっぱりお前はとんでもないヤツだな」
そう笑いながら柏木は名前の頭を乱暴に撫でた。
そして再び歩き始める。
「あーっ!柏木さん、それどういう意味ですか~っ」
そう言いながら柏木の後を少し駆け足で追う。
そんなふたりの行く道を、壊れた電灯と満月が美しく照らしていたのだった。
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