神宗一郎と恋するお話
神奈川選抜合宿2日目 土曜日
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仙道の声がすぐ耳元で聞こえる。
仙道「…絶対に泣かせたりしない…大事にするからさ…」
『俺にしとけ』とさらに強く抱きしめられる。
全身に仙道のぬくもりを感じ自分の体から力が抜けていく。
「早くメシ行こーぜ」
「腹減ったー」
そう遠くない場所から聞こえてきた会話にハッとして莉子は仙道を押し返した。暴れていた時には強く抱きしめられ身動きできなかったのに今回はすんなりと仙道から離れることができた。
大きな笑い声が聞こえそのまま遠ざかっていく。
グランドにいた人たちの喧騒が遠ざかっていくと再び静かになり莉子が仙道を見た。
仙道の表情は穏やかで莉子は自分の聞き間違えかと思った。
莉子「あ、あの…」
戸惑う莉子を見て仙道はニコッと笑う。
仙道「ずっと前から好きだった」
莉子「…ずっと前?」
練習試合の時から…?
莉子は戸惑う。夏の大会で女の子声援を受けている仙道を見たし、今回の合宿でも仙道のファンの人だと思われる人を見かけている。
この合宿まで話をしたことなどなかったのだ。
そんなにモテる人が私を好き?
莉子は信じられない気持ちでいっぱいだった。
仙道「…大丈夫か?」
困った様子の仙道に莉子は慌てて首を横に振った。
莉子「…だ、大丈夫です…。ただ…前から仙道さんは私を知ってたんだって思ったら驚いてしまって…あ、あの…すみません…」
謝る莉子に仙道は『いや…謝ることねぇよ』と笑う。
その笑顔に莉子はいたたまれない気持ちでいっぱいになった。
『俺にしておけ』
この言葉の意味を考えると切なくなった。
仙道の気持ちを受け入れる事はできない。神が好きだから。そして仙道もそれに気付いている。
莉子(神さんは別の人が好き…だから『俺にしておけ』…なんだよね…)
両思いは奇跡なんだと昔見たドラマで言ってた。
莉子(本当…その通りだな…)
恋愛の難しさを痛感する。
仙道「…困らせて悪いな」
と申し訳なさそうに笑う仙道に莉子は慌てて首を横に振った。
莉子「…そんな事はないです…。好きだと思ってもらえるの光栄な事です…でも…私は」
と言った莉子の言葉を『ちょっと待て』と遮る仙道。
莉子「?」
仙道「まだ結論出すなよ」
莉子「え?」
驚く莉子に仙道が言葉を紡ぐ。
仙道「俺に時間をくれないか」
莉子「時間、ですか?」
仙道「俺は今から木村に証明するから」
莉子「証明…?」
仙道「今まで茶化してたから木村は本気にしてねぇだろうけど今まで言ったことは全部本心だよ」
莉子「……」(これまで仙道さんに言われた事…)
一つ思い出した。
『彼氏に立候補する』
莉子「……」(あれ…揶揄ってたわけじゃないんだ…)
カッと頬が熱くなった。
仙道「俺も木村のことを大事にできるってちゃんと証明するから」
莉子「……」
仙道「だからさ、俺のことも見てくれ」
あまりの真剣さに思わず莉子はコクリと頷いた。
仙道の表情がホッと緩む。
仙道「サンキュ…」
莉子が頷いたのを見た仙道は嬉しそうに笑うと『じゃ、戻るか』と階段を降り始めた。
莉子「はい…」
莉子は仙道の後ろをついていく。
莉子「……」
仙道「……」
莉子(な、何か…喋らなきゃ…えっと…)
莉子は告白してくる男の子を避けてきた。告白後は1人で逃げるように立ち去ってきた。告白後もこんな近距離で歩くことは初めての経験だった。
階段を数段降りた所で仙道が『なぁ』と申し訳なさそうに振り返った。
莉子「はい‼︎」
仙道は気まずそうに頭を掻いてポツリと呟いた。
仙道「隣に来ないか?」
と頬を染める仙道に莉子は『え⁉︎』と言葉を詰まらせる。
仙道は恥ずかしそうに『いいだろ?こっち来いって』と莉子の腕を引っ張る。
力強く、それでいて痛みのない様に優しく莉子の手を引き隣に立たせる仙道。
仙道の隣に立つ莉子。愛おしそうに莉子を見つめた後、ゆっくりと踵を返す。
仙道「…行くか」
再び歩き出した仙道は今にも鼻歌を歌いそうな雰囲気だ。
莉子(嬉しそう…)
自分を見つめてくる莉子に気付き『どうした?』と首を傾げる。
莉子「いや…う、嬉しそう…だなって思って…」
仙道「そりゃ好きな子と一緒にいれるのは嬉しいさ」
莉子「⁉︎⁉︎」(す、好きな子っ⁉︎)
仙道の発言にギョッとする莉子
莉子「そ、そうですか…」(こ、告白してくれたんだし…そ…、そういう事なんだけど…恥ずかし過ぎる!)
