神宗一郎と恋するお話
神奈川選抜
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海南大附属高校体育館。
莉子はスコアブックを机に広げ時計を見た。
莉子(あとちょっとで始まる…)
時間を確認した後、莉子は緊張した面持ちでコートに視線を向ける。
淡々と準備をしている人、ライバルに鋭い視線を向ける人、穏やかな表情で仲間と話している人…。
ギスギスした雰囲気はないが張り詰めた緊張感が漂っている。彼らは5つしかないスタメンの椅子を狙っているライバル同士なのだ。それは当然のことだ。
莉子(みんなにいい結果が残ればいいんだけど…)
この合宿中のミニゲームでスタメンが決まる。みんなが試合に出たがっているのは当たり前で莉子はみんなの願いが叶えばいいのに切実に思う。
莉子(でも実力の世界だから『みんな』ってわけにはいかないんだよね…)
と長谷川と宮城を見た。審判を務める長谷川と得点ボードの係を引き受けた宮城。特に宮城の顔には『不満』が色濃く出ている。
腕組みで立つ高頭が長谷川に『始めてくれ』と指示を出し長谷川はコクリと頷き笛を吹いた。
長谷川「はじめます」
センターラインを挟んで対峙する花形と高砂。
サークルを囲む両軍メンバー。
牧の横には藤真。
仙道の横には三井。
神の横には福田。
流川の横には清田。
高頭「ほう。そういうマッチアップになったか」
彦一「牧さん、花形さんのマークはおそらくすぐ決まったやろうけど2番から4番のポジションには藤真さんも悩んだやろうな」
彦一が独り言の様に呟き『なぁ、莉子ちゃん』と莉子に確認する。
莉子はモゴモゴとした口調で答える。
莉子「えっと…彦一君が思ってるよりは揉めなかった…かな…」
試合前の作戦会議。
確かに彦一の言う通り問題となったのは2番から4番のポジション。
最初に決まったのは流川のマークだった。
清田「流川のマークだけは譲らねえ。俺がやる」
一年生同士のライバル意識に藤真は『任せたぞ』とニコッと笑った。
残るは仙道と神のポジション。
ここは福田の宣言で決まった。
福田「仙道は無理」
一同「え…」
と言うことで神には福田がつくことになったのだった。
莉子(まさか消去法で決まったなんて誰も思わないだろうな…)
長谷川がボールをトスした。
ティップオフ。
バッシイ‼︎‼︎
制したのは身長に勝る花形。跳ねたボールを仙道が取りすかさずボールを牧に手渡す。
仙道「お願いします」
牧「オウ」
牧は一本指を立てて、声を出す。
牧「よーーっし、まず一本‼︎」
Aチーム「おう‼︎‼︎」
彦一「始まった‼︎要チェックや‼︎‼︎」
興奮状態の彦一に慌てて莉子が『しーっ!』と人差し指を唇に当てる。
莉子「彦一君!声が入っちゃうよ‼︎」
高頭(カメラを持ってても静かにできんのか…)
牧(さあ、どこに渡すか)
ボールを持つ牧がゴール周辺に目をやる。
キュ、キュキュッ‼︎
仙道、流川、神が外角で動く。
神と仙道の目が合う。
仙道(行け!)
仙道のスクリーンの合図を受け神が動き出す。
ガッシイイ‼︎‼︎
仙道のスクリーンで福田の動きが止まる。
福田「‼︎⁉︎」(しまった‼︎)
仙道「フッ」
驚く福田に仙道が不敵に笑う。
神が逆サイドまで一気に動く。
牧(よし!)
牧から神へのパス。
神がボールを受け取った時には、既にシュートモーションに入っており、すかさずボールが放たれる。
彦一「速いっ‼︎」
ビッ‼︎‼︎
神の放ったボールは綺麗な放物線を描きゴールに吸い込まれていった。
ザシュ‼︎
ミドルシュートがリングを射抜く。
牧「よーーっし‼︎」
バチン‼︎‼︎
牧と神のハイタッチ。牧とハイタッチした後はクルリと振り返ると仙道に向かって手を挙げた。仙道も笑顔で神に手をあげる。そしてパチンと小気味よい音を立ててハイタッチを交わす。
仙道「ナイッシュ!」
神「ナイス!」
彦一はカメラで二人を追いながら叫ぶ。
彦一「うおおおーーーー‼︎‼︎仙道さんと神さんの連携‼︎‼︎しかも2人のハイタッチのオマケ付き!これはたまらんで!」
莉子「すごーい…かっこいいなぁ…」
神がチラッと莉子を見た。キラキラと輝く瞳と微かに動く唇に『かっこいい』と言っていると読み取ると血液が沸騰した様に全身が熱くなった。
ドクンドクンと鼓動が脈打ち心が興奮しているのに頭の中はどこまでもクリアで五感が研ぎ澄まされていくような感覚に神は『ふぅ…』と大きく息を吐いた。
スーパープレー後の様に血が滾るのを感じる。
神(今なら何でもできそうだな)
莉子の存在は神の背中を押す。
仙道「やる気マンマンだな」
神「まぁね…」
と神と仙道はニコッと笑い合った。
その頃Bチームの面々は…
三井が福田に攻撃。
三井「テメエ、簡単に引っかかってんじゃねえよ。仙道は無理とか言って神についたくせに簡単にやられてんじゃねぇ‼︎」
福田「スクリーンの声がなかった」
三井「あ‼︎⁉︎」
福田「スクリーンを知らせなかった奴が悪い」
三井「なんだと?」
清田「まあ、神さんはスクリーンの使い方が上手えからなあ」
三井「なに感心してんだよテメエ。知ってんなら先に教えろよ」
清田「はあ、弱小校はすぐに他人に頼る……」
三井・福田「なに⁉︎」
最初のディフェンスで早速ケンカを始める3人。
莉子「た、大変…」
藤真・高砂「…………」
立ち上がりから最高の雰囲気を作ったAチームとは対照的な雰囲気に藤真が苦笑いを浮かべ高砂に話し掛ける。
藤真「牧のチームがうらやましいな」
高砂「だな。まずはAチームに移る事を最初の目標にするか」
藤真「そうするか」
『あははは』と冗談を言い合う藤真と高砂。しかし莉子はこの発言を耳にして心配になった。
莉子(味方にあんな事言われるなんて…)
連携の向上が急務。
準備をしながらも高頭の言葉に耳を傾けていた莉子は焦る。
莉子(連携が大事って監督が言ってたのに…まさか、忘れてるなんて事ないよね?)
