神宗一郎と恋するお話
神奈川選抜
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神(もう着いちゃった…)
駅周辺はまだ飲み足りない大人と帰りたい大人との喧騒で賑わっていた。いつもなら気にもしない事だが今日は莉子がいる。変な人間に絡まれてほしくない神は周囲を見渡し安全を確認する。
莉子「神さん…送って頂いてありがとうございました」
と頭を下げる莉子を見て神は(離れたくないな…)と感じた。
寂しい…
莉子「…あ、あの…」
莉子何か言いたげに神を見上げた。どんな言葉も聞き逃すまいと神が莉子の方へ耳を傾ける。
神「なに?」
神がニッコリと笑う。優しい笑顔を向けられた莉子はバツが悪そうに視線を逸らした。
莉子「…えっと…その…」(なんて言ったらいいのかな…)
『覚悟しといて』と言われてから神の雰囲気が変わったような気がする。
どこが変わったとかここが違うとか明言はできないけど食堂で話していた時の神と今の神はどこかが違っていて困惑してしまう。
莉子「……」(神さんはずっと優しくて親切だったけど…)
神に視線を戻すと神は何も言わない莉子にイライラした様子もなく愛おしそうに見つめ返してくる。
自分に向けられる優しい視線と声色の真意が分からず居心地が悪い。
神「どうしたの?」
と顔を覗き込む神。莉子は思わず後退した。
莉子「あ、あの…その…」
神から感じるモノはなんなんだろう…?
それが知りたくて観察する様にジッと見つめる莉子に『ん?』と首を傾げる神。
探る様な視線を向けられてもどこまでも優しげな神に(やっぱり元々こういう人なのかな…?私の考え過ぎ…?)と考えるがそうだとすれば今、感じている違和感はなんなんだろう…?と答えは出ない。
不安で莉子が困っていると神が『よう』と声をかけられる。
莉子はその声にビクッとした。
神が(うわ…)と一瞬、迷惑そうな表情を浮かべたがすぐにいつもの穏やかな表情に戻ると声をかけてきた人に顔を向ける。
そこには小野寺が立っていた。
神「よう…今、帰り?」(最悪だ…)
神は莉子を背中で隠した。この男の女好きと男尊女卑は周知されている。莉子に興味を持たれても嫌だし無神経な事を言われて不快な思いもさせたくない。
背中に莉子を庇うように立つと莉子が両手で神のTシャツを掴んだ。
神「⁉︎」
予想外の行動に驚き莉子の方へ視線を送るが俯いている為、頭頂部しか見えなかった。
それでも莉子の手が微かに震えているのがわかり神は早くこの場を切り上げなければと思った。
『小野寺…悪いんだけど…』と口を開いた時、小野寺が莉子に『莉子ちゃん、久しぶりだね』と声をかけた。
小野寺の発言に神は『えっ⁉︎』と驚きの声をあげる。
神「知り合いなの?」
と莉子を見た。
神「‼︎⁉︎」
莉子は青ざめていた。先ほどの更衣室前でのやり取り以上に怯えた表情を浮かべる莉子に思わず神は『だ、大丈夫⁉︎』と顔を覗き込んだ。
莉子はハッとして神に『だ、大丈夫です…』と曖昧に笑ってから小野寺に向き直る。
莉子「小野寺先輩…お久しぶりです…」
と頭を下げる。
神「先輩…?」
怪訝そうな表情を浮かべる神をおかしそうに見つめながら小野寺が補足する。
小野寺「俺たち同じ中学なんだ。結構、仲良かったんだよ。俺たち」
『ね?』と笑顔で同意を求める小野寺。莉子はビクッと肩を震わせると『…あ、あの…』と何か言いたげに小野寺を見たがすぐに視線を逸らすと消えてしまいそうな程、小さな声で『…はい…』と答えた。
震えた声が神の胸を締め付けた。
神(この2人…絶対に何かある…)
しかも悪いことだ。
目に薄っすら涙を浮かべ怯える莉子を楽しそうに見つめる視線に嫌悪し神は顔を顰めた。
小野寺「そういう2人はどういう関係なの?」
神「選手とマネージャー」
そっけなく答える神を見ていると小野寺はますます面白くなった。
きっと自分の莉子の関係にヤキモキしているに違いない。それを必死に隠そうとしている神に小野寺の自尊心は大きく膨れ上がった。
小野寺は『そうなんだぁ』とわざとらしく大きく頷きならが莉子を見た。
小野寺「ねぇ。莉子ちゃん。募る話もあるし途中まで一緒に帰らない?」
莉子「え…」
莉子の手が『行きたくない』と訴える様に神のTシャツを強く掴み直した。
思ってるより事態は深刻だ…と感じた神は莉子の手をキュッと包み込むように握った。
莉子がハッとした様に神を見上げた。目が合うと神は笑顔を見せる。
大丈夫…。俺がいる。
莉子はそう言われたような気がした。
さっきまで怖いと思っていた神の優しい笑顔と視線が莉子の恐怖と緊張をほぐしていく。
莉子が神の手を握り返した。
神は応える様に莉子の手を力強く握った。
そして小野寺に『悪いんだけど…木村さんは俺が送ってくから』と言うと小野寺は神に向かって『神には聞いてない。ねぇ。莉子ちゃん、いいでしょ?行こうよ』と胡散臭い笑顔を貼り付けて莉子へ手を伸ばす。
莉子「っ‼︎」
莉子はギュッと目を瞑って体を硬くする。
神は小野寺の手を掴んだ。
神「……触るな…聞こえなかったのか?彼女は俺が送る」
今までに聞いたことない敵意剥き出しの低い声に小野寺は一瞬、呆気に取られた様な顔をしたがすぐにニタァと嫌な笑みを浮かべた。
小野寺「…何だよ。いつもクールなのに今日は随分と余裕ないんだな」
ついに見つけた。この女が神の弱点だ!
