神宗一郎と恋するお話
国体
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国体、初日終了
控室に戻った選手達は満足げな表情で各自が試合を振り返っている。
監督の指示通り圧倒的な強さを見せる事ができた試合内容に選手達の表情は明るい。
莉子「……」(よかった…みんな活躍できて…)
和気藹々とした選手達の雰囲気に莉子の頬も自然と緩む。
そんな莉子を見た神の頬も緩む。
神(嬉しそう…よかった)
仙道が莉子に話しかける。
仙道「これだけやりゃ、さすがに名前と顔、覚えて貰えただろ?」
神は(ん?)と首を傾げる。
仙道の言葉に莉子は嬉しそうに『バッチリです‼︎さすが仙道さんです‼︎‼︎』と親指を立てる。
自分にはわからない話題で笑いあう2人に神はわかりやすく嫉妬した。
神「な、何の話?」
仙道「‼︎⁉︎」
引き攣った笑顔に仙道はギョッとするが莉子はテンション高く答える。
莉子「仙道さんとみんなをびっくりさせるプレイをするって約束したんです」
神は莉子には『そうなんだ。それで仙道はスーパープレイ連発だったのか』と笑うのに仙道に対しては『ふーーーーん』と責めるような視線。
仙道は慌てて『深い意味はない』と言うが『何も言ってないだろ』と冷たい返事。
仙道「まいったな…」
と困った様に頭を掻く仙道。
その時、宮城が『莉子ちゃん、使ったタオルどうしたらいい?』と声をかけられ莉子は『あ、私が回収します』と宮城の方へ向かう。
選手が使ったタオルや空のドリンクボトルを回収すると莉子は控室を出て行った。
莉子が出て行った後、仙道はくるりと神の方へ振り返った。
仙道「…本当に変な意味はないからな」
チラッと仙道を見たものの何も言わずユニフォームを脱ぐ神。
神「……」
仙道「…神?」
まるで浮気疑惑をかけられた彼氏のような顔をした仙道に神はフッと笑う。
神「ごめん。怒ってもないし、下心がないのも本当にわかってる。ただ…」
言葉を切った神に仙道は首を傾げながら『ただ?』と話を続けるように促す。
仙道に見つめられ神は困ったように笑うと『他の男と仲良くしてる所を見るのは面白くない』と言った。
神の言葉に仙道は笑う。
仙道「…それは難しいだろうな。意外と人懐っこいし」
神は『そうなんだよなぁ…』とため息まじりに呟くと仙道に向かって『でも…まぁ…精進しますよ』と笑ったのだった。
控室を出た莉子は外の水飲み場で空のボトルを簡単にすすぎ、運んだ道具を運転手に再び手伝ってもらいながら荷物をバスに入れた。
莉子「ありがとうございました」
運転手お礼を言って会場に戻る。
「ざわざわ………」
メイン体育館の玄関前で先ほどの試合を振り返り大勢の人が興奮で賑わっている。
「神奈川選抜すごかったな」
「今大会の優勝候補に入れて間違いないな」
そんな声が聞こえ莉子は誇らしい気持ちになる。
莉子(フフン。まだまだ余力残してるんだから)
なんて事を考えていると人だかりに気付いた。
それが張り出されたトーナメント表だとわかると『確認しなきゃ…』と向かう。
背が高い莉子だが後ろの方からだと背伸びをしないと見えない。
莉子(見えにくいな…)
トーナメント表を目で追い何度も爪先立ちを繰り返しながら次の対戦相手を探している莉子。
莉子「えっと…次は…」
そんな莉子の後ろ姿を見ている神。
莉子「次は…静岡か…」
みんなよりひと足先に控室を出ていた神。
神「……」
本当は手伝うつもりだった。
一緒に話でもしながら作業できたらいいと思っていた。
でもいざ仕事を黙々とこなしている莉子を見ていたら邪魔してはいけない気がした。
きっと莉子はマネージャーという仕事を全力でこなしている。そして選手達の手を煩わせたくないと思っているはずだから神は見守ることに決めた。
少しでも自己肯定感の低い莉子の自信になればいい。
