神宗一郎と恋するお話
神奈川選抜合宿2日目 土曜日
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『実は…』と言ったところで悠馬はハッとして口をつぐんだ。
悠馬「……」
悠馬はジッと神を見た。
真剣な顔で見つめ返してくる神。その表情から神が自分達の問題に本気で向き合おうとしてくれているのが伝わってくる。
悠馬「……」(この人はあの馬鹿とは違う…)
そう思うのと同時に(本当に?)という迷いも出てくる。
本当にこの男を信用していいのか?
一見して人畜無害そうな顔をした神。味方の様に感じるが本当にそうなのか?
莉子に気があるのは態度でわかった。
『力になりたい』なんて言って莉子を励ます事などそっちのけで口説こうと躍起になっていた男達を思い出し、神を睨んだ。
悠馬「……」(こいつも姉ちゃんの不幸を利用しようとしてるだけかもしれない…)
藁にも縋りたい自分を笑いながら舌なめずりしこっちが油断したら牙を剥くかもしれないじゃないか。
悠馬(……でも……)
莉子に『家族を巻き込む気か』と言い傷つけてしまった自分にできることはない。きっとあの発言は莉子の中にあったであろう『家族に相談する』という選択肢を消してしまっただろうから…。
悠馬(でもだからって全部をこいつに託すのは……)
初めて会った男の一体どこを信用したらいいというのか?
頭ではわかっていても頼りたくなってしまう。
姉に暴言を吐いた事で動揺でもしているのだろうか?
しかし一時の感情で行動するわけにはいかない。
悠馬「……」(姉ちゃんをこれ以上、傷付けたくない…)
自問自答を繰り返すあまりすっかり疑心暗鬼になった悠馬は黙ったまま神を睨む様に見つめた。
神は黙ったまま悠馬を見つめていた。
神もまた必死だった。
莉子の過去を知るまたとない大チャンスを逃すわけにいかない。
神「……」(迷ってるみたいだな…)
さて、どうする?
神「……信用できないかもしれないけど…お互い協力者が必要だと思うんだけど…」
神の言葉に悠馬が苦痛に顔を歪ませる。
そして大声で『簡単に言うな‼︎』と神に食ってかかる。
悠馬「俺は一体、アンタの何を信じたらいいんだ‼︎そもそも姉ちゃんはアイツとの事をこっちの人間に知られたくないんだ。何でかわかるか⁉︎」
神は黙って聞いている。
悠馬「お前らみたいなやつは姉ちゃんの不幸を利用しようするからだ‼︎」
悠馬は今にも泣き出しそうに前髪をかき上げた。
神「……」(そういう人間ばかりが寄ってきてのか…だから…木村さんは男嫌いになって、弟も俺をこんなにも警戒してる…)
悠馬「…『解決してやるから付き合え』なんて言うのはかわいい方だ。バカと同じ様に脅してくるやつだっていたし…」
悔しさを滲ませる悠馬。
悠馬「だから俺たちは誰も信じられないんだ」
当時の莉子を思うと胸が張り裂けそうになる。
神(近くにいてあげたかったな…)
過去には戻れない。でも過去は知ることができる。莉子が誰に傷つけられ何に傷ついたのか知ることができれば……。
その表情は『苦悩』そのもので思わず悠馬は『え?』と声を漏らした。
神(やってやる…。俺がもう誰も木村さんを傷つけさせない…)
神が静かに悠馬の方を見る。
顔を上げた神からは『苦悩』はなくなりどこまでも冷静な瞳が悠馬を捉えて離さない。
悠馬「……」
悠馬の心臓がドキドキし始めた。それは『希望』を見つけた喜びによる興奮なのか、『冷静さ』の中に垣間見える怒りへの恐怖なのか分からなかった。
名前のわからない感情に悠馬の緊張は高まっていく。そんな悠馬に気付いているかの様に神はフッと表情を和らげ穏やかな口調で話し始める。
神「俺が信用できない事はよくわかった…。それでも俺を信じて欲しい。縁が切れてたアイツとまた繋がっちゃったのは俺のせいなんだ。俺が小野寺に嫌われてるから木村さんにちょっかいをかけて俺の反応を見て楽しんでるんだ。でも今は『ちょっかい』で済んでるけどきっとエスカレートする」
神の回答に悠馬の眉間の皺は更に深くなった。神は続けた。
神「…小野寺を見る木村さんの目はいつも怯え切ってる…。小野寺はそういうのを楽しんでるからきっと追いかけてくるはずた。まずいことに学校を知られてる。合宿を乗り切っても下校で待ち伏せされて家を特定されたら木村さんの安心できる場所がなくなる。ずっとアイツの陰に怯えることになる。それは絶対に阻止したい。でも情報が足りなすぎるんだ。どうしたら小野寺は木村さんから離すことができる?あいつの切り札は何?頼むからあの2人に何があったのか教えてくれないか。俺は根本から解決して木村さんに安心して欲しいと思ってるだけなんだ」