ニヤニヤ笑う小野寺。神は手を離した。
神「別に…」
神は莉子と小野寺の間にしっかりと立って莉子を守ろうとする。小野寺はそんな神が面白くて仕方ない様子だった。
小野寺が神の後ろに隠れている莉子を覗き込む様に見た。
小野寺「…まぁいいや。…莉子ちゃん」
小野寺の呼びかけに莉子が顔を挙げた。
莉子「…はい…」
怒ったような表情を浮かべる神を煽るように一瞥した後、笑顔で莉子に向かって『またね』と手を振った。
神「……」(こいつ…)
ギロっと小野寺を睨みつける神。
莉子は何も言えずに神の背中にピッタリと体を引っ付けるように隠れる。
莉子「…」(またねって…また会いに来るって事…?)
小野寺「神もまた明日な」
神「あぁ…」
最後に神の肩をポンっと叩いて駅の中に入って行く。それを黙って見送る神と莉子。
小野寺の姿が見えなくなっても不安げな顔をしている莉子を神は心配し『大丈夫?』とそっと手を離し莉子に目線を合わせる。
莉子の頬が赤く染まり『だ、大丈夫です…』と視線を逸らす。
苦笑いを浮かべて『そっか』とポンポンと頭を撫でると『あいつ…中で待ち伏せしているかもしれないからちょっと時間、潰そっか…』と提案する。
莉子「でも…それだと神さんが帰るの遅くなっちゃいます…今だってどこにもいないってみんな探してるかもしれないのに…」
心配そうにそんな事を言う莉子に神は笑った。
神「大丈夫だよ。どうせみんな俺は練習してるって思ってるだろうしだれも俺がいない事なんて気にしてないよ」
と顔の前で手を横に振った。
莉子が『自分で言っちゃうんですね』とクスクス笑う。
『ふふふ』と笑う柔らかな笑顔を見て心が安らぐのを感じた。
神「…」(やっぱり好きだな…この子の笑った顔…)
莉子を想うと胸が一杯になる。
自分を好きになって欲しいしもっと好きになりたいし莉子をもっと知りたいし莉子にも自分をたくさん知って欲しい。
そしてたくさんの時間を共有していつか心を通わせたい…。
神(木村さんと付き合ったら…)
莉子は付き合ったらどういう風に恋人を愛するんだろ…?
頼りになる子だし甘やかすタイプかな…いや…でも彼氏にだけ甘えるってパターンもあるか…。
神の脳裏に『もう…仕方ないなぁ…』と困ったように笑い頭を撫でてくれる莉子と『ぎゅーして?』と抱きついてくる2人の莉子が浮かんできてキュンキュン胸が疼いて口元が緩んだ。
莉子「…神さん…?」
黙り込んだ神を心配そうに見上げる莉子。ハッとした神は莉子に『何でもない!そこのベンチで少し話そうよ』と空いているベンチを指差した。
莉子「…はい…」
2人でベンチに座って話題を探す。
神(どうしよ…話題、話題…)
小野寺との話を聞きたいがやっと笑ってくれたのだ。また笑顔が曇る様な話題は避けたかった。
神(どうしよ…)
目の前をカップルが横切っていく。何となくそれを目で追った。
彼女が彼氏の耳元で何かを囁いた。神は彼女の楽しそうな雰囲気と嬉しそうな表情からきっと『好き』とか『大好き』とかそういった類いの事を言ったんだろうなと思った。彼氏は彼女の言葉を聞いた途端に嬉しそうに笑い『俺も』と彼女を抱き寄せた。
神(…いいなぁ…)
楽しそうに体を寄せ合っている男女を見て初めて羨ましいと思った。
莉子に名前を呼ばれ『大好きだよ』と笑ってもらえたらどれだけ幸せだろうか…。
莉子「楽しそうですね」
莉子の言葉に神はもしかして考えていた事がバレたのかと驚く。
神「え⁉︎⁉︎」
驚く神に莉子が『?』と首を傾げ『あそこのカップルの事なんですけど…。今、見てませんでした?』と不思議そう問う。
神「…見てた…」(ビックリした…)
莉子「素敵ですよね…。憧れちゃいます」
ドキッとした。
神「…す、好きな人いるの?」
莉子「いないから憧れるんです」
神「あ、そっか…なるほど…」(よかったぁ〜!好きな人いるのかと思った‼︎‼︎)
莉子「あ、あの…神さん…」
神「ん?」
莉子「今日は…本当にありがとうございます…私…今日だけでどれだけ神さんに助けられたかわかりません…神さんがいなかったら…」
と言葉を詰まらせる。きっと小野寺の事を思い出し不安が押し寄せて来たのかもしれない。
硬い表情の莉子を見て切なくなった。
神(こんなに困ってるのに俺には何も話してくれないんだな…というか木村さんの選択肢に『俺に頼る』がないんだよな…)
