神宗一郎と恋するお話
神奈川選抜合宿2日目 土曜日
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清田の勝利でひとしきり盛り上がった後、牧が清田に声を掛ける。
牧「Bチームのもう1人の代表は決まってるのか?」
清田は『はい。決まってます』と答えると藤真の方を見た。
牧が清田の視線を追い、その先にいた藤真に向かって手招きする。
牧「勝ったのは藤真か?こっちに来てくれ」
藤真「あぁ」
牧に呼ばれた藤真が一歩踏み出した時、花形が『頑張れよ』とエールを送る。
藤真が振り返り花形を見た。
そこにはニヤニヤと笑う楽しそうな花形が立っていた。
藤真「む」
『ジャンケン』の応援かと思いきや莉子との『関係性』のことを言っている事がわかり藤真は苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。
藤真「しつこいぞ」
と触れ腐れたように花形を睨むと清田達の方へ歩いていく。
不機嫌そうな藤真に莉子は『どうかされたんですか?』と首を傾げる。
心配そうに見つめてくる莉子にくすぐったいような気持ちになり毒気を抜かれた様に藤真はフッと表情を緩めると『何でもない。さあ、やるか』と肩を回す。
莉子「気合い十分ですね」
莉子が楽しそうにクスクス笑う。笑う莉子を見て目を細める藤真。
藤真「まあな。やるからには勝つさ」
莉子「頑張って下さいね」
と胸の前で両手で拳を握る莉子とそれを愛おしそうに見つめる藤真…。
神「……」(木村さんって藤真さんと仲いいよな…)
昨日の試合でも莉子は藤真とアイコンタクトをとっていてた事を思い出し悔しさが増した。
自分だって莉子とそういうのしたい。俺ともしてよと駄々を捏ねたい気分だ。
それに藤真に頑張ってほしいって事は藤真に食べて欲しいと思っているってこと?なんて変に勘繰ってイライラが増幅した。
神「……」
むくむくと独占欲が膨れ上がり沸々と嫉妬心が沸き立つのを感じた。
どうしたらこのイライラとモヤモヤは解消されるんだろう。
藤真「神?どうした?始めるからこっちに来いよ」
神「…はい…」
イライラとモヤモヤを抱えたまま2人に近づくと莉子が『神さんも頑張って下さいね』とニコッと笑った。
神「‼︎」
神は莉子の笑顔に心臓が飛び跳ねた。そして急激に鼓動が速くなるのを感じた。
神(うぅ…)
神は緩む頬に自分が浮かれているのがわかった。
笑顔一つで殺気だっていたのが嘘の様に落ち着いていき、今日一日いい日になると思ってしまう程、明るい気分になってしまう。
藤真「さぁ…始めるぞ」
この対決に真剣なあまり眉間に皺を寄せた藤真がそう声を掛けると4人が輪になり並ぶ。その視線の先には莉子の玉子焼き。
好きな子の作った玉子焼き…。誰にも渡したくない。
3人が拳を握り込んだ。
藤真・仙道・神(絶対、獲る!)