莉子がギュッと唇を噛み3人を睨む。そんな事には気づかず3人は罵り合っている。
ムスッ〜とした表情で罵り合う3人を見ている莉子を見て神はフッと表情を和らげる。
神「……」(怒ってる…のか…?ムッとしてても可愛いな…)
楽しげにクスクスと笑う神に仙道が『どうした?』と声をかける。
神「何でもない」
仙道「そうか?」
神「さぁ次はディフェンスだ。気を引き締めていこう」
そして、Bチームの攻撃。
マッチアップは藤真に牧、三井に神、清田に流川、福田に仙道、高砂に花形。
彦一(こっちは三井さんとフクさんのところのマッチアップが逆や)
藤真がボールを運ぶ。
Bチームメンバーを眺める。
藤真(これまたケンカが始まりそうだな…)
藤真の予想は的中し3人がパスを求めて大声を出し手を振りアピール合戦が始まる。
清田「こっちこっち‼︎」
三井「こっちだ藤真‼︎」
福田「こっち」
藤真(やっぱり…)
高頭も「やっぱりな…」と苦笑い。
『やっぱりな…』がもはや連携を期待されていない様に聞こえますます莉子は心配になる。
莉子(『やっぱりな』ってどういう意味なの⁉︎あぁ!お願い‼︎なんでもいいから早くチームワークを見せて‼︎)
コートを動き回る3人。
そして三井が声をかける。
三井「福田、スクリーンだ!俺をフリーにしろ!」
彦一「お、連携の指示‼︎」
高頭「…こっちは無言の連携にはならんか…」
顎に手を当て『うーーーん』と唸る高頭の言葉を聞いた莉子はハラハラした表情で三井達を見ている。
莉子(大丈夫。まだ初日だもん。今は無言じゃなくてもこのプレーから徐々に連携プレーが増えていけば問題ない)
莉子のペンを持つ手に力が入る。
莉子(まだまだ始まったばかりです‼︎頑張って下さい‼︎)
しかし福田はこの指示をスルー。
福田は『フン』と顔を横に向けてしまった。
三井(野郎…‼︎)
莉子「ウソでしょ…」
頭を抱える莉子。
高砂(まったく…)
呆れた高砂が動き神にスクリーンを仕掛ける。
三井が動き一瞬フリーになるとすかさず藤真からボールが入る。
高頭(上手い)
三井「よし‼︎」(さすがだぜ…いいパスだ!)
シュート体勢に入ると三井の前に大きな影。
三井「っ‼︎」(仙道⁉︎)
仙道にブロックされボールはコートの外へ。
『よしっ』と仙道は自陣へ戻っていく。三井の怒りの矛先は仙道とマッチアップしていた福田に向けられる。
三井「仙道の動きしっかり見とけ‼︎」
福田「…俺の所為じゃないだろ。油断した奴が悪い」
三井「んだと、テメェ…さっきは自分で『スクリーンの声がなかった』って人のせいにした癖に自分の事は棚に上げんのかよ」
莉子「大変!」
莉子はこのままではまたケンカが始まってしまうと慌ててストップウォッチで残り時間を確認するとケンカしている2人に向かって叫ぶ。
莉子「もう3分経過してますよ‼︎切り替えて次にいきましょう‼︎」
三井「何?もう3分も経ったのかよ⁉︎」
藤真「さぁ!切り替えてディフェンスだ!」
藤真は険悪なムードの三井と福田の背中を押し2人を離した後、莉子に向かって親指を突き出す。
藤真(サンキュ)
そんな藤真に対して莉子はパンと手の平を合わせる。
莉子(藤真さんと高砂さんだけが頼りです…問題児3人をよろしくお願いします!)
手の平を擦り合わせる真意は汲み取れなかったが莉子の必死な行動に藤真はクスッと笑った。
藤真「ふっ…」
2人のやり取りを見ていた神はムッとした。
神「…」(なんだ?今のやり取り…もしかして藤真さんと仲良いのか?…いつの間に…?)
ズーンと心が重くなる。
そうこうしている内に牧のペネトレイトに合わせてカットに切れ込んだ流川が完璧なタイミングでパスを受けてシュートを決める。
神「あ…」
牧「オッケーーーー‼︎」
バチン‼︎
牧&流川、ハイタッチ。
仙道「ナイス」
花形「よし、次はディフェンだ‼︎」
神「オウ!」(今はこの試合に集中だ‼︎)
いい雰囲気で声を掛け合うAチーム。
スコアボードの横に立つ宮城、得点表をめくる。
A組 8
B組 2
宮城「Aはいい感じの空気になってるな」
莉子「そうですね…」
宮城(それに比べて…)
宮城がBチームベンチを冷ややかな視線で見る。
三井「またテメエか‼︎流川にやられすぎだ!」
清田「ああーー、うるせーー‼︎」
三井の言葉に耳を塞ぐ清田。
予想通りの展開に宮城は呆れたように呟く。
宮城「Bは早いとこメンバーを替えた方がいいな」
莉子「そんな…実力の半分も出せてないのに…」
続くBチームの攻撃。
ローポストの福田にボールが入る。
マークは仙道だ。三井と清田の目がギラっと光る。
三井・清田(アイツは仙道との勝負にはいかねえ‼︎‼︎)
そう読んだ2人はほぼ同時に手を挙げ叫ぶ。
三井「よし、外だ。俺によこせ!」
清田「違う‼︎こっち、こっち‼︎」
だがオフェンス時の福田は違った。
福田(仙道から点を獲る!)
