本編
「おはよう、撫子。お誕生日おめでとう」
「ありがとう」
小学生6年生の9月10日。わたしの12回目の誕生日。
──くんは、朝早くにわたしの家に来てくれた。
学校の制服を身にまとう彼の姿は、いつもよりも数割増で大人びて見える。
制服の彼。ランドセルのわたし。
自分と彼を比較してしまい、歳の差を、より感じてしまう。
わたしも早く大人になりたい。
そうすれば、──くんに見合う女の子になれるのに。
そんな苦悩を、心の中でぼやくが、彼には伝わらない。
彼は、爽やかな笑みを浮かべながら、私に何かを差し出した。
「これ、誕生日プレゼント」
「……わたしにくれるの?」
「もちろん」
わたしは、彼の手に載るそれを見る。
透明な袋でラッピングされているそれ。
太陽の元にキラキラと輝く、細かいディティールが印象的な銀の輪。小学生であるわたしには、ちょっと大人っぽい……でも、私好みのアクセサリー。
「君のために買ったんだ。誕生日だからね」
ああ、わたしのために。それが嬉しすぎて、わたしの顔がにやける。
「本当に綺麗……ありがとう……!」
わたしはお礼を言う。嬉しさが隠しきれない。彼からのプレゼントだなんて。
「ちょっと手を出して」
わたしは、彼に言われるままに、左腕を差し出す。すると、彼は、自分が買ってきた腕輪をわたしの腕につける。
「うん、撫子は可愛いから、よく似合う」
「──くんのセンスがいいから、わたしに似合うんだよ」
「それもそうだね。君に似合うものは、僕が1番知ってる」
わたしたちは、クスクスと笑い合う。
大好きな彼からもらった、大切なブレスレット。
もちろん、わたしの宝物だった。
…………あれ? あのブレスレット……今はどこにあるんだっけ……?