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本編

 ピルルル……ピルルル……


 わたしとディア・ルビーが出会ったあの日から一晩たった。わたしが住むオンボロアパートの一室に、けたたましい目覚ましの音が鳴り響く。わたしは、その音を聞き、飛び起きた。


目覚ましの音を消したあと、寝ぼけ眼を擦りながら、布団から出る。


……ああ、今日も学校だ。


昨日はいろいろなことがあった。セクハラ店長のみぞおちを蹴って、バイトがクビになって、ディア・ルビーに会って……そして自分がディア戦士になって。


正直、私自身、現在進行形で疲れが残っている。少し休みたいし、考える時間が欲しい。


しかし、現実はそんなわたしを待ってくれない。


 たらたらしてる時間はねえぞとばかりに、時計の針が一定のリズムを刻みながら動く。


 日常に戻らないといけない。わたしは、鬱々としながら、すぐに洗面所に向かった。


……そういや、最近、よく夢を見るな。しかも、初恋の彼の夢ばかり。


ふと、洗面所で顔を洗いながら、さきほどまで見ていた夢を思い出す。


わたしの思い出を再現してた夢だったからか、やたら鮮明に頭に残っている。


幼い頃にこのアパートの隣に住んでいた、わたしよりも数個年上の幼なじみ。


わたしが小さい頃は、よく遊んでくれた彼。


かっこよくて、大人っぽくて、優しい彼。


 大好きな……いや、大好きだった彼。


 でも、わたしの中にある彼の記憶はとても不鮮明で。なんなら、年がたつにつれ、だんだんと彼に関する記憶が薄れていってる気さえする。


わたしの中から彼そのものが失われているようで、心がズキズキと痛む。


 ……まあ、わたしももう高校生だ。いつまでも出会える気のしない彼を待ち続けるよりも、目の前にいる男子たちを見て、新しい恋を見つけなければいけないのかもしれない。

 
……初恋はかなわないっていうし。もう、あきらめろ、私。


 自分に言い聞かせる。
 

顔を洗い終え、歯磨きをし、制服に着替え、朝ごはんを食べて。


  外に出る準備が一通り終わると、わたしは部屋の片隅にある仏壇に向かう。


「おはよう、母さん」


手を合わせる。仏壇にある写真には、母の姿がある。わたしの母は、とても美人だ。写真の中にいる母は、30代後半のはずなのだが、その姿は女優のように若々しい。わたしと姉妹といっても、違和感がないほどだ。


「母さん、いってくるね」


お母さんに挨拶をする。


いってらっしゃい。


そんな声が聞こえたような気がした。


わたしは、お母さんに挨拶をした後、荷物を持って家を出た。


 「あら、撫子ちゃん、おはよう」


 アパートの階段を下っていると、大家の古畑さんに話しかけられた。古畑さんは、私が母を亡くした時から、親切にしてくれる優しいおばあちゃんだ。よく、私にお惣菜の差し入れをくれる。今日の弁当も、古畑さんのお惣菜が詰めてある。


 「おはようございます、古畑さん。いい天気ですね」


 「そうねえ。暖かくなってきたしね。撫子ちゃん、これから学校?」


 「はい」


 「あら、そうなの。いってらっしゃいね」


 古畑さんが、わたしに向けて、手を振った。わたしは、そんな彼女に、「いってらっしゃい」とかえす。


そして、わたしはアパートに背を向け、学校へ向かったのだった。
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