と『どうか協力して下さい。お願いします』と頭を下げる神。悠馬の心が揺れ動く。悠馬が望んでいたことそのものだったから。
悠馬「…本当に姉ちゃんのこと守ってくれるんですか…」
神「…全力を尽くすよ」
神の言葉に悠馬の眉間にシワがよる。
悠馬「『約束する』って言わないんですね」
神「え?」
悠馬「こう言う時は普通『絶対に守る』とか『約束する』とか言うもんでしょ」
と不服そうに悠馬は神を睨んだ。
その瞳と表情には先ほどまで色濃くあった『警戒心』や『不信感』は見当たらずどこか拗ねているような様子だった。
神は少し驚いた様な表情を浮かべた後、少し申し訳なさそうに話し出す。
神「…や、約束は守るから安心してよ…ただ…」
悠馬「ただ?」
神は気まずそうに視線を落としボソボソと話し始める。
神「俺…その…ちょっとお姉さんの事、怖がらせちゃって…今は距離…置かれちゃってるから…守るとかはちょっと言えなくて…守るとなると近くにいなきゃいけないし…」
『俺はそばにいたいけど…。でも木村さんはそれを望んでないし……』と言う神の表情は悲しそうだった。
そこまで言って神はハッとした。
神(素直に話し過ぎた‼︎)
せっかく信用してもらいかけていたのに『怖がらせて』しまった自分を悠馬はどう思うだろうか…。
神「もちろんもう怖がらせるような事はしないから!怖がらせないように近づかないようにしてるし‼︎‼︎」
慌てて言い訳をする神。
悠馬「…ベツニイイデス…」
悠馬は申し訳なさそうに俯いている神を見た。
悲しそうな表情はイタズラをして怒られられたゴールデンレトリバーの様だった。
正直に言って情けない姿だ。でも悠馬の腹は決まった。
神の言葉は『事実』だけを言っている。
神はこれまでの人間の様に『もしも』の話で悠馬や莉子の不安を煽るような事を言わなかった。
神の莉子の気持ちを重んじている言葉が後押しした。
悠馬「俺の名前は木村悠馬です。名前、教えてもらえませんか」
神「神宗一郎。小野寺とは同じクラスだ」
悠馬「…神さんですね…。あの…姉をよろしくお願いします」
と頭を下げる悠馬に神も慌てて『こちらこそ』と同じように頭を下げたのだった。
悠馬「えっと…どこから始めたらいいですか」
神「小野寺は俺に木村さんは自分には逆らえないって言ってたんだ。付き合えって言えば付き合うしかないって…。それってどういう意味かわかる?木村さんは何か弱みでも握られているの?」
『は?』と一言つぶやいた悠馬の顔が怒りで歪む。
悠馬は自身を落ち着けるように一息吐いて神を見た。
悠馬「2人が出会ったのは中学です。アイツは姉ちゃんに一目惚れして何度も告白してはそのたびに振られてました。」
神は(やっぱりな…)と思った。
莉子は可愛いくて綺麗で人目を引く華のある存在だ。かつ穏やかで優しい莉子はきっとモテただろう。
しかし長所と短所は紙一重である。
莉子の持つ『穏やかさ』も『優しさ』は長所だし神の好きな所でもあるが問題があっても声を上げない短所にもなりえるような気がした。
実際、水をかけられた時も神に抱きしめられた時も仙道と奪い合いになった時も莉子は誰にも文句を言わなかった。
何でも許してしまう『優しさ』を持った莉子。もちろんそんな莉子が大好きなのだが…
そういう『優しさ』は何をしても許されると錯覚させてしまうのではないか。小野寺の様に幼く自分本位な考えを持つ相手なら尚更だ。
それに相手が傷付くのではないかと強い拒否ができないのも問題だ。
相手が調子に乗るのは目に見えてる。
プライドばかりが肥大化し、そのくせ人に認められる程の能力も魅力もなく努力も嫌いなアイツが手っ取り早く承認欲求を満たすのに高嶺の花である莉子は最適な存在だったはず。
それを今も諦めていないのだとすれば…。
神「……」(早く何とかしないとな…)
悠馬「業を煮やしたバカは最終的に姉ちゃんが気の弱いのを利用して大勢の前で告白したんです」
神「……」
悠馬「クラスメイトの神さんならわかると思いますがあの男は性格最悪最低です。だから姉ちゃんも何が何でも首を縦に振らなかったんです」
神「うん」(頑張ったんだろうな…)
神も小野寺はずっと苦手だった。話しかけられるだけでウンザリしていたし、今はもう顔も見たくないし声も聞きたくないぐらい嫌いになった。莉子はそれ以外にも小野寺は怖いという感情もあっただろう。
心の中で莉子の勇気に拍手を送る。
