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第一章 眼を眩ますは浅葱色

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それから名前はあっという間に何人もの顔を描いて見せた。



自分の両親をはじめ、東城会の幹部や関わりのある人間は念のため一通り描いた。





「右から順に桐生一馬、澤村遥、伊達真、錦山彰、風間新太郎、柏木修__……
__

それから__……他にも……




最後に__堂島大吾」




部屋はほとんど自分が描いた似顔絵で埋め尽くされてしまっていた。

しかし、少しでも手がかりを探すにはこれしかない。







「これは……」



土方は驚いたように、丁度柏木が描かれている紙を拾い上げる。


「源さん、やな……」



沖田もそれをのぞき込んで呟く。





「!柏木さんもいるんですか!?」



まさかの反応に思わず食いつく。





柏木修は死んだ。


組事務所にいた所をヘリで襲撃され、蜂の巣に……思い出したくもないが、そう報告を受け絶望したあの日を克明に覚えている。


柏木も東城会の古参組として昔から付き合いがあった。


再びそんな柏木(のそっくりさんだろうけど)に会えるかもしれないと思うと、涙が出そうになった。


__大吾にも、会わせてやれたら良かったのに。



あの柏木さんがいるとなれば、それだけで安心感は計り知れない。





「お前、本当に新選組を知らずにこれを描いているんだな?」



土方は一層疑るように声を低める。



「だからそうだって言ってるじゃないですか!ってことは柏木さんも新選組なんですか?」





「その柏木と呼んでる男はおそらくこちらの世界では井上源三郎__間違いねえ、コイツは本物だぜ、歳」




近藤は他の2人と違って、疑るというよりもむしろこちらを信じ、興味深々と言った様子だった。



笑みを湛えながら近藤が拾い上げた紙を見れば、それは大吾の顔を描いたものだ。





「__この顔は、15代目徳川将軍、徳川慶喜の顔だ」




「なっ……!」



近藤の発言に土方は大きく衝撃を受けている。




「と、徳川慶喜ってあの幕府の将軍の!?」




歴史でも大きなターニングポイントに位置していた記憶がある将軍の名前。



確か、“大政奉還”ってヤツを行った重要な人だ。


まさか大吾がそんな人になっているとは。






「なんや嬢ちゃん、まるで占い師みたいやのう……」




未だに柏木の顔に釘付けになっている沖田。





「沖田さんの私の時代での顔も描けますよ」




筆を持ち直し、流れるように筆を走らせればあっという間に真島の顔を描くことが出来た。





「これが……ワシ……」




「それほど今と変わりないな」




「土方さんが一番変わってないですよ。__本当にそのまんまなんですから」





「はっはっは、面白えじゃねえか。お嬢さん、名前は名前と言ったか?

どうだ、この新選組で世話係としてしばらく生活するってのは」



肩に手をおいてそう問いかけてきた近藤の眼差しは、底なし沼のように思考が読めない。

しかし、この提案への答えは決まっていた。




「お願いします。ここで働かせてください!」




「局長、本当にいいんですか。コイツを野放し同然にしてしまって」



土方はどうも気に入らないらしく、腕を組みながら眉間にしわを寄せている。




「こいつが嘘をついている、またはつけるように見えるか?

仮にそうだったとして、それで生じる徳があるってんなら俺はそれが知りたい。

丁度いいじゃねえか。コイツは元の世界に戻る手段を探すことが出来て、俺たちは名前から俺たちの知らない世界の話を聞くことが出来る」




近藤の堂々たる切り返しに、流石の土方も反論することはやめたらしい。


改めて、この近藤という男の底なしの器の大きさを感じた。





「折角だ。新選組のお世話係兼歳の補佐役になってくれねえか。局長は俺だが不在なことが多くてな。ほとんどの仕事を歳に任せちまってるんだ」




「近藤さん、補佐係など結構だ」



「歳、これは命令だ。……と、言いつつもわかるだろ?これは名前が誰よりも信頼出来る男の監視下に置かれることにも繋がるんだ」




ニッコリと含んだ笑顔でそう言われ、土方も満更ではないらしく、そういう事ならと承諾してしまった。




あくまで“監視対象である”と釘を刺されたことで、見知った顔が並ぶ状況下であれ自分は部外者なのだと痛感する。




なんだか急に不安になって、ぶるりと身体が震え、なんだか鼻がむずがゆく……




「ぶぇっっくしょんっ!!!」




見事なまでの盛大なくしゃみをかましてしまった。




「……水浸しのまま放置してすまなかったな。すぐに着替えろ」




空気感ぶち壊しの一手を決められ呆れ顔の土方だったが、ぶっきらぼうな話し方や表情の後ろに感じる優しさに峯を思い出してしまう。




「あの、何に着替えれば……?」



「とりあえずその妙な服はこれから着るな。こちらが準備したものを着てもらう」





“妙な服”なんて散々な言われようだが、確かに着物しかないこの時代にこの洋装は奇異の眼差しを受けることは間違いないだろう。




「じゃあ名前。これからは新選組世話係としてよろしく頼むぜ」



近藤に握手を求められ、その手を恐る恐る握り返す。







この瞬間から、ついに名前の新選組としての生活が幕を開けたのだった。
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