神宗一郎と恋するお話
神奈川選抜合宿2日目 土曜日
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神「木村さん…」
莉子「…神さん…」
神から熱っぽい眼差しを向けられ莉子はうっとりと見つめ返す。
神の手が莉子の頬を撫でる。莉子は抵抗しない。
むしろ撫でられることを喜んでいるかの様に神の手のひらに頬擦りをし感触を楽しむように目を瞑った。
そんな莉子が愛おしくて仕方なかった。
神(めちゃくちゃ可愛い…もっと、もっと近づきたい…)
腰に添えていた手にグッと力がはいる。それに気付いた莉子が目を開け神を見た。
莉子もまた神を見つめる目は熱っぽい。
熱に当てられ神は昂っていくのを感じた。
頬を撫で親指で唇をなぞる。
神(やわらか…)
プルプルの唇。なんだかそこが世界で一番尊く幸せな場所だと感じた。
神(触れたい…)
神の手が莉子の顔を上へ向く様に誘導する。ごく自然に顔が上を向いた。
ぶつかる視線。
潤む瞳にピンク色の頬…
艶々の桜色した唇が神を誘惑する。
神(なんて可愛いんだ…)
神が首を傾けた。
「おいっ‼︎‼︎‼︎」
2人の目を覚まさせるような怒号が響いた。
神・莉子「っ‼︎⁉︎」
2人が弾かれる様にバッと離れ、声のした方を見た。
莉子「三井先輩…」
神「……」
現れたのは三井、宮城、仙道、福田の4人だった。
肩をいからせズンズン2人に迫ると三井が『離れろ!』と神の肩をドンと強く押した。
三井「お前、今コイツに何しようとしてた‼︎」
と三井が神と莉子の間に立って威嚇する。
三井の剣幕と勢いに神は『え…』とほおけたような声を出した後、少し間を置いて自分のしたことを自覚し神は青ざめた。
神「…あ…」(し、しまった!)
顔を真っ赤にして気まずそうな莉子を見て神は自分のした事に目眩がした。
神「ご、ごめん‼︎」(さ、最悪だ…男嫌いの子に抱きつくなんて…しかもキ、キスなんかしようとして…絶対に嫌われた)
慌てふためきながら嫌われたくない一心で謝罪を始める。
神「本当にごめん…急に触られて不快だったよね…本当にごめん…」
と何度も莉子に頭を下げる神。
神の反応に莉子は首を横にブンブンと勢いよく振った。
莉子「そっ、そんな事ないです‼︎」
仙道・三井(そんな事ない?)
莉子の言葉にピクッと反応する仙道と三井。
莉子の背後にフラ〜と大きな人影が現れる。
神と莉子がハッとしてその影を見る。
莉子「仙道さん…?」
神「仙道?」
福田「っ⁉︎」
仙道はにこやかな表情を浮かべているが福田にはわかる。
福田「……」(怒ってる…逃げろ…2人とも…)
仙道「………」
仙道は黙って莉子を見た。
神のネームが入った海南のジャージを着ている莉子…。
暗に莉子は俺のモノだと言われている様な気になって思わず莉子のジャージの袖をチョンと摘む。
莉子「?」
仙道「……」(…面白くねぇ…)
仙道の脳裏にさっきの見た光景が浮かぶ。
見つめ合う2人。莉子は神の手を素直に受け入れていた。
仙道の胸中は穏やかではない。
神の手は莉子の頬と腰回りに置かれていた。何も知らない人が見たら恋人だと思う人がいてもおかしくない距離とシュチュエーションだった。
そこにきての『そんな事ないです』発言…。
仙道「……」(『そんな事ないです』か…じゃあどういうつもりだったんだ?)
神を受け入れている莉子を見た焦りから仙道の鼓動が速くなっている。少し興奮状態になっているようだった。
莉子「……」(怒ってる…?)