神(やり切ったことが自信になったらいいな…)
そう思いながら雑用をこなしていく莉子を見ていたのだった。
神「……」(可愛い…)
莉子はトーナメント表に夢中になっていて気づいていないがチラホラ莉子を見ては何やらコソコソしている男子達がいる。
神「……」(木村さんのこと変な目で見るなよ…)
自分だって(可愛い)と思いながら見ていたことは棚にあげ男子グループを睨む神。
ムッとしていると控え室を出た神奈川メンバー達が莉子に近づいていく。
牧が『待たせてすまない』と言うと莉子は首を横に振り、『お疲れ様です』と笑う。牧は隣に立ち『次はどこだ?』と問う。
莉子「次は…」
他チームの結果を確認する為にトーナメント表の前に集まってきたメンバーに莉子が対戦相手を告げようとすると『よう』と後ろから声を掛けられた。
『ん?』と振り返る牧。そこに立っていたのは愛知代表の諸星大だった。
莉子(わぁ…諸星さんだ…貫禄があるなぁ…)
と感心したのも束の間。莉子は桜木が言っていた『綺麗なリョーちん』を思い出し思わず奥歯を噛んだ。
莉子「……」(だめ…笑っちゃ…だめ…絶対、だめ…)
神「ん?」(なんだ…?神妙な顔してるな…)
牧「なんだ…お前達も来てたのか…愛知はシードだろ」
とトーナメント表を見る。
諸星「今大会の1番の注目チームが出るんだから見とかねぇとな」
牧「?どこだ?」
諸星「お前らだよ!『山王を倒した湘北』がいるチームだぞ。注目されてるに決まってるだろ。まぁ…そんな湘北も俺達が倒したけどな」
莉子(むぅ…)
人知れず頬を膨らませる莉子を見て神は(はは。怒ってる)と笑う。
諸星のマウントを華麗にスルーした牧はトーナメント表を確認する。
牧「お前らと当たるとしたら……、決勝か。その時はよろしく頼むよ」
余裕たっぷりな態度の牧に諸星は苦笑いを浮かべた。
諸星「相変わらず…お前は落ち着いてんな…本当に同じ18歳か?」
神・清田(あっ…)
牧の地雷を踏んでしまったのではないかと気が気でない2人は顔を見合わせてそっと牧を見た。
牧「フッ…」
と笑うと諸星に言う。
牧「俺は年相応だよ。お前が落ち着き無さすぎるんだ」
諸星「俺『が』年相応だよ」
神(もう気にしてないのかな…)
清田(さすが牧さんだ!トラッシュトークも受け流す懐の深さ…さすがだぜ‼︎)
諸星が近くにいた流川に気がついた。
諸星「流川もいたのか。夏にウチとやった時は、本調子じゃなかったんだな。今日の試合…俺たちとやった時とは大違いじゃねーか。今度はきっちり決着つけてやるからな。俺たちとぶつかるまで負けるなよ?」
流川、目がギラリと光る。
流川「フン、誰に言ってやがる…テメエも倒して俺が日本一になってやるよ」
諸星「フッ…生意気なヤローだ」(潰しがいがあるぜ…)
本当にその通りだと莉子は思った。
莉子「……」(なんてハラハラするやり取りなの…)
流川の失礼な物言いをハラハラしながら見ていると一つの野次が飛んできた。
「おいおいおい!何ゆうとんねん‼︎」
牧「ん?」
莉子「あ…豊玉の…」
莉子が流川の後ろに隠れた。直接、嫌なことを言われたことはないのだか高圧的な態度が小野寺を彷彿とさせ責められているような気分になって怖くなってくる。
莉子「……」(情けないな…)
日々の生活に埋もれ思い出す回数も少なくなったがも、ふとした瞬間に思い出して怯える自分に情けなくなる。
まだ立ち直っていないと思い知らされる。
莉子「……」(いつになったら忘れられるんだろ…)
流川の後ろでしゅんとしている莉子に気付く。
神「……」
神は莉子の隣に立った。
莉子が神を見上げる。
目が合うと神は(だいじょうぶ?)と口をパクパクと動かした。
莉子(…心配してくれたんだ…)
気付いてくれる。側にいてくれる。心配してくれる…。