悠馬「姉ちゃんが断れないと踏んで告白したのに見事に振られました。俺からしたら当たり前だろって感じですけど、アイツは大勢の前で大恥を『かかされた』って思っていて姉ちゃんを恨んでるんです。その腹いせにアイツは姉ちゃんの嫌がらせを始めたんです」
グッと悠馬が拳を握った。少し空気がピリつくのを感じた。
神「嫌がらせって?」
悠馬「近くの店とか公衆トイレとかに姉ちゃんの写真が貼られたんです」
神「は?」
悠馬「…姉ちゃんは人目を引くから制服を見て学校を特定した男が待ち伏せしたりするようになって…」
神「ちょっと待って…。小野寺がしたって証拠があったの?」
悠馬「自分で言ってたんです。俺に逆らうとどうなるかわからせてやるって息巻いてました」
神「…あ、そう…」
バカすぎて呆れてしまう。
悠馬「で、その内テニス部にも冷やかしの人間が来る様になって…」
神「テニス部?」
悠馬「当時姉ちゃんはテニス部だったんです。コートに来たガラの悪い奴が部員に声をかけたりして…。それで部員も怖がちゃって…。それに責任を感じた姉ちゃんは部活辞めました」
『下手なりに頑張ってたんですけどね…』と寂しそうに呟く悠馬。
神「………」
黙り込んだ神。
いつかの莉子の言葉を思い出した。
神(あの時言ってたのって…)
莉子「…みんなに頑張って欲しいだけです…」
神「え?」
莉子「『頑張る』って大事です。頑張ってもどうしようもないことたくさんありますけど…でも高い壁に挑んだ事は絶対に糧になります!だからみんなが頑張れる様に私も頑張ります!」
と笑った莉子。
神(途中で部活を辞めたこと…後悔してるのかな…)
悠馬「…。神さん?」
神「あ、ごめん…。続けて」
神の様子に首を傾げながらも『わかりました…』と話を進める。
悠馬「騒ぎは一時的だったけど姉ちゃんは部活を辞めたし、近所の人にヒソヒソされるし、変な奴に目をつけられるしで散々な目にあったけどけどあのバカはそれで満足しなかったんです」
神「まだ何かあったの?」
悠馬「次は姉ちゃんの顔とグラビアアイドルの体を引っ付けた写真を作ったんです」
神は顔を顰めた。
悠馬「流石のアイツも内容的にバレたら大ごとになると思ったのか、ばら撒きこそしなかったですけど…。バカの周りにはバカが集まるもんですよね。バカどもは姉ちゃんの裸を想像して大盛り上がり」
神「………」(クズだな…)
悠馬「もちろん姉ちゃんだってそこまでされて黙ってませんでした」
神「当然だな」
と大きく頷く神。
悠馬「姉ちゃんは初めてアイツに抗議したんです。いつものように教室にまで来て姉ちゃんを揶揄ってたんです。でも姉ちゃんに次、写真を使って変な事をしたら先生に相談するって言われて、あのバカは逆ギレして『じゃあ本物なら文句ないんだな』って言って姉ちゃんを押さえつけて服を破いたんです」
神「…は?」
悠馬「教室内で周りに人がたくさんいたからすぐに取り押さえられて事なきを得ました。もちろんその行動は問題になって両方の親で話し合う大きな騒ぎになりました。アイツの言い訳は今思い出してもハラワタが煮え繰り返りそうになります。あいつは『こっちは冗談だったのに抵抗したかから服が破けた』っ言ったんですよ。信じられますか?いきなり押し倒されたら抵抗するでしょ」
神の顔が暗くなる。
神「あぁ…そうだな…」
悠馬「ましてや男数人で姉ちゃんを押さえつけて服を捲り上げたんだ。殴られたって文句は言えないはずです」
神「ご両親は?なんて話をまとめたの?」
悠馬「ウチの親は激怒です。特に母親の方がキレてました。アイツの発言に反省の色がないって警察に被害届を出す寸前まで揉めました」
神「出さなかったの?」(出しちゃえばよかったのに)
悠馬「あの時は3人目を妊娠中で色々無理が祟ったのか切迫早産で入院になってしまって…」
神「え…」
悠馬「無事に産まれて今も元気ですから心配しないでください。でも姉ちゃんには相当堪えた出来事で、もうやめてくれって姉ちゃんが頼んだんです」
神「……」
悠馬「…向こうの父親がまだマシな人間だったから弁護士を入れて接近禁止の誓約書?っていうのかな…そういうのを用意してくれました。あのバカは誓約書通りにどっかに転校していききました」
神「……」
悠馬「でもあのバカがいなくなったところで何も変わりませんでした。『服を破られた』が『暴行された』に変わったり、姉ちゃんが挑発した事になったり…。味方もたくさんいたけど姉ちゃんは外に出れなくなって、そんな姉ちゃんを心配して俺たちは神奈川に引っ越してきたんです。それでもこっちの中学には一回も登校できずに卒業しちゃいましたけど…」
と悲しそうにため息をついて『これで全部です』と話を終えた。
神「…よくここまで立ち直ったよ…。君のお姉さんはすごいな」