縋るように身を寄せてくる癖に『助けてほしい』と言わない莉子との間にある『距離』を猛烈に痛感してものすごく寂しい。
相談してくれたら全力で守るのに…。
がすぐに(…いや…そんなの関係ないっか…)と思い直す。相談されたいのは好きな子に頼りになる男だと思われたいっていう願望に過ぎない。そんなエゴいらない。
神「…」(木村さんにもうあんな顔してほしくない…)
自分が一番望むモノはそれだ。相談されなくてもいい。話してくれなくてもいい。一番大好きで大事な物は守ると今、決めた。
薄っすらと涙を浮かべていた莉子を見てグッと拳を握った。
神「小野寺の事なら任せて。俺が何とかするから。木村さんはなるべく1人にならないようにだけ気をつけてね」
莉子はボーッと神を見つめた後、ハッとして『あ、は、はい…ありがとうございます…』と俯いた。
10分ほど経って神が『もうそろそろいいかな…』とベンチから立ち上がる。
本当はもっと一緒にいたいけど…。
莉子「こんな時間まで付き合って頂いてありがとうございました。ここで大丈夫なので…」
と莉子が言うが心配で仕方ない。こうして何気なく話しているが周囲を見れば何人かの男性グループは莉子を見てコソコソと何かを話しているのが見える。
神「…」(めっちゃ不安なんだけど…)
なんで自分は手ぶらで来てしまったんだと悔やんだ。お金がないからホームまで見送ることもできやしない…。
神「ちゃんと家に着いたか知りたいから連絡して欲しい」
と連絡先を交換する為にポケットに手を入れるがそこには何も入ってなかった。携帯すら持ってなかった。膝から崩れ落ちそうな程落胆した。連絡先交換のいい口実だったのに…。最大のチャンスを逃してしまった。
それでも莉子の帰宅をちゃんと確認したい神は同室の宮城に連絡する事を約束させる。
莉子「わかりました」
と笑う莉子。
神(マジで可愛いな…)
莉子を改札口まで送り見えなくなるまで立っていた。莉子を追いかけて行くような動きを見せる不届者もいないようだ。
神(よし…)
神は踵を返し学校へと戻ったのだった。
莉子の部屋
莉子は家に帰るとすぐに部屋に入った。そして携帯を出して宮城にメッセージを送る。
『お疲れ様です。今、家に着きました。神さんにもお伝え下さい。よろしくお願いします』
送信した後、携帯をベットに放り投げ『はぁ…』と大きなため息をつきその場にヘナヘナと力なく座り込んだ。
莉子(…明日からどうしよう…)
まさかあんな所で会うなんて思ってもなかった…。悪びれもなくニヤニヤと小馬鹿にしたような顔で『またね』言った小野寺を思い出して『最悪…』と呟いた。
もう二度と顔も見たくなかったのに…。
莉子(何も言えなかったな…)
小野寺に話しかけられて拒否できなかった。馬鹿みたいにブルブル震えてずっと神の背中に守ってもらっていただけだ。
情けない…。でも…
莉子(神さん…ずっと私の事庇ってくれてた…)
大きな背中と温かい手…。それに『俺が何とかする』という力強い言葉までもらった。それだけで莉子の心はだいぶ軽くなった。
それと同時に胸が高鳴るのを感じ始めた時、部屋がノックされた。
悠馬「ねーちゃん、今いい?」
莉子「どうぞ」
部屋に入って来たのは弟の悠馬。悠馬の手には英語の参考書と問題集。それを見た莉子はニコッと笑って『今日は英語?』と聞くとバツが悪そうに『疲れてるのわかってんだけど…』と頭を掻く悠馬。
莉子は笑って『いいよ。おいで』と自分の勉強机に座るように言うと悠馬は参考書を開き『こことここ…あと…ここ…』と問題を指差す。
莉子が悠馬の隣に立って問題を覗き込むと『あぁ…ここは…』と説明を始める。
莉子の説明を聞いて『なんだ…そんな事か…』とスラスラ解き始める悠馬。
莉子は『【そんな事】がわからないっていうのがダメなの。しっかり問題を読みなさい』と頭を小突いた。
悠馬「へーい」
悠馬の気のない返事に莉子は『まったく…』と呆れる。
2問目もスラスラ解き始める悠馬にもう大丈夫か…とクローゼットを開け着替えを探す。
問題集の上を走るシャーペンの音を聞きながら(悠馬には先輩のこと内緒にしておいた方がいいよね。余計な心配させたくないし…)と考える莉子。
悠馬「合宿どうだった?」
悠馬の質問にドキッとして手が止まる。振り返ると悠馬は問題を解いている。
