神宗一郎と恋するお話
神奈川選抜
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夏休みが明け今日から本格的な部活動が始まる日。バスケ部一年マネージャーの木村莉子は部活前にとある男子生徒から校舎裏へ呼び出されていた。
緊張した面持ちの男子生徒から『入学式で見かけた時からずっと好きでした。俺と付き合って下さい』と告げられ莉子は心臓がギュッと締め付けられる様な痛みに唇を噛み締めた。
「ご…ごめんなさい」
莉子は目の前の男子生徒に深々と頭を下げた。
「どうしても無理…?」
と男子に問われ莉子は今にも泣き出しそうな表情で『ごめんなさい…今は部活を頑張りたいと思っていて…私、不器用だから両立が難しくて…』と答え『本当にごめんなさい』と一度目よりもさらに深く頭を下げた。
「そっか…バスケ部すごく頑張ってるもんね…。わかった!部活頑張ってね‼︎応援してる…」
と笑顔を見せる男子生徒。
莉子に告白をしてきたのは同じ学年の男子だった。爽やかな好青年で同学年の女の子達から人気が高い。
莉子「はい…。…ありがとうございます…」
莉子は男子生徒が立ち去ると『はぁ〜』と大きく息を吐いた。
(き、緊張した…)
緊張と不安からバクバクと暴れる心臓を抑える様にそっと胸に手を置く。
告白を受けた後はいつも中学時代を思い出し大きな不安に襲われる。
(あぁ…嫌だ…)
いつまでも過去に囚われ、本来なら嬉しいはずの好意も素直に受け取れない自分が情けなくなる。
莉子(いつまでもウジウジしてるのはダメってわかってるんだけどな…)
莉子は大きなため息を一つついて部活に向かうため歩き出した。
教室に戻ると帰宅部の子達が数人残っているだけの状況に莉子は慌てて鞄を取ると彼女達に『バイバーイ』と手を振り急いで教室を出た。
廊下を小走りでマネージャーの更衣室へ向かっていると『あっ!莉子ちゃんいた‼︎』と聞き覚えのある声が聞こえて莉子は足を止めてそちらに視線を向けた。
莉子「あ、宮城先輩」
振り返ると一つ上の先輩である宮城リョータが『やっと見つけたぁ〜』と安堵の表情で莉子の元に駆け寄ってくる。
莉子「…何かあったんですか?」
駆け寄って来た宮城に莉子が問うと『コレ』と一枚のプリントを差し出される。莉子がそのプリントを受け取り内容を確認する。
莉子「こくみんたいいくたいかい…?」
頭の上にたくさんのクエスチョンマークが浮かんでいる莉子を見て宮城はニコッと笑う。
宮城「秋の選抜だよ。俺と三井サン…それに流川が選ばれたんだ」
莉子が『えぇ⁉︎』と驚き名簿を確認する。3人の名前を確認した莉子は『わぁ〜…本当だぁ…宮城さん達、すごいです…おめでとうございます』と目をキラキラと輝かせ宮城を見た。
宮城は『何言ってんの』と笑い名簿の一番下を指差す。
宮城「莉子ちゃんもマネージャーで参加が決まってるよ」
莉子は『えぇぇぇ⁉︎⁉︎』と叫んだ。
宮城の指の先には『木村莉子』と確かに明記されている。
莉子「な、なんで…私なんかが…」
と戸惑う莉子に宮城は『なんで?』と首を傾げる。
莉子「だって…私、素人で…晴子の方がバスケの知識も経験もあるし…彩子さんみたいに仕切れないし…私が残った方がいいような気がするんですけど…」
と言う莉子に宮城は『うーーん』と唸った。
宮城「別にバスケの『経験』も『知識』も選手〈俺たち〉が持ってるし…マネが仕切らなくても三年生がいるわけだし問題ないデショ。莉子ちゃんにできることをしてくれればそれでいいんじゃないの?」
宮城の言葉に莉子は目をパチクリさせ『そっか…そうですよね』とパンと手を叩いた。
莉子「すごい人達に混ざるからって私まで『すごい人』である必要ないですよね」
『そうだ、そうだ』と1人で納得している莉子を見て宮城は呆れたように笑った。
宮城「……」(ずっと花道と練習してたからかな…単純なトコ似てきたな…)
