神宗一郎と恋するお話
神奈川選抜合宿2日目 土曜日
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『えっ…』と声を漏らしそのまま固まってしまった莉子。
そんな莉子に神は優しく話しかけた。
神「木村さんに近づかないように言っといたから安心してね」
と達成感いっぱいの屈託ない笑顔を見せる神。そんな神とは打って変わって莉子の表情は不安そうに眉間に皺が寄っている。
莉子「…どうやって…?」
莉子は神を見つめた。少し腫れた頬と固まり始めている血が滲む唇が目に入った。
話し合いで暴力的な出来事があったのは明白だった。
神に限って暴力で制圧した…なんてことはないだろう…。でも神の顔には暴力の痕跡があって…。
神はそんなことをしない
そう思う反面で(本当に大丈夫?)と嫌な妄想がどんどんと溢れてきて不安が大きく膨れ上がっていく。
神もやり返しているかもしれない。
そんな想像が頭から離れなくなった。
もしそれがバレたら神や神奈川選抜チーム、海南バスケ部はどうなってしまうのだろうか…。
莉子(今までそんな事とは無関係だったはずなのに…)
神だけじゃない…。みんな喧嘩や暴力から無縁な生活を送ってきただろう選抜メンバーを思うと胸が張り裂けそうだった。
もし暴力行為が公になってしまったら…
莉子(…国体だけじゃない…。神さんが関係している海南バスケ部自体が出場停止になったら…)
牧や高砂の高校バスケが終わってしまう。最後の大会。全国制覇の最後のチャンスだ。意気込みは誰よりも強いだろう…。
努力がこんな形で水と泡になってしまったらどうしよう…。
自分と関わらなければこんなことに巻き込まれなくてよかったのに…。
もし小野寺が神との事で騒いだらどうなってしまうのかわからない恐怖とそうなってしまった時の申し訳なさが込み上げてきて涙で視界が歪んで見えた。
莉子は俯き顔を隠した。
顔を下に向けた途端、莉子の目からポロポロと涙が溢れた。
莉子「ふっ…くっ…」
莉子の口から小さな嗚咽が聞こえて口を手で覆った。
神「…木村さん?…どうして泣くの…?」
心配そうに顔を覗き込んでくる神に莉子は顔を手の平で覆うと『ごめんなさい…』と小さな声で謝った。
今度は神が『えっ…』と驚きの声を漏らした。
莉子「…先輩とのトラブルに巻き込んでしまってすみません…。迷惑をかけてごめんなさい…」
とさらに頭を下げる莉子に神は顔を顰めた。莉子の肩に手を置き上を向く様に促す。莉子はそっと顔を上げた。
涙で濡れた頬を見て神の胸はギュッと締め付けられた。
神「俺が勝手にしたことだよ…。君が気にする事じゃない」
莉子はブンブンと勢いよく首を左右に振った。
莉子「私が頼りないから…神さんが行動を起こす事になってしまって…。神さんに怪我まで…本当にごめんなさい…!もし喧嘩の事がみんなに知られちゃったら…私…私っ!出場停止になったらどうしよう」
と顔を抑え泣きじゃくる莉子に神は諭す様にゆっくりと『よく聞いて』と莉子としっかりと視線を合わせる。
莉子は怯えた様に神を見上げた。
神は莉子の肩に置いた手に少し力を入れるとはっきりとした声でゆっくりと話し出す。
神「誤解しないでほしい。俺は木村さんが頼りないから動いたわけじゃない。俺『が』困ってる君の力になりたかっただけ。自分を責める必要はないから。それに俺はやり返したりなんかしてない」
神が莉子の頬にそっと手を添える。真剣な神の表情を食い入る様に見つめる莉子。
神「だから木村さんが心配してるような事は何一つ起こらないよ。絶対に大丈夫だから」
『ね?』と笑う神。
莉子「……本当ですか…?」
神「うん。約束する。今回の件で木村さんや俺達にマイナスなことは絶対に起こらない」
と首をゆっくりと左右に振った。そして断言した。
神「もう2度と木村さんを傷つけさせないから」
そして莉子の頬をそっと撫でた。
流れる涙を拭う神の手は大きくあたたかい。そんな手のひらにホッと肩の力が抜けていく。
神「だからもう泣かないで…。木村さんは何も心配しなくていいんだよ…」