ダム‼︎
仙道に背中をぶつけながらゴール下を狙う。
藤真「……!⁉︎」(強引に行った‼︎)
三井・清田「なに⁉︎」
ダム‼︎‼︎
スピンムーブで仙道をかわしシュート。
彦一「おおおお‼︎‼︎」
牧「‼︎」
莉子「入って‼︎」
莉子が胸の前で手を握って祈る。
ガン‼︎
祈り届かず惜しくも外れる。
莉子「あぁ!‼︎惜しいっ‼︎‼︎」
「リバーーーーーーーン‼︎‼︎」
バシイイイ!
リバウンドは福田が制する。
高頭「お!」
莉子「きゃーーー‼︎福田さんすごーーーい‼︎」
莉子がファンの様に立ち上がり手を叩き福田に声援を送る。
神「…」(俺だって…)
ビシィィ‼︎
だが着地した瞬間を狙って仙道がボールをはたく。
莉子「ああ…‼︎」
福田「っ‼︎⁉︎」(仙道⁉︎)
仙道はニコッと笑うと福田を指差す。
仙道「油断は禁物だぜ、福田」
と言うと莉子をチラッと見た後、ボールを牧に渡す。
攻撃はAチームへと移った。
ボールを奪われたBチームではまたもや喧嘩が始まっていた。
清田「だからパスって言ったのに‼︎」
三井「自分だけ目立とうとすんじゃねえ、バカヤロー‼︎」
2人から責められ福田はプルプルと震え出す。
福田「くっ‼︎」
莉子「もうっ‼︎」(なんで責めてばかりなの⁉︎)
莉子は『福田さん‼︎ナイスプレーでした‼︎次はきっと入ります‼︎』と大声を出す。
莉子の言葉に福田はコクリと頷く。
莉子の隣で高頭は嬉しそうに扇子を仰ぐ。
高頭(外れたがいいプレーだったな)
福田のプレーに満足そうな表情を浮かべる高頭を見て清田の闘志に火が付く。
清田(俺も目立ってやる!)
バッシイイ‼︎‼︎
花形「……‼︎⁉︎」
ハイポストの花形が外にさばいたボールを、ジャンプ一番、清田信長がカット。
清田「いよっしゃあああーーーーー‼︎」
花形(なんだ今のジャンプは……)
莉子「わぁ!すごい‼︎」
神「……」(う、羨ましい…)
藤真「速攻‼︎」
「オウ‼︎‼︎」
Bチームのカウンターアタック。
牧「戻れ‼︎‼︎」
ビッ‼︎
藤真から左前方を走る三井へ。
三井「ヘイ‼︎」
清田、福田が中央を走る。
三井、ニヤリ。
三井「もらった!」
ビッ‼︎‼︎
躊躇なくスリーポイント。
ザシュ‼︎‼︎
彦一「おおおおーーーー‼︎決まった‼︎‼︎」
莉子「ナイシュー!」
高頭「三井寿……」
三井、仲間に向けて手を掲げる。
三井「よーーっし、決めたぜ‼︎」
だが、味方メンバーはハイタッチに来ない。
清田「んだよ、さっきは自分だけ目立とうとするなとか言って」
福田「自分の時はパスせず撃つのか」
莉子「本当ありえない…なんなの…」
藤真・高砂「………」
三井「テメエら、仲間の得点だろうが。喜べよ!」
清田・福田「フン」
彦一「あらあら……」
莉子「もぅ…」
莉子がぐったりと項垂れる。その後もBチームはイマイチ噛み合わないまま時間だけが過ぎ長谷川のホイッスルが無情にもゲーム終了を告げる。
『ピーーーーーーーーー‼︎‼︎』
牧「よーーっし、第1ゲーム終了‼︎」
10分ゲーム終了
A組 19
B組 10
高頭「お疲れさん」
彦一は大興奮でAチームの選手達を褒め称える。
彦一「いやあ凄い‼︎こら日本中に衝撃をもたらすチームになること間違いなしや!」
ビデオカメラを止めるのも忘れて、ひたすら1人で喋っている。
そして両軍メンバーはひとまず休憩……とはならず、すぐに10分の振り返りが始まる。
A組ベンチ。
汗を拭きながら花形が牧と仙道に自分の位置取りの確認する。
花形「俺はもう少し中で場所をとってた方がいいか?」
牧と仙道の返答を待つ。汗を拭きながら牧は『いや…』と花形を見た。
牧「俺は動いてくれた方がやりやすい」
仙道「俺は中で構えててもらった方がやりやすいですね」
2人の意見は異なる。
花形「なるほど…」(自ら中に切り込む牧と、魚住と一緒に戦っていた仙道の違い…だな)
ノート片手に横で聞いている彦一がペンを走らせる。
彦一(海南にビッグマンがおらんのは、そういう理由なんや…。牧さんはゴール下にスペースがあった方がやりやすいんや。海南は牧さんを生かすチームなんや)
牧「流川はどうだ?やりにくい部分はあったか?」
流川「いや、特に」
牧、ニコリ。
牧「お前は好きなように動いてくれればいい。4番というポジションにとらわれず、自分の長所を存分に出してくれ」
流川は静かにうなずいた。
B組ベンチ。
やはりケンカ状態。藤真、高砂、長谷川は並んでベンチに座り言い合う3人を眺めている。
三井、福田、清田の3人は立ち上がって言い争いを始める。
清田「俺のスピードを活かすには動かなきゃだめだろ」
三井「俺をフリーにするようスクリーンかけろ」
福田「点を獲るのは俺だ」
高砂「………」
長谷川「………」
藤真は腕組み、言い合いを続けている3人を見つめている。
そこに莉子がタオルを持ってやって来た。
莉子「タオルどうぞ」
高砂と長谷川が『ありがとう』とタオルを受け取る。藤真もタオルを受け取ると不安そうにケンカをしている3人を見ている莉子に声を掛けた。
藤真「チームとして機能すれば、A組と互角に戦えるくらいのポテンシャルはあるんだけどな」(合宿本番は明日からだし…今日はこんなモンかな…)