莉子「…みんなすごかった…優勝もあり得るんじゃないかな…」
莉子の返事を聞いた悠馬は『そういうことじゃなくてさ…』と莉子を見た。
悠馬「俺が聞きたいのは変な奴がいなかったかってコトなんだけど」
『俺、バスケのことなんてわかんねぇし…』と言うとペンを机に置き莉子をジッと見た。
鋭い視線に『嘘ついても見破ってやるからな』という意思を感じる。
莉子はフワッと笑うと『なんだ。そんな事?そんな人いなかったよ』と答えた。
悠馬「ふーん」
疑ってるな…。
莉子は着替えを持つと悠馬の視線から逃げる様に『私、お風呂に入ってくる』とさっさと部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
悠馬「ねーちゃん」
莉子「うん?」
悠馬「何かあったらすぐに言ってよ?俺、もうあんなの嫌だからな」
莉子「……。わかってる…心配させてごめんね…」
と力なく笑うと逃げる様に部屋を出た。
海南大附属高校
清田「案外、綺麗っすね」
清田が段ボールを端っこに移動させる。神は部室にあった誰も使ってない空のロッカーを倉庫に運び込むとピカピカに拭きあげる。
神「そうだな」
バスケ部の隣にある倉庫を神と清田が片付けていた。
彦一「綺麗な水、持って来ましたよ」
と彦一もバケツを持って倉庫に現れる。
神「ありがと」
神は学校に戻って来てからすぐに牧に莉子が使っている更衣室の状態が悪すぎる!と抗議し、男バスの部室の隣にある倉庫を片付けて使ってもらう事にした。
発案者の神と、今日失礼な事を言った清田と莉子と一番近い彦一とで倉庫を片付けることになった。
神はドアの内側を拭き始めた彦一に『手伝ってくれてありがとう。巻き込んで悪いな』と声をかけた。
彦一は『いいんです。ワイは練習らしい練習してないので疲れてないし…。神さんと清田君の方が大変とちゃいます?』と答える。
神「俺は言い出しっぺだからね…」
清田「…俺は禊ぎだ…」
神はロッカーを拭きながら(とりあえず一つ目の問題はクリアだな…)と胸を撫で下ろした。
神は自分のロッカーからハンガーを2本持って来て莉子のロッカーに入れて本日の作業終了だ。
倉庫に鍵をかけて職員室に戻し、やっと部屋に戻る。
神「2人ともお疲れ様。付き合ってくれてありがとう」
3人は同じ部屋である。部屋に戻ると宮城が『おう。お疲れ』と3人を労う。
宮城以外にも仙道、福田、流川もいるが仙道と流川はすでに眠っている。
福田「…おつかれ」
神は全員分の布団がすでに準備されていることに気がつき宮城と福田に『布団準備してくれたの?ありがとう』と俺を言うと宮城が『うちの莉子ちゃんがお世話になったみたいだからな』と返した。
宮城「あ、それと莉子ちゃんから神に伝言。無事に家に着いたってさ」
神「よかった。もう寝る?電気消すよ」
彦一「ワイが電気消します」
薄暗い部屋の中、3人が空いている布団へ潜り込むと宮城が探るように『あのさ…』と神に声をかける。
神「何?」
宮城「神って…莉子ちゃんのこと意識してたりする?」
宮城の言葉に衝撃を受けたのは一年生コンビと福田。
福田・清田・彦一「‼︎‼︎⁉︎」
神は恥ずかしそうに頬を掻きながら隣の宮城に『…もしかして俺ってわかりやすい?』と尋ねた。
宮城「いや…スゲー親切だったからそうなのかなって思っただけ…。そう言う事なら一つ忠告しとく」
神「ん?」
宮城「莉子ちゃんって軽度の男嫌いだから距離感気をつけろよ」
神「男嫌い…?」
宮城「正確には『自分を好きな男』が苦手らしい」
神「何で?」
宮城「詳しくは知らない。でもアヤちゃんがそう言ってた。だからガッつくなよ。怖がらせるぞ」
神は小野寺との関係にピンときた。
神「…」(もしかして…あいつが強引に迫ったから拗れたとか…?)
ありえる…。
よく女子が愚痴ってるのを耳にする。『この俺が誘ってやってんだ。拒否するな』という態度を隠そうとしない小野寺の評判は本当に悪い。
清田「なんで男嫌いなのに男バスに入るんだよ。行動が意味不明すぎる…バカなの?」
宮城「お前…次、莉子ちゃんに暴言吐いたらブッ飛ばすからな。言葉に気をつけろよ」
清田「……」
神「忠告ありがと。気をつけるよ」
宮城「おう。頼むぞ」
彦一(どっちの忠告ですかね?)