と優しく頭を撫でてくる神にドキッと心が高鳴って思わず莉子は顔を背けた。
優しさを向けられるたびに好きだと強制的に自覚させられる。
ドキドキと高鳴る想いと比例して心の中にモヤモヤとした影を落とす。
神が怪我をした…
神をトラブルに巻き込んでしまった…
神にバスケ以外のことで気を揉ませてしまった…
申し訳ない事ばかりなのに莉子は胸の高鳴りを抑えることができずにいる。
莉子「……」(優しくされるのが嬉しいだなんて…)
そっと神に目を戻す。
目が合うとフワッと優しく頬んでくれる神に好きだという気持ちが溢れそうになる。
神「涙…なかなか止まらないね…」
と困ったように笑うと愛おしそうに目を細め壊れやすいガラス細工でも触るように優しく優しく涙を拭ってくれる神。
莉子(あぁ…)
莉子は目を瞑った。
莉子(…気にかけてもらったからって絶対に喜んじゃダメ…)
気遣ってくれた
心配してくれた
助けてくれた
それだけで莉子の心が沸き立つ。
莉子は神の手から逃げる様に顔を背けた。
神「…木村さん?」
浮き足立つ心を必死に抑える。
莉子「……」(よろこんじゃダメ…)
自分に莉子は(現実を見ろ)とギュッと目を瞑った。
茜に汗を拭ってもらっていた光景が一番に浮かんだ。
莉子(どんなに神さんが私に優しくしてくれたって神さんにとって私は…ただのマネージャーだ…)
神には『宗ちゃん』と愛称で呼び汗を拭いてもらう間柄の女の子がいる…。
あの女の子と神がどんな関係なのかわからない。
だけどあの距離感は特別であるも物語っている。
羨ましくて仕方なかった。
自分もそういう存在になりたいと思った。
あの子から見た神はどんな風なんだろう…。ただのマネージャーにこれだけ優しいのだ。近しい存在である茜にはどんな風に接するんだろう。どんな視線を向けるんだろう。どんな声色で話しかけるんだろう…。どんな風に甘い言葉を囁いてくれるのだろう…。
名前を呼ばれ『好きだよ』と言われた時、どれだけ幸せなんだろう…。
ありえない現実離れした願望に莉子がグッと唇を噛んだ。
莉子「………」(ありえない妄想して勝手に盛り上がって…どんどん好きになっちゃうなんて)
神「…木村さん?」
俯いたまま黙り込んだ莉子を心配そうに見つめる神。
莉子はハッとして顔を上げた。
莉子「え?あ…」
と狼狽える莉子に神はシュンとした表情で『…まだ俺に申し訳ないって思ってるの?』と首を傾げた。
莉子「……」
莉子は気まずそうにコクリとうなづいた。
それを見た神は困った様に笑うと『本当に気にしなくていいのに…』と頭を掻いた。
それでも莉子は申し訳なそうに『ごめんなさい…。でもやっぱり神さんに迷惑をかけちゃったと思うと…』と俯いている。
神「そっか…」
莉子との関係性の距離を感じて寂しくなる。
思いっきり頼ってくれればいいのに…。莉子の為なら何でもするし何でもできる気がする。
その為には…
神「…」(もっと親しくならなきゃ…)
距離感を埋めたくて神はつい莉子の手をキュッと握った。
莉子「っ!」
問題が解決しても浮かない顔の莉子。莉子が何を考えているのか知りたくて知りたくてしかたなかった。
神(まだ小野寺とのことで気になる事があるのか…?)
勝手に話をつけたことで莉子が落ち込んでしまうこと…。一体どんなことがあるだろうかと考えを巡らせる。
神(もしかして…)
アイツに直接、言いたい事でもあったのか?
それともアイツに改心を望んでいた?
それとも心からの謝罪が欲しかったのか?
神(ゔーーーーーん)
神の眉間に皺が寄る。
小野寺は話し合い中も保身のことばかりで『謝罪』『反省』『後悔』『罪悪感』何も口にしなかった。
自分の立場が危うくなってようやく『謝罪』の言葉を口にしたのだ。
紛れもなくそれは保身のため、上辺だけの薄っぺらい謝罪だ。
それを聞いて莉子はどう思うだろうか。
口だけの謝罪をされたら莉子は虚しくなるだろうし憤るだろう。
アイツの中で莉子とのトラブルは最初から最後まで『仕方なかった』事のままで根本的な考えは変わってない。
神(アイツをもっと説得すればよかった…のか?)