悠馬「……」
神「話しにくいこともあっただろ。話してくれてありがとう。…絶対に守るから」
恥ずかしくなった悠馬はつい憎まれ口を叩いてしまう。
悠馬「…近くに居れないくせに?」
神「ゔっ…」
言葉を詰まらせる神に悠馬は『あ、あの…』と声をかける。
神「ん?」
悠馬はモジモジしながら神を見た。
神「何?どうしたの?」
悠馬は少し考え込むような仕草を見せた後『あ、あの…』と神と見た。
悠馬「俺にも何かできることはありませんか」
神「……」
悠馬「何でもしますから」
切羽詰まった様子の悠馬を見て、莉子を傷つけるようなことを言ったことを気にしているんだなと思った。
神は『んー…。そうだなぁ…』と言った後。明るい声で『じゃあ…8時になったら校門前に迎えにきてあげて』と告げた。
悠馬「え?」
神「駅前は居酒屋が多くて酔っぱらいが多いんだ。だから迎えに来てあげて」
悠馬「…わかりました…」
ちょっと不安そうな悠馬の肩をバシンと叩く。
いきなり肩を叩かれた悠馬は目を白黒させて『痛ったぁ‼︎』と叫び肩を抑える。
神「大丈夫‼︎仲直りできるよ」
と素敵な笑顔を見せる神に力が抜ける悠馬。
悠馬「……はぁ……」
と苦笑いを浮かべながら肩をさするのだった。
走り出した莉子を追いかける仙道。
校内に入っても莉子は迷いなく走っていく。
目的地なんてないのだろう。縦横無尽に走る莉子。
仙道「木村‼︎ちょっと待て‼︎‼︎」
仙道が莉子の腕を掴んだ。
莉子「っ‼︎」
グイッと強く腕を引かれ強引に仙道の方を向かされた。
莉子の目は赤くなり頬には涙が流れている。
仙道「……木村……」
泣いている莉子に動揺する仙道。
仙道「…大丈夫か?」
と声を掛けるが莉子は仙道の方を見る事なく俯いたまま。掴まれていない方の手で頬を拭った。
仙道の胸は痛んだ。悠馬の言った写真に心当たりがあったのだ。
仙道「…弟が言ってた写真って、あのくだらない水着の写真の事か?」
莉子「‼︎」
莉子が顔を上げた。目を見開き驚いた顔をする莉子を見て仙道は確信した。そして一気に当時の記憶が蘇る。
当時の同級生が面白半分で持ってきた写真。嬉々とした様子で差し出された物は莉子の水着写真だった。
一目見ただけで合成だとわかったがあまりの胸糞の悪さに仙道は写真をビリビリに破って喧嘩になったことを思い出した。
仙道「…あんなの気にすることない。誰が見たって木村じゃないってわかる写真だったろ…」
莉子「……」
黙ったまま莉子が仙道の腕を振り払う。そしてまた手の甲で頬を拭った。
泣いている莉子とそれを慰める仙道を好奇の目で見ていく海南の生徒達。
人目が気になるがそれよりも泣いている莉子をどうにか励ましたくて仙道は言葉を紡ぐ。
仙道「そんなに気にすることない。あんな写真、誰も信じてなかったから」
莉子「……」
ズンと心が重くなった。
今になってこれまで考えないようにしていた隣町の中学生『みんな』が見たことを理解させられる。
莉子の心を重くするたくさんの言葉たちが頭の中を濁流の様に流れ込んでくる。
仙道「…木村…?」
莉子「……」(ダメだ…)
仙道の弱々しい声にハッとする。
これ以上、仙道を困らせたらダメだと莉子は『ふう…』と呼吸を整えると仙道を見上げた。
目尻の下がりきった仙道の顔が目に入る。
と同時に周りが自分達を見てヒソヒソと話しているのが見えた。
莉子「わかってます…。気にしちゃダメですよね。わかってるんですけど驚きすぎちゃいました」
と笑う。引き攣った笑いに仙道は自分が莉子を傷つけたと直感でわかった。
仙道「木村…」(どうしよう…なんて言ったらいいんだ…)
神が莉子を傷つけたと落ち込んでいた気持ちが今更理解した。
こんなに胸が痛むことなんで今までなかった。
莉子「こんな顔で食堂に行ったらみんなを驚かせちゃうと思うので…もうちょっと落ち着いたら食堂に行きますね。仙道さんは先に戻ってください」
仙道「俺も行く」
小さい子が母親に縋る様に莉子の袖を摘む仙道。
莉子「ごめんなさい…。今はちょっと1人で落ち着きたいです…。ごめんなさい…」
仙道「……」
莉子「…1人にならないようにします…。更衣室にいるようにしますから…」
懇願するように見つめられ仙道は『わかった』と頷き袖から手を離したのだった。
悠馬「……」
悠馬はジッと神を見た。
真剣な顔で見つめ返してくる神。その表情から神が自分達の問題に本気で向き合おうとしてくれているのが伝わってくる。
悠馬「……」(この人はあの馬鹿とは違う…)
そう思うのと同時に(本当に?)という迷いも出てくる。
本当にこの男を信用していいのか?
