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春が来て、学年がまた一つ上がった。


クラスも変わり、真新しい面子の中で決められた学級委員長。


男女1人ずつ選出しろとの指示で、自分と峯義孝という男子が選ばれた。


自分は周りの推薦もあって決定したものの、成績優秀なことで噂にきく峯義孝は、自ら学級委員長を務めたいと名乗り出たのだった。






「よろしくお願いします。苗字さん」




初めて会話をした時、低い声でそう告げる彼は微笑みを湛えていたけれど、何故か冷たい印象を抱いたのを覚えている。





それから彼と仕事をして感じたことは、彼は効率の良さと結果だけを重視するタイプであるということである。


何かクラスで決めるようなことがあっても、クラス全員の意見をきくというよりは、いかに効率的に進めるかに重きを置いて判断を下す。

一方自分は正反対に、多少のつまずきはあれど皆の意見を大事にしながら進めていきたいタイプだった。




当然、お互いの意見は合わず、ことあるごとにギクシャクした雰囲気になてしまう。



夏が来て、蝉の鳴き声が耳にこびり付くようになってもそれは変わらなかった。




「お、峯と苗字じゃないか。この仕事頼めるか?」



「げ。……わかりました」


「おい苗字、聞こえてるからなその反応」


「なんでもないですよ~柏木先生!よろこんで引き受けます!」



放課後、学年の打ち合わせ帰りに峯と二人で歩いていたところ、担任の柏木修につかまってしまった。


柏木は担任として人徳ある個人的にも好きな先生だが、やることはきっちりこなす人なので仕事の割り振りもそれなりにしっかりしたものなのだ。

___まあつまりは押し付けられる仕事量はガッツリあるというわけで。




「よし。じゃあ苗字と峯、頼むぞ」


「わかりました」



隣の峯は涼しい顔をしてえげつない量の資料を柏木から預かっている。




教室は既に誰もおらず、ガラガラと扉の音だけが響いた。





「凄い量だね、これ」



「俺が仕分けをしますから、苗字さんは記入をお願いします」




淡々と作業に取り掛かる峯の容量の良さは、こういうときばかりは本当に頼りになる。


効率の良さと結果ばかりを重視する峯だが、結局はそれが最適解なことも多い。

なんだかんだと、人の意見に左右されがちな自分にはないものを持っている峯を内心羨む場面もあるのだ。





それからすべての仕事が終わったのは、日が落ちてからのことだった。


自分も峯も、作業は黙々と行う派であるため必要最低限の会話を除いては静かに時は流れる。


二人きりの沈黙で気をつかわなくていいのは実に楽だと思う反面、自分でも学生というよりまるで仕事に追われたサラリーマンのようだと苦笑いした。



学校を出なくてはいけない時間も迫り、凝り固まった背筋を伸ばしながらも昇降口に急ぐ。





「うわ、雨降ってきちゃった」


上履きを脱ぎながら外を見れば、ぽつりぽつりと地面が濡れ始め、あっという間にバケツをひっくり返したような雨になってしまった。




隣の峯を見れば、スマートに折り畳み傘を取り出している。




「帰らないんですか?」


下足に履き替えたまま立ち尽くしているこちらを不思議そうに峯が見る。




「傘、もってなくて……」



その言葉を聞くと、峯は深くため息を漏らした。



「この時期傘を持ち歩かないのはどうかと思いますが」



「だ、だって傘はこの間の雨で濡れちゃったから干してるし、天気予報だって今日はずっと晴れの予報だったし……」



必死に弁明するもただの言い訳にすぎず、最後の方はかなり小声になってしまった。

どんどん眉間にしわを寄せられてしまっては、言い訳するのもいたたまれない。




「この傘、使って下さい」


「え?」



差し出されたのは、峯のシックな折り畳み傘。


思わぬ紳士な行動にぱちくりと目を瞬かせてしまう。




「アンタに風邪をひかれても面倒だ」



不服そうにそう告げる峯からは、どこかいつもの冷たさとは異なるものを感じた気がしてドキリとした。





「あ、ありがとう……ってちょっと峯くん!?」



素直に傘を受け取ると、それではと告げて雨の中昇降口から飛び出そうとする峯を必死で止めた。




「峯くん傘ささずに帰ろうとしてるの!?」


「傘はそれだけですから」


「一緒に帰ろうよ!」


「貴方とは家が逆方向でしょう」


「た、確かに……」



絶望したこちらの顔を見てか、心なしか峯が微笑んだように思う。



「俺はそんなにヤワじゃないので大丈夫ですよ」



「大丈夫じゃない!この土砂降りだよ!?自分の身体を大切に!ってことでじゃあね!!」



そう言って勢いのまま峯に傘を押し付けるように返し、意を決して傘なしで飛び出す。




「本当にアンタは馬鹿ですね」