今更、実感して恥ずかしさが込み上げてくる。
ストレート過ぎる愛情表現にドギマギしている莉子が可愛くてしかたない。仙道はダメだと思いながらも莉子を揶揄いたくなってつ『手、繋ぐか』なんて言ってしまう。
莉子「だ、ダメ!」
仙道の予想通り顔を真っ赤にして慌てふためく莉子に笑いが込み上げてくる。
仙道「ダメかぁ」
と楽しそうに笑う仙道に莉子は気まずそうに仙道を見上げた。
莉子「……」(拒否したのにすごく楽しそう…)
ご機嫌な仙道。
仙道にとって莉子と過ごす時間は特別だ。好きな女の子が隣にいる…。ただそれだけのことでこんなに浮き足だった気持ちになるとは思わなかった。
仙道が莉子を見た。
仙道「いつか手、繋ごうな」
莉子「っ⁉︎」
仙道「顔、真っ赤だぞ」
莉子「せ、仙道さんが変な事言うから!」
仙道「変なこと?俺は本気なんだが」
莉子「うっ…」
莉子が言葉に詰まる。
少しだけ沈黙が続き、仙道が話し始めた。
仙道「…練習試合後さ…実は何回か湘北まで会いに行った事があるんだよ。ストーカーっぽいなって思ってすぐに帰ったけど…」
莉子「…そうなんですか…?」
仙道「…すっげぇ会いたくて…まぁ結局、声はかけれなかったけど…」
莉子「どうして…帰っちゃったんですか?」
仙道「…だって…嫌われたくねぇじゃん…。いきなり行って迷惑って思われたらどうしようとか…怖がらせたら…とか色々、考えちまって…」
『ははは』と恥ずかしそうに笑う仙道。
莉子は仙道の発言に驚いた。みんなの前で『彼氏に立候補する』と言ってみたりお姫様抱っこしたりアーンをねだったり…。
そういう仙道しか知らない莉子はそのギャップにかなり驚いた。
莉子「…仙道さんでもそんな事、考えるんですか…?」
目をまん丸にした莉子の表情を見て仙道は『ははっ』と吹き出した。
仙道「失礼なヤツだな」
莉子「ご、ごめんなさい…」
と口を押さえる莉子。
仙道は『別にいいよ。それだけのことしてた自覚はあるし』と笑った。
仙道「…中学の時はどうしたらいいかわかんなくて、ぐずぐずしてたら転校しちまって…。声をかけなかったことをずっと後悔してたから会えてテンションが上がってたんだろうな」
莉子「中学…の、時…?」
莉子の足が止まる。
仙道も立ち止まり『#木村…?どうした?』と振り返った。
莉子「それってどういう意味、ですか…?」
莉子は混乱した。莉子の中で仙道に初めて会ったのは4月の練習試合だったからだ。
一体どこで…?
仙道は目立つからどこかで会っていたなら絶対に覚えているはずだ。
仙道とどこで会っていたのか思い出せず困惑している莉子を見て仙道は『中学ん時に会ってんだよ。俺ら』と笑った。
しかしすぐに顎に手を当て『いや…』と考え込む。
仙道「…会ってはないか…。『見かけた』って言うのが正しいな」
莉子「…中学生の時に…ですか…?」
ドクンと心臓が警告音の様に跳ねた。一気にいろんな事が頭を駆け巡った。
莉子には知られたくない過去がある。
特に神奈川で知り合ったメンバーには知られたくない。
莉子「……せ、仙道さんは神奈川の人ではないんですか?」
ドキドキとうるさい心臓を必死で平常心を装い仙道に質問した。
仙道「俺は元々、東京に住んでたんだ。父親の転勤で高校からこっちになった」
莉子「…そうだったんですね…」(東京にいたんだ…)
知られたくない秘密を知っている可能性が上がり、心臓がバクバクとうるさい。緊張と動揺で頭の中がうまく働かず不安だけが大きく膨れ上がる。
莉子「……」(仙道さんはどこまで知ってるんだろう…)
黙り込む莉子。仙道はその表情からひどく不安がっている事に気づく。
仙道(まぁ…そりゃそうだよな…)
仙道は莉子の不安は当然だと思った。人気者の仙道は他人から親しげに『仙道くーん』と呼びかけられる事は多いし家に付いてこられた経験も一度や二度ではない。
正直、告白だって多い。
あまり物事を深く考えるタイプではないから気にもしてなかったが莉子はきっと違う。
三井や宮城から何度も『莉子は男嫌い』だと注意された。
特に自分に想いを寄せている男が苦手だと言われている。
つまり今、莉子の目の前には最も苦手としている『男』がいるわけだ。
そんな『男』である自分がそんな昔から勝手に好意を寄せていたのが気味が悪いのかもしれない。
おそらく苦手意識を持つほど莉子はそういう経験が多いのだろう。
仙道「……」(そういえば…)
『クラスメイトや先輩、後輩が莉子に告白した』という話題はよく耳にした。
ドラマのように大勢の前で告白されたと言うのも聞いたことがある。
仙道「……」(何もわからないから不安…なんだよな?)