宮城は『よーし!頑張るぞぉ‼︎』と意気込んでいる莉子を見て『頼りにしてるよ』と笑ったのだった。
海南大附属高校体育館
「牧さん、神さーーーーん‼︎‼︎」
体育館内に清田の大声が響く。
牧・神「ん?」
大声で名前を呼ばれ振り返る2人。2人の視線の先には湘北の選抜メンバーと同じプリントを持った手をブンブン振り回しながら興奮した表情で駆け寄ってくる清田がいた。
清田「俺!選ばれました‼︎」
嬉しそうに名簿を見せ『清田信長』と書かれた箇所を指差している。
牧と神は呆れたように笑うと『知ってる』と牧が言った。
2人の目の前まで走ってきた清田は興奮した表情で続ける。
清田「清田信長の能力をどう生かすか、チームとしての戦略も考えないといけないしこれから忙しくなりますよ‼︎‼︎」
神「まず一旦落ち着け」
牧「まったくだ」
と笑う2人を見て清田は腕をブンブンと上下に振り上げながら力説を始める。
清田「なに笑ってんすか‼︎2人はワクワクしないんすか⁉︎」
『あー‼︎‼︎もぅじっとしてらんねぇ‼︎‼︎』と牧に自分から質問したにも関わらず清田は『シューティング練習してきます‼︎』と2人の返事も聞かず走り出す。
牧(騒がしい奴がまた一段と騒がしくなったな…)
と『うぉぉぉぉ‼︎』と叫びながらシュートを放つ清田を眺めていると『信長のヤツ。大興奮ですね』と神が話だす。
牧「そうだな。でも確かに今回の国体はいい刺激になるだろうな」
神「俺も楽しみですよ。インターハイの雪辱がありますから…」
牧「それは優勝宣言か?」
神「フッ…」
神は肯定するかのように静かに微笑み清田の練習に目を向ける。
牧も同じ表情で清田のシューティングを眺める。
ガン‼︎‼︎
清田の放ったシュートは大きな音を立ててリングに弾かれた。
清田「ああああーーー‼︎‼︎クッソォーーーー‼︎もぉ一丁‼︎‼︎」
ガン‼︎‼︎
清田「だぁーーーー‼︎‼︎」
またもやシュートを外してしまった清田を見た牧が『おいおいおい…そんなんで大丈夫なんだろうな』と呆れた様な声を出した。
牧の発言を聞いた清田は頭を抱えて膝から崩れ落ちた。
清田「俺の実力はこんなもんじゃ…」
そんな清田を見て神は『あははっ』と笑い、清田に声を掛ける。
神「力み過ぎだ。ちょっと落ち着け」
と騒いでいると一年生が遠慮がちに牧と神に声を掛けた。
一年「あ、あの…お話中すみません」
牧・神「ん?」
憧れの先輩2人から見られドギマギしながら『あの…か、監督から伝言なんですが女子マネ用の部屋を一つ用意するようにと言ってました』と申し訳なさそうに伝える。
牧「女子マネ?」
と牧と神が名簿に目を落とす。神が『えっと…』と指で名簿をなぞり女子マネの名前を探す。
神「あ、いた」
木村莉子(湘北一年 マネージャー)と書かれた名前を見た神の脳裏に赤いキャップを被った少し気の強そうな美人が思い浮かんだ。
神(アイツらがまた騒ぐな…)
夏の予選リーグで応援に来ていた同級生達が『美人がいる』と騒いでいたのを思い出し神は顔を顰めた。もし湘北のマネージャーが来ると知ったら見学と称してマネージャーを見にくる可能性があり、もしかしたら紹介してくれなんて頼まれるかもしれない。
神(アイツら…面倒な事言い出さないといいけど…)
牧が『そうか…そうだな…どうすっかな…』と顎に手を当て少しの間、思案する。
牧「…女バスの更衣室を使わせてもらえないかちょっと聞いてくる」
神「はい」
牧「田中も一緒に来てくれ」
田中「はい!」
牧と1年が体育館を出ていく。入れ替わりに清田がやってきた。
清田「神さーーん!牧さんどこ行ったンスか⁉︎」
神「選抜合宿で来る女マネ用に更衣室を借りに行ったんだよ」
清田「女マネ?」
神「湘北から1人、合宿の手伝いに来てくれるんだって」
と名簿を指差す。清田は名簿を見て不満げな表情を浮かべる。