3人の間にバチバチと火花が散る。
清田「……」(え〜…?何?このテンション…)
3人の雰囲気に気後れする清田。
莉子(すごい気合い…みんな負けず嫌いだ…)
3人の気合いに緊張感が漂う。その緊張感がみんなに伝染したのか食堂内が妙に静まり返っている。
みんなが見守る中4人が輪になる。バチバチの3人の中に放り込まれた清田は息を殺して存在を消している。
清田「…」(絶対にこんなテンションでやることじゃねぇ…)
3人は右手を隠す様に構えると大きく息を吸い込んだ。
3人「最初はグーーー!ジャンケン、ぽん‼︎」
一斉に出された手はグーが3人、パーが1人…。
「ああああー!」
パーを出したのは
仙道「やりぃ」
ニッと笑う仙道。
「おぉ」
何故かどよめくギャラリー達。
莉子は『わぁ…』と声を上げるとパチパチと小さく手を叩いた。
神・藤真「クソッ…」
悔しそうに拳を握りしめている2人とは対照的にホッと胸を撫で下ろす清田。
清田「…」(負けてホッとしたのは初めてだ…)
莉子「じゃあ玉子焼きは仙道さんに…」
と仙道が座っていた席に置いてあった割り箸を手に取り『お箸、借りますね』と仙道に言うとパチンと割った。
仙道のお弁当の蓋を開けると自分のタッパーから玉子焼きを一切れ摘む。
玉子焼きを仙道のお弁当に移そうとした時、仙道がテーブルに手をつき莉子の方へ見を寄せ『あーん』と口を開けた。
莉子「え?」
神・藤真「は?」
一同「??????」
仙道の行動に莉子だけでなく周囲の人間みんなの頭にハテナが浮かぶ。
固まる莉子を楽しそうに見つめながら仙道が口を開け『ん』と人差し指で口の中をクイクイと指差し玉子焼きを食わせてくれと催促する。
莉子「えっと…」
どうしたらいいのかわからず困った莉子はとりあえず『あ…じゃあ…』と仙道の口元に箸を持っていく。
それを三井が止めた。
三井「バカな事言ってねぇで1人で食え」
と仙道を睨んだ後に莉子にも『こいつの戯言を鵜呑みにすんじゃねぇ!』と凄む。
莉子「ご、ごめんなさい…」
と玉子焼きを再び自分のタッパーに戻した。
三井の言葉に仙道は『えぇ〜』と眉を下げる。
仙道「激戦を勝ち抜けたんですよ。それくらいいいじゃないですか。なぁ?」
と莉子に向かって同意を求める。
莉子「え…でも…」
仙道「それに俺には『頑張って下さい』の一言もなかったしな」
とニヤッと笑う仙道に莉子は再び『え?』と驚きの声を上げた。
仙道「藤真サンにも神にも言ってたのに俺にはなかっただろ?」
仙道の発言に莉子は狼狽えた。
莉子「確かに…言わなかったかも…ですけど…でも清田君にも言ってないですし…」
焦った莉子は仙道を見上げた。
いたずらが見つかり母親に怒られる事を恐れている子どものような視線と表情にドキッとした。
仙道(…やばいな…)
仙道は自分の言う事に振り回される莉子にときめいていた。ここにいる誰も莉子を揶揄ったりしない。だから不器用な方法だがこれが仙道にとって莉子をまた『みんなのマネージャー』の視線も思考も独占できる唯一の方法だったのだ。そうやって俺に翻弄されて俺の事で頭も心も一杯になればいいのに。そう願うほど仙道の心は莉子で一杯だった。
狼狽える莉子を見て満足そうに笑う仙道がいる一方で仙道の言葉に2人の男がピクっと反応した。
神・藤真(それくらい?)
敗者の2人にとって莉子の玉子焼き+アーンは『それくらい』ではない。
藤真が神を見た。眼光鋭い藤真のアイコンタクトに神はコクリと頷く。
神と藤真の手が伸びる。
ガシッ‼︎
仙道「うぉ⁉︎」
ガシッと仙道の頭を掴んだのは藤真だった。藤真が仙道を捕まえている間、神は莉子ににっこりと笑いかけると『ちょっと借りるね』とそっと莉子の手から割り箸と小さなタッパーを取り上げて仙道に向き直る。