莉子「…私もそう思います…」
3人のケンカはまだ続いている。
清田「ディフェンスだって俺の身体能力が…」
三井「バカヤロー。経験のある俺のほうが上だ!」
福田 「………」
ディフェンスの話のときは無口になる福田に莉子がキュンと胸がなる。
莉子(かわいい…じゃなくて‼︎)
話を聞いていた莉子は福田にほっこりとした気分になるがすぐに三井、福田、清田に声を掛ける。
莉子「あ、あの…」
三井「なんだよ?」
莉子「も、もうちょっと…みなさんお互いに歩み寄った方がいいのではないでしょうか…」
三井「あ?」
三井の射抜くような視線に莉子は萎縮しながらも選手達に活躍してほしい一心で必死に言葉を繋ぐ。
莉子「『連携の向上が急務だ』って監督もおっしゃっていましたよね…。でもさっきの試合は正直グダグダだったし…このままじゃまずいですよ」
莉子の発言に清田がキレた。
清田「うるせぇ‼︎外野に俺たちの何がわかるんだ‼︎たかがマネージャーの分際で分かったような口を聞くんじゃねぇ‼︎つまんねぇこと言ってねぇで黙って雑用やってろ‼︎‼︎」
清田の大声に体育館内はシーンと静まり返った。その静寂は落とした針一本の音さえも響きそうなモノだった。
清田(あ…しまった…)
言い過ぎた。そう思った時にはすでに遅く目の前に立っている莉子の目が見る見るウチに潤み始め瞳が大きく揺れた。
事情がわからないAチームは清田の言葉に唖然とし、Bチームも突然の事に頭が回らず立ち尽くしているだけ。
潤んだ瞳に清田だけでなく体育館にいた人間全員が莉子が(泣く!)と思った。
三井「お前っ!」
と清田の胸ぐらに手を伸ばす三井。藤真達は(乱闘)の2文字が頭を横切り咄嗟に藤真達が立ち上がり三井に手を伸ばす。
三井の手が届くか届かないかで『じゃあちゃんとやってよ‼︎』と莉子が声を張り上げた。
三井・清田「…は?」
三井と清田が莉子を見た。
藤真達「‼︎⁉︎」
藤真達もピタッと動きを止めた。それくらい莉子の声には迫力があった。
莉子は清田に詰め寄った。
清田「⁉︎」
莉子が下から清田を睨む。そして清田に人差し指を向けて言葉を続ける。
莉子「私に黙って雑用させたいならやることちゃんとやって‼︎本当に監督が最初に言ってた事覚えてるの⁉︎『連携の向上が急務』って言ってたの‼︎わかる⁉︎れ・ん・け・いっ‼︎‼︎」
莉子の迫力にタジタジになりながらも清田も負けじと言い返す。
清田「わ、分かってる!だから今、俺の持ち味をどう生かすかの話し合いを…」
莉子「それが違うでしょ!って言ってるの‼︎まずは仲間を活かすプレーを考えて‼︎連携ってそういう事でしょ⁉︎」
藤真(おぉ…言った)
清田「ぐっ…」
三井「そーだ、そーだ。年上を敬えってんだ」
三井の言葉に福田もコクコクと頷く。そんな2人に莉子は『何を言ってるんですか‼︎2人もです‼︎』とギロリと睨む。
『え⁉︎』と戸惑う2人に莉子は仁王立ちで話し始める。鬼気迫る莉子の気迫に藤真と高砂、長谷川は3人に正座をさせると莉子の背中側へ回り、さも『俺たちはマネージャーの味方です』という雰囲気を出す。
莉子「福田さん…スクリーンの指示を無視しましたよね?アレどういうつもりですか?」
福田「…イヤ…アレは…」
しどろもどろな福田に三井が『ぷっ』と小馬鹿にしたように笑う。莉子の怒りの矛先は三井へ。
莉子「…何笑ってるんですか…?そういう所ですよ‼︎」
三井「は?俺は別に何もしてねぇだろ‼︎俺は指示出したしシュートだって決めた‼︎」
莉子「三井さんはなんでイチイチ2人を煽ったり罵るんですか⁉︎そんな態度だからシュート入れても誰もハイタッチしてもらえないし指示もスルーされちゃうんです‼︎」
三井「ぐっ…」
清田・福田「……」(ザマァ…)
莉子は3人を見た。
莉子「今更『俺はすごいんだ』ってアピールしなくてもみんなすごい事は知っているんです‼︎次のゲームではチームが勝つことを第一に考えて下さい‼︎わかった‼︎⁉︎」
3人「わ…、ワカリマシタ…」
と正座をしたまま頷く3人。
莉子(やっちゃった…どうしよう…)
いやな汗が背中を伝う。地獄だ。こんな事をやらかした後にどんな顔をして練習に参加したらいいのかわからない。
莉子「……わ、わかったならいいです‼︎私は…え、えっと…あっ!夕食の準備をしてきますから次のゲームは頑張って下さいね‼︎‼︎」
と言うと莉子はそのままピューっと走って体育館から出て行ってしまった。
莉子がいなくなった体育館。張り詰めた空気はすっかりなくなっていた。
仙道「はは…すっげぇな…」
神「…本当…すごい…」
と仙道と神は顔を見合わせた後、楽しそうな表情を浮かべた神が『さて…Bチームは次から実力を出してくるぞ。気を引き締めていこう』と笑った。
莉子はスコアブックを机に広げ時計を見た。
莉子(あとちょっとで始まる…)
時間を確認した後、莉子は緊張した面持ちでコートに視線を向ける。
淡々と準備をしている人、ライバルに鋭い視線を向ける人、穏やかな表情で仲間と話している人…。
ギスギスした雰囲気はないが張り詰めた緊張感が漂っている。彼らは5つしかないスタメンの椅子を狙っているライバル同士なのだ。それは当然のことだ。
莉子(みんなにいい結果が残ればいいんだけど…)