仙道は莉子の不安をちょっとでも解消しようと口を開いた。
仙道「…木村は浜岡中学だろ?俺は桜山中学だったんだ」
莉子「…桜山中…」
仙道の口から出た中学は莉子が住んでいた町の隣町にあった中学校だ。運動部はよく親善試合などを行い頻繁に交流が行われていた中学校だった。
『桜山中学』と聞いた瞬間、頭を殴られた様な衝撃を受けた。
知っていてもおかしくない。桜山中学の生徒とは合コン紛いの事だってしたことがあるのだ。騙されてだが…。
『…そうなん、ですね…』と不安げに呟く莉子。
仙道「……?」(ますます顔が曇った…?)
仙道が顔を顰めた。
顔色があまり良くないような気がして心配になった仙道は『木村?』と声をかけた。
心配そうに見つめてくる仙道に莉子は『…ごめんなさい…。私…』と唇を噛んだ。
仙道は莉子の知られたくない事を知っているかもしれない。
その事に泣きそうになって言葉が続かない。
仙道が自分の中学時代のことをどこまで知ってるのか気になるが確認はできない。もし知っていたらこれからどんな顔で仙道と接したらいいのかわからない。でも心配そうな仙道に申し訳ない気持ちになり莉子は口を開いた。
莉子「…わ、私…中学時代はあまり…いい思い出がなくて…ちょっと…思い出したくないなって思ってて…」
もし仙道が知っていたら…。
仙道「そうか…ごめんな…。嫌なこと思い出させたな」
莉子「いえ…仙道さんは何も悪くないです」
と笑うが引きつった笑顔に心が締め付けられた。
仙道「…何があったのかわかんねぇけど…ここには木村の味方がたくさんいるから…だから1人で抱え込むなよ」
莉子「はい。ありがとうございます」
素直に頷く莉子に仙道はホッとする。
仙道は『湘北の奴らには感謝だな』と笑った。
莉子「え?」
仙道「転校したって聞いてからもたまに考えてた…。どこに行ったのかなとか元気にしてっかなとかさ…。湘北で見た時は元気そうで…楽しそうに笑ってただろ。今も楽しそうだしな」
莉子「…はい…すごく…楽しいです」
と笑う莉子の笑顔からぎこちなさが消えていた。
ホッとした仙道。気が緩む。
仙道「よかった」
と思わず莉子の頬に手を寄せる。
莉子「え?」
莉子がハッと息を飲む。仙道もまた自分の行動に驚いたのかびっくりしたのか肩がビクッと跳ねた。
仙道「わ、悪い」
莉子「い、いえ…」
仙道「………」
莉子「………」(き、気まずい…)
仙道がポケットに手を入れると歩き始める。
沈黙のままグランドを見下ろせる丘から一番下まで降りて来た。
仙道「………」(めっちゃくちゃ柔らかかったな…)
莉子「………」(何か話さなきゃ…)
食堂のある校内へ向かっていると莉子の後ろから誰かが腕を掴んだ。
「おいっ!」
莉子「えっ⁈」
仙道「⁉︎」
莉子「悠馬⁉︎な、なんで…」
突然現れた弟の悠馬を見て呆気に取られている莉子。悠馬の勢いは止まらない。
悠馬「そこのグランドであの男がストレッチしてたぞ!知ってたんだろ‼︎‼︎何で黙ってた‼︎‼︎‼︎」
仙道(あの男?)
莉子「そ、それは…」
慌てる莉子と突然の事に動けなかった仙道はハッとして悠馬の腕を掴むと『離せ』とギュッと手に力を入れた。
悠馬「くっ!」
痛みに悠馬の顔が苦痛に歪む。
莉子は慌てて仙道の手に自分の手を置いて『や、やめて下さい!』と大声を出した。
食堂へと続く廊下を茜と並んで歩いていたら不意に『やめて下さい‼︎』という声が聞こえた。
神の足がピタッと止まる。
神「……」(木村さんの声…?)
莉子の声だった気がして、来た道の方へ振り返る神を不思議そうに茜が見上げている。
茜「宗ちゃん?どうしたの?」
神は茜を見た。
神「今声、しなかった?」
茜は辺りを見渡し耳を澄ませてみる。
茜「声は色んなところから聞こえてるけど」
今はお昼時。廊下は賑やかな声で溢れていた。
周りにいる人たちも切羽詰まった様な声を聞いた様子もない。
神「……」(気のせい…?)