神「勝者を讃えて敗者である俺達が食べさせてやるよ」
にっこりと笑顔を見せるが怒りが滲み出ている。
仙道「えっ!」
藤真が『ほーら。遠慮すんな。食え』と頭を押さえ込みもう片方の手で顎を掴むと頬をむぎゅと挟み無理やり口を開けようとする。
仙道「うぐっ!」
藤真「ほら。遠慮すんな。あーーーーーーーーん」
仙道「ぐっ…!」
仙道は抵抗するが細身だと思っていた藤真の予想外の腕力にたまらず『わかりました!わかりました‼︎』と藤真の手を払いのけ大きなため息を一つついた。そして神に『自分で食うよ…』と告げるとガクッと肩を落とした。
ひと騒動終えやっと朝食。
モソモソと箸を進め少し元気のない様子の仙道に莉子が声をかける。
莉子「仙道さん」
仙道「ん?」
元気のない仙道は顔を上げ莉子を見た。莉子はニコッと笑うと『昨日、食堂ではちみつレモン食べたいって言ってたじゃないですか』と仙道を見た。
莉子の表情はまるでサプライズ発表前の子供のようなワクワクしたものでその愛くるしさに仙道も藤真も神も三井も目が釘付けになった。
仙道「そっ…そういえば言ったな…」
莉子「用意しましたよ」
嬉しいのは仙道の筈なのに莉子もまた嬉しそうで仙道は吹き出しそうになる。
莉子の言葉に仙道が『マジ⁉︎』と感嘆の声をあげる。
仙道「漬けるのに時間が必要なのにどうやって用意したんだ?」
莉子「家で漬けたのがあったのでそれを持って来ました」
と笑う莉子にキュンと胸が疼いた。莉子が自分の為に動いてくれた事がとても嬉しかった。
仙道「そうか…サンキュー。嬉しいよ」
莉子「いえいえ」(よかった…。ちょっと元気になったみたい…)
三井「何?お前、はちみつレモンなんか頼んだのか?」
と三井が不機嫌な声で仙道と莉子を見る。
そんな三井を見て仙道は『頼んだって言うか…』と苦笑い。
仙道「俺、はちみつレモン好きなんであったら嬉しいなって話をしたんですよ」
莉子「あ、あの…三井先輩もいっぱいあるのでたくさん食べてくださいね」(な、なんか怒ってる…?)
三井が膨れっ面で莉子を見た。
三井「だったら俺もお前のドリンク…」
『頼みゃよかった…』とごにゃごにゃ言い不貞腐れる三井に莉子は『ふふふ』と笑う。
莉子「三井先輩あのドリンク好きですもんね。ちゃんと材料持ってきましたからさっそくこの後、準備しますね。楽しみにしてて下さい!」
と笑う莉子に三井の頬が赤くなる。
三井「…べ、別に楽しみじゃねぇし…」
宮城(本当…わかりやすい人だな…)
仙道「……」(やっぱ『俺にだけ』って言うのは難しいか……)
と仙道は莉子の玉子焼きを口の中に放り込み『うまっ!』と呟いた。
朝食が終わり彦一が片付けようとしているのを莉子が止めた。
莉子「彦一君。私が片付けるからいいよ」
彦一は莉子の言葉に一瞬(どういう意味やろう?)と思ったが役割分担か!と気付きニコッと笑った。
彦一「ありがとう。じゃあワイは体育館の準備するわ」
と言う彦一に莉子は『あ、違くて…』と少し躊躇した後、牧を見た。
莉子「ま、牧さん」
莉子が胸の前で手を握り『あ、あの…その…』とモジモジしている。
牧にお願い事をするというのは神でも難しいだろう。それを他校の一年マネージャーがしようとしている。それなりの勇気が必要だった。
莉子「あ、あの…その…」(ちょっと怖い…)
牧を直視できず自分の足元を見つめモジモジしている莉子を見て神がキュンとする。
神「…」(カワイイ…)
牧「どうした?」
牧が腰に手を当て莉子を見下ろした。体格差のせいで自分の体を覆い被さる様に重なった影に一瞬ビクッと莉子の肩が揺れたが恐る恐る見上げた牧の表情と視線は選手達に向ける厳しいモノではなく優しく穏やかなモノだった。