福田(両方だろ)
清田「ぐぬぬぬ…」
というとみんなそれぞれ眠りに着いた。みんな疲れているのだろう。早々に寝息が聞こえてきた。寝息を聞きながら神は莉子のことを考える。
食堂からこの時間までのことを思い出す。
神(怒涛だったな…)
キュンとしたり焦ったり驚いたり怒ったり切なくなったり楽しくなったり…。
感情がジェットコースターの様にアップダウンするのはバスケの試合以外で経験したことがない。
神(木村さんの存在って俺にとってすごく大きいんだな…今日、初めて会ったのに…)
『神さん』と笑う莉子を想うと幸せな気持ちになれる。うとうとしてきた。
神(早く…会いたいな…明日は…どんな話しをしようかな…その前に…小野寺の事何とかしないとな…)
莉子の事を考えながら神はそっと目を閉じた。
合宿 顔合わせ終了
駅周辺はまだ飲み足りない大人と帰りたい大人との喧騒で賑わっていた。いつもなら気にもしない事だが今日は莉子がいる。変な人間に絡まれてほしくない神は周囲を見渡し安全を確認する。
莉子「神さん…送って頂いてありがとうございました」
と頭を下げる莉子を見て神は(離れたくないな…)と感じた。
寂しい…
莉子「…あ、あの…」
莉子何か言いたげに神を見上げた。どんな言葉も聞き逃すまいと神が莉子の方へ耳を傾ける。
神「なに?」
神がニッコリと笑う。優しい笑顔を向けられた莉子はバツが悪そうに視線を逸らした。
莉子「…えっと…その…」(なんて言ったらいいのかな…)
『覚悟しといて』と言われてから神の雰囲気が変わったような気がする。
どこが変わったとかここが違うとか明言はできないけど食堂で話していた時の神と今の神はどこかが違っていて困惑してしまう。
莉子「……」(神さんはずっと優しくて親切だったけど…)
神に視線を戻すと神は何も言わない莉子にイライラした様子もなく愛おしそうに見つめ返してくる。
自分に向けられる優しい視線と声色の真意が分からず居心地が悪い。
神「どうしたの?」
と顔を覗き込む神。莉子は思わず後退した。
莉子「あ、あの…その…」
神から感じるモノはなんなんだろう…?
それが知りたくて観察する様にジッと見つめる莉子に『ん?』と首を傾げる神。
探る様な視線を向けられてもどこまでも優しげな神に(やっぱり元々こういう人なのかな…?私の考え過ぎ…?)と考えるがそうだとすれば今、感じている違和感はなんなんだろう…?と答えは出ない。
不安で莉子が困っていると神が『よう』と声をかけられる。
莉子はその声にビクッとした。
神が(うわ…)と一瞬、迷惑そうな表情を浮かべたがすぐにいつもの穏やかな表情に戻ると声をかけてきた人に顔を向ける。
そこには小野寺が立っていた。
神「よう…今、帰り?」(最悪だ…)
神は莉子を背中で隠した。この男の女好きと男尊女卑は周知されている。莉子に興味を持たれても嫌だし無神経な事を言われて不快な思いもさせたくない。
背中に莉子を庇うように立つと莉子が両手で神のTシャツを掴んだ。
神「⁉︎」
予想外の行動に驚き莉子の方へ視線を送るが俯いている為、頭頂部しか見えなかった。
それでも莉子の手が微かに震えているのがわかり神は早くこの場を切り上げなければと思った。
『小野寺…悪いんだけど…』と口を開いた時、小野寺が莉子に『莉子ちゃん、久しぶりだね』と声をかけた。
小野寺の発言に神は『えっ⁉︎』と驚きの声をあげる。
神「知り合いなの?」
と莉子を見た。
神「‼︎⁉︎」
莉子は青ざめていた。先ほどの更衣室前でのやり取り以上に怯えた表情を浮かべる莉子に思わず神は『だ、大丈夫⁉︎』と顔を覗き込んだ。
莉子はハッとして神に『だ、大丈夫です…』と曖昧に笑ってから小野寺に向き直る。
莉子「小野寺先輩…お久しぶりです…」
と頭を下げる。
神「先輩…?」
怪訝そうな表情を浮かべる神をおかしそうに見つめながら小野寺が補足する。
小野寺「俺たち同じ中学なんだ。結構、仲良かったんだよ。俺たち」
『ね?』と笑顔で同意を求める小野寺。莉子はビクッと肩を震わせると『…あ、あの…』と何か言いたげに小野寺を見たがすぐに視線を逸らすと消えてしまいそうな程、小さな声で『…はい…』と答えた。
震えた声が神の胸を締め付けた。
神(この2人…絶対に何かある…)
しかも悪いことだ。
目に薄っすら涙を浮かべ怯える莉子を楽しそうに見つめる視線に嫌悪し神は顔を顰めた。
小野寺「そういう2人はどういう関係なの?」
神「選手とマネージャー」
そっけなく答える神を見ていると小野寺はますます面白くなった。
きっと自分の莉子の関係にヤキモキしているに違いない。それを必死に隠そうとしている神に小野寺の自尊心は大きく膨れ上がった。
小野寺は『そうなんだぁ』とわざとらしく大きく頷きならが莉子を見た。
小野寺「ねぇ。莉子ちゃん。募る話もあるし途中まで一緒に帰らない?」
莉子「え…」
莉子の手が『行きたくない』と訴える様に神のTシャツを強く掴み直した。
思ってるより事態は深刻だ…と感じた神は莉子の手をキュッと包み込むように握った。
莉子がハッとした様に神を見上げた。目が合うと神は笑顔を見せる。
大丈夫…。俺がいる。
莉子はそう言われたような気がした。
さっきまで怖いと思っていた神の優しい笑顔と視線が莉子の恐怖と緊張をほぐしていく。
莉子が神の手を握り返した。
神は応える様に莉子の手を力強く握った。
そして小野寺に『悪いんだけど…木村さんは俺が送ってくから』と言うと小野寺は神に向かって『神には聞いてない。ねぇ。莉子ちゃん、いいでしょ?行こうよ』と胡散臭い笑顔を貼り付けて莉子へ手を伸ばす。
莉子「っ‼︎」
莉子はギュッと目を瞑って体を硬くする。
神は小野寺の手を掴んだ。
神「……触るな…聞こえなかったのか?彼女は俺が送る」
今までに聞いたことない敵意剥き出しの低い声に小野寺は一瞬、呆気に取られた様な顔をしたがすぐにニタァと嫌な笑みを浮かべた。
小野寺「…何だよ。いつもクールなのに今日は随分と余裕ないんだな」
ついに見つけた。この女が神の弱点だ!