「バカぁ!?」



唐突な罵倒に思わず振り返ると、少しだけ濡れた自分の頭上に傘がさされる。




「毎回効率的でないと言っているでしょう」



所謂相合傘というやつに、ドギマギしてしまう。



「それとこれとは話が違う……っていうか、峯くん濡れてる!」



大きな傘と言えど、ガタイの良い峯と自分が折り畳み傘に入るのは少し窮屈だ。

それにも関わらず、峯は自分の肩が濡れてしまうのを気にせずこちらに大きく傘を差し出してくれていた。




「そう思うならもっと近づいてください」



そんな言い方をされてしまっては、近くによるしかない。

慣れない状況に緊張しながらも、できるだけ峯に近づいた。


普段二人で仕事をすることが多いため、二人で並ぶことは多いがこの距離間で並ぶのは初めてだ。


普段とたった数十センチ違うだけなのに、心拍数は何倍にも増えている。





「峯くんって、優しいんだね」



「能天気な人だ」



なんだか、今の峯にどんな言葉を言われても暖かい気持ちでいることができる気がした。


それは、なかなか見つけ出すのが難しい不器用な彼の優しさを見つけてしまったからだ。



「ふふ、峯くんってわかりにくいね」



「わかっていただこうとは思いませんので」



何を言っているのかよくわからないといった様子で眉間にしわを寄せる峯。

効率と結果だけを求める峯だが、やはりきっとそれが彼なりの“全体を想った結果”だったのであろうと思う。




「峯くんって、もしかしてモテる?」



「何を言い出すかと思えばいきなりなんです」




「いやあ、だって仕事ができるしサラっと紳士な行動してくれるし?」



今だって車道側を歩いてくれている。

峯という男は冷酷な人間に感じる反面、随分と思いやりのある人間だとも感じる。


正反対が共存する彼に気付いてしまったからには、自分は後戻りできなさそうだと感じるのだった。



「まあ、人並みにモテますよ」



「うっわあ、面と向かって言われるとそれもそれでムカッとするなあ」



「貴方が聞いてきたんでしょう」




不服だと眉をしかめるが、このダルがらみに応じてくれる彼はどこか前よりも親しみやすく感じる。





「あー--!名前ちゃんと峯くん!」



「え?品田くん!?ちょっとずぶ濡れだけど!?」



曲がり角を曲がったところで、見知った顔の男と遭遇した。

同じクラスで野球部の品田辰雄だ。



「何!?名前ちゃんと峯くんってそういう関係だったの!?俺めちゃくちゃショックなんだけど!」



自分と同じく傘がなかったのであろう品田はずぶ濡れの状態だというのに、立ち止まってあわあわと驚いている。




「ちが 「そうですよ」……え?」



“そういう関係”を否定しようとしたところ、とんでもない言葉が隣の男から降り注いできた。




「そういうことですから品田さん、アンタも風邪をひかないうちに帰った方がいい」


「いや、峯くん、ちょっと」


「はあ~~~濡れたことよりもこっちの方がショック……。
うう、でも応援してるからね!!それじゃあバイバイ!!!」



峯くんに泣かされたら俺のところに来てね名前ちゃん!なんて言い残して、あっという間に品田は去ってしまった。




「……峯くん?なんであんなこと」




「アンタも随分モテるようだ」



「も、もしかしてさっきムカッとするとか言ったの根にもってたの!?」



完全に揶揄われたのだと気が付いて、ドキドキしてしまったこの気持ちを返して欲しいと思った。




「それにしても随分な慌てようでしたが」



「だって“そういう関係”だなんて誤解されるようなこと冗談でも峯くんが言うから……」



「俺たちは互いにクラスの学級委員長どうしの関係でしょう?一緒に帰っていたって不思議じゃない。

……それとも、違う関係を期待しているのか?」



隣から正面に移動してきた峯に歩みを止められて、お互い向かい合ったまま静止する。


やけに雨の音が煩く感じて、胸がざわつく。





「峯くんって、イジワルだね」



「さっきは優しいと能天気に言っていたくせに」



「……峯くんが優しいことを知っているのは私だけがいい」




「いいですよ、貴方だけに優しくしても」




「っ、やっぱりクラスの人みんなに優しくして!」




例え冗談だったとしても、彼の微笑みと言葉はどこまでも甘く深い落とし穴のようだ。

そこに引き込まれてしまうのが怖くて、今はこれ以上立ち入らない方が賢明だと思ったのだ。





「やはりアンタは我儘だ」



こちらの心拍数は上昇の一途を辿っているというのに、峯は涼しい顔をして再び隣に戻る。




しかし先ほどまでよりも更に数センチだけ近づいた距離が、夕立の中で夏のときめきを予感させた。
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