そんな人がいることがこんなに心強いなんて知らなかった。
莉子は『ふふ』と笑うとコクっと頷いた。
神もニコッと笑う。
諸星「なんだぁ…?」
顔を顰め訝しげに声のする方へ振り返る諸星。
両メンバーが振り返ると岸本が立っていた。
他にも同校の南や大栄学園の土屋の顔が並んでいた。Tシャツにはもちろん「大阪」と書かれている。
牧(土屋か…)
莉子「……」(土屋さんだ…。仙道さんに似たプレイスタイルって彦一君が言ってたような…)
神奈川が順調に勝ち進んだ場合、3回戦で大阪と当たる可能性が高い。
つまり神奈川と愛知の会話は、神奈川が大阪を倒す前提のモノと言うことで岸本の怒りを買ってしまったのだ。
三井がウンザリとした表情を浮かべる。
三井「なんだ。テメエらかよ…」
三井を無視して岸本は流川にふっかける。
岸本「おい、ナガレカワ。夏のカリは返させてもらうで」
と南と肩を組んだ。
南「……」(俺を巻き込むなや…)
騒ぐ岸本と迷惑そうな顔をしている南の顔をキョトンとした表情で見つめて流川がポツリと呟く。
流川「…………ダレ?」
莉子「っ⁉︎」
岸本「……っな‼︎‼︎⁉︎な、なんやとぉ‼︎‼︎⁉︎」
三井・宮城「だーーはっはっはっは‼︎‼︎いいぞ流川‼︎」
涙を流しながら大笑いする三井は流川の背中をバシバシ叩く。
莉子は思わず心の中で(止めてよ‼︎先輩でしょ‼︎)と突っ込む。
三井「無愛想なくせに小ワザが利くじゃねえか!」
宮城「せーのっ‼︎」
三井・宮城・清田「お前はだれだぁ‼︎⁉︎」
莉子(最悪…)
プルプルプルと震え出す岸本。
岸本「クソどもがっ‼︎‼︎」
激怒している岸本に莉子はハッとして流川の肩をバシンと叩く。
莉子「夏の大会の初戦で戦ったでしょ‼︎」
慌てふためく莉子を見て流川は『あぁ…。あの品のないヤジの…』と言い放つ流川の口を抑え『もうしゃべるな‼︎このおバカ‼︎』と怒る莉子。
神「ふっ…」(お、おバカ…)
と肩を震わす神。
諸星(やるな、流川…)
高砂・花形・長谷川(誰か止めろよ…)
「あれって神奈川と愛知…と、大阪のメンバーじゃないか?」
「喧嘩か?」
騒ぐメンバー達の様子に気付いた周りの人達が騒ぎ始める。
莉子「……」(牧さん…藤真さん…)
困った莉子が助けを求めて2人を見た。
牧「…うちのチームが失礼な事言って悪かったな。この決着は試合でという事でここは穏便に頼む」
南「こっちも岸本が絡んで悪かったな」
そして、牧が解散をうながす。
牧「さあ、試合前にくだらん話はやめだ。そろそろ宿舎に帰るぞ」
三井が岸本に声を掛ける。
三井「うちの後輩が失礼な事して悪かったな」
南(お前も一緒になってゆうとったけどな…)
莉子「……」(今更遅いよ…本当…赤木先輩が恋しい…)
岸本「…お、おう…」
無事に(?)国体初戦終了
莉子「お待たせしました」
フロントでチェックインの手続きをした莉子は高頭に鍵を渡す。
高頭は礼を言って鍵を受け取ると牧と藤真に向かって部屋割りと明日の集合時間の確認の指示を出すと部屋に戻って行った。
牧は莉子に鍵を一つ渡す。
牧「ゆっくり休んでくれ」
莉子「はい。ありがとうございます」
残りの3つの鍵を持つ牧が『どう分ける?』と藤真に問う。
藤真「滅多にない機会だし学年で分けて他校交流しないか?」
藤真が部屋割りについてそう言った直後莉子が『え』と声を出した。
一斉に莉子に視線が集まる。莉子は『す、すみません』と頭を下げた。
牧「意見があるなら聞くぞ」
莉子「い、いえ…意見…というか…」
牧「遠慮するな」
みんなの視線はとても優しいもので莉子は勇気を出して『あ、あの…』と自分の意見を話し始める。
莉子「…学年で分けると…彦一君が…」
彦一「え。わい?」
莉子は清田と流川を見て小さな声で『大変だな…って思います…』と言った。
清田「…てめ…どういう意味だ!」
莉子「‼︎」
ガシッ!