この合宿中のミニゲームでスタメンが決まる。みんなが試合に出たがっているのは当たり前で莉子はみんなの願いが叶えばいいのに切実に思う。
莉子(でも実力の世界だから『みんな』ってわけにはいかないんだよね…)
と長谷川と宮城を見た。審判を務める長谷川と得点ボードの係を引き受けた宮城。特に宮城の顔には『不満』が色濃く出ている。
腕組みで立つ高頭が長谷川に『始めてくれ』と指示を出し長谷川はコクリと頷き笛を吹いた。
長谷川「はじめます」
センターラインを挟んで対峙する花形と高砂。
サークルを囲む両軍メンバー。
牧の横には藤真。
仙道の横には三井。
神の横には福田。
流川の横には清田。
高頭「ほう。そういうマッチアップになったか」
彦一「牧さん、花形さんのマークはおそらくすぐ決まったやろうけど2番から4番のポジションには藤真さんも悩んだやろうな」
彦一が独り言の様に呟き『なぁ、莉子ちゃん』と莉子に確認する。
莉子はモゴモゴとした口調で答える。
莉子「えっと…彦一君が思ってるよりは揉めなかった…かな…」
試合前の作戦会議。
確かに彦一の言う通り問題となったのは2番から4番のポジション。
最初に決まったのは流川のマークだった。
清田「流川のマークだけは譲らねえ。俺がやる」
一年生同士のライバル意識に藤真は『任せたぞ』とニコッと笑った。
残るは仙道と神のポジション。
ここは福田の宣言で決まった。
福田「仙道は無理」
一同「え…」
と言うことで神には福田がつくことになったのだった。
莉子(まさか消去法で決まったなんて誰も思わないだろうな…)
長谷川がボールをトスした。
ティップオフ。
バッシイ‼︎‼︎
制したのは身長に勝る花形。跳ねたボールを仙道が取りすかさずボールを牧に手渡す。
仙道「お願いします」
牧「オウ」
牧は一本指を立てて、声を出す。
牧「よーーっし、まず一本‼︎」
Aチーム「おう‼︎‼︎」
彦一「始まった‼︎要チェックや‼︎‼︎」
興奮状態の彦一に慌てて莉子が『しーっ!』と人差し指を唇に当てる。
莉子「彦一君!声が入っちゃうよ‼︎」
高頭(カメラを持ってても静かにできんのか…)
牧(さあ、どこに渡すか)
ボールを持つ牧がゴール周辺に目をやる。
キュ、キュキュッ‼︎
仙道、流川、神が外角で動く。
神と仙道の目が合う。
仙道(行け!)
仙道のスクリーンの合図を受け神が動き出す。
ガッシイイ‼︎‼︎
仙道のスクリーンで福田の動きが止まる。
福田「‼︎⁉︎」(しまった‼︎)
仙道「フッ」
驚く福田に仙道が不敵に笑う。
神が逆サイドまで一気に動く。
牧(よし!)
牧から神へのパス。
神がボールを受け取った時には、既にシュートモーションに入っており、すかさずボールが放たれる。
彦一「速いっ‼︎」
ビッ‼︎‼︎
神の放ったボールは綺麗な放物線を描きゴールに吸い込まれていった。
ザシュ‼︎
ミドルシュートがリングを射抜く。
牧「よーーっし‼︎」
バチン‼︎‼︎
牧と神のハイタッチ。牧とハイタッチした後はクルリと振り返ると仙道に向かって手を挙げた。仙道も笑顔で神に手をあげる。そしてパチンと小気味よい音を立ててハイタッチを交わす。
仙道「ナイッシュ!」
神「ナイス!」
彦一はカメラで二人を追いながら叫ぶ。
彦一「うおおおーーーー‼︎‼︎仙道さんと神さんの連携‼︎‼︎しかも2人のハイタッチのオマケ付き!これはたまらんで!」
莉子「すごーい…かっこいいなぁ…」
神がチラッと莉子を見た。キラキラと輝く瞳と微かに動く唇に『かっこいい』と言っていると読み取ると血液が沸騰した様に全身が熱くなった。
ドクンドクンと鼓動が脈打ち心が興奮しているのに頭の中はどこまでもクリアで五感が研ぎ澄まされていくような感覚に神は『ふぅ…』と大きく息を吐いた。
スーパープレー後の様に血が滾るのを感じる。
神(今なら何でもできそうだな)
莉子の存在は神の背中を押す。
仙道「やる気マンマンだな」
神「まぁね…」
と神と仙道はニコッと笑い合った。
その頃Bチームの面々は…
三井が福田に攻撃。
三井「テメエ、簡単に引っかかってんじゃねえよ。仙道は無理とか言って神についたくせに簡単にやられてんじゃねぇ‼︎」
福田「スクリーンの声がなかった」
三井「あ‼︎⁉︎」
福田「スクリーンを知らせなかった奴が悪い」
三井「なんだと?」
清田「まあ、神さんはスクリーンの使い方が上手えからなあ」
三井「なに感心してんだよテメエ。知ってんなら先に教えろよ」
清田「はあ、弱小校はすぐに他人に頼る……」
三井・福田「なに⁉︎」
最初のディフェンスで早速ケンカを始める3人。
莉子「た、大変…」
藤真・高砂「…………」
立ち上がりから最高の雰囲気を作ったAチームとは対照的な雰囲気に藤真が苦笑いを浮かべ高砂に話し掛ける。
藤真「牧のチームがうらやましいな」
高砂「だな。まずはAチームに移る事を最初の目標にするか」
藤真「そうするか」
『あははは』と冗談を言い合う藤真と高砂。しかし莉子はこの発言を耳にして心配になった。
莉子(味方にあんな事言われるなんて…)
連携の向上が急務。
準備をしながらも高頭の言葉に耳を傾けていた莉子は焦る。
莉子(連携が大事って監督が言ってたのに…まさか、忘れてるなんて事ないよね?)