清田「…ってか女マネって必要ですか?陵南のヤツとウチの1年で充分デショ」
女マネが同じ一年生だからなのか清田は会った事もないマネージャーに対して批判的な意見を遠慮なく言う。神は苦笑いを浮かべた。
神「…折角、来てくれるんだからそんな事言うなよ…」
とたしなめつつもその実、神は清田と同じ様な事を考えていた。女の子がいると何かと気を使う。実際に今、牧はマネージャーの為に動いているのだ。確実に手間が掛かっている。
ちょっと面倒くさい存在である『女子マネージャー』。しかし期間限定とはいえ『仲間』ではある。会う前から拒否はちょっとひどい様な気もする。
神「わざわざ来てくれるんだから優秀な子なんじゃない?」
清田「マネージャーに優秀とかあります?ただの雑用でしょ?」
と人差し指でボールを回し始める。清田の表情は『不満』でいっぱいだった。
神「随分と辛辣なんだな。でもマネージャーが雑用をしてくれるお陰で合宿に集中できるんだから敬意は払うべきだ」
と諭された清田は『ミーハーな奴じゃなければ俺だってそうしますよ』と口を尖らせた。
拗ねた様子の清田を見て神は体育館の入り口に視線を送る。
そこには何人もの女の子がいてお目当ての選手に黄色い声援を贈っている。だれもそれが迷惑になっていると気付いていない様子に嫌気が差した。
神が自分達の方を見ている事に気が付いたファンの声が一層、けたたましく体育館内に響き渡る。
隣に立っていた清田が『うぉっ』と驚いたような声をあげて耳を塞いだ。
キャーキャー騒ぐ女の子は苦手だ。つんざくような金切り声で叫ばれると頭も耳もキンキンと痛む。
高頭や牧の指示が聞こえないなんて事もよくある。
神「…はぁ…」
神の小さなため息と本音は彼女達の声にかき消され、誰にも届かなかった。
その日の練習の帰り。日課になっているシュート500本の自主練をこなし、部室に戻って来た。清田と喋りながら着替えを終え、使ったタオルや着替えをスポーツバックに仕舞おうと鞄を開けるとお弁当箱が入っていない事に気がついた。
神「…しまった…」
鞄を開けた途端に大きなため息をついた神に同じように帰る準備をしていた清田が手を止めた。
清田「どうしたんすか?」
神「教室に弁当箱を忘れてきた…」
まだ暑い日が続く9月。いくら完食されているお弁当箱だとしも洗われていないと匂いが気になる。置いて帰るという選択肢はない。
神はため息を一つつくと鞄を肩に掛けいつも一緒に帰る清田に『俺は教室に寄ってくから先に帰ってて』と言い部室から出ようとすると清田は『俺も行きますよ』と後ろを付いてくる。
ニコニコと自分に付いてくる清田に神は『サンキュ』と笑い共に部室を出た。
校舎へ向かって歩いていると水道の所でしゃべっている人間がいる事に気がついた。
清田「まだ残ってる人なんていたんですね」
神「そうだな…」
いつもは自分たちが最後で守衛以外に出会った事がない2人は一体誰が残ってるんだろうと視線をやると向こうも神達を見ていたようで『よう』と声をかけてきた。
神はその声を聞いた瞬間、顔を顰めた。
その男は神と同じクラスのサッカー部の部員であり神をライバル視している男だ。
神(面倒な奴に見つかってしまった…)
この小野寺宏樹という男は特撮ヒーロー出身の若手俳優の様な爽やかさで一年生の頃は大人気だった生徒である。しかし宏樹の女癖の悪さと女の子を見下した様な発言と態度で見る見る内に人気は急降下した。
その逆に神は見た目は可愛らしく親切だったが口数が少なく、感情が顔に表れにくかった所為で一年の頃は『いい人だけど何を考えてるのかわからないとっつきにくい人』と女の子達からの人気には繋がらなかった。
しかしバスケ部のレギュラーになった神が試合終了後に両手を突き上げ仲間と喜びを分かち合い笑顔を見せる様になると人気は爆発した。『海南バスケ部レギュラー入り』だけでも付加価値が跳ね上がっていたがそこに『無邪気な笑顔』が加算され人気は鰻登りだ。