その視線に莉子の体から力が抜け『あ、あの…』と口を開いた。
莉子「…彦一君もロードワークに参加できないでしょうか?」
彦一「え?」
莉子の発言に彦一が思わず声を上げた。一斉にメンバー達の視線を浴びた彦一は『な、なんで…』と莉子に問いかける。その表情から彦一はかなり驚き狼狽えているのがわかった。
彦一の問いに莉子は笑って『彦一君も選手でしょ』と答えた。
なんでそんな当たり前のこと聞くんだと言わんばかりの莉子の言葉と表情に彦一は『え…』と固まった。
そんな彦一に莉子はニコッと笑うと牧に再び向き合う。
莉子「彦一君も…3日間も何もしないと体が鈍っちゃいます…だから…ロードワークとか基礎練に参加できたら全然違うと思うんですけど…ダメですか?」
彦一「いや…でも…今回、ワイはマネージャーとして来とるし…」
と彦一は遠慮がちに牧を見た。
牧「彦一にその気があるなら来たらいい。でも遅れたらそのまま置いてくからな」
彦一「はいっ!」
莉子「よかったね。準備は任せて。いってらっしゃい」
と言う莉子に牧は『いや』と話を遮る。
牧「ストレッチがてら体育館は俺たちで準備するから木村さんはちょっと休憩したらいいよ」
莉子「でも…そんなの申し訳ないです…」
牧「朝早くからたくさんの荷物を抱えて来て疲れただろ?」
さっきの仙道と三井との会話を聞いていた牧が莉子を労う。
莉子「でも…」
牧「体育館の準備なら仙道と三井が率先して手伝ってくれるさ」
三井・仙道「えっ⁉︎」
牧「木村さんにリクエストを聞いてもらったんだろ?恩返しだと思え」
仙道と三井が顔を見合わせる。
三井が後頭部をガシガシと掻くと『わかったよ…』と呟いた。
仙道もまた『俺たちがやるから休憩しろ』とヘラッとした笑顔を見せる。
牧「ということだ」
と莉子に満面の笑みを見せる牧。莉子に有無を言わせない迫力に莉子も『はい』と頷くしか無かった。
莉子「ありがとうございます」
ペコリと頭を下げる莉子。
選手達は昨晩同様、莉子にお礼を言って食堂を出ていった。
莉子に見送られ食堂を出たメンバーたちは準備のために体育館に向かう。
彦一が気合い十分にズンズン歩いていく。それを見た仙道がクスッと笑った。
仙道「彦一、随分気合い入ってんな」
彦一は『莉子ちゃんの期待に応えんと‼︎』と鼻息荒く言う彦一に藤真がポツリと呟く。
藤真「いいマネージャーだな。湘北が羨ましいよ。ウチは女マネがいないから」
花形・長谷川「…」(お前が拒否したからだろ…)
仙道「確か2人いたよな?」
仙道は朧げながらも4月の練習試合まで記憶を遡り確か女の子がもう1人いた事を思い出す。
宮城「いや、今は3人に増えたんだ」
と仙道に向かって3本の指を立てる。
一同「3人‼︎⁉︎」
三井「赤木が引退した後に赤木の妹が入ったんだよ」
『赤木の妹』と聞いてみんなの脳裏にはやたらガタイのいい赤木に瓜二つの女の子が再生される。
一同「………」(それはちょっと怖い、かも…)
赤木妹(想像)のインパクトにゴクリと唾を飲むメンバー達の表情を見て宮城が的外れなことを想像してることに気付き『こいつら実物見たら驚くだろうな…』と呟いた。
藤真が宮城と三井の方へ振り返り『だったら』と
藤真「木村をこっちに派遣してくれよ」
三井・宮城「は?」
藤真「3人もいるならいいだろ?」
牧「それならウチにも来てもらいたい」
仙道「ウチにも」
三井「お、おい…お前ら…。何言ってんだ…?」
慌てる三井に藤真は飄々と続ける。
藤真「ウチは遠いから土日のどっちかで頼む」
牧も続ける。
牧「うちは翔陽に行かないどっちかの土日でよろしく」
三井「は?」
仙道「ウチは近いから平日週2でお願いします」