仙道から見つめられ莉子は怯えるように『仙道さん?』と様子を伺う。
仙道「……」(なんで俺にはそんな怯えた様な顔なんだよ…神にはあんな…)
女の顔を見せるくせに…
仙道がジャージから手を離し、頬に張り付いていた濡れた髪を耳にかける。
神「っ‼︎」
莉子も少し驚いた様に目を見開き仙道を見ている。
仙道「…さっきのはどういう状況だったんだ?」
手を振り払われなかったに少しだけ冷静さを取り戻す。
莉子「さっきの、状況…ですか?」
仙道の質問にドギマギし始める莉子。
仙道「なんであんなに神と引っ付いてた?」
と言うと莉子の腰に手を回す。
神「お、おい!手‼︎」
仙道が神を見て『あぁ…つい…』と手を離す。
神と三井の眉間に深い皺が寄る。
当の莉子はというと確信をつく質問に仙道の手に気づかないくらい焦っていた。
莉子(な、なんて言ったらいいの…)
焦る莉子を尻目に仙道は『で?なんであんなに引っ付く必要があった?』と同じ質問を繰り返した。
莉子「えっと…私が濡れちゃって…それで神さんがジャージを貸してくれたんです」
仙道「うん。それで?」
仙道の手が莉子の頬に触れる。親指で頬をすりすりと撫でた。
神の眉間に深い皺が寄る。
神(なんか手つきがいやらしくないか…?それになんで木村さんも無抵抗なんだよ)
ムスッとした顔で莉子を見る。
莉子の頭の中は今、この状況をどう乗り切るかでいっぱいだった。
莉子(どうしよう、どうしよう、どうしよう…なんて言ったらいいの…)
莉子に触れている仙道は少し嬉しそうに口角が上がっている。
仙道(ツルツルして…ふわふわだな…)
自分のとは全然違う質感に神が夢中になった理由がわかった気がする。
莉子は必死に頭を働かせるがいい言葉が浮かんでこない。
しかし何か言わなければ…
莉子が口を開いた。
莉子「それで…あ、あの…それでも寒くて…」
仙道「それで神に抱きついたのか?」
莉子「え⁉︎い、いえ…あの、その…」
莉子の顔が青ざめる。
仙道に問い詰められ可哀想なほど狼狽える莉子。
莉子「…そ、そんな…」
そんなつもりはなかった…
と言葉を続けることができなかった。
シャツを掴み体を寄せたのは事実だ。悪いことをして親に見つかった様な罪悪感や羞恥心が混ざった気まずさに涙が出そうになった。
莉子「……」(泣そう…)
今、口を開いたら涙が出てしまいそうだ。莉子は口をつぐんだ。
目にいっぱい涙を溜めた莉子とその頬を撫でる仙道。そんな状態に神に我慢の限界がきた。
神「だから違うんだって」
と神が仙道の手をガシッと掴んだ。そのまま莉子の頬から退かせると背中に莉子を庇う。
神「木村さんは何もしてない…。体が冷え切ってたから…な、なんとかしなきゃって思って俺が勝手にしたことだから…」
仙道が顔を顰めた。
仙道が聞きたいのそういうことじゃない。知りたいのは『なぜ神のキスに応えようとしていたのか』だ。
涙くんでいた莉子が『あ、あの!』と上擦った声で神と仙道の間に割り込んでくる。
莉子「神さんだけが悪いわけじゃなくて…わ、私も暖かくて…つい甘えてしまって…本当、ごめんなさい…」
お互いを庇い合う2人から仙道は目を背けた。
仙道(謝るなよ…そこに気持ちがあったみてぇじゃねぇか…)
必死に謝っている莉子を見ているとそんな考えが頭を巡る。
神に身を任せたのは温かい毛布に包まる感覚と同じで深い意味なんてないと莉子の口から言って欲しかっただけだ。
なのに…
涙ぐみ必死に謝っている莉子を見ていると怒りが湧いてくる。
『謝る』
それは全てを認めて相手に許しを乞うということだ。
それでは莉子何を認めたのか?
神に抱きしめられることを許したことか?
神を受け入れ身を任せたことか?
仙道(それとも…神とキスをしようとしたこと…か…?)
そんな事、認められるわけなかった。
仙道が拳を握った。
仙道(くそ…神に…いや、誰にも渡したくねぇ…)
衝動のままに仙道が莉子に手を伸ばした。
あっという間の出来事だった。
仙道の手が莉子の背中にまわりもう片方の手は膝裏に回される。
仙道の『よっ!』とかけ声と共に莉子の体がふわりと持ち上がる。
莉子「わっ!」
莉子が思わず仙道に抱きつくように首に手を回す。
仙道の行動に莉子だけでなく神、三井、福田に宮城も驚く。
一同「‼︎‼︎‼︎‼︎⁉︎」
神「なっ‼︎⁉︎」
仙道「さぁ、行こうか」
と言うと仙道が一歩足を踏み出した。
『えぇ⁉︎』と驚いた莉子が大声を出した。