宏樹の人気急降下と神の人気急加速が丁度重なり、それが宏樹には神に女子の人気が盗られたと錯覚させた。
自身の性格が原因とは微塵とも思っていない宏樹はことごく神に張り合い神はすこぶる迷惑がっていた。
神「よう。珍しいな。こっち側で会うなんて」
とりあえずニコッと笑い宏樹の対応をする神。『こっち側』と言うのは神達が普段使ってる体育館近くにある水飲み場エリア一体の事だ。
体育館エリア(屋内スポーツ)とグランドエリア(屋外スポーツ)で部室棟も分けられている為、バスケ部がサッカー部員と部活中に基本会うことはない。
宏樹「神に会いたくてさ」
神「え?」
宏樹「神奈川の代表に選ばれたって聞いたからお祝いを言いに来たんだ」
神「…わざわざどーも…」
宏樹「監督は高頭監督でキャプテンは牧さんなんだろ?」
神「そうだよ」
宏樹「それなら当然の結果か…。神は2人の『お気に入り』だもんな」
清田「は?それってどういう意味だよ⁉︎神さんがコネみたいな言い方しやがって…」
失礼な言い方に清田が宏樹に喰ってかかるのを神が止める。
神「信長!」
清田「で、でも…」
神は清田の肩に手をポンと置くと首を横に振った。清田は一瞬で大人しくなった。
宏樹「あ、気に障っちゃった?ごめん、ごめん。悪気はないんだ」
神「あぁ。気にしてないよ」
ニコッと笑う神に宏樹はイラッとした。神の挑発に乗ってこない所が本当に気に食わない。どうしたらこの男を取り乱させることができるのか…。
宏樹(いつかその余裕たっぷりな態度を崩してやるからな…)
ギリギリと奥歯を噛み締め神を睨む宏樹。そんな宏樹に気づいても神は無反応だ。
神「俺、教室に忘れ物しちゃったからもう行くよ。また明日な」
と和かにその場を立ち去る神。
自分が何をしても何を言っても意に変えなさい神に腑が煮え繰り返る。
宏樹「絶対にいつかひざまつかせてやるからな…首洗って待てろよ…」
と遠ざかる背中にポツリと呟いた。
緊張した面持ちの男子生徒から『入学式で見かけた時からずっと好きでした。俺と付き合って下さい』と告げられ莉子は心臓がギュッと締め付けられる様な痛みに唇を噛み締めた。
「ご…ごめんなさい」
莉子は目の前の男子生徒に深々と頭を下げた。
「どうしても無理…?」
と男子に問われ莉子は今にも泣き出しそうな表情で『ごめんなさい…今は部活を頑張りたいと思っていて…私、不器用だから両立が難しくて…』と答え『本当にごめんなさい』と一度目よりもさらに深く頭を下げた。
「そっか…バスケ部すごく頑張ってるもんね…。わかった!部活頑張ってね‼︎応援してる…」
と笑顔を見せる男子生徒。
莉子に告白をしてきたのは同じ学年の男子だった。爽やかな好青年で同学年の女の子達から人気が高い。
莉子「はい…。…ありがとうございます…」
莉子は男子生徒が立ち去ると『はぁ〜』と大きく息を吐いた。
(き、緊張した…)
緊張と不安からバクバクと暴れる心臓を抑える様にそっと胸に手を置く。
告白を受けた後はいつも中学時代を思い出し大きな不安に襲われる。
(あぁ…嫌だ…)
いつまでも過去に囚われ、本来なら嬉しいはずの好意も素直に受け取れない自分が情けなくなる。
莉子(いつまでもウジウジしてるのはダメってわかってるんだけどな…)
莉子は大きなため息を一つついて部活に向かうため歩き出した。
教室に戻ると帰宅部の子達が数人残っているだけの状況に莉子は慌てて鞄を取ると彼女達に『バイバーイ』と手を振り急いで教室を出た。
廊下を小走りでマネージャーの更衣室へ向かっていると『あっ!莉子ちゃんいた‼︎』と聞き覚えのある声が聞こえて莉子は足を止めてそちらに視線を向けた。
莉子「あ、宮城先輩」
振り返ると一つ上の先輩である宮城リョータが『やっと見つけたぁ〜』と安堵の表情で莉子の元に駆け寄ってくる。