なぜか福田もペコッと頭を下げる。
三井・宮城「行かせるわけねぇだろ!」
牧・藤真「はははは」
と笑う2人。牧は『わかってるよ』と言い藤真は『本気にするな』と続けた。
仙道・神「…」(やっぱりダメか…)
ちょっとだけ本気だった2人は黙り込む。
流川「くぁ…」
準備と言ってもできることは少なくあっという間に終わってしまいメンバー達はなんとなく集まって雑談を始める。
和やかな空気の中、神が牧に声をかけた。
神「すみません。俺、ちょっとやりたい事があるので少しだけ抜けてもいいですか?」
と神が牧に申し出た。牧はしばらく何かを考えていたが莉子の更衣室の件もあったので許可を出してやりたいが…。
今はチームで動いている以上勝手はさせられないので牧は藤真と三井に神が少し抜けてもいいか聞いてみる。
2人から『いいんじゃないか?』と承諾してもらえたので神に
『30分で戻って来いよ?』と許可を出す。
神「はい。ありがとうございます」
神は許可をくれた藤真と三井にも『ありがとうございます』と頭を下げて体育館を後にした。
牧「Bチームのもう1人の代表は決まってるのか?」
清田は『はい。決まってます』と答えると藤真の方を見た。
牧が清田の視線を追い、その先にいた藤真に向かって手招きする。
牧「勝ったのは藤真か?こっちに来てくれ」
藤真「あぁ」
牧に呼ばれた藤真が一歩踏み出した時、花形が『頑張れよ』とエールを送る。
藤真が振り返り花形を見た。
そこにはニヤニヤと笑う楽しそうな花形が立っていた。
藤真「む」
『ジャンケン』の応援かと思いきや莉子との『関係性』のことを言っている事がわかり藤真は苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。
藤真「しつこいぞ」
と触れ腐れたように花形を睨むと清田達の方へ歩いていく。
不機嫌そうな藤真に莉子は『どうかされたんですか?』と首を傾げる。
心配そうに見つめてくる莉子にくすぐったいような気持ちになり毒気を抜かれた様に藤真はフッと表情を緩めると『何でもない。さあ、やるか』と肩を回す。
莉子「気合い十分ですね」
莉子が楽しそうにクスクス笑う。笑う莉子を見て目を細める藤真。
藤真「まあな。やるからには勝つさ」
莉子「頑張って下さいね」
と胸の前で両手で拳を握る莉子とそれを愛おしそうに見つめる藤真…。
神「……」(木村さんって藤真さんと仲いいよな…)
昨日の試合でも莉子は藤真とアイコンタクトをとっていてた事を思い出し悔しさが増した。
自分だって莉子とそういうのしたい。俺ともしてよと駄々を捏ねたい気分だ。
それに藤真に頑張ってほしいって事は藤真に食べて欲しいと思っているってこと?なんて変に勘繰ってイライラが増幅した。
神「……」
むくむくと独占欲が膨れ上がり沸々と嫉妬心が沸き立つのを感じた。
どうしたらこのイライラとモヤモヤは解消されるんだろう。
藤真「神?どうした?始めるからこっちに来いよ」
神「…はい…」
イライラとモヤモヤを抱えたまま2人に近づくと莉子が『神さんも頑張って下さいね』とニコッと笑った。
神「‼︎」
神は莉子の笑顔に心臓が飛び跳ねた。そして急激に鼓動が速くなるのを感じた。
神(うぅ…)
神は緩む頬に自分が浮かれているのがわかった。
笑顔一つで殺気だっていたのが嘘の様に落ち着いていき、今日一日いい日になると思ってしまう程、明るい気分になってしまう。
藤真「さぁ…始めるぞ」
この対決に真剣なあまり眉間に皺を寄せた藤真がそう声を掛けると4人が輪になり並ぶ。その視線の先には莉子の玉子焼き。
好きな子の作った玉子焼き…。誰にも渡したくない。
3人が拳を握り込んだ。
藤真・仙道・神(絶対、獲る!)