神の一番の目的は莉子の安全と平穏だ。だから『小野寺の改心』は神にとってどうでもいいことでアイツの為に何かしてやるつもりは毛頭ないし、そういうのは親がすればいいと思っている。
莉子を大事に思っている神にとって今更改心されたところで『だからなんなんだ』と言う感じである。
今、改心しても莉子が傷つけられた事実は変わらない。
たとえ莉子が許したとしても自分は絶対に許さないし二度と近づけさせないつもりだ。
だから1人で話をつけたのだ。あいつは莉子を傷付けるだけだから。
神「……」(結局、アイツは自分の立場を守る為に条件を飲んだだけ…今頃、父親にチクった俺や思い通りにならなかった木村さんに腹を立てているだろし…。今は父親のこともあって感情の持って行き場のないアイツと木村さんを会わせたりしたらどうなるかわからないし…)
神は莉子を見た。
神(2人きりで会わせる気はないし木村さんに危害を加えるような事はさせないけど、咄嗟に出る言葉は制御はできない…。木村さんは十分過ぎるくらい傷ついたんだ。もうアイツのことで嫌な思いをさせたくない…)
会わせたくないな…。
神は心の中で小さくため息をついた。
神(アイツの心からの謝罪も改心も期待できないからって会わせないのは俺のエゴ…だよな…。でもやっぱり会わせたくないな…)
あーでもない、こーでもないと考えていると段々と疲れてきた。
それでも莉子のことは匙を投げられなかった。
この小さい手を守りたいのだ。
たとえこの手が自分の手を握り返してこなくても…。
神(最初っからちゃんと相談すればよかった…。そうしてれば今頃木村さんは笑ってたかもしれないのに…)
今、莉子は何を考え何を思っているのだろう…。
不可能だと理解していても莉子の全てが知りたいと思っている。
特に陰りが見える今だから尚更、強くそう思うのかもしれない。
君を不安にさせてたのは小野寺じゃなかったの?
俺のしたことが君の心を暗くさせちゃった?
本当は俺にできることは何もなかった?
でも『何もしない』なんてできない。
目を赤くした莉子を見て切なさで胸がいっぱいになった。
好きな人の為に何かしたくなるのは自然なことで、できれば自分のした事で莉子に幸せに欲しいと思う。
心の底から安心して笑ってもらいたくて頑張ったけど完全に空回ってしまった。
つい莉子の手を掴む手に力が入った。
莉子「あ…あの…神さん?」
自分の手を握ったまま何も話さなくなった神を不安そうに見つめている莉子。
神(木村さんには踏み込めない壁がある。それは自分を守る為に必要なモノなんだろうけど…)
目を赤くした大きなアーモンドアイに見つめられると胸が鷲掴みにされたかの様に締め付けられる。
安心して欲しかった。
笑って欲しかった…。
そのためなら何でもするのに…。
神「…君は俺に何もさせてくれないね…」
神が寂しそうに笑う。
莉子「えっ?」
神の表情が傷ついた人そのもので莉子は動揺した。
神は莉子の手をさらにキュッと強く包み込む様に握った。
神「……君が悲しそうなのは辛い。俺にできる事を教えてよ。力になりたいんだよ」
莉子「……」
莉子の胸がいっぱいになる。
でも頼るわけにはいかない。それは神のためにも自分ために良くないことだ。
莉子「それは…できない、です」
絞り出す様に言った莉子の言葉。神はそれを素直に受け入れる。
神「だよね…。ごめん」
神がパッと手を離した。
莉子「…っ⁉︎」
自分が神を突き放したのに手を離されたことにショックを受ける莉子。
消えていく温もりに寂しが込み上げてくる。もうすでに依存し始めている。だから今なんとかしないといけない。
神「でもこれだけは言わせてほしい。アイツが接近禁止を無視してまで近づいてきたのは俺を陥れる為だ。俺はこの件で部外者じゃない。むしろ俺と小野寺とのいざこざに巻き込まれたのは木村さんなんだよ。だから俺には木村さんに降る火の粉を払う責任があった」
莉子「……」
神「…それに君をめちゃくちゃ傷付けたのに反省もしないでまた傷付けようとしてるのが許せなかった。俺は君を雑に扱われたくないんだ」
莉子「……」
神「でもだからって君に黙って話をつけたのは良くなかった。今からでも俺にできることはない?小野寺と話がしたいなら俺が…」
莉子「神さんが悪いなんてこと…絶対にないです。本当に神さんには感謝してます…」
決して突き放すような言い方ではなかった。それでも神は崖から突き落とされた様な気分になった。
『感謝しています』
それはもう神にはできることは何もないということだ。
莉子「神さんも小野寺先輩と関わらない方がいいです」
自分を気遣っての言葉だ。でも一線を引かれたと思った。
神「…わかった…」
神妙な空気が流れた。その時、場違いな明るい声が響いた。
清田「じーーーーーんさぁーーーーーん」
神・莉子「⁉︎」
2人が同時に声のする方に振り返った。
清田が手を振りながら走ってくる。
神「……」(ナイスタイミングだな…)
その時、莉子の体がピクっと震えお尻のポケットを触った。
莉子「す、すみません…電話が…」
とポケットから携帯を取り出し着信相手を確認すると申し訳なさそうに神を見た。
神はニコッと笑い『出てね』と声をかけると莉子は小さな声で『すみません』と謝り電話に出た。
相手は悠馬のようだった。
神に気を使い小さな声で話しているため全ては聞き取れないが内容はなんとなく理解できた。
神「……」(ちゃんと来たんだな…)
近くにやって来た清田は『神さん!牧さんからの伝言で早く飯食えって言ってました‼︎』と息を切らしている。随分と探し回ってくれたようだ。
神は『わかった。すぐに戻るよ』と言うと清田に莉子を校門まで送っていくように頼んだ。神の頼みに清田はすぐに『わかりました』と首を縦に振った。
神「絶対に弟の所まで送ってけよ。さっきも声かけられてたから」
清田「はいっ!任せてください‼︎」
神「………」
神は背中を向け電話をしている莉子を見た。
寂しそうに瞳が微かに揺れている。
清田「…?」
神に微かな違和感を感じて清田は首を傾げた。
清田「……」(なんだ…?)