莉子がギュッと唇を噛み3人を睨む。そんな事には気づかず3人は罵り合っている。
ムスッ〜とした表情で罵り合う3人を見ている莉子を見て神はフッと表情を和らげる。
神「……」(怒ってる…のか…?ムッとしてても可愛いな…)
楽しげにクスクスと笑う神に仙道が『どうした?』と声をかける。
神「何でもない」
仙道「そうか?」
神「さぁ次はディフェンスだ。気を引き締めていこう」
そして、Bチームの攻撃。
マッチアップは藤真に牧、三井に神、清田に流川、福田に仙道、高砂に花形。
彦一(こっちは三井さんとフクさんのところのマッチアップが逆や)
藤真がボールを運ぶ。
Bチームメンバーを眺める。
藤真(これまたケンカが始まりそうだな…)
藤真の予想は的中し3人がパスを求めて大声を出し手を振りアピール合戦が始まる。
清田「こっちこっち‼︎」
三井「こっちだ藤真‼︎」
福田「こっち」
藤真(やっぱり…)
高頭も「やっぱりな…」と苦笑い。
『やっぱりな…』がもはや連携を期待されていない様に聞こえますます莉子は心配になる。
莉子(『やっぱりな』ってどういう意味なの⁉︎あぁ!お願い‼︎なんでもいいから早くチームワークを見せて‼︎)
コートを動き回る3人。
そして三井が声をかける。
三井「福田、スクリーンだ!俺をフリーにしろ!」
彦一「お、連携の指示‼︎」
高頭「…こっちは無言の連携にはならんか…」
顎に手を当て『うーーーん』と唸る高頭の言葉を聞いた莉子はハラハラした表情で三井達を見ている。
莉子(大丈夫。まだ初日だもん。今は無言じゃなくてもこのプレーから徐々に連携プレーが増えていけば問題ない)
莉子のペンを持つ手に力が入る。
莉子(まだまだ始まったばかりです‼︎頑張って下さい‼︎)
しかし福田はこの指示をスルー。
福田は『フン』と顔を横に向けてしまった。
三井(野郎…‼︎)
莉子「ウソでしょ…」
頭を抱える莉子。
高砂(まったく…)
呆れた高砂が動き神にスクリーンを仕掛ける。
三井が動き一瞬フリーになるとすかさず藤真からボールが入る。
高頭(上手い)
三井「よし‼︎」(さすがだぜ…いいパスだ!)
シュート体勢に入ると三井の前に大きな影。
三井「っ‼︎」(仙道⁉︎)
仙道にブロックされボールはコートの外へ。
『よしっ』と仙道は自陣へ戻っていく。三井の怒りの矛先は仙道とマッチアップしていた福田に向けられる。
三井「仙道の動きしっかり見とけ‼︎」
福田「…俺の所為じゃないだろ。油断した奴が悪い」
三井「んだと、テメェ…さっきは自分で『スクリーンの声がなかった』って人のせいにした癖に自分の事は棚に上げんのかよ」
莉子「大変!」
莉子はこのままではまたケンカが始まってしまうと慌ててストップウォッチで残り時間を確認するとケンカしている2人に向かって叫ぶ。
莉子「もう3分経過してますよ‼︎切り替えて次にいきましょう‼︎」
三井「何?もう3分も経ったのかよ⁉︎」
藤真「さぁ!切り替えてディフェンスだ!」
藤真は険悪なムードの三井と福田の背中を押し2人を離した後、莉子に向かって親指を突き出す。
藤真(サンキュ)
そんな藤真に対して莉子はパンと手の平を合わせる。
莉子(藤真さんと高砂さんだけが頼りです…問題児3人をよろしくお願いします!)
手の平を擦り合わせる真意は汲み取れなかったが莉子の必死な行動に藤真はクスッと笑った。
藤真「ふっ…」
2人のやり取りを見ていた神はムッとした。
神「…」(なんだ?今のやり取り…もしかして藤真さんと仲良いのか?…いつの間に…?)
ズーンと心が重くなる。
そうこうしている内に牧のペネトレイトに合わせてカットに切れ込んだ流川が完璧なタイミングでパスを受けてシュートを決める。
神「あ…」
牧「オッケーーーー‼︎」
バチン‼︎
牧&流川、ハイタッチ。
仙道「ナイス」
花形「よし、次はディフェンだ‼︎」
神「オウ!」(今はこの試合に集中だ‼︎)
いい雰囲気で声を掛け合うAチーム。
スコアボードの横に立つ宮城、得点表をめくる。
A組 8
B組 2
宮城「Aはいい感じの空気になってるな」
莉子「そうですね…」
宮城(それに比べて…)
宮城がBチームベンチを冷ややかな視線で見る。
三井「またテメエか‼︎流川にやられすぎだ!」
清田「ああーー、うるせーー‼︎」
三井の言葉に耳を塞ぐ清田。
予想通りの展開に宮城は呆れたように呟く。
宮城「Bは早いとこメンバーを替えた方がいいな」
莉子「そんな…実力の半分も出せてないのに…」
続くBチームの攻撃。
ローポストの福田にボールが入る。
マークは仙道だ。三井と清田の目がギラっと光る。
三井・清田(アイツは仙道との勝負にはいかねえ‼︎‼︎)
そう読んだ2人はほぼ同時に手を挙げ叫ぶ。
三井「よし、外だ。俺によこせ!」
清田「違う‼︎こっち、こっち‼︎」
だがオフェンス時の福田は違った。
福田(仙道から点を獲る!)
