本編
「オリヴィア!」
フィーリオ殿下が、私の腕を引いた。殿下が率先して、駆け出す。
「どこにいけばいい……!?」
殿下は鏡の中にいる兄に問うた。
「フィーたちが近いかもな、その廊下真っ直ぐ行って左に曲がれ!」
兄の指示通りに動く。
進めば進むほど、嫌な気配がする。その苦しみが、私にも伝わってきた。
走る。ひたすら走る。風になる。
しばらくして、ひとつの扉の前についた。
この中で何かが起こっている。私はそう、確信した。
苦しみが
怒りが
憎悪が
恐怖が
助けを求める心が、私の心に伝わってくる。
フィーリオ殿下が勢いよく扉を開けた。ほとんど使ってない空き室のようだった。開けた瞬間、ホコリの匂いがした。
部屋にいたのは十数名程度の女の子であった。見たことある顔ばかりだった。全員、貴族令嬢だ。今日の舞踏会の参加者であろう。学園で見たことある生徒もいる。
彼女たちは口をテープでふさがれ、身体をロープで縛られていた。意識を失っている女性がほとんどであった。しかし、1人だけ薄らと意識あるのか、モゾモゾと動いていた。
私はその令嬢の拘束を外す。
「ぷはっ……」
令嬢がほっとした表情を浮かべた。私は、彼女の身体を支える。
「誰にやられたの?」
「分からない。けど多分、女の人かと……」
女の人。それが犯人か。それがこの異世界転移魔法事件の犯人か。
フィーリオ殿下と協力して、女性たちを解放していく。すべての女性の拘束をといたが、彼女たちが意識を戻す気配はない。
「こんな沢山集めて、どうするんだろうか」
殿下が頭を掻きむしりながら、そう言った。
「……まとめて異世界転移させようとしてるのかな」
私がぼやくと同時に──
その場にいた全ての女性たちの身体が黒い炎に包まれた。
「いたいっいたい!」
「やだっ……なにこれ……」
「たすけて……!」
「いやぁあっ!」
「あがぁっ!」
意識がなかった女性たちも一気に飛び上がり、身体中を炎に燃やす。
悲鳴をあげる女の子、その場で悶え苦しむ女の子、頭を掻きむしる女の子……彼女たちはさまざまな反応を見せる。
阿鼻叫喚、地獄絵図であった。
なんとかしないと……私は慌てて、ネックレスを握る。
なんとかして。
彼女たちを救って。
願う。祈る。魔力を込め続ける。
少し、彼女たちを纏う炎が穏やかになった──ような気がする。
でも足りない。全然足りない。
無理かもしれない。そんな考えが頭をよぎる。
でも、辞める訳にはない。
いたい
くるしい
つらい
あつい
いやだ
たすけて
そんな気持ちが、私の頭に絶えず流れ続ける。何人も何人も何人も何人も。私の頭に流れ込み、私の頭も痛くなってくる。
まずいかもしれない……
汗が私の額を伝う。息が切れる。臓器が、骨が、筋肉が、限界を迎え始めている気がする。
ふわっと後ろから誰かに抱き抱えられた。
ネックレスを握っている手の上から、別の手が覆い被さる。私よりも大きくてゴツゴツとした手──フィーリオ殿下の手だった。
その手は暖かくて、頼りになる。
ピンチの時に私を助けてくれるフィーリオ殿下。とても優しくて、強くて、私を守ってくれる。そんな彼が手伝ってくれているのだ。
いける気がする。彼の手はそう確信させた。
私はひたすらに魔力を込める。
私の手に別の魔力を感じた。これは、殿下の魔力か。陽だまりのように温かい魔力だ。私を守ってくれようとする意志を感じる。
殿下の魔力と私の魔力、両方を込めて。私の救いたいという願いをこめる。
彼女たちが消えていいはずないじゃない。犠牲になっていいわけないじゃないか。
こんな一方的に巻き込まれて。ただの理不尽である。
それに──
私はアリスの姿を思い返す。
異世界転移してきた者。
なぜ、彼女が異世界転移してきたかは分からない。
だけど、最後に会った彼女の姿は惨めなものだった。
異世界転移が本当に幸せなものなのだろうか。異世界に残してきた家族は? 友達は?