しかし昨晩の事を思い出す。莉子の様な人影を見た。それは莉子本人だったし、あそこに駆けつけたお陰で莉子を1人にせずに済んだ。
神(昨日だって気のせいじゃなかったし…確認だけしとくか…)
神は茜に『ちょっと気になるから見てくる。先に食堂に行ってて』と言うと茜の返事も聞かずに走り出す。
茜「え⁉︎ちょっと‼︎宗ちゃん‼︎‼︎‼︎」
茜の声が遠ざかっていく。
神(確かこっちの方だったよな…)
声のする方へ向かう。
入り口付近で莉子の腕を掴み怒鳴り散らす男がいた。
神「は?」
男と莉子の間に仙道が割って入るが男は莉子の腕を離そうとしない。
莉子「お、落ち着いて」
莉子が落ち着く様に男に声をかけているが男の怒りは収まらない。
「はぁ⁉︎これが落ち着いていられるか!馬鹿野郎‼︎」
怒鳴られているのが莉子だとわかった瞬間、考えるよりも先に体が動いていた。神は咄嗟に悠馬の肩に手を置くと自分の方へ思いっきり引いた。
神「おいっ!」
悠馬は『うぉ!』と声を上げ神の方を見た。
悠馬「何すんだ!」
悠馬が腕を振り回して肩に置かれた手を振り払う。
突然現れた神に警戒心むき出しの男がギロっと神を睨んだ。
神「何か揉め事?だとしても一方的に怒鳴りつけて侮辱するのは違うだろ」
と悠馬を見下ろした。
悠馬は黙っている。睨みつけてくる表情は言いたい事が言葉にできない子どもの様な歯痒さを感じさせた。
神は諭す様に優しく話しかける。
神「そもそも君は誰?この学校の生徒じゃないだろ?」
悠馬「アンタに関係ない。俺たちの問題なんだ!黙ってろ!」
カチンときた神は言い返す。
神「彼女はウチのマネージャーだ。マネージャーが恫喝されてて黙ってられないな」
と言った神の顔は笑っておらず目の奥に感じる怒りに男が一瞬、怯んだ。
悠馬(うっ…)
たじろぐ悠馬を庇う様に背中に隠す莉子。
そんな莉子にドキッとした。
神(なんで…)
なぜ庇うのかわからない神はそんなに大切な人なのかと胸が締め付けられる様に痛む。
怒られた犬の様にシュンとしてしまった神に莉子は『弟なんです…』と言葉を振り絞る。
莉子の発言に神と仙道は『えぇ⁉︎』と叫んだ。
神「弟⁉︎」
仙道「マジか…」
驚き悠馬を見た。悠馬は『フン!』と鼻息荒く顔を逸らした。
そして莉子を見る。
悠馬「話がある!ちょっとこっちに来い!」
と肩を掴む。
莉子「私、忙しいからダメ!悠馬も迷惑になるから早く帰りなさい!」
と悠馬の手を払いのける莉子。
神と仙道は突然始まった姉弟げんかにオロオロするのみだった。
神(ど、どーしよう?)
仙道(わからん)
喧嘩の原因かわからない2人はアタフタしながら見守る事しかできない。
悠馬「帰れるか!また変な写真ばら撒かれたらどうすんだ!また家族を巻き込む気か‼︎‼︎‼︎」
莉子「っ‼︎⁉︎」
悠馬「あ…」
悠馬が(しまった!)と口をつぐむ。
莉子の表情が変わった。
一瞬、固まった表情はすぐに傷付いたそれに変わる。見る見るうちに目にはいっぱいの涙が溜まりグッと下唇を噛んだ。
莉子の握りしめた手がワナワナと震えている。
悠馬「ね、姉ちゃん…ご、ごめん…」
莉子は顔を上げなかった。その代わりポツリと呟いた。
莉子「ここでは1人じゃないから大丈夫なの…だからもう…帰って…」
と言うと走り去って行く。
悠馬「姉ちゃん!」
莉子を追いかけようとする悠馬。走り出そうとした悠馬の腕を掴む神。
悠馬「離せ!」
神は仙道に向かって声を張り上げる。
神「仙道!木村さんを頼む‼︎」
仙道「お、おう」
悠馬「離せよっ!」
神「写真の事で話がある!」
悠馬「は?」
神「君が言ってた『写真をばら撒いた奴』の名前って小野寺宏樹だろ?」
悠馬「なんで…」
神「小野寺が写真で木村さんを脅そうとしてるんだ。だから力を貸してほしい」
悠馬「脅してる…?あいつがまた姉ちゃんにちょっかいかけてるのか?」
信じられないのか急に大人しくなり神の話を聞き始める悠馬。
神は早口で捲し立てる様に話し出す。
神「俺、小野寺に嫌われててそれで仲良くしてた木村さんが目をつけられた。元々、何か因縁はあったみたいだけど今回の事は俺の責任だ。なんとかしたい。木村さんから小野寺を離したいんだ」
と言った神の目は真剣そのもので悠馬の目も真剣なモノに変わる。
その目は神の本心を見破ろうとしている。
神も悠馬を見つめ返した。
神「木村さんが湘北の生徒だっていうのもバレてる。今しかチャンスはない」
その言葉を聞いた悠馬が『実は…』と口を開いた。
仙道「…絶対に泣かせたりしない…大事にするからさ…」
『俺にしとけ』とさらに強く抱きしめられる。
全身に仙道のぬくもりを感じ自分の体から力が抜けていく。
「早くメシ行こーぜ」
「腹減ったー」
そう遠くない場所から聞こえてきた会話にハッとして莉子は仙道を押し返した。暴れていた時には強く抱きしめられ身動きできなかったのに今回はすんなりと仙道から離れることができた。
大きな笑い声が聞こえそのまま遠ざかっていく。
グランドにいた人たちの喧騒が遠ざかっていくと再び静かになり莉子が仙道を見た。
仙道の表情は穏やかで莉子は自分の聞き間違えかと思った。
莉子「あ、あの…」
戸惑う莉子を見て仙道はニコッと笑う。
仙道「ずっと前から好きだった」
莉子「…ずっと前?」
練習試合の時から…?