一見して人畜無害そうな顔をした神。味方の様に感じるが本当にそうなのか?
莉子に気があるのは態度でわかった。
『力になりたい』なんて言って莉子を励ます事などそっちのけで口説こうと躍起になっていた男達を思い出し、神を睨んだ。
悠馬「……」(こいつも姉ちゃんの不幸を利用しようとしてるだけかもしれない…)
藁にも縋りたい自分を笑いながら舌なめずりしこっちが油断したら牙を剥くかもしれないじゃないか。
悠馬(……でも……)
莉子に『家族を巻き込む気か』と言い傷つけてしまった自分にできることはない。きっとあの発言は莉子の中にあったであろう『家族に相談する』という選択肢を消してしまっただろうから…。
悠馬(でもだからって全部をこいつに託すのは……)
初めて会った男の一体どこを信用したらいいというのか?
頭ではわかっていても頼りたくなってしまう。
姉に暴言を吐いた事で動揺でもしているのだろうか?
しかし一時の感情で行動するわけにはいかない。
悠馬「……」(姉ちゃんをこれ以上、傷付けたくない…)
自問自答を繰り返すあまりすっかり疑心暗鬼になった悠馬は黙ったまま神を睨む様に見つめた。
神は黙ったまま悠馬を見つめていた。
神もまた必死だった。
莉子の過去を知るまたとない大チャンスを逃すわけにいかない。
神「……」(迷ってるみたいだな…)
さて、どうする?
神「……信用できないかもしれないけど…お互い協力者が必要だと思うんだけど…」
神の言葉に悠馬が苦痛に顔を歪ませる。
そして大声で『簡単に言うな‼︎』と神に食ってかかる。
悠馬「俺は一体、アンタの何を信じたらいいんだ‼︎そもそも姉ちゃんはアイツとの事をこっちの人間に知られたくないんだ。何でかわかるか⁉︎」
神は黙って聞いている。
悠馬「お前らみたいなやつは姉ちゃんの不幸を利用しようするからだ‼︎」
悠馬は今にも泣き出しそうに前髪をかき上げた。
神「……」(そういう人間ばかりが寄ってきてのか…だから…木村さんは男嫌いになって、弟も俺をこんなにも警戒してる…)
悠馬「…『解決してやるから付き合え』なんて言うのはかわいい方だ。バカと同じ様に脅してくるやつだっていたし…」
悔しさを滲ませる悠馬。
悠馬「だから俺たちは誰も信じられないんだ」
当時の莉子を思うと胸が張り裂けそうになる。
神(近くにいてあげたかったな…)
過去には戻れない。でも過去は知ることができる。莉子が誰に傷つけられ何に傷ついたのか知ることができれば……。
その表情は『苦悩』そのもので思わず悠馬は『え?』と声を漏らした。
神(やってやる…。俺がもう誰も木村さんを傷つけさせない…)
神が静かに悠馬の方を見る。
顔を上げた神からは『苦悩』はなくなりどこまでも冷静な瞳が悠馬を捉えて離さない。
悠馬「……」
悠馬の心臓がドキドキし始めた。それは『希望』を見つけた喜びによる興奮なのか、『冷静さ』の中に垣間見える怒りへの恐怖なのか分からなかった。
名前のわからない感情に悠馬の緊張は高まっていく。そんな悠馬に気付いているかの様に神はフッと表情を和らげ穏やかな口調で話し始める。
神「俺が信用できない事はよくわかった…。それでも俺を信じて欲しい。縁が切れてたアイツとまた繋がっちゃったのは俺のせいなんだ。俺が小野寺に嫌われてるから木村さんにちょっかいをかけて俺の反応を見て楽しんでるんだ。でも今は『ちょっかい』で済んでるけどきっとエスカレートする」
神の回答に悠馬の眉間の皺は更に深くなった。神は続けた。
神「…小野寺を見る木村さんの目はいつも怯え切ってる…。小野寺はそういうのを楽しんでるからきっと追いかけてくるはずた。まずいことに学校を知られてる。合宿を乗り切っても下校で待ち伏せされて家を特定されたら木村さんの安心できる場所がなくなる。ずっとアイツの陰に怯えることになる。それは絶対に阻止したい。でも情報が足りなすぎるんだ。どうしたら小野寺は木村さんから離すことができる?あいつの切り札は何?頼むからあの2人に何があったのか教えてくれないか。俺は根本から解決して木村さんに安心して欲しいと思ってるだけなんだ」
と『どうか協力して下さい。お願いします』と頭を下げる神。悠馬の心が揺れ動く。悠馬が望んでいたことそのものだったから。
悠馬「…本当に姉ちゃんのこと守ってくれるんですか…」
神「…全力を尽くすよ」
神の言葉に悠馬の眉間にシワがよる。