清田の肩にポンと手を置き『じゃ、木村さんのこと頼んだ』と言うと食堂に向かって歩き出した。
莉子が電話を終えポケットに電話をしまう。
振り返るともう神はいなかった。神が清田になってしまった。
驚いた莉子は清田に問う。
莉子「神さんは?」
清田「食堂に行った。神さんはまだメシ食ってねぇから」
莉子「あ…。そっか…」
清田から莉子を送っていく様に頼まれた事を聞いた莉子は『そうなんだ…。でも1人で大丈夫だよ』と断ろうとすると清田は首を横に振った。
清田「お前、水ぶっかけられてるしさっきも声かけられたばっかりなんだろ?神さんが心配してたからダメだ」
莉子「………」
清田は面倒臭そうに頭をかくと『おら!さっさと行くぞ』と歩き出した。
莉子も後ろを付いてくる。
清田「荷物は?更衣室か?」
莉子「うん。ごめんね。練習で疲れてるのに」
清田「疲れてんのはお互い様だからな」
『別にいいよ』と気恥ずかしいのか不機嫌そうな清田を見て莉子は『ふふふ』と笑った。
莉子「ありがとう」
と笑う莉子を見て(やっぱ顔だけはいいな…)と少し感心した。
神は莉子に関心があると言っていた。神の性格的に好きな子のことは自分でやりたいはずだ。それを後輩の自分に任せてた。それにさっきの神の莉子を見つめる視線…。
清田「お前、神さんと何かあっただろ」
莉子「え⁉︎」
清田「なんかちょっと様子がおかしかったからな。俺ぐらい親しいとすぐにわかんだよ」
莉子「………」
心当たりがあり過ぎる。
莉子が俯いた。
清田「何があったんだよ?」
莉子「私、中学生の時に先輩とトラブルになっちゃって…。それでこっちに引っ越して来たんだけどここでばったり会っちゃったの」
清田「それってヤバいのか?」
莉子「…先輩とは転校前の話し合いで私への接触禁止になってて…。だからここで再会しても昔みたいなトラブルにはならないはずだったんだけど…。何かとちょっかいをかけてきてて…それを心配してくれた神さんが間に入ってくれて…。私に話しかけないように話してくれたんだって」
清田「カッケェな…」
莉子「うん。本当に…かっこいいよね」
と笑う莉子の表情に清田は手応えを感じた。
清田「だろ⁉︎かっこいいんだよ‼︎頼りがいあるし‼︎」
莉子「うん。そうだね。でも…」
清田「あ?なんだよ」
莉子「…神さんね…その先輩と喧嘩したの。顔に怪我してた…」
清田「マジ⁉︎」
莉子はコクっと頷くと話を続けた。
莉子「神さんは自分は手を出してないから問題にならない、大丈夫って言ってくれたけど…。怪我も大したことないからって…でも一歩間違えば神さんは大怪我をしてたかもしれないし…大会だって出場自体が停止になる可能性だってあった…。私…なにやってんだろって…申し訳なくて…」
清田「でも結果、何もなかったんだし神さんだって大丈夫だって言ってんだし大丈夫だろ。ありもしなかった妄想で神さんの努力をなかったことにすんな」
莉子「え?」
清田「神さんは人当たりはいいけど建前とか社交辞令って言うの…?そういうのはあんまり言わない人だから。だから大丈夫って言うなら絶対に大丈夫だ。だから心配し過ぎるな。お前はしてもらったことをそのまま受け止めて『ありがとうございます』って言って甘えとけばいいんだよ」
莉子は清田の言葉に『そうだね』と少し笑った。
莉子だってそうしたい。でもただの感謝では済まなくなっているのだ。
異性に対する好意がはっきりと存在している。
しかも段々と大きくなっている。
莉子は『それができないから困ってるんだよ』と小さく呟いた。
そのつぶやきは清田には届かなかった。
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