莉子は戸惑う。夏の大会で女の子声援を受けている仙道を見たし、今回の合宿でも仙道のファンの人だと思われる人を見かけている。
この合宿まで話をしたことなどなかったのだ。
そんなにモテる人が私を好き?
莉子は信じられない気持ちでいっぱいだった。
仙道「…大丈夫か?」
困った様子の仙道に莉子は慌てて首を横に振った。
莉子「…だ、大丈夫です…。ただ…前から仙道さんは私を知ってたんだって思ったら驚いてしまって…あ、あの…すみません…」
謝る莉子に仙道は『いや…謝ることねぇよ』と笑う。
その笑顔に莉子はいたたまれない気持ちでいっぱいになった。
『俺にしておけ』
この言葉の意味を考えると切なくなった。
仙道の気持ちを受け入れる事はできない。神が好きだから。そして仙道もそれに気付いている。
莉子(神さんは別の人が好き…だから『俺にしておけ』…なんだよね…)
両思いは奇跡なんだと昔見たドラマで言ってた。
莉子(本当…その通りだな…)
恋愛の難しさを痛感する。
仙道「…困らせて悪いな」
と申し訳なさそうに笑う仙道に莉子は慌てて首を横に振った。
莉子「…そんな事はないです…。好きだと思ってもらえるの光栄な事です…でも…私は」
と言った莉子の言葉を『ちょっと待て』と遮る仙道。
莉子「?」
仙道「まだ結論出すなよ」
莉子「え?」
驚く莉子に仙道が言葉を紡ぐ。
仙道「俺に時間をくれないか」
莉子「時間、ですか?」
仙道「俺は今から木村に証明するから」
莉子「証明…?」
仙道「今まで茶化してたから木村は本気にしてねぇだろうけど今まで言ったことは全部本心だよ」
莉子「……」(これまで仙道さんに言われた事…)
一つ思い出した。
『彼氏に立候補する』
莉子「……」(あれ…揶揄ってたわけじゃないんだ…)
カッと頬が熱くなった。
仙道「俺も木村のことを大事にできるってちゃんと証明するから」
莉子「……」
仙道「だからさ、俺のことも見てくれ」
あまりの真剣さに思わず莉子はコクリと頷いた。
仙道の表情がホッと緩む。
仙道「サンキュ…」
莉子が頷いたのを見た仙道は嬉しそうに笑うと『じゃ、戻るか』と階段を降り始めた。
莉子「はい…」
莉子は仙道の後ろをついていく。
莉子「……」
仙道「……」
莉子(な、何か…喋らなきゃ…えっと…)
莉子は告白してくる男の子を避けてきた。告白後は1人で逃げるように立ち去ってきた。告白後もこんな近距離で歩くことは初めての経験だった。
階段を数段降りた所で仙道が『なぁ』と申し訳なさそうに振り返った。
莉子「はい‼︎」
仙道は気まずそうに頭を掻いてポツリと呟いた。
仙道「隣に来ないか?」
と頬を染める仙道に莉子は『え⁉︎』と言葉を詰まらせる。
仙道は恥ずかしそうに『いいだろ?こっち来いって』と莉子の腕を引っ張る。
力強く、それでいて痛みのない様に優しく莉子の手を引き隣に立たせる仙道。
仙道の隣に立つ莉子。愛おしそうに莉子を見つめた後、ゆっくりと踵を返す。
仙道「…行くか」
再び歩き出した仙道は今にも鼻歌を歌いそうな雰囲気だ。
莉子(嬉しそう…)
自分を見つめてくる莉子に気付き『どうした?』と首を傾げる。
莉子「いや…う、嬉しそう…だなって思って…」
仙道「そりゃ好きな子と一緒にいれるのは嬉しいさ」
莉子「⁉︎⁉︎」(す、好きな子っ⁉︎)
仙道の発言にギョッとする莉子
莉子「そ、そうですか…」(こ、告白してくれたんだし…そ…、そういう事なんだけど…恥ずかし過ぎる!)
