冬のアドベントお題
黒いモサモサ
もぞり、もぞりと何かが動いた。本棚の上にいるそれを、私はじっと見つめる。右手にははたき、左手にはゴミ袋、私の身体は脚立の上。そんな身動きのとりにくい私を嘲るかのように、それはぴょんぴょんと飛び跳ねる。どこかへ逃げるわけでもなく、私に襲いかかるわけでもなく。
それは黒いモゾモゾとした存在だった。ネズミでもないし、毛虫でもない。ふわふわとした毛が全身を覆う、拳の大きさ程の生き物だった。目も鼻も口もない。ただの黒いモサモサだ。
たしか、こんな生き物がゲームに出てきたな。ケセランパサランだっけ。
思考するが、それの正体は私には分からない。が、私は本棚の上のホコリをはらいたい。本棚の上を綺麗にしたい。つまり、この得体のしれないモサモサは邪魔な存在なのだ。
私ははたきを振り上げる。するとーー
ひゅんーー
それは消えた。まるで、瞬間移動したかのように。
もう、それがいた痕跡は何もない。夢だったのだろうか。気のせいだったのだろうか。
私は本棚の上のホコリを、はたきではらう。すべてのホコリを払い、本棚が新品同様の輝きをはなった頃、パタパタと足音が聞こえた。その足音は、私の背後で止まる。
「レナちゃん、お掃除終わった?」
その声は祖母のものであった。私は脚立から降りる。
「終わったよ」
背後に立っていた祖母に私は返事をする。祖母は、その穏やかな顔をくしゃりと嬉しそうに歪めた。
「ありがとうね」
「ほんとにね。大掃除ってほんとにめんどくさい」
私はぼやく。毎年、私は12月になると、祖母の家へ行く。祖母の家は古い家だ。田舎の大きな一軒家で1人で住むには大きすぎる。そんな家を毎年親族が集まって、大掃除をするのが年中行事になっている。私もそれに巻き込まれる。
「なんで大掃除ってこの時期にやるの? おばあちゃん、毎日、毎日掃除してるんだからしなくていいじゃん」
私がそう悪態をついても、優しいおばあちゃんはニコニコとしている。
「正月を迎えるためだよ」
「はあ」
それだけ? それだけの為に。私は口をへの字に歪めるが、おばあちゃんはさらに話をつづける。
「それに、この家には悪い神様がよくつくんだ。それをね、祓わないと年神様が新年にうちに来ないんだよ」
「悪い神様?」
「ああ、年神様が来ないと……」
祖母が何かを言おうとした。その時。
「おばあちゃん! ちょっと来て!」
母の声だ。祖母がくるりと声の方をむく。
「この話はまた後で」
祖母がにこりとそう言った。そして、スタスタと年齢のわりにしっかりとした足で、母のもとへ向かう。
悪い神様。そう言って、頭によぎるのはさっきの黒いモサモサだ。あれは、もしかしてーー
そんな私の疑問は、解消されることはなく、年は明け。また1年、また1年と時が過ぎていった。そして、12月がくると毎年祖母の家の掃除をする。しかし、私が黒いモサモサを見ることはもう二度となかったのだった。
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