本編

レポートに使う本をまとめて借り、殿下について行く。殿下に連れられ、やってきたのは図書館のすぐ隣にある公園であった。

公園といってもかなり大きな公園であり、中央には大きな湖があった。その傍には有名な建築家が作った東屋が設置してある。王国が誇る立派な公園だ。

私たちは湖がよく見えるベンチに座る。そよそよと風が吹く。ここは穴場なようで、周りに人は誰もいなかった。

「オリヴィア、元気だったかい?」

「ええ。殿下は?」

「私も元気だったよ。レナードは、ご両親にしこたま怒られたそうだね」

私を任務に巻き込んだ兄は、「なぜこんな危険な任務にオリヴィアを巻き込んだのか!」と、両親に怒られた。が、兄はケロッとしている。怒られている時は「私のせいで……」と少し申し訳ない気持ちがあったが、そんなケロッとしてると申し訳ない気持ちも全て吹き飛んでしまう。

「君は愛されているね」

「ええ」

それは感じている。両親からも、兄からも。大切にされている。

しばらく沈黙が走る。何を話したらいいか分からない。ふと、横目で殿下を見ると、殿下もぼーっと湖を見ていた。

フィオナだった時は、あんなに楽しそうにしてたのに。フィオナとばれる前のフィーリオ殿下でも、もう少し饒舌だったのに。 なにか、あったのだろうか。

「……殿下、今日はなぜここに私を連れてきたのですか?」

聞いてみる。湖を見ていた殿下が、ゆっくりとこっちを向いた。

「そうだね……少しオリヴィアと話したかったんだ」

殿下が肩をすくめる。彼はいつも通りのにこやかな笑みを携えたあと、小さくため息をついた。

「私はオリヴィアといる時間が大好きなんだ。オリヴィアと何気ない話をする時間が特にね」

「それは……私もです」

心の底からそうだ。殿下と同じ気持ちであったことに嬉しく思う。

「だけど、最近、君の話をよく聞くんだ」

「私の話……?」

「君、最近、ほかの貴族ともよく話すだろう?」

「ええ」

たしかに、以前より話すようになった。生徒会長となり、常に一緒にいたフィオナがいなくなってからは特にそうだ。

殿下が俯く。

「今まで君のとなりには常に私がいた。君と何気ない話をするのは私しかいなかった」

その声は少し哀愁を帯びたものであった。彼はさらに話をつづける。

「……多分、嫉妬してしまったんだな」

殿下が自分を嘲るように笑った。

「今まで君の特別は自分だったんだ。それが失われた今──本当に君が欲しくて仕方ない」

……その意味が分からないほど、私は鈍くない。私の顔が少しずつ赤くなっていくのを感じる。

「君が、婚約者を求めていないことは分かってる。だが──」

殿下がさらに話をつづける。そして、私のことをじっと見て。私の頬に手を添えた。

「君の生涯のパートナーの候補に、私をいれてくれないか?」

その言葉に私は目を見開く。私の胸が高鳴って。ドクドクと大きくなって、殿下にも聞こえてしまうのではないかと不安になる。今にも心臓が破れそうであった。手が、足が、身体が、顔が熱い。

「わ、私……」

思わず声が裏返ってしまった。落ち着け、私。1回、息を飲んでふたたび話し始める。

「私、思ったことがあるんです」

「うん」

「結婚するならフィオナみたいな相手がいいって」

「言ってたね」

「んで、フィーリオ殿下と出会って、優しさとか暖かさに触れて……」

「うん」

「ピンチの時にたくさん助けて貰って……支えてもらって……」

「うん」

だめだ。緊張して言葉がまとまらない。殿下は優しいから相槌を打ってくれているが、伝わってるかは分からない。

これはもう、ストレートに言った方がいいかもしれない。

私は大きくため息をついた後、勇気を出して口を開く。

「殿下と結婚したいなって……私も思ってました」

勇気を出したが、照れくさくて俯いてしまう。殿下の顔が見られない。

さらさらと水が流れる音が聞こえる。木の葉がささめく音が聞こえる。静けさが場を支配する。

「オリヴィア」

名前を呼ばれた。そして、顎をクイッとあげられる。

目と目があった。

殿下のエメラルドグリーンの瞳に吸い込まれそうになる。

徐々に殿下の綺麗な顔が、私の顔に近づいてくる。何をされるか察し、私はゆっくり目を閉じた。

そして──

私の唇に彼の唇が触れた。彼の唇は私の唇を啄む。触れた唇は柔らかくて、甘い。

「んっ……」

思わず、私の口から甘い声が漏れてしまう。

殿下は私の指に、自分の指を絡めた。私はギュッと力をこめる。

どれくらいの間、キスをしていただろうか。先に唇を離したのは殿下であった。

「愛してるよ、オリヴィア」

彼の心地いい声。その声が、私の火照りを助長させる。

「私もよ……フィーリオ殿下。愛してます」

2人で愛の言葉を交わす。殿下が穏やかに微笑んだ。今はその微笑みが、愛おしくてたまらない。私も思わず微笑んでしまう。

その後、私たちは時間を忘れる程の甘い時間を過ごしたのであった。
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