3人の間にバチバチと火花が散る。
清田「……」(え〜…?何?このテンション…)
3人の雰囲気に気後れする清田。
莉子(すごい気合い…みんな負けず嫌いだ…)
3人の気合いに緊張感が漂う。その緊張感がみんなに伝染したのか食堂内が妙に静まり返っている。
みんなが見守る中4人が輪になる。バチバチの3人の中に放り込まれた清田は息を殺して存在を消している。
清田「…」(絶対にこんなテンションでやることじゃねぇ…)
3人は右手を隠す様に構えると大きく息を吸い込んだ。
3人「最初はグーーー!ジャンケン、ぽん‼︎」
一斉に出された手はグーが3人、パーが1人…。
「ああああー!」
パーを出したのは
仙道「やりぃ」
ニッと笑う仙道。
「おぉ」
何故かどよめくギャラリー達。
莉子は『わぁ…』と声を上げるとパチパチと小さく手を叩いた。
神・藤真「クソッ…」
悔しそうに拳を握りしめている2人とは対照的にホッと胸を撫で下ろす清田。
清田「…」(負けてホッとしたのは初めてだ…)
莉子「じゃあ玉子焼きは仙道さんに…」
と仙道が座っていた席に置いてあった割り箸を手に取り『お箸、借りますね』と仙道に言うとパチンと割った。
仙道のお弁当の蓋を開けると自分のタッパーから玉子焼きを一切れ摘む。
玉子焼きを仙道のお弁当に移そうとした時、仙道がテーブルに手をつき莉子の方へ見を寄せ『あーん』と口を開けた。
莉子「え?」
神・藤真「は?」
一同「??????」
仙道の行動に莉子だけでなく周囲の人間みんなの頭にハテナが浮かぶ。
固まる莉子を楽しそうに見つめながら仙道が口を開け『ん』と人差し指で口の中をクイクイと指差し玉子焼きを食わせてくれと催促する。
莉子「えっと…」
どうしたらいいのかわからず困った莉子はとりあえず『あ…じゃあ…』と仙道の口元に箸を持っていく。
それを三井が止めた。
三井「バカな事言ってねぇで1人で食え」
と仙道を睨んだ後に莉子にも『こいつの戯言を鵜呑みにすんじゃねぇ!』と凄む。
莉子「ご、ごめんなさい…」
と玉子焼きを再び自分のタッパーに戻した。
三井の言葉に仙道は『えぇ〜』と眉を下げる。
仙道「激戦を勝ち抜けたんですよ。それくらいいいじゃないですか。なぁ?」
と莉子に向かって同意を求める。
莉子「え…でも…」
仙道「それに俺には『頑張って下さい』の一言もなかったしな」
とニヤッと笑う仙道に莉子は再び『え?』と驚きの声を上げた。
仙道「藤真サンにも神にも言ってたのに俺にはなかっただろ?」
仙道の発言に莉子は狼狽えた。
莉子「確かに…言わなかったかも…ですけど…でも清田君にも言ってないですし…」
焦った莉子は仙道を見上げた。
いたずらが見つかり母親に怒られる事を恐れている子どものような視線と表情にドキッとした。
仙道(…やばいな…)
仙道は自分の言う事に振り回される莉子にときめいていた。ここにいる誰も莉子を揶揄ったりしない。だから不器用な方法だがこれが仙道にとって莉子をまた『みんなのマネージャー』の視線も思考も独占できる唯一の方法だったのだ。そうやって俺に翻弄されて俺の事で頭も心も一杯になればいいのに。そう願うほど仙道の心は莉子で一杯だった。
狼狽える莉子を見て満足そうに笑う仙道がいる一方で仙道の言葉に2人の男がピクっと反応した。
神・藤真(それくらい?)
敗者の2人にとって莉子の玉子焼き+アーンは『それくらい』ではない。
藤真が神を見た。眼光鋭い藤真のアイコンタクトに神はコクリと頷く。
神と藤真の手が伸びる。
ガシッ‼︎
仙道「うぉ⁉︎」
ガシッと仙道の頭を掴んだのは藤真だった。藤真が仙道を捕まえている間、神は莉子ににっこりと笑いかけると『ちょっと借りるね』とそっと莉子の手から割り箸と小さなタッパーを取り上げて仙道に向き直る。
神「勝者を讃えて敗者である俺達が食べさせてやるよ」
にっこりと笑顔を見せるが怒りが滲み出ている。
仙道「えっ!」
藤真が『ほーら。遠慮すんな。食え』と頭を押さえ込みもう片方の手で顎を掴むと頬をむぎゅと挟み無理やり口を開けようとする。
仙道「うぐっ!」
藤真「ほら。遠慮すんな。あーーーーーーーーん」
仙道「ぐっ…!」
仙道は抵抗するが細身だと思っていた藤真の予想外の腕力にたまらず『わかりました!わかりました‼︎』と藤真の手を払いのけ大きなため息を一つついた。そして神に『自分で食うよ…』と告げるとガクッと肩を落とした。
ひと騒動終えやっと朝食。
モソモソと箸を進め少し元気のない様子の仙道に莉子が声をかける。
莉子「仙道さん」
仙道「ん?」
元気のない仙道は顔を上げ莉子を見た。莉子はニコッと笑うと『昨日、食堂ではちみつレモン食べたいって言ってたじゃないですか』と仙道を見た。
莉子の表情はまるでサプライズ発表前の子供のようなワクワクしたものでその愛くるしさに仙道も藤真も神も三井も目が釘付けになった。
仙道「そっ…そういえば言ったな…」
莉子「用意しましたよ」
嬉しいのは仙道の筈なのに莉子もまた嬉しそうで仙道は吹き出しそうになる。
莉子の言葉に仙道が『マジ⁉︎』と感嘆の声をあげる。
仙道「漬けるのに時間が必要なのにどうやって用意したんだ?」
莉子「家で漬けたのがあったのでそれを持って来ました」
と笑う莉子にキュンと胸が疼いた。莉子が自分の為に動いてくれた事がとても嬉しかった。
仙道「そうか…サンキュー。嬉しいよ」
莉子「いえいえ」(よかった…。ちょっと元気になったみたい…)
三井「何?お前、はちみつレモンなんか頼んだのか?」
と三井が不機嫌な声で仙道と莉子を見る。
そんな三井を見て仙道は『頼んだって言うか…』と苦笑い。
仙道「俺、はちみつレモン好きなんであったら嬉しいなって話をしたんですよ」
莉子「あ、あの…三井先輩もいっぱいあるのでたくさん食べてくださいね」(な、なんか怒ってる…?)