莉子「…何かあったんですか?」
駆け寄って来た宮城に莉子が問うと『コレ』と一枚のプリントを差し出される。莉子がそのプリントを受け取り内容を確認する。
莉子「こくみんたいいくたいかい…?」
頭の上にたくさんのクエスチョンマークが浮かんでいる莉子を見て宮城はニコッと笑う。
宮城「秋の選抜だよ。俺と三井サン…それに流川が選ばれたんだ」
莉子が『えぇ⁉︎』と驚き名簿を確認する。3人の名前を確認した莉子は『わぁ〜…本当だぁ…宮城さん達、すごいです…おめでとうございます』と目をキラキラと輝かせ宮城を見た。
宮城は『何言ってんの』と笑い名簿の一番下を指差す。
宮城「莉子ちゃんもマネージャーで参加が決まってるよ」
莉子は『えぇぇぇ⁉︎⁉︎』と叫んだ。
宮城の指の先には『木村莉子』と確かに明記されている。
莉子「な、なんで…私なんかが…」
と戸惑う莉子に宮城は『なんで?』と首を傾げる。
莉子「だって…私、素人で…晴子の方がバスケの知識も経験もあるし…彩子さんみたいに仕切れないし…私が残った方がいいような気がするんですけど…」
と言う莉子に宮城は『うーーん』と唸った。
宮城「別にバスケの『経験』も『知識』も選手〈俺たち〉が持ってるし…マネが仕切らなくても三年生がいるわけだし問題ないデショ。莉子ちゃんにできることをしてくれればそれでいいんじゃないの?」
宮城の言葉に莉子は目をパチクリさせ『そっか…そうですよね』とパンと手を叩いた。
莉子「すごい人達に混ざるからって私まで『すごい人』である必要ないですよね」
『そうだ、そうだ』と1人で納得している莉子を見て宮城は呆れたように笑った。
宮城「……」(ずっと花道と練習してたからかな…単純なトコ似てきたな…)
宮城は『よーし!頑張るぞぉ‼︎』と意気込んでいる莉子を見て『頼りにしてるよ』と笑ったのだった。
海南大附属高校体育館
「牧さん、神さーーーーん‼︎‼︎」
体育館内に清田の大声が響く。
牧・神「ん?」
大声で名前を呼ばれ振り返る2人。2人の視線の先には湘北の選抜メンバーと同じプリントを持った手をブンブン振り回しながら興奮した表情で駆け寄ってくる清田がいた。
清田「俺!選ばれました‼︎」
嬉しそうに名簿を見せ『清田信長』と書かれた箇所を指差している。
牧と神は呆れたように笑うと『知ってる』と牧が言った。
2人の目の前まで走ってきた清田は興奮した表情で続ける。
清田「清田信長の能力をどう生かすか、チームとしての戦略も考えないといけないしこれから忙しくなりますよ‼︎‼︎」
神「まず一旦落ち着け」
牧「まったくだ」
と笑う2人を見て清田は腕をブンブンと上下に振り上げながら力説を始める。
清田「なに笑ってんすか‼︎2人はワクワクしないんすか⁉︎」
『あー‼︎‼︎もぅじっとしてらんねぇ‼︎‼︎』と牧に自分から質問したにも関わらず清田は『シューティング練習してきます‼︎』と2人の返事も聞かず走り出す。
牧(騒がしい奴がまた一段と騒がしくなったな…)
と『うぉぉぉぉ‼︎』と叫びながらシュートを放つ清田を眺めていると『信長のヤツ。大興奮ですね』と神が話だす。
牧「そうだな。でも確かに今回の国体はいい刺激になるだろうな」
神「俺も楽しみですよ。インターハイの雪辱がありますから…」
牧「それは優勝宣言か?」
神「フッ…」
神は肯定するかのように静かに微笑み清田の練習に目を向ける。
牧も同じ表情で清田のシューティングを眺める。
ガン‼︎‼︎
清田の放ったシュートは大きな音を立ててリングに弾かれた。
清田「ああああーーー‼︎‼︎クッソォーーーー‼︎もぉ一丁‼︎‼︎」
ガン‼︎‼︎
清田「だぁーーーー‼︎‼︎」
またもやシュートを外してしまった清田を見た牧が『おいおいおい…そんなんで大丈夫なんだろうな』と呆れた様な声を出した。
牧の発言を聞いた清田は頭を抱えて膝から崩れ落ちた。