神「はっ‼︎」
莉子の大声によって止まっていた思考が動き出した神は仙道の肩を掴んだ。
神「おいっ!どこに行くんだ‼︎」
神に強く肩を掴まれたことで仙道が『おっと!』と立ち止まる。大きく揺れた事で『きゃっ!』と声を上げた後、莉子が仙道のさらに強く首に抱きついた。
仙道「おっ…」(ラッキー)
神「あっ‼︎」(しまった‼︎」)
落ちないように必死になって掴まる莉子に自然と仙道の口角が上がり仙道の手に力が入る。
仙道は『寒いんだろ?俺が更衣室まで連れてってやる』と笑う。
莉子「えっ‼︎⁉︎」
仙道「そのまま抱きついてろよ。あったかいだろ?」
とニコリと笑う仙道。
神「なっ‼︎何言ってんだ‼︎⁉︎」
さっきまでの事を棚に上げ仙道に避難の目を向ける神。
宮城「お、おい‼︎仙道‼︎莉子ちゃんを下せ」
莉子「1人で行けますから‼︎」
仙道「遠慮すんなって」
とポンと莉子の背中を叩いた。
莉子「してません‼︎」
お姫様抱っこをしたまま話を続ける仙道と莉子を見て今度は神が腹を立てる。
神(あぁ‼︎くっそ‼︎我慢の限界だ‼︎)
仙道の前に立ちはだかる神。
神「俺が連れてく!」
仙道の首に腕を回し抱きついている莉子を見ていると(取り返さなきゃ)なんて焦燥心が湧いてくる。
莉子「え?」
宮城は項垂れる。
宮城「さらにややこしくなった…」
三井「………」
仙道に抱きついている莉子に手を伸ばす。仙道が一歩退いて神の手を避け『俺が連れてくから大丈夫だ』と莉子を抱え直す。
莉子「わっ!」
お姫様抱っこなんて初めてされた莉子は仙道が動く度に声を出し仙道にしがみ付く。
それが面白くない神。
神「怖がってるだろ!」
と再び莉子に手を伸ばす。神は仙道と同じ様に背中と膝裏に手を回すと自分の方へ引き寄せる。
莉子「きゃ‼︎」
大きく神の方へ体が揺れる。
グラつき不安定な体勢に(お、落ちちゃう‼︎)と焦った莉子が思わず仙道の首に再び力強く抱きついた。
抱きついてきた莉子に満更でもない仙道の目尻が下がる。
それを見た神はますます腹を立てる。
神「‼︎⁉︎」(なんで仙道ばっかり‼︎)
仙道「神が揺らすから木村が怖がってるだろ。手を離せ」
神「仙道が離せよ‼︎木村さん!こっちにおいで‼︎」
とさらに莉子を引っ張る。
莉子「わっ!わっ!わっ‼︎」
仙道「やめろって!危ないだろ‼︎」
神「仙道が離せばいいだろ‼︎」
取り合いを繰り返しグラグラと揺れるのが怖くて叫ぶ莉子。
莉子「きゃー!」
仙道・神「はっ!」
悲痛な叫びにピタッと2人の動きが止まる。しかし両者手は離さない。
神「……」
仙道「……」
莉子「……」(私、どうなっちゃうの…)
莉子を挟み睨み合いが続く中、三井が2人に向かって『おい』と声をかけた。
仙道と神、莉子が三井を見た。
三井は神と仙道を睨む様に見つめながら『手を離せ』と低い声で言った。
神「……」
神が抵抗する様に莉子を掴む手にギュッと力を入れた。
離したらそのまま仙道のモノになってしまうんじゃないかと不安になった。
神(誰にも渡したくない。…離したくない)
莉子「……」(神さん…なんだかすごく辛そう…)
神の表情を見て胸が締め付けられる。
三井「神。離せ」
神「……」
何も言わず、手の力を抜く様子のない神に莉子が懇願する。
莉子「神さん…下ろして下さい…」
ウルウルとした縋る様な目で見つめられた神は(うっ…)と困惑する。
莉子「お願いします…」
ダメ押しの一言に神は大きく息を吐いた。
神「…はぁ…」
大きなため息の後、神は莉子から手を離した。
勝ち誇ったような仙道にも三井はスッと地面を指差し『仙道、さっさっとそいつを下せ』と睨む。
仙道「えっ⁉︎俺も⁉︎」
宮城「当たり前だろ‼︎なんで自分は大丈夫なんて思ってんだ‼︎」
心底驚いた様な仙道に三井だけでなく宮城も福田も呆れた様子だった。
三井「早く下せ‼︎」
仙道「でも…」
仙道もまた莉子を抱く手にグッと力を入れて抵抗を見せる。
莉子「仙道さん…下ろしてください…1人で行けますから…」
仙道「……」
莉子が『お願いします』と両手を合わせる。
仙道もまた『はぁ…』と大きなため息をついた。
仙道「…わかったよ…」(そんな捨てられる直前の猫みたいな顔すんなよな…)
渋々、仙道が莉子をそっと下ろす。
莉子が土の感触を噛み締める様に地面を踏んだ。
莉子「…」(よかった…)
莉子がホッと胸を撫で下ろす。