ガルルルルと威嚇する清田の首根っこを掴む神。
神「うるさい」
清田「⁉︎」
神は莉子に『ごめんね。続きどうぞ』と促す。
莉子はチラッと清田を見て『はい…』と返事をして言葉を紡ぐ。
莉子「…いつも流川君と喧嘩してるし…巻き込まれる彦一君が可哀想かなーって思います。仲裁できる人がもう1人いると心強いと思います…」
莉子の言葉に一瞬静まり返ったが全員がほぼ同じタイミングで『たしかに!』と言った。
清田「‼︎⁉︎」
神「じゃあ3年生は3年生で一部屋使ってもらって、1年と2年を混ぜて2で割りましょう」
と言うと牧が『そうだな。神と仙道で話し合って決めてくれ』と部屋の鍵を2つ渡す。
宮城、福田「……」(俺は…?)
すると流川がスススと仙道の方へ近づいていく。
仙道「お。俺と同じ部屋がいいのか?」
流川はコクリと頷いた。
清田「じゃあ俺は神さんの部屋!」
莉子「…流川君」
仙道と流川が莉子を見た。いつになく真剣な顔をした莉子。
そんな莉子が何を言うのかと仙道と神は注目した。
莉子「流川君、同じ部屋だからって仙道さんを1ON1に誘っちゃダメだよ?」
流川「‼︎⁉︎」
流川は『ダメなの⁉︎』と言わんばかりに目を見開き驚いている。
莉子「ダメだよ。白熱しちゃって怪我しちゃうかもしれないでしょ?だからここでは明日に備えてゆっくり休むんだよ」
莉子はそっと流川の肩に手を置いた。
そして莉子は念を押すように『わかった?』と首を傾げた。
流川「……」
流川はしばらく何かを考えた後スッと莉子に手を出し『ん』と一言。
莉子「え?何?」
さらに手を前に出し『鍵』と一言。
莉子「え?鍵?」
流川「俺、1人部屋使う」
莉子「はぁ⁉︎」
神・福田、宮城、清田「‼︎‼︎⁉︎」
仙道は1人、お腹を抱えて大笑い。
仙道「ははははっ」
流川は『ん』とさらに鍵を要求する。
莉子「本気で言ってるの?」
流川がコクリと頷く。
神「ばっ…ばか‼︎何言ってんだ‼︎木村さんは女の子だぞ!俺らと同じ部屋でいいわけないだろ‼︎‼︎木村さんは1人部屋決定だ!」
流川「……」(あれもダメ…これもダメ…)
ゲンナリした様子の流川。
仙道「ややこしい話はなし。グーとパーで分かれたらいいだろ」
と笑う仙道。
宮城「そうだな…。全員でやるぞ」
と円になるメンバー達。
流川「………」
流川が輪に入ろうとしないのを見て莉子が『これ以上わがまま言うなら監督と同じ部屋にするよ』と言うと慌ててサッと輪に加わる。
莉子は腕を組んで流川の様子を見ている。
そんな莉子に向かって仙道は『木村も混ざるか?』と揶揄う様に笑う。
莉子「混ざりません!」
と莉子が頬を膨らませるのだった。
控室に戻った選手達は満足げな表情で各自が試合を振り返っている。
監督の指示通り圧倒的な強さを見せる事ができた試合内容に選手達の表情は明るい。
莉子「……」(よかった…みんな活躍できて…)
和気藹々とした選手達の雰囲気に莉子の頬も自然と緩む。
そんな莉子を見た神の頬も緩む。
神(嬉しそう…よかった)
仙道が莉子に話しかける。
仙道「これだけやりゃ、さすがに名前と顔、覚えて貰えただろ?」
神は(ん?)と首を傾げる。
仙道の言葉に莉子は嬉しそうに『バッチリです‼︎さすが仙道さんです‼︎‼︎』と親指を立てる。
自分にはわからない話題で笑いあう2人に神はわかりやすく嫉妬した。
神「な、何の話?」
仙道「‼︎⁉︎」
引き攣った笑顔に仙道はギョッとするが莉子はテンション高く答える。