今更、実感して恥ずかしさが込み上げてくる。
ストレート過ぎる愛情表現にドギマギしている莉子が可愛くてしかたない。仙道はダメだと思いながらも莉子を揶揄いたくなってつ『手、繋ぐか』なんて言ってしまう。
莉子「だ、ダメ!」
仙道の予想通り顔を真っ赤にして慌てふためく莉子に笑いが込み上げてくる。
仙道「ダメかぁ」
と楽しそうに笑う仙道に莉子は気まずそうに仙道を見上げた。
莉子「……」(拒否したのにすごく楽しそう…)
ご機嫌な仙道。
仙道にとって莉子と過ごす時間は特別だ。好きな女の子が隣にいる…。ただそれだけのことでこんなに浮き足だった気持ちになるとは思わなかった。
仙道が莉子を見た。
仙道「いつか手、繋ごうな」
莉子「っ⁉︎」
仙道「顔、真っ赤だぞ」
莉子「せ、仙道さんが変な事言うから!」
仙道「変なこと?俺は本気なんだが」
莉子「うっ…」
莉子が言葉に詰まる。
少しだけ沈黙が続き、仙道が話し始めた。
仙道「…練習試合後さ…実は何回か湘北まで会いに行った事があるんだよ。ストーカーっぽいなって思ってすぐに帰ったけど…」
莉子「…そうなんですか…?」
仙道「…すっげぇ会いたくて…まぁ結局、声はかけれなかったけど…」
莉子「どうして…帰っちゃったんですか?」
仙道「…だって…嫌われたくねぇじゃん…。いきなり行って迷惑って思われたらどうしようとか…怖がらせたら…とか色々、考えちまって…」
『ははは』と恥ずかしそうに笑う仙道。
莉子は仙道の発言に驚いた。みんなの前で『彼氏に立候補する』と言ってみたりお姫様抱っこしたりアーンをねだったり…。
そういう仙道しか知らない莉子はそのギャップにかなり驚いた。
莉子「…仙道さんでもそんな事、考えるんですか…?」
目をまん丸にした莉子の表情を見て仙道は『ははっ』と吹き出した。
仙道「失礼なヤツだな」
莉子「ご、ごめんなさい…」
と口を押さえる莉子。
仙道は『別にいいよ。それだけのことしてた自覚はあるし』と笑った。
仙道「…中学の時はどうしたらいいかわかんなくて、ぐずぐずしてたら転校しちまって…。声をかけなかったことをずっと後悔してたから会えてテンションが上がってたんだろうな」
莉子「中学…の、時…?」
莉子の足が止まる。
仙道も立ち止まり『#木村…?どうした?』と振り返った。
莉子「それってどういう意味、ですか…?」
莉子は混乱した。莉子の中で仙道に初めて会ったのは4月の練習試合だったからだ。
一体どこで…?
仙道は目立つからどこかで会っていたなら絶対に覚えているはずだ。
仙道とどこで会っていたのか思い出せず困惑している莉子を見て仙道は『中学ん時に会ってんだよ。俺ら』と笑った。
しかしすぐに顎に手を当て『いや…』と考え込む。
仙道「…会ってはないか…。『見かけた』って言うのが正しいな」
莉子「…中学生の時に…ですか…?」
ドクンと心臓が警告音の様に跳ねた。一気にいろんな事が頭を駆け巡った。
莉子には知られたくない過去がある。
特に神奈川で知り合ったメンバーには知られたくない。
莉子「……せ、仙道さんは神奈川の人ではないんですか?」
ドキドキとうるさい心臓を必死で平常心を装い仙道に質問した。
仙道「俺は元々、東京に住んでたんだ。父親の転勤で高校からこっちになった」
莉子「…そうだったんですね…」(東京にいたんだ…)
知られたくない秘密を知っている可能性が上がり、心臓がバクバクとうるさい。緊張と動揺で頭の中がうまく働かず不安だけが大きく膨れ上がる。
莉子「……」(仙道さんはどこまで知ってるんだろう…)
黙り込む莉子。仙道はその表情からひどく不安がっている事に気づく。
仙道(まぁ…そりゃそうだよな…)
仙道は莉子の不安は当然だと思った。人気者の仙道は他人から親しげに『仙道くーん』と呼びかけられる事は多いし家に付いてこられた経験も一度や二度ではない。
正直、告白だって多い。
あまり物事を深く考えるタイプではないから気にもしてなかったが莉子はきっと違う。
三井や宮城から何度も『莉子は男嫌い』だと注意された。
特に自分に想いを寄せている男が苦手だと言われている。
つまり今、莉子の目の前には最も苦手としている『男』がいるわけだ。
そんな『男』である自分がそんな昔から勝手に好意を寄せていたのが気味が悪いのかもしれない。
おそらく苦手意識を持つほど莉子はそういう経験が多いのだろう。
仙道「……」(そういえば…)
『クラスメイトや先輩、後輩が莉子に告白した』という話題はよく耳にした。
ドラマのように大勢の前で告白されたと言うのも聞いたことがある。
仙道「……」(何もわからないから不安…なんだよな?)