三井「仙道、ジャージ脱げ」
仙道「ん?」
三井はジャージを脱ぎながら仙道、福田、宮城に『お前らもジャージ脱げよ』と指示。
宮城 福田「え?」
『ほらよ』と三井は自分のジャージを莉子に掛けた。
三井の意図に3人は気付くとサッとジャージを脱ぎ三井に渡す。
みんなから集めたジャージを莉子に被せたり腰に巻いたりした後『これでちょっとはマシになっただろ。さっさと着替えて来い。牧には俺達から事情を話しとくからちゃんと体拭いてあったまってから来いよ』と莉子の背中を押す。
莉子「はい…ありがとうございます。みなさんもジャージありがとうございます。失礼します」
と頭を下げると脱兎の如く走って行ってしまった。
その後ろ姿が見えなくなると三井は後ろを振り返り神と仙道を睨んだ。
睨まれた2人は気まずそうに三井から目を逸らす。
しかしそんなことで三井が見逃すわけがなかった。諦めの悪い男はしつこいのだ。
三井「お前らは一体何がしてぇんだ!」
2人を一喝する。神は三井に『すみません…ムキになりました…』と小さな声で謝る。
仙道「……」
黙っている仙道をギロっと睨む三井。肩をすぼませると仙道もまた『…すみません…』と謝った。
三井「アイツは男が苦手なんだ。必要以上に構うな。そっとしとけ」
神、仙道「………」
三井「返事しろよ!」
神「それは…ちょっと…」
三井「はぁ⁉︎」
仙道「できないよなぁ?神」
神「うん」
三井「…こんな時だけ団結すんじゃねぇ…」
と三井は呆れた様に大きなため息をついたのだった。
莉子は更衣室に向かって走っていた。たくさんのジャージを身にまとった莉子に海南の生徒達は怪訝な視線を向けているが、今の莉子はそんなことは微塵も気にならなかった。
頭から水をかけられたことから始まった一連の出来事の何もかもが衝撃的だったからだ。
『できる限り何も考えない様にしなきゃ』と思うのに頭の中は神と仙道の事はがり頭に浮かんでくる。
やっとの思いで更衣室に入ると勢いよくドアを閉める。
そして思考を再開させる。
莉子(さっきのは何⁉︎どういう事⁉︎)
仙道の横抱きからの神との奪い合い…
莉子(あんな少女マンガみたいなことある⁉︎)
マンガだったら三角関係だ。
そんな展開困る!
莉子(ううん…もっと困る展開あった…)
神がキスをしようとした。
それだけでも十分過ぎるほどのまずい展開だがそれ以上の出来事があった。
莉子「……」(私、受け入れてた…よ、ね?)
神が首を傾けた時、確かに莉子は目を瞑った。
神のキスを受け入れようとしていたのだ。
莉子(なんで!なんで!なんで⁉︎)
莉子はパニックになっていた。
男の人が苦手な自分に恋なんてできるはずがない。
莉子(なのに‼︎)
なんであの時、目を瞑った!私‼︎
頭を抱える莉子。
これまで男の子にはたくさん嫌な思いをさせられてきた。
幼稚園では苦手な虫を持って追いかけ回され…
※男の子はプレゼントのつもりだった。
小学生では失敗した事を『こんなこともできねぇの⁉︎』とバカにされ…
※『俺がやってやるよ』と言葉が続く
彼らの好意は時間と共に記憶が薄れてしまいネガティブな感情だけが残った。
中学ではチヤホヤされることが増えたが下心が丸わかりで『女』として見られる事が億劫になっていた。
成長が早かった莉子は体の変化も早くニヤニヤと笑う男子達が嫌で仕方なかった。
それに莉子を利用して男子と仲良くなろうとする女の子達もいて人間関係には苦労させられた。
それは今でもあまり変わらない。やたらと莉子を男の子のいる場所に連れ出そうとする女の子は多いし、男子の不躾な視線もまだまだ多い。特に自分を異性として意識しているであろう視線は大の苦手だ。それなのに神から熱っぽい視線を向けられても嫌な気持ちどころか気持ちが高揚していくのを感じていた。
そして抱きしめられ、押し返すことなくむしろ自分から身を寄せた。
莉子(未遂だったけど…でもあの時、三井先輩達が来てなかったら…)
あのまましていただろう。
莉子(あ、ありえない!だってキスは…)
両想いの人達がすることなのだ。
少なくとも莉子の価値観ではそうなのだ。
莉子(えっ…待って?それって…えっ?)
それをしようとしてたと言うことは…?
莉子(ちょっと待って!え⁉︎そういう事なの⁉︎)
神が自分を好きで自分も…
莉子「わ、私…神さんが好き…な、の?」
信じられない…。
プレイ中、何度も『かっこいいなぁ』と思ったけど!