莉子「仙道さんとみんなをびっくりさせるプレイをするって約束したんです」
神は莉子には『そうなんだ。それで仙道はスーパープレイ連発だったのか』と笑うのに仙道に対しては『ふーーーーん』と責めるような視線。
仙道は慌てて『深い意味はない』と言うが『何も言ってないだろ』と冷たい返事。
仙道「まいったな…」
と困った様に頭を掻く仙道。
その時、宮城が『莉子ちゃん、使ったタオルどうしたらいい?』と声をかけられ莉子は『あ、私が回収します』と宮城の方へ向かう。
選手が使ったタオルや空のドリンクボトルを回収すると莉子は控室を出て行った。
莉子が出て行った後、仙道はくるりと神の方へ振り返った。
仙道「…本当に変な意味はないからな」
チラッと仙道を見たものの何も言わずユニフォームを脱ぐ神。
神「……」
仙道「…神?」
まるで浮気疑惑をかけられた彼氏のような顔をした仙道に神はフッと笑う。
神「ごめん。怒ってもないし、下心がないのも本当にわかってる。ただ…」
言葉を切った神に仙道は首を傾げながら『ただ?』と話を続けるように促す。
仙道に見つめられ神は困ったように笑うと『他の男と仲良くしてる所を見るのは面白くない』と言った。
神の言葉に仙道は笑う。
仙道「…それは難しいだろうな。意外と人懐っこいし」
神は『そうなんだよなぁ…』とため息まじりに呟くと仙道に向かって『でも…まぁ…精進しますよ』と笑ったのだった。
控室を出た莉子は外の水飲み場で空のボトルを簡単にすすぎ、運んだ道具を運転手に再び手伝ってもらいながら荷物をバスに入れた。
莉子「ありがとうございました」
運転手お礼を言って会場に戻る。
「ざわざわ………」
メイン体育館の玄関前で先ほどの試合を振り返り大勢の人が興奮で賑わっている。
「神奈川選抜すごかったな」
「今大会の優勝候補に入れて間違いないな」
そんな声が聞こえ莉子は誇らしい気持ちになる。
莉子(フフン。まだまだ余力残してるんだから)
なんて事を考えていると人だかりに気付いた。
それが張り出されたトーナメント表だとわかると『確認しなきゃ…』と向かう。
背が高い莉子だが後ろの方からだと背伸びをしないと見えない。
莉子(見えにくいな…)
トーナメント表を目で追い何度も爪先立ちを繰り返しながら次の対戦相手を探している莉子。
莉子「えっと…次は…」
そんな莉子の後ろ姿を見ている神。
莉子「次は…静岡か…」
みんなよりひと足先に控室を出ていた神。
神「……」
本当は手伝うつもりだった。
一緒に話でもしながら作業できたらいいと思っていた。
でもいざ仕事を黙々とこなしている莉子を見ていたら邪魔してはいけない気がした。
きっと莉子はマネージャーという仕事を全力でこなしている。そして選手達の手を煩わせたくないと思っているはずだから神は見守ることに決めた。
少しでも自己肯定感の低い莉子の自信になればいい。
神(やり切ったことが自信になったらいいな…)
そう思いながら雑用をこなしていく莉子を見ていたのだった。
神「……」(可愛い…)
莉子はトーナメント表に夢中になっていて気づいていないがチラホラ莉子を見ては何やらコソコソしている男子達がいる。
神「……」(木村さんのこと変な目で見るなよ…)
自分だって(可愛い)と思いながら見ていたことは棚にあげ男子グループを睨む神。
ムッとしていると控え室を出た神奈川メンバー達が莉子に近づいていく。
牧が『待たせてすまない』と言うと莉子は首を横に振り、『お疲れ様です』と笑う。牧は隣に立ち『次はどこだ?』と問う。