仙道は莉子の不安をちょっとでも解消しようと口を開いた。
仙道「…木村は浜岡中学だろ?俺は桜山中学だったんだ」
莉子「…桜山中…」
仙道の口から出た中学は莉子が住んでいた町の隣町にあった中学校だ。運動部はよく親善試合などを行い頻繁に交流が行われていた中学校だった。
『桜山中学』と聞いた瞬間、頭を殴られた様な衝撃を受けた。
知っていてもおかしくない。桜山中学の生徒とは合コン紛いの事だってしたことがあるのだ。騙されてだが…。
『…そうなん、ですね…』と不安げに呟く莉子。
仙道「……?」(ますます顔が曇った…?)
仙道が顔を顰めた。
顔色があまり良くないような気がして心配になった仙道は『木村?』と声をかけた。
心配そうに見つめてくる仙道に莉子は『…ごめんなさい…。私…』と唇を噛んだ。
仙道は莉子の知られたくない事を知っているかもしれない。
その事に泣きそうになって言葉が続かない。
仙道が自分の中学時代のことをどこまで知ってるのか気になるが確認はできない。もし知っていたらこれからどんな顔で仙道と接したらいいのかわからない。でも心配そうな仙道に申し訳ない気持ちになり莉子は口を開いた。
莉子「…わ、私…中学時代はあまり…いい思い出がなくて…ちょっと…思い出したくないなって思ってて…」
もし仙道が知っていたら…。
仙道「そうか…ごめんな…。嫌なこと思い出させたな」
莉子「いえ…仙道さんは何も悪くないです」
と笑うが引きつった笑顔に心が締め付けられた。
仙道「…何があったのかわかんねぇけど…ここには木村の味方がたくさんいるから…だから1人で抱え込むなよ」
莉子「はい。ありがとうございます」
素直に頷く莉子に仙道はホッとする。
仙道は『湘北の奴らには感謝だな』と笑った。
莉子「え?」
仙道「転校したって聞いてからもたまに考えてた…。どこに行ったのかなとか元気にしてっかなとかさ…。湘北で見た時は元気そうで…楽しそうに笑ってただろ。今も楽しそうだしな」
莉子「…はい…すごく…楽しいです」
と笑う莉子の笑顔からぎこちなさが消えていた。
ホッとした仙道。気が緩む。
仙道「よかった」
と思わず莉子の頬に手を寄せる。
莉子「え?」
莉子がハッと息を飲む。仙道もまた自分の行動に驚いたのかびっくりしたのか肩がビクッと跳ねた。
仙道「わ、悪い」
莉子「い、いえ…」
仙道「………」
莉子「………」(き、気まずい…)
仙道がポケットに手を入れると歩き始める。
沈黙のままグランドを見下ろせる丘から一番下まで降りて来た。
仙道「………」(めっちゃくちゃ柔らかかったな…)
莉子「………」(何か話さなきゃ…)
食堂のある校内へ向かっていると莉子の後ろから誰かが腕を掴んだ。
「おいっ!」
莉子「えっ⁈」
仙道「⁉︎」
莉子「悠馬⁉︎な、なんで…」
突然現れた弟の悠馬を見て呆気に取られている莉子。悠馬の勢いは止まらない。
悠馬「そこのグランドであの男がストレッチしてたぞ!知ってたんだろ‼︎‼︎何で黙ってた‼︎‼︎‼︎」
仙道(あの男?)
莉子「そ、それは…」
慌てる莉子と突然の事に動けなかった仙道はハッとして悠馬の腕を掴むと『離せ』とギュッと手に力を入れた。
悠馬「くっ!」
痛みに悠馬の顔が苦痛に歪む。
莉子は慌てて仙道の手に自分の手を置いて『や、やめて下さい!』と大声を出した。
食堂へと続く廊下を茜と並んで歩いていたら不意に『やめて下さい‼︎』という声が聞こえた。
神の足がピタッと止まる。
神「……」(木村さんの声…?)
莉子の声だった気がして、来た道の方へ振り返る神を不思議そうに茜が見上げている。
茜「宗ちゃん?どうしたの?」
神は茜を見た。
神「今声、しなかった?」
茜は辺りを見渡し耳を澄ませてみる。
茜「声は色んなところから聞こえてるけど」
今はお昼時。廊下は賑やかな声で溢れていた。
周りにいる人たちも切羽詰まった様な声を聞いた様子もない。
神「……」(気のせい…?)