清田「俺の実力はこんなもんじゃ…」
そんな清田を見て神は『あははっ』と笑い、清田に声を掛ける。
神「力み過ぎだ。ちょっと落ち着け」
と騒いでいると一年生が遠慮がちに牧と神に声を掛けた。
一年「あ、あの…お話中すみません」
牧・神「ん?」
憧れの先輩2人から見られドギマギしながら『あの…か、監督から伝言なんですが女子マネ用の部屋を一つ用意するようにと言ってました』と申し訳なさそうに伝える。
牧「女子マネ?」
と牧と神が名簿に目を落とす。神が『えっと…』と指で名簿をなぞり女子マネの名前を探す。
神「あ、いた」
木村莉子(湘北一年 マネージャー)と書かれた名前を見た神の脳裏に赤いキャップを被った少し気の強そうな美人が思い浮かんだ。
神(アイツらがまた騒ぐな…)
夏の予選リーグで応援に来ていた同級生達が『美人がいる』と騒いでいたのを思い出し神は顔を顰めた。もし湘北のマネージャーが来ると知ったら見学と称してマネージャーを見にくる可能性があり、もしかしたら紹介してくれなんて頼まれるかもしれない。
神(アイツら…面倒な事言い出さないといいけど…)
牧が『そうか…そうだな…どうすっかな…』と顎に手を当て少しの間、思案する。
牧「…女バスの更衣室を使わせてもらえないかちょっと聞いてくる」
神「はい」
牧「田中も一緒に来てくれ」
田中「はい!」
牧と1年が体育館を出ていく。入れ替わりに清田がやってきた。
清田「神さーーん!牧さんどこ行ったンスか⁉︎」
神「選抜合宿で来る女マネ用に更衣室を借りに行ったんだよ」
清田「女マネ?」
神「湘北から1人、合宿の手伝いに来てくれるんだって」
と名簿を指差す。清田は名簿を見て不満げな表情を浮かべる。
清田「…ってか女マネって必要ですか?陵南のヤツとウチの1年で充分デショ」
女マネが同じ一年生だからなのか清田は会った事もないマネージャーに対して批判的な意見を遠慮なく言う。神は苦笑いを浮かべた。
神「…折角、来てくれるんだからそんな事言うなよ…」
とたしなめつつもその実、神は清田と同じ様な事を考えていた。女の子がいると何かと気を使う。実際に今、牧はマネージャーの為に動いているのだ。確実に手間が掛かっている。
ちょっと面倒くさい存在である『女子マネージャー』。しかし期間限定とはいえ『仲間』ではある。会う前から拒否はちょっとひどい様な気もする。
神「わざわざ来てくれるんだから優秀な子なんじゃない?」
清田「マネージャーに優秀とかあります?ただの雑用でしょ?」
と人差し指でボールを回し始める。清田の表情は『不満』でいっぱいだった。
神「随分と辛辣なんだな。でもマネージャーが雑用をしてくれるお陰で合宿に集中できるんだから敬意は払うべきだ」
と諭された清田は『ミーハーな奴じゃなければ俺だってそうしますよ』と口を尖らせた。
拗ねた様子の清田を見て神は体育館の入り口に視線を送る。
そこには何人もの女の子がいてお目当ての選手に黄色い声援を贈っている。だれもそれが迷惑になっていると気付いていない様子に嫌気が差した。
神が自分達の方を見ている事に気が付いたファンの声が一層、けたたましく体育館内に響き渡る。
隣に立っていた清田が『うぉっ』と驚いたような声をあげて耳を塞いだ。
キャーキャー騒ぐ女の子は苦手だ。つんざくような金切り声で叫ばれると頭も耳もキンキンと痛む。
高頭や牧の指示が聞こえないなんて事もよくある。
神「…はぁ…」
神の小さなため息と本音は彼女達の声にかき消され、誰にも届かなかった。
その日の練習の帰り。日課になっているシュート500本の自主練をこなし、部室に戻って来た。清田と喋りながら着替えを終え、使ったタオルや着替えをスポーツバックに仕舞おうと鞄を開けるとお弁当箱が入っていない事に気がついた。
神「…しまった…」
鞄を開けた途端に大きなため息をついた神に同じように帰る準備をしていた清田が手を止めた。