悠馬「『約束する』って言わないんですね」
神「え?」
悠馬「こう言う時は普通『絶対に守る』とか『約束する』とか言うもんでしょ」
と不服そうに悠馬は神を睨んだ。
その瞳と表情には先ほどまで色濃くあった『警戒心』や『不信感』は見当たらずどこか拗ねているような様子だった。
神は少し驚いた様な表情を浮かべた後、少し申し訳なさそうに話し出す。
神「…や、約束は守るから安心してよ…ただ…」
悠馬「ただ?」
神は気まずそうに視線を落としボソボソと話し始める。
神「俺…その…ちょっとお姉さんの事、怖がらせちゃって…今は距離…置かれちゃってるから…守るとかはちょっと言えなくて…守るとなると近くにいなきゃいけないし…」
『俺はそばにいたいけど…。でも木村さんはそれを望んでないし……』と言う神の表情は悲しそうだった。
そこまで言って神はハッとした。
神(素直に話し過ぎた‼︎)
せっかく信用してもらいかけていたのに『怖がらせて』しまった自分を悠馬はどう思うだろうか…。
神「もちろんもう怖がらせるような事はしないから!怖がらせないように近づかないようにしてるし‼︎‼︎」
慌てて言い訳をする神。
悠馬「…ベツニイイデス…」
悠馬は申し訳なさそうに俯いている神を見た。
悲しそうな表情はイタズラをして怒られられたゴールデンレトリバーの様だった。
正直に言って情けない姿だ。でも悠馬の腹は決まった。
神の言葉は『事実』だけを言っている。
神はこれまでの人間の様に『もしも』の話で悠馬や莉子の不安を煽るような事を言わなかった。
神の莉子の気持ちを重んじている言葉が後押しした。
悠馬「俺の名前は木村悠馬です。名前、教えてもらえませんか」
神「神宗一郎。小野寺とは同じクラスだ」
悠馬「…神さんですね…。あの…姉をよろしくお願いします」
と頭を下げる悠馬に神も慌てて『こちらこそ』と同じように頭を下げたのだった。
悠馬「えっと…どこから始めたらいいですか」
神「小野寺は俺に木村さんは自分には逆らえないって言ってたんだ。付き合えって言えば付き合うしかないって…。それってどういう意味かわかる?木村さんは何か弱みでも握られているの?」
『は?』と一言つぶやいた悠馬の顔が怒りで歪む。
悠馬は自身を落ち着けるように一息吐いて神を見た。
悠馬「2人が出会ったのは中学です。アイツは姉ちゃんに一目惚れして何度も告白してはそのたびに振られてました。」
神は(やっぱりな…)と思った。
莉子は可愛いくて綺麗で人目を引く華のある存在だ。かつ穏やかで優しい莉子はきっとモテただろう。
しかし長所と短所は紙一重である。
莉子の持つ『穏やかさ』も『優しさ』は長所だし神の好きな所でもあるが問題があっても声を上げない短所にもなりえるような気がした。
実際、水をかけられた時も神に抱きしめられた時も仙道と奪い合いになった時も莉子は誰にも文句を言わなかった。
何でも許してしまう『優しさ』を持った莉子。もちろんそんな莉子が大好きなのだが…
そういう『優しさ』は何をしても許されると錯覚させてしまうのではないか。小野寺の様に幼く自分本位な考えを持つ相手なら尚更だ。
それに相手が傷付くのではないかと強い拒否ができないのも問題だ。
相手が調子に乗るのは目に見えてる。
プライドばかりが肥大化し、そのくせ人に認められる程の能力も魅力もなく努力も嫌いなアイツが手っ取り早く承認欲求を満たすのに高嶺の花である莉子は最適な存在だったはず。
それを今も諦めていないのだとすれば…。
神「……」(早く何とかしないとな…)
悠馬「業を煮やしたバカは最終的に姉ちゃんが気の弱いのを利用して大勢の前で告白したんです」
神「……」
悠馬「クラスメイトの神さんならわかると思いますがあの男は性格最悪最低です。だから姉ちゃんも何が何でも首を縦に振らなかったんです」
神「うん」(頑張ったんだろうな…)
神も小野寺はずっと苦手だった。話しかけられるだけでウンザリしていたし、今はもう顔も見たくないし声も聞きたくないぐらい嫌いになった。莉子はそれ以外にも小野寺は怖いという感情もあっただろう。
心の中で莉子の勇気に拍手を送る。
悠馬「姉ちゃんが断れないと踏んで告白したのに見事に振られました。俺からしたら当たり前だろって感じですけど、アイツは大勢の前で大恥を『かかされた』って思っていて姉ちゃんを恨んでるんです。その腹いせにアイツは姉ちゃんの嫌がらせを始めたんです」