しかし昨晩の事を思い出す。莉子の様な人影を見た。それは莉子本人だったし、あそこに駆けつけたお陰で莉子を1人にせずに済んだ。
神(昨日だって気のせいじゃなかったし…確認だけしとくか…)
神は茜に『ちょっと気になるから見てくる。先に食堂に行ってて』と言うと茜の返事も聞かずに走り出す。
茜「え⁉︎ちょっと‼︎宗ちゃん‼︎‼︎‼︎」
茜の声が遠ざかっていく。
神(確かこっちの方だったよな…)
声のする方へ向かう。
入り口付近で莉子の腕を掴み怒鳴り散らす男がいた。
神「は?」
男と莉子の間に仙道が割って入るが男は莉子の腕を離そうとしない。
莉子「お、落ち着いて」
莉子が落ち着く様に男に声をかけているが男の怒りは収まらない。
「はぁ⁉︎これが落ち着いていられるか!馬鹿野郎‼︎」
怒鳴られているのが莉子だとわかった瞬間、考えるよりも先に体が動いていた。神は咄嗟に悠馬の肩に手を置くと自分の方へ思いっきり引いた。
神「おいっ!」
悠馬は『うぉ!』と声を上げ神の方を見た。
悠馬「何すんだ!」
悠馬が腕を振り回して肩に置かれた手を振り払う。
突然現れた神に警戒心むき出しの男がギロっと神を睨んだ。
神「何か揉め事?だとしても一方的に怒鳴りつけて侮辱するのは違うだろ」
と悠馬を見下ろした。
悠馬は黙っている。睨みつけてくる表情は言いたい事が言葉にできない子どもの様な歯痒さを感じさせた。
神は諭す様に優しく話しかける。
神「そもそも君は誰?この学校の生徒じゃないだろ?」
悠馬「アンタに関係ない。俺たちの問題なんだ!黙ってろ!」
カチンときた神は言い返す。
神「彼女はウチのマネージャーだ。マネージャーが恫喝されてて黙ってられないな」
と言った神の顔は笑っておらず目の奥に感じる怒りに男が一瞬、怯んだ。
悠馬(うっ…)
たじろぐ悠馬を庇う様に背中に隠す莉子。
そんな莉子にドキッとした。
神(なんで…)
なぜ庇うのかわからない神はそんなに大切な人なのかと胸が締め付けられる様に痛む。
怒られた犬の様にシュンとしてしまった神に莉子は『弟なんです…』と言葉を振り絞る。
莉子の発言に神と仙道は『えぇ⁉︎』と叫んだ。
神「弟⁉︎」
仙道「マジか…」
驚き悠馬を見た。悠馬は『フン!』と鼻息荒く顔を逸らした。
そして莉子を見る。
悠馬「話がある!ちょっとこっちに来い!」
と肩を掴む。
莉子「私、忙しいからダメ!悠馬も迷惑になるから早く帰りなさい!」
と悠馬の手を払いのける莉子。
神と仙道は突然始まった姉弟げんかにオロオロするのみだった。
神(ど、どーしよう?)
仙道(わからん)
喧嘩の原因かわからない2人はアタフタしながら見守る事しかできない。
悠馬「帰れるか!また変な写真ばら撒かれたらどうすんだ!また家族を巻き込む気か‼︎‼︎‼︎」
莉子「っ‼︎⁉︎」
悠馬「あ…」
悠馬が(しまった!)と口をつぐむ。
莉子の表情が変わった。
一瞬、固まった表情はすぐに傷付いたそれに変わる。見る見るうちに目にはいっぱいの涙が溜まりグッと下唇を噛んだ。
莉子の握りしめた手がワナワナと震えている。
悠馬「ね、姉ちゃん…ご、ごめん…」
莉子は顔を上げなかった。その代わりポツリと呟いた。
莉子「ここでは1人じゃないから大丈夫なの…だからもう…帰って…」
と言うと走り去って行く。
悠馬「姉ちゃん!」
莉子を追いかけようとする悠馬。走り出そうとした悠馬の腕を掴む神。
悠馬「離せ!」
神は仙道に向かって声を張り上げる。
神「仙道!木村さんを頼む‼︎」
仙道「お、おう」
悠馬「離せよっ!」
神「写真の事で話がある!」
悠馬「は?」
神「君が言ってた『写真をばら撒いた奴』の名前って小野寺宏樹だろ?」
悠馬「なんで…」
神「小野寺が写真で木村さんを脅そうとしてるんだ。だから力を貸してほしい」
悠馬「脅してる…?あいつがまた姉ちゃんにちょっかいかけてるのか?」
信じられないのか急に大人しくなり神の話を聞き始める悠馬。
神は早口で捲し立てる様に話し出す。
神「俺、小野寺に嫌われててそれで仲良くしてた木村さんが目をつけられた。元々、何か因縁はあったみたいだけど今回の事は俺の責任だ。なんとかしたい。木村さんから小野寺を離したいんだ」
と言った神の目は真剣そのもので悠馬の目も真剣なモノに変わる。
その目は神の本心を見破ろうとしている。
神も悠馬を見つめ返した。
神「木村さんが湘北の生徒だっていうのもバレてる。今しかチャンスはない」
その言葉を聞いた悠馬が『実は…』と口を開いた。