莉子「次は…」
他チームの結果を確認する為にトーナメント表の前に集まってきたメンバーに莉子が対戦相手を告げようとすると『よう』と後ろから声を掛けられた。
『ん?』と振り返る牧。そこに立っていたのは愛知代表の諸星大だった。
莉子(わぁ…諸星さんだ…貫禄があるなぁ…)
と感心したのも束の間。莉子は桜木が言っていた『綺麗なリョーちん』を思い出し思わず奥歯を噛んだ。
莉子「……」(だめ…笑っちゃ…だめ…絶対、だめ…)
神「ん?」(なんだ…?神妙な顔してるな…)
牧「なんだ…お前達も来てたのか…愛知はシードだろ」
とトーナメント表を見る。
諸星「今大会の1番の注目チームが出るんだから見とかねぇとな」
牧「?どこだ?」
諸星「お前らだよ!『山王を倒した湘北』がいるチームだぞ。注目されてるに決まってるだろ。まぁ…そんな湘北も俺達が倒したけどな」
莉子(むぅ…)
人知れず頬を膨らませる莉子を見て神は(はは。怒ってる)と笑う。
諸星のマウントを華麗にスルーした牧はトーナメント表を確認する。
牧「お前らと当たるとしたら……、決勝か。その時はよろしく頼むよ」
余裕たっぷりな態度の牧に諸星は苦笑いを浮かべた。
諸星「相変わらず…お前は落ち着いてんな…本当に同じ18歳か?」
神・清田(あっ…)
牧の地雷を踏んでしまったのではないかと気が気でない2人は顔を見合わせてそっと牧を見た。
牧「フッ…」
と笑うと諸星に言う。
牧「俺は年相応だよ。お前が落ち着き無さすぎるんだ」
諸星「俺『が』年相応だよ」
神(もう気にしてないのかな…)
清田(さすが牧さんだ!トラッシュトークも受け流す懐の深さ…さすがだぜ‼︎)
諸星が近くにいた流川に気がついた。
諸星「流川もいたのか。夏にウチとやった時は、本調子じゃなかったんだな。今日の試合…俺たちとやった時とは大違いじゃねーか。今度はきっちり決着つけてやるからな。俺たちとぶつかるまで負けるなよ?」
流川、目がギラリと光る。
流川「フン、誰に言ってやがる…テメエも倒して俺が日本一になってやるよ」
諸星「フッ…生意気なヤローだ」(潰しがいがあるぜ…)
本当にその通りだと莉子は思った。
莉子「……」(なんてハラハラするやり取りなの…)
流川の失礼な物言いをハラハラしながら見ていると一つの野次が飛んできた。
「おいおいおい!何ゆうとんねん‼︎」
牧「ん?」
莉子「あ…豊玉の…」
莉子が流川の後ろに隠れた。直接、嫌なことを言われたことはないのだか高圧的な態度が小野寺を彷彿とさせ責められているような気分になって怖くなってくる。
莉子「……」(情けないな…)
日々の生活に埋もれ思い出す回数も少なくなったがも、ふとした瞬間に思い出して怯える自分に情けなくなる。
まだ立ち直っていないと思い知らされる。
莉子「……」(いつになったら忘れられるんだろ…)
流川の後ろでしゅんとしている莉子に気付く。
神「……」
神は莉子の隣に立った。
莉子が神を見上げる。
目が合うと神は(だいじょうぶ?)と口をパクパクと動かした。
莉子(…心配してくれたんだ…)
気付いてくれる。側にいてくれる。心配してくれる…。
そんな人がいることがこんなに心強いなんて知らなかった。
莉子は『ふふ』と笑うとコクっと頷いた。
神もニコッと笑う。
諸星「なんだぁ…?」
顔を顰め訝しげに声のする方へ振り返る諸星。
両メンバーが振り返ると岸本が立っていた。
他にも同校の南や大栄学園の土屋の顔が並んでいた。Tシャツにはもちろん「大阪」と書かれている。