ニヤニヤ笑う小野寺。神は手を離した。
神「別に…」
神は莉子と小野寺の間にしっかりと立って莉子を守ろうとする。小野寺はそんな神が面白くて仕方ない様子だった。
小野寺が神の後ろに隠れている莉子を覗き込む様に見た。
小野寺「…まぁいいや。…莉子ちゃん」
小野寺の呼びかけに莉子が顔を挙げた。
莉子「…はい…」
怒ったような表情を浮かべる神を煽るように一瞥した後、笑顔で莉子に向かって『またね』と手を振った。
神「……」(こいつ…)
ギロっと小野寺を睨みつける神。
莉子は何も言えずに神の背中にピッタリと体を引っ付けるように隠れる。
莉子「…」(またねって…また会いに来るって事…?)
小野寺「神もまた明日な」
神「あぁ…」
最後に神の肩をポンっと叩いて駅の中に入って行く。それを黙って見送る神と莉子。
小野寺の姿が見えなくなっても不安げな顔をしている莉子を神は心配し『大丈夫?』とそっと手を離し莉子に目線を合わせる。
莉子の頬が赤く染まり『だ、大丈夫です…』と視線を逸らす。
苦笑いを浮かべて『そっか』とポンポンと頭を撫でると『あいつ…中で待ち伏せしているかもしれないからちょっと時間、潰そっか…』と提案する。
莉子「でも…それだと神さんが帰るの遅くなっちゃいます…今だってどこにもいないってみんな探してるかもしれないのに…」
心配そうにそんな事を言う莉子に神は笑った。
神「大丈夫だよ。どうせみんな俺は練習してるって思ってるだろうしだれも俺がいない事なんて気にしてないよ」
と顔の前で手を横に振った。
莉子が『自分で言っちゃうんですね』とクスクス笑う。
『ふふふ』と笑う柔らかな笑顔を見て心が安らぐのを感じた。
神「…」(やっぱり好きだな…この子の笑った顔…)
莉子を想うと胸が一杯になる。
自分を好きになって欲しいしもっと好きになりたいし莉子をもっと知りたいし莉子にも自分をたくさん知って欲しい。
そしてたくさんの時間を共有していつか心を通わせたい…。
神(木村さんと付き合ったら…)
莉子は付き合ったらどういう風に恋人を愛するんだろ…?
頼りになる子だし甘やかすタイプかな…いや…でも彼氏にだけ甘えるってパターンもあるか…。
神の脳裏に『もう…仕方ないなぁ…』と困ったように笑い頭を撫でてくれる莉子と『ぎゅーして?』と抱きついてくる2人の莉子が浮かんできてキュンキュン胸が疼いて口元が緩んだ。
莉子「…神さん…?」
黙り込んだ神を心配そうに見上げる莉子。ハッとした神は莉子に『何でもない!そこのベンチで少し話そうよ』と空いているベンチを指差した。
莉子「…はい…」
2人でベンチに座って話題を探す。
神(どうしよ…話題、話題…)
小野寺との話を聞きたいがやっと笑ってくれたのだ。また笑顔が曇る様な話題は避けたかった。
神(どうしよ…)
目の前をカップルが横切っていく。何となくそれを目で追った。
彼女が彼氏の耳元で何かを囁いた。神は彼女の楽しそうな雰囲気と嬉しそうな表情からきっと『好き』とか『大好き』とかそういった類いの事を言ったんだろうなと思った。彼氏は彼女の言葉を聞いた途端に嬉しそうに笑い『俺も』と彼女を抱き寄せた。
神(…いいなぁ…)
楽しそうに体を寄せ合っている男女を見て初めて羨ましいと思った。
莉子に名前を呼ばれ『大好きだよ』と笑ってもらえたらどれだけ幸せだろうか…。
莉子「楽しそうですね」
莉子の言葉に神はもしかして考えていた事がバレたのかと驚く。
神「え⁉︎⁉︎」
驚く神に莉子が『?』と首を傾げ『あそこのカップルの事なんですけど…。今、見てませんでした?』と不思議そう問う。
神「…見てた…」(ビックリした…)
莉子「素敵ですよね…。憧れちゃいます」
ドキッとした。
神「…す、好きな人いるの?」
莉子「いないから憧れるんです」
神「あ、そっか…なるほど…」(よかったぁ〜!好きな人いるのかと思った‼︎‼︎)
莉子「あ、あの…神さん…」
神「ん?」
莉子「今日は…本当にありがとうございます…私…今日だけでどれだけ神さんに助けられたかわかりません…神さんがいなかったら…」
と言葉を詰まらせる。きっと小野寺の事を思い出し不安が押し寄せて来たのかもしれない。
硬い表情の莉子を見て切なくなった。
神(こんなに困ってるのに俺には何も話してくれないんだな…というか木村さんの選択肢に『俺に頼る』がないんだよな…)
縋るように身を寄せてくる癖に『助けてほしい』と言わない莉子との間にある『距離』を猛烈に痛感してものすごく寂しい。
相談してくれたら全力で守るのに…。
