神宗一郎と恋するお話
神奈川選抜合宿2日目 土曜日
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
莉子「ただいま」
悠馬「…うん…」
校門で合流した悠馬と莉子。2人の間にどことなく気まずい雰囲気が流れる。
悠馬「……」
気まずそうにしている悠馬に莉子は苦笑いを浮かべると『待たせてごめんね』と悠馬の顔を覗き込んだ。
悠馬「……」
悠馬は顔を伏せたままポケットに手を突っ込み黙っている。
莉子は悠馬の顔をさらに覗き込んだ。
目が合うとにっこりと笑う。
莉子「迎えに来てくれてありがとね」
というと悠馬の頭をポンポン叩く。
悠馬が顔を上げると穏やかに笑う莉子と目が合う。
悠馬「や、やめろよ…」
と莉子の手を避ける悠馬に莉子は『ごめん、ごめん』と手を引っ込め『じゃあ帰ろっか』と駅の方へ一歩踏み出した。
悠馬が『父さんも来てるんだ。車はあっちに停まってる』と莉子の腕を掴んだ。
莉子「お父さんが来てるの?」
驚いている莉子に父親が来た理由を話す。
悠馬「バカの父親から連絡いったみたい。で、父さんが来た」
莉子は『あ、そうなんだ…』とバツが悪そうだ。
莉子は黙ったまま何かを考え込むと『ふう』とため息のような息を一つ吐く。
莉子「…国体辞めろって言われたりしないといいな…」
悠馬は心配そうな莉子に『もし言われたら俺からも頼んでやるよ』と励ます。
莉子は一瞬驚いたように悠馬を見たあと嬉しそうにニコッと笑うと『ありがとう!頼りにしてるから‼︎』とバシバシ背中を叩く。
悠馬「痛ってぇな‼︎やめろ‼︎」
莉子「ごめん、ごめん」
もうどこにも気まずい雰囲気はない。
莉子は『じゃあ行こっか』と悠馬の指差した方へ歩き出す。
悠馬「あ、あのさ…姉ちゃん」
莉子「ん?」
悠馬「昼間に言ったこと…なん、だけど…」
今にも泣き出しそうに声を振るわせる悠馬に莉子は『気にしてないから』と笑う。
歩き出す莉子。悠馬は黙って後ろから着いてくる。
駐車場に見慣れた車を見つけて莉子は一瞬、立ち止まり覚悟を決めた様に『ふぅ』と息を吐いた後小走りでかけていく。
ガチャと開けると明るい声で『ただいまぁ』と滑る様に後部座席に乗り込む。
父親は黙ったままルームミラー越しに莉子を見た。
いや、睨んでいると言った方が正しいかもしれない。
莉子「……」
父親はルームミラー越しに莉子を見つめながら『なんで黙ってた?』と問い詰め始めた。
車内の緊張感が高まる。
悠馬も乗り込んでくるがそれくらいのことで懐柔される雰囲気ではなく悠馬も緊張した面持ちで莉子の言葉を待った。
莉子は『先輩がいるってわかったのは昨日の夜…駅で会ったの…。どうしようって思ってたら今朝、先輩が(お互い干渉しない様にしよう)って食堂まで言いに来てくれて…それで先輩もそこの線引きはちゃんとしようとしてくれてるって思ったし…。それに先輩がいるってバレたら合宿に参加できないと思って…それで黙ってたの…ごめんなさい…』と気まずそうに答えた。
父親の眼光は鋭いまま『俺は脅されてたって聞いてるが?』と静かに問う。
莉子「え?そんな事はないけど…」
と戸惑う莉子に悠馬も『俺もそう聞いてるけど…』と
莉子「でも…私は本当にそんな事は言われてないし…」
父親は続ける。『向こうは写真を作るみたいな事を言ってたみたいだぞ。それを聞いた子が心配して彼の父親に連絡をしたそうだ』
莉子「……!」
『それを聞いた子』
莉子はすぐに神だと気づいた。
莉子「……」(そういう…ことだったんだ…)
莉子は顔を覆った。神の行動は莉子がもたもたしていたからでも頼りないからでもなかった。
莉子(私がまた先輩に傷つけられるって思ったから…あんな怪我までして…)
蝶の大群が一斉に飛び立つような胸の高鳴りに涙が出そうになった。
顔を覆ったまま黙ってしまった莉子に父親が振り返り『お、おい…?どうした?大丈夫か?』と莉子を揺さぶる。
悠馬も『姉ちゃん?』と心配そうに声をかけてくる。
莉子「…な、なんでもない…」
感情が昂っていく。
莉子(こんなにも真剣に私のことを心配して行動してくれるなんて…。神さんにとって私ってどういう存在なの?)