莉子(思ったけれども‼︎)
でもそれは『選手』としてであって男の人としてでは…。
莉子(ない…、とは言い切れない…)
確かにときめいた瞬間はあったことを自覚し始める。
神はいい人だ。昨日は何度も助けられ更衣室まで用意してくれたし、さっきも何も言っていないのにジャージを貸してくれた。
小野寺と駅で会った時の大きな背中に感じた頼もしさを思い出すとキュンと胸が鳴いた。
小野寺に『離れろ』と言った神の横顔の男らしさ…。
莉子「……」(かっこよかったな…)
その時に握られていた莉子の手をすっぽりと覆い隠す様に握られた神の大きな手の温かさと安心感は中毒性を感じるほど甘かった。
記憶が鮮明になると胸が高鳴った。
ドキ…ドキ…ドキ…ドキ…
神を想うと高鳴る鼓動…。
認めざるを得ない…
莉子(私…神さんが好きだ…)
莉子は真っ赤な顔をしてその場にうずくまった。
莉子「…神さん…」
神から熱っぽい眼差しを向けられ莉子はうっとりと見つめ返す。
神の手が莉子の頬を撫でる。莉子は抵抗しない。
むしろ撫でられることを喜んでいるかの様に神の手のひらに頬擦りをし感触を楽しむように目を瞑った。
そんな莉子が愛おしくて仕方なかった。
神(めちゃくちゃ可愛い…もっと、もっと近づきたい…)
腰に添えていた手にグッと力がはいる。それに気付いた莉子が目を開け神を見た。
莉子もまた神を見つめる目は熱っぽい。
熱に当てられ神は昂っていくのを感じた。
頬を撫で親指で唇をなぞる。
神(やわらか…)
プルプルの唇。なんだかそこが世界で一番尊く幸せな場所だと感じた。
神(触れたい…)
神の手が莉子の顔を上へ向く様に誘導する。ごく自然に顔が上を向いた。
ぶつかる視線。
潤む瞳にピンク色の頬…
艶々の桜色した唇が神を誘惑する。
神(なんて可愛いんだ…)
神が首を傾けた。
「おいっ‼︎‼︎‼︎」
2人の目を覚まさせるような怒号が響いた。
神・莉子「っ‼︎⁉︎」
2人が弾かれる様にバッと離れ、声のした方を見た。
莉子「三井先輩…」
神「……」
現れたのは三井、宮城、仙道、福田の4人だった。
肩をいからせズンズン2人に迫ると三井が『離れろ!』と神の肩をドンと強く押した。
三井「お前、今コイツに何しようとしてた‼︎」
と三井が神と莉子の間に立って威嚇する。
三井の剣幕と勢いに神は『え…』とほおけたような声を出した後、少し間を置いて自分のしたことを自覚し神は青ざめた。
神「…あ…」(し、しまった!)
顔を真っ赤にして気まずそうな莉子を見て神は自分のした事に目眩がした。
神「ご、ごめん‼︎」(さ、最悪だ…男嫌いの子に抱きつくなんて…しかもキ、キスなんかしようとして…絶対に嫌われた)
慌てふためきながら嫌われたくない一心で謝罪を始める。
神「本当にごめん…急に触られて不快だったよね…本当にごめん…」
と何度も莉子に頭を下げる神。
神の反応に莉子は首を横にブンブンと勢いよく振った。
莉子「そっ、そんな事ないです‼︎」
仙道・三井(そんな事ない?)
莉子の言葉にピクッと反応する仙道と三井。
莉子の背後にフラ〜と大きな人影が現れる。
神と莉子がハッとしてその影を見る。
莉子「仙道さん…?」
神「仙道?」
福田「っ⁉︎」
仙道はにこやかな表情を浮かべているが福田にはわかる。
福田「……」(怒ってる…逃げろ…2人とも…)
仙道「………」
仙道は黙って莉子を見た。
神のネームが入った海南のジャージを着ている莉子…。
暗に莉子は俺のモノだと言われている様な気になって思わず莉子のジャージの袖をチョンと摘む。
莉子「?」
仙道「……」(…面白くねぇ…)
仙道の脳裏にさっきの見た光景が浮かぶ。
見つめ合う2人。莉子は神の手を素直に受け入れていた。
仙道の胸中は穏やかではない。
神の手は莉子の頬と腰回りに置かれていた。何も知らない人が見たら恋人だと思う人がいてもおかしくない距離とシュチュエーションだった。
そこにきての『そんな事ないです』発言…。
仙道「……」(『そんな事ないです』か…じゃあどういうつもりだったんだ?)
神を受け入れている莉子を見た焦りから仙道の鼓動が速くなっている。少し興奮状態になっているようだった。
莉子「……」(怒ってる…?)