がすぐに(…いや…そんなの関係ないっか…)と思い直す。相談されたいのは好きな子に頼りになる男だと思われたいっていう願望に過ぎない。そんなエゴいらない。
神「…」(木村さんにもうあんな顔してほしくない…)
自分が一番望むモノはそれだ。相談されなくてもいい。話してくれなくてもいい。一番大好きで大事な物は守ると今、決めた。
薄っすらと涙を浮かべていた莉子を見てグッと拳を握った。
神「小野寺の事なら任せて。俺が何とかするから。木村さんはなるべく1人にならないようにだけ気をつけてね」
莉子はボーッと神を見つめた後、ハッとして『あ、は、はい…ありがとうございます…』と俯いた。
10分ほど経って神が『もうそろそろいいかな…』とベンチから立ち上がる。
本当はもっと一緒にいたいけど…。
莉子「こんな時間まで付き合って頂いてありがとうございました。ここで大丈夫なので…」
と莉子が言うが心配で仕方ない。こうして何気なく話しているが周囲を見れば何人かの男性グループは莉子を見てコソコソと何かを話しているのが見える。
神「…」(めっちゃ不安なんだけど…)
なんで自分は手ぶらで来てしまったんだと悔やんだ。お金がないからホームまで見送ることもできやしない…。
神「ちゃんと家に着いたか知りたいから連絡して欲しい」
と連絡先を交換する為にポケットに手を入れるがそこには何も入ってなかった。携帯すら持ってなかった。膝から崩れ落ちそうな程落胆した。連絡先交換のいい口実だったのに…。最大のチャンスを逃してしまった。
それでも莉子の帰宅をちゃんと確認したい神は同室の宮城に連絡する事を約束させる。
莉子「わかりました」
と笑う莉子。
神(マジで可愛いな…)
莉子を改札口まで送り見えなくなるまで立っていた。莉子を追いかけて行くような動きを見せる不届者もいないようだ。
神(よし…)
神は踵を返し学校へと戻ったのだった。
莉子の部屋
莉子は家に帰るとすぐに部屋に入った。そして携帯を出して宮城にメッセージを送る。
『お疲れ様です。今、家に着きました。神さんにもお伝え下さい。よろしくお願いします』
送信した後、携帯をベットに放り投げ『はぁ…』と大きなため息をつきその場にヘナヘナと力なく座り込んだ。
莉子(…明日からどうしよう…)
まさかあんな所で会うなんて思ってもなかった…。悪びれもなくニヤニヤと小馬鹿にしたような顔で『またね』言った小野寺を思い出して『最悪…』と呟いた。
もう二度と顔も見たくなかったのに…。
莉子(何も言えなかったな…)
小野寺に話しかけられて拒否できなかった。馬鹿みたいにブルブル震えてずっと神の背中に守ってもらっていただけだ。
情けない…。でも…
莉子(神さん…ずっと私の事庇ってくれてた…)
大きな背中と温かい手…。それに『俺が何とかする』という力強い言葉までもらった。それだけで莉子の心はだいぶ軽くなった。
それと同時に胸が高鳴るのを感じ始めた時、部屋がノックされた。
悠馬「ねーちゃん、今いい?」
莉子「どうぞ」
部屋に入って来たのは弟の悠馬。悠馬の手には英語の参考書と問題集。それを見た莉子はニコッと笑って『今日は英語?』と聞くとバツが悪そうに『疲れてるのわかってんだけど…』と頭を掻く悠馬。
莉子は笑って『いいよ。おいで』と自分の勉強机に座るように言うと悠馬は参考書を開き『こことここ…あと…ここ…』と問題を指差す。
莉子が悠馬の隣に立って問題を覗き込むと『あぁ…ここは…』と説明を始める。
莉子の説明を聞いて『なんだ…そんな事か…』とスラスラ解き始める悠馬。
莉子は『【そんな事】がわからないっていうのがダメなの。しっかり問題を読みなさい』と頭を小突いた。
悠馬「へーい」
悠馬の気のない返事に莉子は『まったく…』と呆れる。
2問目もスラスラ解き始める悠馬にもう大丈夫か…とクローゼットを開け着替えを探す。
問題集の上を走るシャーペンの音を聞きながら(悠馬には先輩のこと内緒にしておいた方がいいよね。余計な心配させたくないし…)と考える莉子。
悠馬「合宿どうだった?」
悠馬の質問にドキッとして手が止まる。振り返ると悠馬は問題を解いている。
莉子「…みんなすごかった…優勝もあり得るんじゃないかな…」
莉子の返事を聞いた悠馬は『そういうことじゃなくてさ…』と莉子を見た。
悠馬「俺が聞きたいのは変な奴がいなかったかってコトなんだけど」
『俺、バスケのことなんてわかんねぇし…』と言うとペンを机に置き莉子をジッと見た。
鋭い視線に『嘘ついても見破ってやるからな』という意思を感じる。
莉子はフワッと笑うと『なんだ。そんな事?そんな人いなかったよ』と答えた。
悠馬「ふーん」