グッと悠馬が拳を握った。少し空気がピリつくのを感じた。
神「嫌がらせって?」
悠馬「近くの店とか公衆トイレとかに姉ちゃんの写真が貼られたんです」
神「は?」
悠馬「…姉ちゃんは人目を引くから制服を見て学校を特定した男が待ち伏せしたりするようになって…」
神「ちょっと待って…。小野寺がしたって証拠があったの?」
悠馬「自分で言ってたんです。俺に逆らうとどうなるかわからせてやるって息巻いてました」
神「…あ、そう…」
バカすぎて呆れてしまう。
悠馬「で、その内テニス部にも冷やかしの人間が来る様になって…」
神「テニス部?」
悠馬「当時姉ちゃんはテニス部だったんです。コートに来たガラの悪い奴が部員に声をかけたりして…。それで部員も怖がちゃって…。それに責任を感じた姉ちゃんは部活辞めました」
『下手なりに頑張ってたんですけどね…』と寂しそうに呟く悠馬。
神「………」
黙り込んだ神。
いつかの莉子の言葉を思い出した。
神(あの時言ってたのって…)
莉子「…みんなに頑張って欲しいだけです…」
神「え?」
莉子「『頑張る』って大事です。頑張ってもどうしようもないことたくさんありますけど…でも高い壁に挑んだ事は絶対に糧になります!だからみんなが頑張れる様に私も頑張ります!」
と笑った莉子。
神(途中で部活を辞めたこと…後悔してるのかな…)
悠馬「…。神さん?」
神「あ、ごめん…。続けて」
神の様子に首を傾げながらも『わかりました…』と話を進める。
悠馬「騒ぎは一時的だったけど姉ちゃんは部活を辞めたし、近所の人にヒソヒソされるし、変な奴に目をつけられるしで散々な目にあったけどけどあのバカはそれで満足しなかったんです」
神「まだ何かあったの?」
悠馬「次は姉ちゃんの顔とグラビアアイドルの体を引っ付けた写真を作ったんです」
神は顔を顰めた。
悠馬「流石のアイツも内容的にバレたら大ごとになると思ったのか、ばら撒きこそしなかったですけど…。バカの周りにはバカが集まるもんですよね。バカどもは姉ちゃんの裸を想像して大盛り上がり」
神「………」(クズだな…)
悠馬「もちろん姉ちゃんだってそこまでされて黙ってませんでした」
神「当然だな」
と大きく頷く神。
悠馬「姉ちゃんは初めてアイツに抗議したんです。いつものように教室にまで来て姉ちゃんを揶揄ってたんです。でも姉ちゃんに次、写真を使って変な事をしたら先生に相談するって言われて、あのバカは逆ギレして『じゃあ本物なら文句ないんだな』って言って姉ちゃんを押さえつけて服を破いたんです」
神「…は?」
悠馬「教室内で周りに人がたくさんいたからすぐに取り押さえられて事なきを得ました。もちろんその行動は問題になって両方の親で話し合う大きな騒ぎになりました。アイツの言い訳は今思い出してもハラワタが煮え繰り返りそうになります。あいつは『こっちは冗談だったのに抵抗したかから服が破けた』っ言ったんですよ。信じられますか?いきなり押し倒されたら抵抗するでしょ」
神の顔が暗くなる。
神「あぁ…そうだな…」
悠馬「ましてや男数人で姉ちゃんを押さえつけて服を捲り上げたんだ。殴られたって文句は言えないはずです」
神「ご両親は?なんて話をまとめたの?」
悠馬「ウチの親は激怒です。特に母親の方がキレてました。アイツの発言に反省の色がないって警察に被害届を出す寸前まで揉めました」
神「出さなかったの?」(出しちゃえばよかったのに)
悠馬「あの時は3人目を妊娠中で色々無理が祟ったのか切迫早産で入院になってしまって…」
神「え…」
悠馬「無事に産まれて今も元気ですから心配しないでください。でも姉ちゃんには相当堪えた出来事で、もうやめてくれって姉ちゃんが頼んだんです」
神「……」
悠馬「…向こうの父親がまだマシな人間だったから弁護士を入れて接近禁止の誓約書?っていうのかな…そういうのを用意してくれました。あのバカは誓約書通りにどっかに転校していききました」
神「……」
悠馬「でもあのバカがいなくなったところで何も変わりませんでした。『服を破られた』が『暴行された』に変わったり、姉ちゃんが挑発した事になったり…。味方もたくさんいたけど姉ちゃんは外に出れなくなって、そんな姉ちゃんを心配して俺たちは神奈川に引っ越してきたんです。それでもこっちの中学には一回も登校できずに卒業しちゃいましたけど…」