仙道から見つめられ莉子は怯えるように『仙道さん?』と様子を伺う。
仙道「……」(なんで俺にはそんな怯えた様な顔なんだよ…神にはあんな…)
女の顔を見せるくせに…
仙道がジャージから手を離し、頬に張り付いていた濡れた髪を耳にかける。
神「っ‼︎」
莉子も少し驚いた様に目を見開き仙道を見ている。
仙道「…さっきのはどういう状況だったんだ?」
手を振り払われなかったに少しだけ冷静さを取り戻す。
莉子「さっきの、状況…ですか?」
仙道の質問にドギマギし始める莉子。
仙道「なんであんなに神と引っ付いてた?」
と言うと莉子の腰に手を回す。
神「お、おい!手‼︎」
仙道が神を見て『あぁ…つい…』と手を離す。
神と三井の眉間に深い皺が寄る。
当の莉子はというと確信をつく質問に仙道の手に気づかないくらい焦っていた。
莉子(な、なんて言ったらいいの…)
焦る莉子を尻目に仙道は『で?なんであんなに引っ付く必要があった?』と同じ質問を繰り返した。
莉子「えっと…私が濡れちゃって…それで神さんがジャージを貸してくれたんです」
仙道「うん。それで?」
仙道の手が莉子の頬に触れる。親指で頬をすりすりと撫でた。
神の眉間に深い皺が寄る。
神(なんか手つきがいやらしくないか…?それになんで木村さんも無抵抗なんだよ)
ムスッとした顔で莉子を見る。
莉子の頭の中は今、この状況をどう乗り切るかでいっぱいだった。
莉子(どうしよう、どうしよう、どうしよう…なんて言ったらいいの…)
莉子に触れている仙道は少し嬉しそうに口角が上がっている。
仙道(ツルツルして…ふわふわだな…)
自分のとは全然違う質感に神が夢中になった理由がわかった気がする。
莉子は必死に頭を働かせるがいい言葉が浮かんでこない。
しかし何か言わなければ…
莉子が口を開いた。
莉子「それで…あ、あの…それでも寒くて…」
仙道「それで神に抱きついたのか?」
莉子「え⁉︎い、いえ…あの、その…」
莉子の顔が青ざめる。
仙道に問い詰められ可哀想なほど狼狽える莉子。
莉子「…そ、そんな…」
そんなつもりはなかった…
と言葉を続けることができなかった。
シャツを掴み体を寄せたのは事実だ。悪いことをして親に見つかった様な罪悪感や羞恥心が混ざった気まずさに涙が出そうになった。
莉子「……」(泣そう…)
今、口を開いたら涙が出てしまいそうだ。莉子は口をつぐんだ。
目にいっぱい涙を溜めた莉子とその頬を撫でる仙道。そんな状態に神に我慢の限界がきた。
神「だから違うんだって」
と神が仙道の手をガシッと掴んだ。そのまま莉子の頬から退かせると背中に莉子を庇う。
神「木村さんは何もしてない…。体が冷え切ってたから…な、なんとかしなきゃって思って俺が勝手にしたことだから…」
仙道が顔を顰めた。
仙道が聞きたいのそういうことじゃない。知りたいのは『なぜ神のキスに応えようとしていたのか』だ。
涙くんでいた莉子が『あ、あの!』と上擦った声で神と仙道の間に割り込んでくる。
莉子「神さんだけが悪いわけじゃなくて…わ、私も暖かくて…つい甘えてしまって…本当、ごめんなさい…」
お互いを庇い合う2人から仙道は目を背けた。
仙道(謝るなよ…そこに気持ちがあったみてぇじゃねぇか…)
必死に謝っている莉子を見ているとそんな考えが頭を巡る。
神に身を任せたのは温かい毛布に包まる感覚と同じで深い意味なんてないと莉子の口から言って欲しかっただけだ。
なのに…
涙ぐみ必死に謝っている莉子を見ていると怒りが湧いてくる。
『謝る』
それは全てを認めて相手に許しを乞うということだ。
それでは莉子何を認めたのか?
神に抱きしめられることを許したことか?
神を受け入れ身を任せたことか?
仙道(それとも…神とキスをしようとしたこと…か…?)
そんな事、認められるわけなかった。
仙道が拳を握った。
仙道(くそ…神に…いや、誰にも渡したくねぇ…)
衝動のままに仙道が莉子に手を伸ばした。
あっという間の出来事だった。
仙道の手が莉子の背中にまわりもう片方の手は膝裏に回される。
仙道の『よっ!』とかけ声と共に莉子の体がふわりと持ち上がる。
莉子「わっ!」
莉子が思わず仙道に抱きつくように首に手を回す。
仙道の行動に莉子だけでなく神、三井、福田に宮城も驚く。
一同「‼︎‼︎‼︎‼︎⁉︎」
神「なっ‼︎⁉︎」
仙道「さぁ、行こうか」
と言うと仙道が一歩足を踏み出した。
『えぇ⁉︎』と驚いた莉子が大声を出した。
神「はっ‼︎」
莉子の大声によって止まっていた思考が動き出した神は仙道の肩を掴んだ。
神「おいっ!どこに行くんだ‼︎」
神に強く肩を掴まれたことで仙道が『おっと!』と立ち止まる。大きく揺れた事で『きゃっ!』と声を上げた後、莉子が仙道のさらに強く首に抱きついた。