ダム‼︎
仙道に背中をぶつけながらゴール下を狙う。
藤真「……!⁉︎」(強引に行った‼︎)
三井・清田「なに⁉︎」
ダム‼︎‼︎
スピンムーブで仙道をかわしシュート。
彦一「おおおお‼︎‼︎」
牧「‼︎」
莉子「入って‼︎」
莉子が胸の前で手を握って祈る。
ガン‼︎
祈り届かず惜しくも外れる。
莉子「あぁ!‼︎惜しいっ‼︎‼︎」
「リバーーーーーーーン‼︎‼︎」
バシイイイ!
リバウンドは福田が制する。
高頭「お!」
莉子「きゃーーー‼︎福田さんすごーーーい‼︎」
莉子がファンの様に立ち上がり手を叩き福田に声援を送る。
神「…」(俺だって…)
ビシィィ‼︎
だが着地した瞬間を狙って仙道がボールをはたく。
莉子「ああ…‼︎」
福田「っ‼︎⁉︎」(仙道⁉︎)
仙道はニコッと笑うと福田を指差す。
仙道「油断は禁物だぜ、福田」
と言うと莉子をチラッと見た後、ボールを牧に渡す。
攻撃はAチームへと移った。
ボールを奪われたBチームではまたもや喧嘩が始まっていた。
清田「だからパスって言ったのに‼︎」
三井「自分だけ目立とうとすんじゃねえ、バカヤロー‼︎」
2人から責められ福田はプルプルと震え出す。
福田「くっ‼︎」
莉子「もうっ‼︎」(なんで責めてばかりなの⁉︎)
莉子は『福田さん‼︎ナイスプレーでした‼︎次はきっと入ります‼︎』と大声を出す。
莉子の言葉に福田はコクリと頷く。
莉子の隣で高頭は嬉しそうに扇子を仰ぐ。
高頭(外れたがいいプレーだったな)
福田のプレーに満足そうな表情を浮かべる高頭を見て清田の闘志に火が付く。
清田(俺も目立ってやる!)
バッシイイ‼︎‼︎
花形「……‼︎⁉︎」
ハイポストの花形が外にさばいたボールを、ジャンプ一番、清田信長がカット。
清田「いよっしゃあああーーーーー‼︎」
花形(なんだ今のジャンプは……)
莉子「わぁ!すごい‼︎」
神「……」(う、羨ましい…)
藤真「速攻‼︎」
「オウ‼︎‼︎」
Bチームのカウンターアタック。
牧「戻れ‼︎‼︎」
ビッ‼︎
藤真から左前方を走る三井へ。
三井「ヘイ‼︎」
清田、福田が中央を走る。
三井、ニヤリ。
三井「もらった!」
ビッ‼︎‼︎
躊躇なくスリーポイント。
ザシュ‼︎‼︎
彦一「おおおおーーーー‼︎決まった‼︎‼︎」
莉子「ナイシュー!」
高頭「三井寿……」
三井、仲間に向けて手を掲げる。
三井「よーーっし、決めたぜ‼︎」
だが、味方メンバーはハイタッチに来ない。
清田「んだよ、さっきは自分だけ目立とうとするなとか言って」
福田「自分の時はパスせず撃つのか」
莉子「本当ありえない…なんなの…」
藤真・高砂「………」
三井「テメエら、仲間の得点だろうが。喜べよ!」
清田・福田「フン」
彦一「あらあら……」
莉子「もぅ…」
莉子がぐったりと項垂れる。その後もBチームはイマイチ噛み合わないまま時間だけが過ぎ長谷川のホイッスルが無情にもゲーム終了を告げる。
『ピーーーーーーーーー‼︎‼︎』
牧「よーーっし、第1ゲーム終了‼︎」
10分ゲーム終了
A組 19
B組 10
高頭「お疲れさん」
彦一は大興奮でAチームの選手達を褒め称える。
彦一「いやあ凄い‼︎こら日本中に衝撃をもたらすチームになること間違いなしや!」
ビデオカメラを止めるのも忘れて、ひたすら1人で喋っている。
そして両軍メンバーはひとまず休憩……とはならず、すぐに10分の振り返りが始まる。
A組ベンチ。
汗を拭きながら花形が牧と仙道に自分の位置取りの確認する。
花形「俺はもう少し中で場所をとってた方がいいか?」
牧と仙道の返答を待つ。汗を拭きながら牧は『いや…』と花形を見た。
牧「俺は動いてくれた方がやりやすい」
仙道「俺は中で構えててもらった方がやりやすいですね」
2人の意見は異なる。
花形「なるほど…」(自ら中に切り込む牧と、魚住と一緒に戦っていた仙道の違い…だな)
ノート片手に横で聞いている彦一がペンを走らせる。
彦一(海南にビッグマンがおらんのは、そういう理由なんや…。牧さんはゴール下にスペースがあった方がやりやすいんや。海南は牧さんを生かすチームなんや)
牧「流川はどうだ?やりにくい部分はあったか?」
流川「いや、特に」
牧、ニコリ。
牧「お前は好きなように動いてくれればいい。4番というポジションにとらわれず、自分の長所を存分に出してくれ」
流川は静かにうなずいた。
B組ベンチ。
やはりケンカ状態。藤真、高砂、長谷川は並んでベンチに座り言い合う3人を眺めている。
三井、福田、清田の3人は立ち上がって言い争いを始める。
清田「俺のスピードを活かすには動かなきゃだめだろ」
三井「俺をフリーにするようスクリーンかけろ」
福田「点を獲るのは俺だ」
高砂「………」
長谷川「………」
藤真は腕組み、言い合いを続けている3人を見つめている。
そこに莉子がタオルを持ってやって来た。
莉子「タオルどうぞ」
高砂と長谷川が『ありがとう』とタオルを受け取る。藤真もタオルを受け取ると不安そうにケンカをしている3人を見ている莉子に声を掛けた。