と悲しそうにため息をついて『これで全部です』と話を終えた。
神「…よくここまで立ち直ったよ…。君のお姉さんはすごいな」
悠馬「……」
神「話しにくいこともあっただろ。話してくれてありがとう。…絶対に守るから」
恥ずかしくなった悠馬はつい憎まれ口を叩いてしまう。
悠馬「…近くに居れないくせに?」
神「ゔっ…」
言葉を詰まらせる神に悠馬は『あ、あの…』と声をかける。
神「ん?」
悠馬はモジモジしながら神を見た。
神「何?どうしたの?」
悠馬は少し考え込むような仕草を見せた後『あ、あの…』と神と見た。
悠馬「俺にも何かできることはありませんか」
神「……」
悠馬「何でもしますから」
切羽詰まった様子の悠馬を見て、莉子を傷つけるようなことを言ったことを気にしているんだなと思った。
神は『んー…。そうだなぁ…』と言った後。明るい声で『じゃあ…8時になったら校門前に迎えにきてあげて』と告げた。
悠馬「え?」
神「駅前は居酒屋が多くて酔っぱらいが多いんだ。だから迎えに来てあげて」
悠馬「…わかりました…」
ちょっと不安そうな悠馬の肩をバシンと叩く。
いきなり肩を叩かれた悠馬は目を白黒させて『痛ったぁ‼︎』と叫び肩を抑える。
神「大丈夫‼︎仲直りできるよ」
と素敵な笑顔を見せる神に力が抜ける悠馬。
悠馬「……はぁ……」
と苦笑いを浮かべながら肩をさするのだった。
走り出した莉子を追いかける仙道。
校内に入っても莉子は迷いなく走っていく。
目的地なんてないのだろう。縦横無尽に走る莉子。
仙道「木村‼︎ちょっと待て‼︎‼︎」
仙道が莉子の腕を掴んだ。
莉子「っ‼︎」
グイッと強く腕を引かれ強引に仙道の方を向かされた。
莉子の目は赤くなり頬には涙が流れている。
仙道「……木村……」
泣いている莉子に動揺する仙道。
仙道「…大丈夫か?」
と声を掛けるが莉子は仙道の方を見る事なく俯いたまま。掴まれていない方の手で頬を拭った。
仙道の胸は痛んだ。悠馬の言った写真に心当たりがあったのだ。
仙道「…弟が言ってた写真って、あのくだらない水着の写真の事か?」
莉子「‼︎」
莉子が顔を上げた。目を見開き驚いた顔をする莉子を見て仙道は確信した。そして一気に当時の記憶が蘇る。
当時の同級生が面白半分で持ってきた写真。嬉々とした様子で差し出された物は莉子の水着写真だった。
一目見ただけで合成だとわかったがあまりの胸糞の悪さに仙道は写真をビリビリに破って喧嘩になったことを思い出した。
仙道「…あんなの気にすることない。誰が見たって木村じゃないってわかる写真だったろ…」
莉子「……」
黙ったまま莉子が仙道の腕を振り払う。そしてまた手の甲で頬を拭った。
泣いている莉子とそれを慰める仙道を好奇の目で見ていく海南の生徒達。
人目が気になるがそれよりも泣いている莉子をどうにか励ましたくて仙道は言葉を紡ぐ。
仙道「そんなに気にすることない。あんな写真、誰も信じてなかったから」
莉子「……」
ズンと心が重くなった。
今になってこれまで考えないようにしていた隣町の中学生『みんな』が見たことを理解させられる。
莉子の心を重くするたくさんの言葉たちが頭の中を濁流の様に流れ込んでくる。
仙道「…木村…?」
莉子「……」(ダメだ…)
仙道の弱々しい声にハッとする。
これ以上、仙道を困らせたらダメだと莉子は『ふう…』と呼吸を整えると仙道を見上げた。
目尻の下がりきった仙道の顔が目に入る。
と同時に周りが自分達を見てヒソヒソと話しているのが見えた。
莉子「わかってます…。気にしちゃダメですよね。わかってるんですけど驚きすぎちゃいました」
と笑う。引き攣った笑いに仙道は自分が莉子を傷つけたと直感でわかった。
仙道「木村…」(どうしよう…なんて言ったらいいんだ…)
神が莉子を傷つけたと落ち込んでいた気持ちが今更理解した。
こんなに胸が痛むことなんで今までなかった。
莉子「こんな顔で食堂に行ったらみんなを驚かせちゃうと思うので…もうちょっと落ち着いたら食堂に行きますね。仙道さんは先に戻ってください」
仙道「俺も行く」
小さい子が母親に縋る様に莉子の袖を摘む仙道。
莉子「ごめんなさい…。今はちょっと1人で落ち着きたいです…。ごめんなさい…」
仙道「……」
莉子「…1人にならないようにします…。更衣室にいるようにしますから…」
懇願するように見つめられ仙道は『わかった』と頷き袖から手を離したのだった。