清田「どうしたんすか?」
神「教室に弁当箱を忘れてきた…」
まだ暑い日が続く9月。いくら完食されているお弁当箱だとしも洗われていないと匂いが気になる。置いて帰るという選択肢はない。
神はため息を一つつくと鞄を肩に掛けいつも一緒に帰る清田に『俺は教室に寄ってくから先に帰ってて』と言い部室から出ようとすると清田は『俺も行きますよ』と後ろを付いてくる。
ニコニコと自分に付いてくる清田に神は『サンキュ』と笑い共に部室を出た。
校舎へ向かって歩いていると水道の所でしゃべっている人間がいる事に気がついた。
清田「まだ残ってる人なんていたんですね」
神「そうだな…」
いつもは自分たちが最後で守衛以外に出会った事がない2人は一体誰が残ってるんだろうと視線をやると向こうも神達を見ていたようで『よう』と声をかけてきた。
神はその声を聞いた瞬間、顔を顰めた。
その男は神と同じクラスのサッカー部の部員であり神をライバル視している男だ。
神(面倒な奴に見つかってしまった…)
この小野寺宏樹という男は特撮ヒーロー出身の若手俳優の様な爽やかさで一年生の頃は大人気だった生徒である。しかし宏樹の女癖の悪さと女の子を見下した様な発言と態度で見る見る内に人気は急降下した。
その逆に神は見た目は可愛らしく親切だったが口数が少なく、感情が顔に表れにくかった所為で一年の頃は『いい人だけど何を考えてるのかわからないとっつきにくい人』と女の子達からの人気には繋がらなかった。
しかしバスケ部のレギュラーになった神が試合終了後に両手を突き上げ仲間と喜びを分かち合い笑顔を見せる様になると人気は爆発した。『海南バスケ部レギュラー入り』だけでも付加価値が跳ね上がっていたがそこに『無邪気な笑顔』が加算され人気は鰻登りだ。
宏樹の人気急降下と神の人気急加速が丁度重なり、それが宏樹には神に女子の人気が盗られたと錯覚させた。
自身の性格が原因とは微塵とも思っていない宏樹はことごく神に張り合い神はすこぶる迷惑がっていた。
神「よう。珍しいな。こっち側で会うなんて」
とりあえずニコッと笑い宏樹の対応をする神。『こっち側』と言うのは神達が普段使ってる体育館近くにある水飲み場エリア一体の事だ。
体育館エリア(屋内スポーツ)とグランドエリア(屋外スポーツ)で部室棟も分けられている為、バスケ部がサッカー部員と部活中に基本会うことはない。
宏樹「神に会いたくてさ」
神「え?」
宏樹「神奈川の代表に選ばれたって聞いたからお祝いを言いに来たんだ」
神「…わざわざどーも…」
宏樹「監督は高頭監督でキャプテンは牧さんなんだろ?」
神「そうだよ」
宏樹「それなら当然の結果か…。神は2人の『お気に入り』だもんな」
清田「は?それってどういう意味だよ⁉︎神さんがコネみたいな言い方しやがって…」
失礼な言い方に清田が宏樹に喰ってかかるのを神が止める。
神「信長!」
清田「で、でも…」
神は清田の肩に手をポンと置くと首を横に振った。清田は一瞬で大人しくなった。
宏樹「あ、気に障っちゃった?ごめん、ごめん。悪気はないんだ」
神「あぁ。気にしてないよ」
ニコッと笑う神に宏樹はイラッとした。神の挑発に乗ってこない所が本当に気に食わない。どうしたらこの男を取り乱させることができるのか…。
宏樹(いつかその余裕たっぷりな態度を崩してやるからな…)
ギリギリと奥歯を噛み締め神を睨む宏樹。そんな宏樹に気づいても神は無反応だ。
神「俺、教室に忘れ物しちゃったからもう行くよ。また明日な」
と和かにその場を立ち去る神。
自分が何をしても何を言っても意に変えなさい神に腑が煮え繰り返る。
宏樹「絶対にいつかひざまつかせてやるからな…首洗って待てろよ…」
と遠ざかる背中にポツリと呟いた。
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