牧(土屋か…)
莉子「……」(土屋さんだ…。仙道さんに似たプレイスタイルって彦一君が言ってたような…)
神奈川が順調に勝ち進んだ場合、3回戦で大阪と当たる可能性が高い。
つまり神奈川と愛知の会話は、神奈川が大阪を倒す前提のモノと言うことで岸本の怒りを買ってしまったのだ。
三井がウンザリとした表情を浮かべる。
三井「なんだ。テメエらかよ…」
三井を無視して岸本は流川にふっかける。
岸本「おい、ナガレカワ。夏のカリは返させてもらうで」
と南と肩を組んだ。
南「……」(俺を巻き込むなや…)
騒ぐ岸本と迷惑そうな顔をしている南の顔をキョトンとした表情で見つめて流川がポツリと呟く。
流川「…………ダレ?」
莉子「っ⁉︎」
岸本「……っな‼︎‼︎⁉︎な、なんやとぉ‼︎‼︎⁉︎」
三井・宮城「だーーはっはっはっは‼︎‼︎いいぞ流川‼︎」
涙を流しながら大笑いする三井は流川の背中をバシバシ叩く。
莉子は思わず心の中で(止めてよ‼︎先輩でしょ‼︎)と突っ込む。
三井「無愛想なくせに小ワザが利くじゃねえか!」
宮城「せーのっ‼︎」
三井・宮城・清田「お前はだれだぁ‼︎⁉︎」
莉子(最悪…)
プルプルプルと震え出す岸本。
岸本「クソどもがっ‼︎‼︎」
激怒している岸本に莉子はハッとして流川の肩をバシンと叩く。
莉子「夏の大会の初戦で戦ったでしょ‼︎」
慌てふためく莉子を見て流川は『あぁ…。あの品のないヤジの…』と言い放つ流川の口を抑え『もうしゃべるな‼︎このおバカ‼︎』と怒る莉子。
神「ふっ…」(お、おバカ…)
と肩を震わす神。
諸星(やるな、流川…)
高砂・花形・長谷川(誰か止めろよ…)
「あれって神奈川と愛知…と、大阪のメンバーじゃないか?」
「喧嘩か?」
騒ぐメンバー達の様子に気付いた周りの人達が騒ぎ始める。
莉子「……」(牧さん…藤真さん…)
困った莉子が助けを求めて2人を見た。
牧「…うちのチームが失礼な事言って悪かったな。この決着は試合でという事でここは穏便に頼む」
南「こっちも岸本が絡んで悪かったな」
そして、牧が解散をうながす。
牧「さあ、試合前にくだらん話はやめだ。そろそろ宿舎に帰るぞ」
三井が岸本に声を掛ける。
三井「うちの後輩が失礼な事して悪かったな」
南(お前も一緒になってゆうとったけどな…)
莉子「……」(今更遅いよ…本当…赤木先輩が恋しい…)
岸本「…お、おう…」
無事に(?)国体初戦終了
莉子「お待たせしました」
フロントでチェックインの手続きをした莉子は高頭に鍵を渡す。
高頭は礼を言って鍵を受け取ると牧と藤真に向かって部屋割りと明日の集合時間の確認の指示を出すと部屋に戻って行った。
牧は莉子に鍵を一つ渡す。
牧「ゆっくり休んでくれ」
莉子「はい。ありがとうございます」
残りの3つの鍵を持つ牧が『どう分ける?』と藤真に問う。
藤真「滅多にない機会だし学年で分けて他校交流しないか?」
藤真が部屋割りについてそう言った直後莉子が『え』と声を出した。
一斉に莉子に視線が集まる。莉子は『す、すみません』と頭を下げた。
牧「意見があるなら聞くぞ」
莉子「い、いえ…意見…というか…」
牧「遠慮するな」
みんなの視線はとても優しいもので莉子は勇気を出して『あ、あの…』と自分の意見を話し始める。
莉子「…学年で分けると…彦一君が…」
彦一「え。わい?」
莉子は清田と流川を見て小さな声で『大変だな…って思います…』と言った。
清田「…てめ…どういう意味だ!」
莉子「‼︎」
ガシッ!