仙道「おっ…」(ラッキー)
神「あっ‼︎」(しまった‼︎」)
落ちないように必死になって掴まる莉子に自然と仙道の口角が上がり仙道の手に力が入る。
仙道は『寒いんだろ?俺が更衣室まで連れてってやる』と笑う。
莉子「えっ‼︎⁉︎」
仙道「そのまま抱きついてろよ。あったかいだろ?」
とニコリと笑う仙道。
神「なっ‼︎何言ってんだ‼︎⁉︎」
さっきまでの事を棚に上げ仙道に避難の目を向ける神。
宮城「お、おい‼︎仙道‼︎莉子ちゃんを下せ」
莉子「1人で行けますから‼︎」
仙道「遠慮すんなって」
とポンと莉子の背中を叩いた。
莉子「してません‼︎」
お姫様抱っこをしたまま話を続ける仙道と莉子を見て今度は神が腹を立てる。
神(あぁ‼︎くっそ‼︎我慢の限界だ‼︎)
仙道の前に立ちはだかる神。
神「俺が連れてく!」
仙道の首に腕を回し抱きついている莉子を見ていると(取り返さなきゃ)なんて焦燥心が湧いてくる。
莉子「え?」
宮城は項垂れる。
宮城「さらにややこしくなった…」
三井「………」
仙道に抱きついている莉子に手を伸ばす。仙道が一歩退いて神の手を避け『俺が連れてくから大丈夫だ』と莉子を抱え直す。
莉子「わっ!」
お姫様抱っこなんて初めてされた莉子は仙道が動く度に声を出し仙道にしがみ付く。
それが面白くない神。
神「怖がってるだろ!」
と再び莉子に手を伸ばす。神は仙道と同じ様に背中と膝裏に手を回すと自分の方へ引き寄せる。
莉子「きゃ‼︎」
大きく神の方へ体が揺れる。
グラつき不安定な体勢に(お、落ちちゃう‼︎)と焦った莉子が思わず仙道の首に再び力強く抱きついた。
抱きついてきた莉子に満更でもない仙道の目尻が下がる。
それを見た神はますます腹を立てる。
神「‼︎⁉︎」(なんで仙道ばっかり‼︎)
仙道「神が揺らすから木村が怖がってるだろ。手を離せ」
神「仙道が離せよ‼︎木村さん!こっちにおいで‼︎」
とさらに莉子を引っ張る。
莉子「わっ!わっ!わっ‼︎」
仙道「やめろって!危ないだろ‼︎」
神「仙道が離せばいいだろ‼︎」
取り合いを繰り返しグラグラと揺れるのが怖くて叫ぶ莉子。
莉子「きゃー!」
仙道・神「はっ!」
悲痛な叫びにピタッと2人の動きが止まる。しかし両者手は離さない。
神「……」
仙道「……」
莉子「……」(私、どうなっちゃうの…)
莉子を挟み睨み合いが続く中、三井が2人に向かって『おい』と声をかけた。
仙道と神、莉子が三井を見た。
三井は神と仙道を睨む様に見つめながら『手を離せ』と低い声で言った。
神「……」
神が抵抗する様に莉子を掴む手にギュッと力を入れた。
離したらそのまま仙道のモノになってしまうんじゃないかと不安になった。
神(誰にも渡したくない。…離したくない)
莉子「……」(神さん…なんだかすごく辛そう…)
神の表情を見て胸が締め付けられる。
三井「神。離せ」
神「……」
何も言わず、手の力を抜く様子のない神に莉子が懇願する。
莉子「神さん…下ろして下さい…」
ウルウルとした縋る様な目で見つめられた神は(うっ…)と困惑する。
莉子「お願いします…」
ダメ押しの一言に神は大きく息を吐いた。
神「…はぁ…」
大きなため息の後、神は莉子から手を離した。
勝ち誇ったような仙道にも三井はスッと地面を指差し『仙道、さっさっとそいつを下せ』と睨む。
仙道「えっ⁉︎俺も⁉︎」
宮城「当たり前だろ‼︎なんで自分は大丈夫なんて思ってんだ‼︎」
心底驚いた様な仙道に三井だけでなく宮城も福田も呆れた様子だった。
三井「早く下せ‼︎」
仙道「でも…」
仙道もまた莉子を抱く手にグッと力を入れて抵抗を見せる。
莉子「仙道さん…下ろしてください…1人で行けますから…」
仙道「……」
莉子が『お願いします』と両手を合わせる。
仙道もまた『はぁ…』と大きなため息をついた。
仙道「…わかったよ…」(そんな捨てられる直前の猫みたいな顔すんなよな…)
渋々、仙道が莉子をそっと下ろす。
莉子が土の感触を噛み締める様に地面を踏んだ。
莉子「…」(よかった…)
莉子がホッと胸を撫で下ろす。
三井「仙道、ジャージ脱げ」
仙道「ん?」
三井はジャージを脱ぎながら仙道、福田、宮城に『お前らもジャージ脱げよ』と指示。
宮城 福田「え?」
『ほらよ』と三井は自分のジャージを莉子に掛けた。
三井の意図に3人は気付くとサッとジャージを脱ぎ三井に渡す。
みんなから集めたジャージを莉子に被せたり腰に巻いたりした後『これでちょっとはマシになっただろ。さっさと着替えて来い。牧には俺達から事情を話しとくからちゃんと体拭いてあったまってから来いよ』と莉子の背中を押す。
莉子「はい…ありがとうございます。みなさんもジャージありがとうございます。失礼します」