藤真「チームとして機能すれば、A組と互角に戦えるくらいのポテンシャルはあるんだけどな」(合宿本番は明日からだし…今日はこんなモンかな…)
莉子「…私もそう思います…」
3人のケンカはまだ続いている。
清田「ディフェンスだって俺の身体能力が…」
三井「バカヤロー。経験のある俺のほうが上だ!」
福田 「………」
ディフェンスの話のときは無口になる福田に莉子がキュンと胸がなる。
莉子(かわいい…じゃなくて‼︎)
話を聞いていた莉子は福田にほっこりとした気分になるがすぐに三井、福田、清田に声を掛ける。
莉子「あ、あの…」
三井「なんだよ?」
莉子「も、もうちょっと…みなさんお互いに歩み寄った方がいいのではないでしょうか…」
三井「あ?」
三井の射抜くような視線に莉子は萎縮しながらも選手達に活躍してほしい一心で必死に言葉を繋ぐ。
莉子「『連携の向上が急務だ』って監督もおっしゃっていましたよね…。でもさっきの試合は正直グダグダだったし…このままじゃまずいですよ」
莉子の発言に清田がキレた。
清田「うるせぇ‼︎外野に俺たちの何がわかるんだ‼︎たかがマネージャーの分際で分かったような口を聞くんじゃねぇ‼︎つまんねぇこと言ってねぇで黙って雑用やってろ‼︎‼︎」
清田の大声に体育館内はシーンと静まり返った。その静寂は落とした針一本の音さえも響きそうなモノだった。
清田(あ…しまった…)
言い過ぎた。そう思った時にはすでに遅く目の前に立っている莉子の目が見る見るウチに潤み始め瞳が大きく揺れた。
事情がわからないAチームは清田の言葉に唖然とし、Bチームも突然の事に頭が回らず立ち尽くしているだけ。
潤んだ瞳に清田だけでなく体育館にいた人間全員が莉子が(泣く!)と思った。
三井「お前っ!」
と清田の胸ぐらに手を伸ばす三井。藤真達は(乱闘)の2文字が頭を横切り咄嗟に藤真達が立ち上がり三井に手を伸ばす。
三井の手が届くか届かないかで『じゃあちゃんとやってよ‼︎』と莉子が声を張り上げた。
三井・清田「…は?」
三井と清田が莉子を見た。
藤真達「‼︎⁉︎」
藤真達もピタッと動きを止めた。それくらい莉子の声には迫力があった。
莉子は清田に詰め寄った。
清田「⁉︎」
莉子が下から清田を睨む。そして清田に人差し指を向けて言葉を続ける。
莉子「私に黙って雑用させたいならやることちゃんとやって‼︎本当に監督が最初に言ってた事覚えてるの⁉︎『連携の向上が急務』って言ってたの‼︎わかる⁉︎れ・ん・け・いっ‼︎‼︎」
莉子の迫力にタジタジになりながらも清田も負けじと言い返す。
清田「わ、分かってる!だから今、俺の持ち味をどう生かすかの話し合いを…」
莉子「それが違うでしょ!って言ってるの‼︎まずは仲間を活かすプレーを考えて‼︎連携ってそういう事でしょ⁉︎」
藤真(おぉ…言った)
清田「ぐっ…」
三井「そーだ、そーだ。年上を敬えってんだ」
三井の言葉に福田もコクコクと頷く。そんな2人に莉子は『何を言ってるんですか‼︎2人もです‼︎』とギロリと睨む。
『え⁉︎』と戸惑う2人に莉子は仁王立ちで話し始める。鬼気迫る莉子の気迫に藤真と高砂、長谷川は3人に正座をさせると莉子の背中側へ回り、さも『俺たちはマネージャーの味方です』という雰囲気を出す。
莉子「福田さん…スクリーンの指示を無視しましたよね?アレどういうつもりですか?」
福田「…イヤ…アレは…」
しどろもどろな福田に三井が『ぷっ』と小馬鹿にしたように笑う。莉子の怒りの矛先は三井へ。
莉子「…何笑ってるんですか…?そういう所ですよ‼︎」
三井「は?俺は別に何もしてねぇだろ‼︎俺は指示出したしシュートだって決めた‼︎」
莉子「三井さんはなんでイチイチ2人を煽ったり罵るんですか⁉︎そんな態度だからシュート入れても誰もハイタッチしてもらえないし指示もスルーされちゃうんです‼︎」
三井「ぐっ…」
清田・福田「……」(ザマァ…)
莉子は3人を見た。
莉子「今更『俺はすごいんだ』ってアピールしなくてもみんなすごい事は知っているんです‼︎次のゲームではチームが勝つことを第一に考えて下さい‼︎わかった‼︎⁉︎」
3人「わ…、ワカリマシタ…」
と正座をしたまま頷く3人。
莉子(やっちゃった…どうしよう…)
いやな汗が背中を伝う。地獄だ。こんな事をやらかした後にどんな顔をして練習に参加したらいいのかわからない。
莉子「……わ、わかったならいいです‼︎私は…え、えっと…あっ!夕食の準備をしてきますから次のゲームは頑張って下さいね‼︎‼︎」
と言うと莉子はそのままピューっと走って体育館から出て行ってしまった。
莉子がいなくなった体育館。張り詰めた空気はすっかりなくなっていた。
仙道「はは…すっげぇな…」
神「…本当…すごい…」
と仙道と神は顔を見合わせた後、楽しそうな表情を浮かべた神が『さて…Bチームは次から実力を出してくるぞ。気を引き締めていこう』と笑った。