疑ってるな…。
莉子は着替えを持つと悠馬の視線から逃げる様に『私、お風呂に入ってくる』とさっさと部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
悠馬「ねーちゃん」
莉子「うん?」
悠馬「何かあったらすぐに言ってよ?俺、もうあんなの嫌だからな」
莉子「……。わかってる…心配させてごめんね…」
と力なく笑うと逃げる様に部屋を出た。
海南大附属高校
清田「案外、綺麗っすね」
清田が段ボールを端っこに移動させる。神は部室にあった誰も使ってない空のロッカーを倉庫に運び込むとピカピカに拭きあげる。
神「そうだな」
バスケ部の隣にある倉庫を神と清田が片付けていた。
彦一「綺麗な水、持って来ましたよ」
と彦一もバケツを持って倉庫に現れる。
神「ありがと」
神は学校に戻って来てからすぐに牧に莉子が使っている更衣室の状態が悪すぎる!と抗議し、男バスの部室の隣にある倉庫を片付けて使ってもらう事にした。
発案者の神と、今日失礼な事を言った清田と莉子と一番近い彦一とで倉庫を片付けることになった。
神はドアの内側を拭き始めた彦一に『手伝ってくれてありがとう。巻き込んで悪いな』と声をかけた。
彦一は『いいんです。ワイは練習らしい練習してないので疲れてないし…。神さんと清田君の方が大変とちゃいます?』と答える。
神「俺は言い出しっぺだからね…」
清田「…俺は禊ぎだ…」
神はロッカーを拭きながら(とりあえず一つ目の問題はクリアだな…)と胸を撫で下ろした。
神は自分のロッカーからハンガーを2本持って来て莉子のロッカーに入れて本日の作業終了だ。
倉庫に鍵をかけて職員室に戻し、やっと部屋に戻る。
神「2人ともお疲れ様。付き合ってくれてありがとう」
3人は同じ部屋である。部屋に戻ると宮城が『おう。お疲れ』と3人を労う。
宮城以外にも仙道、福田、流川もいるが仙道と流川はすでに眠っている。
福田「…おつかれ」
神は全員分の布団がすでに準備されていることに気がつき宮城と福田に『布団準備してくれたの?ありがとう』と俺を言うと宮城が『うちの莉子ちゃんがお世話になったみたいだからな』と返した。
宮城「あ、それと莉子ちゃんから神に伝言。無事に家に着いたってさ」
神「よかった。もう寝る?電気消すよ」
彦一「ワイが電気消します」
薄暗い部屋の中、3人が空いている布団へ潜り込むと宮城が探るように『あのさ…』と神に声をかける。
神「何?」
宮城「神って…莉子ちゃんのこと意識してたりする?」
宮城の言葉に衝撃を受けたのは一年生コンビと福田。
福田・清田・彦一「‼︎‼︎⁉︎」
神は恥ずかしそうに頬を掻きながら隣の宮城に『…もしかして俺ってわかりやすい?』と尋ねた。
宮城「いや…スゲー親切だったからそうなのかなって思っただけ…。そう言う事なら一つ忠告しとく」
神「ん?」
宮城「莉子ちゃんって軽度の男嫌いだから距離感気をつけろよ」
神「男嫌い…?」
宮城「正確には『自分を好きな男』が苦手らしい」
神「何で?」
宮城「詳しくは知らない。でもアヤちゃんがそう言ってた。だからガッつくなよ。怖がらせるぞ」
神は小野寺との関係にピンときた。
神「…」(もしかして…あいつが強引に迫ったから拗れたとか…?)
ありえる…。
よく女子が愚痴ってるのを耳にする。『この俺が誘ってやってんだ。拒否するな』という態度を隠そうとしない小野寺の評判は本当に悪い。
清田「なんで男嫌いなのに男バスに入るんだよ。行動が意味不明すぎる…バカなの?」
宮城「お前…次、莉子ちゃんに暴言吐いたらブッ飛ばすからな。言葉に気をつけろよ」
清田「……」
神「忠告ありがと。気をつけるよ」
宮城「おう。頼むぞ」
彦一(どっちの忠告ですかね?)
福田(両方だろ)
清田「ぐぬぬぬ…」
というとみんなそれぞれ眠りに着いた。みんな疲れているのだろう。早々に寝息が聞こえてきた。寝息を聞きながら神は莉子のことを考える。
食堂からこの時間までのことを思い出す。
神(怒涛だったな…)
キュンとしたり焦ったり驚いたり怒ったり切なくなったり楽しくなったり…。
感情がジェットコースターの様にアップダウンするのはバスケの試合以外で経験したことがない。
神(木村さんの存在って俺にとってすごく大きいんだな…今日、初めて会ったのに…)
『神さん』と笑う莉子を想うと幸せな気持ちになれる。うとうとしてきた。
神(早く…会いたいな…明日は…どんな話しをしようかな…その前に…小野寺の事何とかしないとな…)
莉子の事を考えながら神はそっと目を閉じた。
合宿 顔合わせ終了