三井が膨れっ面で莉子を見た。
三井「だったら俺もお前のドリンク…」
『頼みゃよかった…』とごにゃごにゃ言い不貞腐れる三井に莉子は『ふふふ』と笑う。
莉子「三井先輩あのドリンク好きですもんね。ちゃんと材料持ってきましたからさっそくこの後、準備しますね。楽しみにしてて下さい!」
と笑う莉子に三井の頬が赤くなる。
三井「…べ、別に楽しみじゃねぇし…」
宮城(本当…わかりやすい人だな…)
仙道「……」(やっぱ『俺にだけ』って言うのは難しいか……)
と仙道は莉子の玉子焼きを口の中に放り込み『うまっ!』と呟いた。
朝食が終わり彦一が片付けようとしているのを莉子が止めた。
莉子「彦一君。私が片付けるからいいよ」
彦一は莉子の言葉に一瞬(どういう意味やろう?)と思ったが役割分担か!と気付きニコッと笑った。
彦一「ありがとう。じゃあワイは体育館の準備するわ」
と言う彦一に莉子は『あ、違くて…』と少し躊躇した後、牧を見た。
莉子「ま、牧さん」
莉子が胸の前で手を握り『あ、あの…その…』とモジモジしている。
牧にお願い事をするというのは神でも難しいだろう。それを他校の一年マネージャーがしようとしている。それなりの勇気が必要だった。
莉子「あ、あの…その…」(ちょっと怖い…)
牧を直視できず自分の足元を見つめモジモジしている莉子を見て神がキュンとする。
神「…」(カワイイ…)
牧「どうした?」
牧が腰に手を当て莉子を見下ろした。体格差のせいで自分の体を覆い被さる様に重なった影に一瞬ビクッと莉子の肩が揺れたが恐る恐る見上げた牧の表情と視線は選手達に向ける厳しいモノではなく優しく穏やかなモノだった。
その視線に莉子の体から力が抜け『あ、あの…』と口を開いた。
莉子「…彦一君もロードワークに参加できないでしょうか?」
彦一「え?」
莉子の発言に彦一が思わず声を上げた。一斉にメンバー達の視線を浴びた彦一は『な、なんで…』と莉子に問いかける。その表情から彦一はかなり驚き狼狽えているのがわかった。
彦一の問いに莉子は笑って『彦一君も選手でしょ』と答えた。
なんでそんな当たり前のこと聞くんだと言わんばかりの莉子の言葉と表情に彦一は『え…』と固まった。
そんな彦一に莉子はニコッと笑うと牧に再び向き合う。
莉子「彦一君も…3日間も何もしないと体が鈍っちゃいます…だから…ロードワークとか基礎練に参加できたら全然違うと思うんですけど…ダメですか?」
彦一「いや…でも…今回、ワイはマネージャーとして来とるし…」
と彦一は遠慮がちに牧を見た。
牧「彦一にその気があるなら来たらいい。でも遅れたらそのまま置いてくからな」
彦一「はいっ!」
莉子「よかったね。準備は任せて。いってらっしゃい」
と言う莉子に牧は『いや』と話を遮る。
牧「ストレッチがてら体育館は俺たちで準備するから木村さんはちょっと休憩したらいいよ」
莉子「でも…そんなの申し訳ないです…」
牧「朝早くからたくさんの荷物を抱えて来て疲れただろ?」
さっきの仙道と三井との会話を聞いていた牧が莉子を労う。
莉子「でも…」
牧「体育館の準備なら仙道と三井が率先して手伝ってくれるさ」
三井・仙道「えっ⁉︎」
牧「木村さんにリクエストを聞いてもらったんだろ?恩返しだと思え」
