このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

本編

 「撫子なでしこ撫子なでしこ


 幼いわたしの名前を、大好きな彼が呼んだ。それだけで、嬉しさで胸がいっぱいになる。


私の目の前には、端正な顔立ちの少年がいる。年齢も身長もわたしよりもだいぶ上。物心ついた時から優しく接してくれる彼は、わたしにとっての「王子様」だった。

わたしは、そんな彼に躊躇なく抱きつく。


 「──くん!」


 彼の名前を呼ぶ。すると、彼は満面の笑みをわたしに向けた。


 「ああ。僕の可愛い撫子」


 そう言って、彼は小さなわたしを包み込む。


 彼の熱が、お互いの服越しに伝わる。わたしは恥ずかしさ半分、嬉しさ半分の気持ちを抱きつつ、彼を見上げる。


 「どうしたの? ──くん」


 わたしは、こてんと首を傾げた。すると、彼はほんの少しだけ頬を赤く染める。


 「一緒に公園に行かないかなって思って……」

他愛ない誘い。大人じゃないからこそのの小さな逢い引きの約束。

 「行く!」


 わたしは勢いよく、答える。断るわけが無い。彼が大好きだもん。


 「……そうか。じゃあ、行こう! 僕の可愛い撫子……」


 そう言って、彼は、嬉しそうにはにかみながら、わたしの手を引いたのだった。その反応を見て、わたしと彼が同じ気持ちであることを悟った。


 記憶の中にあるそんな出来事。忘れることのない、わたしの初恋。


 ──くん


 ──くん


 ──くん


 ……あれ? 彼の名前は、なんだっけ?
1/6ページ
スキ