ガルルルルと威嚇する清田の首根っこを掴む神。
神「うるさい」
清田「⁉︎」
神は莉子に『ごめんね。続きどうぞ』と促す。
莉子はチラッと清田を見て『はい…』と返事をして言葉を紡ぐ。
莉子「…いつも流川君と喧嘩してるし…巻き込まれる彦一君が可哀想かなーって思います。仲裁できる人がもう1人いると心強いと思います…」
莉子の言葉に一瞬静まり返ったが全員がほぼ同じタイミングで『たしかに!』と言った。
清田「‼︎⁉︎」
神「じゃあ3年生は3年生で一部屋使ってもらって、1年と2年を混ぜて2で割りましょう」
と言うと牧が『そうだな。神と仙道で話し合って決めてくれ』と部屋の鍵を2つ渡す。
宮城、福田「……」(俺は…?)
すると流川がスススと仙道の方へ近づいていく。
仙道「お。俺と同じ部屋がいいのか?」
流川はコクリと頷いた。
清田「じゃあ俺は神さんの部屋!」
莉子「…流川君」
仙道と流川が莉子を見た。いつになく真剣な顔をした莉子。
そんな莉子が何を言うのかと仙道と神は注目した。
莉子「流川君、同じ部屋だからって仙道さんを1ON1に誘っちゃダメだよ?」
流川「‼︎⁉︎」
流川は『ダメなの⁉︎』と言わんばかりに目を見開き驚いている。
莉子「ダメだよ。白熱しちゃって怪我しちゃうかもしれないでしょ?だからここでは明日に備えてゆっくり休むんだよ」
莉子はそっと流川の肩に手を置いた。
そして莉子は念を押すように『わかった?』と首を傾げた。
流川「……」
流川はしばらく何かを考えた後スッと莉子に手を出し『ん』と一言。
莉子「え?何?」
さらに手を前に出し『鍵』と一言。
莉子「え?鍵?」
流川「俺、1人部屋使う」
莉子「はぁ⁉︎」
神・福田、宮城、清田「‼︎‼︎⁉︎」
仙道は1人、お腹を抱えて大笑い。
仙道「ははははっ」
流川は『ん』とさらに鍵を要求する。
莉子「本気で言ってるの?」
流川がコクリと頷く。
神「ばっ…ばか‼︎何言ってんだ‼︎木村さんは女の子だぞ!俺らと同じ部屋でいいわけないだろ‼︎‼︎木村さんは1人部屋決定だ!」
流川「……」(あれもダメ…これもダメ…)
ゲンナリした様子の流川。
仙道「ややこしい話はなし。グーとパーで分かれたらいいだろ」
と笑う仙道。
宮城「そうだな…。全員でやるぞ」
と円になるメンバー達。
流川「………」
流川が輪に入ろうとしないのを見て莉子が『これ以上わがまま言うなら監督と同じ部屋にするよ』と言うと慌ててサッと輪に加わる。
莉子は腕を組んで流川の様子を見ている。
そんな莉子に向かって仙道は『木村も混ざるか?』と揶揄う様に笑う。
莉子「混ざりません!」
と莉子が頬を膨らませるのだった。
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