仙道と三井が顔を見合わせる。
三井が後頭部をガシガシと掻くと『わかったよ…』と呟いた。
仙道もまた『俺たちがやるから休憩しろ』とヘラッとした笑顔を見せる。
牧「ということだ」
と莉子に満面の笑みを見せる牧。莉子に有無を言わせない迫力に莉子も『はい』と頷くしか無かった。
莉子「ありがとうございます」
ペコリと頭を下げる莉子。
選手達は昨晩同様、莉子にお礼を言って食堂を出ていった。
莉子に見送られ食堂を出たメンバーたちは準備のために体育館に向かう。
彦一が気合い十分にズンズン歩いていく。それを見た仙道がクスッと笑った。
仙道「彦一、随分気合い入ってんな」
彦一は『莉子ちゃんの期待に応えんと‼︎』と鼻息荒く言う彦一に藤真がポツリと呟く。
藤真「いいマネージャーだな。湘北が羨ましいよ。ウチは女マネがいないから」
花形・長谷川「…」(お前が拒否したからだろ…)
仙道「確か2人いたよな?」
仙道は朧げながらも4月の練習試合まで記憶を遡り確か女の子がもう1人いた事を思い出す。
宮城「いや、今は3人に増えたんだ」
と仙道に向かって3本の指を立てる。
一同「3人‼︎⁉︎」
三井「赤木が引退した後に赤木の妹が入ったんだよ」
『赤木の妹』と聞いてみんなの脳裏にはやたらガタイのいい赤木に瓜二つの女の子が再生される。
一同「………」(それはちょっと怖い、かも…)
赤木妹(想像)のインパクトにゴクリと唾を飲むメンバー達の表情を見て宮城が的外れなことを想像してることに気付き『こいつら実物見たら驚くだろうな…』と呟いた。
藤真が宮城と三井の方へ振り返り『だったら』と
藤真「木村をこっちに派遣してくれよ」
三井・宮城「は?」
藤真「3人もいるならいいだろ?」
牧「それならウチにも来てもらいたい」
仙道「ウチにも」
三井「お、おい…お前ら…。何言ってんだ…?」
慌てる三井に藤真は飄々と続ける。
藤真「ウチは遠いから土日のどっちかで頼む」
牧も続ける。
牧「うちは翔陽に行かないどっちかの土日でよろしく」
三井「は?」
仙道「ウチは近いから平日週2でお願いします」
なぜか福田もペコッと頭を下げる。
三井・宮城「行かせるわけねぇだろ!」
牧・藤真「はははは」
と笑う2人。牧は『わかってるよ』と言い藤真は『本気にするな』と続けた。
仙道・神「…」(やっぱりダメか…)
ちょっとだけ本気だった2人は黙り込む。
流川「くぁ…」
準備と言ってもできることは少なくあっという間に終わってしまいメンバー達はなんとなく集まって雑談を始める。
和やかな空気の中、神が牧に声をかけた。
神「すみません。俺、ちょっとやりたい事があるので少しだけ抜けてもいいですか?」
と神が牧に申し出た。牧はしばらく何かを考えていたが莉子の更衣室の件もあったので許可を出してやりたいが…。
今はチームで動いている以上勝手はさせられないので牧は藤真と三井に神が少し抜けてもいいか聞いてみる。
2人から『いいんじゃないか?』と承諾してもらえたので神に
『30分で戻って来いよ?』と許可を出す。
神「はい。ありがとうございます」
神は許可をくれた藤真と三井にも『ありがとうございます』と頭を下げて体育館を後にした。