と頭を下げると脱兎の如く走って行ってしまった。
その後ろ姿が見えなくなると三井は後ろを振り返り神と仙道を睨んだ。
睨まれた2人は気まずそうに三井から目を逸らす。
しかしそんなことで三井が見逃すわけがなかった。諦めの悪い男はしつこいのだ。
三井「お前らは一体何がしてぇんだ!」
2人を一喝する。神は三井に『すみません…ムキになりました…』と小さな声で謝る。
仙道「……」
黙っている仙道をギロっと睨む三井。肩をすぼませると仙道もまた『…すみません…』と謝った。
三井「アイツは男が苦手なんだ。必要以上に構うな。そっとしとけ」
神、仙道「………」
三井「返事しろよ!」
神「それは…ちょっと…」
三井「はぁ⁉︎」
仙道「できないよなぁ?神」
神「うん」
三井「…こんな時だけ団結すんじゃねぇ…」
と三井は呆れた様に大きなため息をついたのだった。
莉子は更衣室に向かって走っていた。たくさんのジャージを身にまとった莉子に海南の生徒達は怪訝な視線を向けているが、今の莉子はそんなことは微塵も気にならなかった。
頭から水をかけられたことから始まった一連の出来事の何もかもが衝撃的だったからだ。
『できる限り何も考えない様にしなきゃ』と思うのに頭の中は神と仙道の事はがり頭に浮かんでくる。
やっとの思いで更衣室に入ると勢いよくドアを閉める。
そして思考を再開させる。
莉子(さっきのは何⁉︎どういう事⁉︎)
仙道の横抱きからの神との奪い合い…
莉子(あんな少女マンガみたいなことある⁉︎)
マンガだったら三角関係だ。
そんな展開困る!
莉子(ううん…もっと困る展開あった…)
神がキスをしようとした。
それだけでも十分過ぎるほどのまずい展開だがそれ以上の出来事があった。
莉子「……」(私、受け入れてた…よ、ね?)
神が首を傾けた時、確かに莉子は目を瞑った。
神のキスを受け入れようとしていたのだ。
莉子(なんで!なんで!なんで⁉︎)
莉子はパニックになっていた。
男の人が苦手な自分に恋なんてできるはずがない。
莉子(なのに‼︎)
なんであの時、目を瞑った!私‼︎
頭を抱える莉子。
これまで男の子にはたくさん嫌な思いをさせられてきた。
幼稚園では苦手な虫を持って追いかけ回され…
※男の子はプレゼントのつもりだった。
小学生では失敗した事を『こんなこともできねぇの⁉︎』とバカにされ…
※『俺がやってやるよ』と言葉が続く
彼らの好意は時間と共に記憶が薄れてしまいネガティブな感情だけが残った。
中学ではチヤホヤされることが増えたが下心が丸わかりで『女』として見られる事が億劫になっていた。
成長が早かった莉子は体の変化も早くニヤニヤと笑う男子達が嫌で仕方なかった。
それに莉子を利用して男子と仲良くなろうとする女の子達もいて人間関係には苦労させられた。
それは今でもあまり変わらない。やたらと莉子を男の子のいる場所に連れ出そうとする女の子は多いし、男子の不躾な視線もまだまだ多い。特に自分を異性として意識しているであろう視線は大の苦手だ。それなのに神から熱っぽい視線を向けられても嫌な気持ちどころか気持ちが高揚していくのを感じていた。
そして抱きしめられ、押し返すことなくむしろ自分から身を寄せた。
莉子(未遂だったけど…でもあの時、三井先輩達が来てなかったら…)
あのまましていただろう。
莉子(あ、ありえない!だってキスは…)
両想いの人達がすることなのだ。
少なくとも莉子の価値観ではそうなのだ。
莉子(えっ…待って?それって…えっ?)
それをしようとしてたと言うことは…?
莉子(ちょっと待って!え⁉︎そういう事なの⁉︎)
神が自分を好きで自分も…
莉子「わ、私…神さんが好き…な、の?」
信じられない…。
プレイ中、何度も『かっこいいなぁ』と思ったけど!
莉子(思ったけれども‼︎)
でもそれは『選手』としてであって男の人としてでは…。
莉子(ない…、とは言い切れない…)
確かにときめいた瞬間はあったことを自覚し始める。
神はいい人だ。昨日は何度も助けられ更衣室まで用意してくれたし、さっきも何も言っていないのにジャージを貸してくれた。
小野寺と駅で会った時の大きな背中に感じた頼もしさを思い出すとキュンと胸が鳴いた。
小野寺に『離れろ』と言った神の横顔の男らしさ…。
莉子「……」(かっこよかったな…)
その時に握られていた莉子の手をすっぽりと覆い隠す様に握られた神の大きな手の温かさと安心感は中毒性を感じるほど甘かった。
記憶が鮮明になると胸が高鳴った。
ドキ…ドキ…ドキ…ドキ…
神を想うと高鳴る鼓動…。
認めざるを得ない…
莉子(私…神さんが好きだ…)
莉子は真っ赤な顔をしてその場にうずくまった。