まるで自分が『特別な存在』にでもなったような気分だ。
それは莉子に都合のいい願望で妄想に過ぎないが、それでも神への想いを大きくさせるのは十分だった。
莉子(あぁ…)
莉子は大きく息を吐いた。
好き
自覚した瞬間、胸の奥が熱くなる。
この気持ちを、ちゃんと伝えたい。
莉子(ちゃんとしなきゃ…)
莉子は膝の上で握った拳に力を入れたのだった。
家に帰ってから母親にもこっ酷く怒られた莉子。素直に『ごめんなさい』と頭を下げると母親は困ったように大きなため息をついて『黙っていたら余計に心配になる』と言われた。
莉子「ごめん…」
平謝りの莉子に母親は『ゆっくり休みなさい。あ、それと明日、あの子は学校を休ませるから安心してくれって言ってたから』と小野寺のことを教えてくれた。
莉子「ん…。わかった」
莉子に何もしてこなかったが神を揶揄い殴ったわけだし仕方ないよね…と階段を上がり部屋に入る。
リュックを下ろすと椅子に座る。
莉子「……」
莉子はどうしたものかと頭を悩ませる。
ちゃんとする
それはキチンと神と茜の関係を確認する…ということだ。
莉子(そんなこと聞いたら好きってバレちゃうよね…)
でも…
莉子「……ちゃんと伝えたいな……」
莉子は少し楽しそうに笑った。
海南 部活宿泊棟(サッカー部)
小野寺の『なんでだよ‼︎』という大声が階段の踊り場に響いていた。
小野寺の話し相手は電話の向こうにいる父親だった。父親の口から今すぐ帰ってくる様に伝えられたのだ。
父親の『なんでか説明しないとわからないのか?』と問われ言葉に詰まる。
小野寺が黙り込むと父親は『今から母さんが迎えに行くから準備をしなさい。学校には身内の不幸ってことにしておいたから話を合わせるんだぞ』というと返事も聞かずに電話を切ってしまった。
なんでこんなに上手くいかないんだろうか…。
小野寺「くそっ!」
莉子にはただの興味本位で近づいただけだったのに…。
でも莉子と話しているとだんだんと楽しいと思える様になっていた。『楽しい』を積み重ねていくと今度は一緒にいれる時間を『愛おしい』と感じ始めた。
これが人を好きになるということか…と考えているうちに段々と莉子を独り占めしたいと思った。
入学当初の莉子は幼さの残る可愛らしい見た目をしていた。でも段々と顔つきも体つきも女性的になり始めると魅力も人気も爆発的なモノになった。
莉子の同級生はもとより先輩にも負けない発育の良さは男子の目を釘付けにしたのだ。
学年が上がる頃になると身体に溜まる欲情を抑えきれなくなって告白した。
自信はあった。
顔も良いし、背も高い。文武両道で実家は太い。
モテる要素は揃っていた。
小野寺(なのに…)
初めて自分から『好きだ』と言った。その告白は『ごめんなさい』と玉砕した。
恥ずかしかった。
付き合えたらどこにデートに行こうか…そんなことまで考えていた自分が情けなかった。
それでも莉子を校内で見かけると自然と目で追いかけていた。
こんなに苦しいのに莉子は自分とは関係ない所で知らない男と笑っている。その笑顔に(可愛い)と見惚れた。
笑顔を見れば胸が高鳴った。
それが死ぬほど惨めだった。
なんで、なんで、なんで‼︎
何もかも壊したくなった。
莉子の笑顔も莉子を笑顔にする環境も全部を壊したくなった。
そうすれば自分を頼ってくるんじゃないかと淡い期待もあった。
その結果が今だ。
小野寺(神の言う通りだ…。俺はなんて浅はか…なんだ…)
久しぶりに駅で会った時の恐怖に満ちた莉子の表情を見てようやく理解した。
小野寺(ただの先輩と後輩にすら戻れない程粉々に壊した…俺が…壊した…)
小野寺「…くそ…」
小野寺は初めて自分のしてきた事を後悔したのだった。
体育館前
茜は体育館のドアの前に立っていた。
中では神と清田が練習をしている。いつもなら迷う事なく入っていく茜も今回は手が出ずただ立っているだけだった。
茜「……」(思わずここまで来ちゃったけど…)
神を本気で怒らせてしまった。
そのまま放っておけなくて、でもどうしたらいいのかわからない。
近くにいないと不安なのに…でも怖くて一歩は踏み出せない。
纏まらないごちゃごちゃの頭の中。
謝らなきゃ…と思うのにそれができなかった。
神から向けられたあの視線が、頭から離れなかった。
茜(宗ちゃん…)
もし…私があの子みたいだったら…?
あの子の様にサラサラの長い髪だったらよかった?
それとも長身でスラッとしてればよかった?
それとも莉子のように守ってあげたくなるような儚い雰囲気を持っていたら…
茜はギュッと目を瞑った。
そして絞り出す。
茜「どうしたら好きになってくれるの…」
諦めたくない。
神はあの見た目だから昔から人気者だった。でもバスケ以外に興味がなくて誰も相手にしなかった。ただ一定の距離を保って誠実に穏やかに相槌を打っているだけ。
女の子達はその内、神の特別にはなれないと気付いて諦めていく。
ただ茜は諦めず神への恋心に気付いてからの約10年そばに居たのだ。
ずっとそばにいればいつか……。
そう思っていた。
なのにいきなり現れて茜の10年をあっという間に追い越していったあの子…。
茜「……」
清田の『ラスト10本‼︎』という声が聞こえた。
茜は何もできないままその場を離れた。
体育館の中からボールの音が響いている。
それがやけに遠くに感じ涙が溢れたのだった。