もし、家族も友達もいる異世界に幻滅してここに来たのなら、それはただの現実逃避だ。異世界転移して現実逃避しても、あらわれるのは新しい“現実”である。
そりゃそうだ。ここはゲームの中じゃない。関わるのはゲームの登場人物じゃない。
人間だ。心があって、個性があって、人生がある。仕事だってある、社会だってある、文化だってある。そんな簡単に新しい人生が築けるわけじゃない。
でも、異世界転移者そのものが悪い訳では無い。彼女たちだって、こちらから犠牲者が出ることなんて知らず巻き込まれただけだろう。悪いのは──
そんなことを知りつつも、人間の弱い心につけ込んでいるこの術の術者だ。私はそいつを許さない。
この世界の人を害するなんて許せない。
この世界の人は、私が全員守る。
その心が届いたのか、私たちが放つ光が強くなった。
そして──
彼女たちを覆う黒い炎は消え去った。すべての女性が意識を失う。しかし、彼女たちは穏やかな寝息を立てていた。
私たちは全員を助けたのだ──
フィーリオ殿下が、私の腕を引いた。殿下が率先して、駆け出す。
「どこにいけばいい……!?」
殿下は鏡の中にいる兄に問うた。
「フィーたちが近いかもな、その廊下真っ直ぐ行って左に曲がれ!」
兄の指示通りに動く。
進めば進むほど、嫌な気配がする。その苦しみが、私にも伝わってきた。
走る。ひたすら走る。風になる。
しばらくして、ひとつの扉の前についた。
この中で何かが起こっている。私はそう、確信した。
苦しみが
怒りが
憎悪が
恐怖が
助けを求める心が、私の心に伝わってくる。
フィーリオ殿下が勢いよく扉を開けた。ほとんど使ってない空き室のようだった。開けた瞬間、ホコリの匂いがした。
部屋にいたのは十数名程度の女の子であった。見たことある顔ばかりだった。全員、貴族令嬢だ。今日の舞踏会の参加者であろう。学園で見たことある生徒もいる。
彼女たちは口をテープでふさがれ、身体をロープで縛られていた。意識を失っている女性がほとんどであった。しかし、1人だけ薄らと意識あるのか、モゾモゾと動いていた。
私はその令嬢の拘束を外す。
「ぷはっ……」
令嬢がほっとした表情を浮かべた。私は、彼女の身体を支える。
「誰にやられたの?」
「分からない。けど多分、女の人かと……」
女の人。それが犯人か。それがこの異世界転移魔法事件の犯人か。
フィーリオ殿下と協力して、女性たちを解放していく。すべての女性の拘束をといたが、彼女たちが意識を戻す気配はない。
「こんな沢山集めて、どうするんだろうか」
殿下が頭を掻きむしりながら、そう言った。
「……まとめて異世界転移させようとしてるのかな」
私がぼやくと同時に──
その場にいた全ての女性たちの身体が黒い炎に包まれた。
「いたいっいたい!」
「やだっ……なにこれ……」
「たすけて……!」
「いやぁあっ!」
「あがぁっ!」
意識がなかった女性たちも一気に飛び上がり、身体中を炎に燃やす。
悲鳴をあげる女の子、その場で悶え苦しむ女の子、頭を掻きむしる女の子……彼女たちはさまざまな反応を見せる。
阿鼻叫喚、地獄絵図であった。
なんとかしないと……私は慌てて、ネックレスを握る。
なんとかして。
彼女たちを救って。
願う。祈る。魔力を込め続ける。
少し、彼女たちを纏う炎が穏やかになった──ような気がする。
でも足りない。全然足りない。
無理かもしれない。そんな考えが頭をよぎる。
でも、辞める訳にはない。
いたい
くるしい
つらい
あつい
いやだ
たすけて
そんな気持ちが、私の頭に絶えず流れ続ける。何人も何人も何人も何人も。私の頭に流れ込み、私の頭も痛くなってくる。
まずいかもしれない……
汗が私の額を伝う。息が切れる。臓器が、骨が、筋肉が、限界を迎え始めている気がする。
ふわっと後ろから誰かに抱き抱えられた。
ネックレスを握っている手の上から、別の手が覆い被さる。私よりも大きくてゴツゴツとした手──フィーリオ殿下の手だった。
その手は暖かくて、頼りになる。
ピンチの時に私を助けてくれるフィーリオ殿下。とても優しくて、強くて、私を守ってくれる。そんな彼が手伝ってくれているのだ。
いける気がする。彼の手はそう確信させた。
私はひたすらに魔力を込める。
私の手に別の魔力を感じた。これは、殿下の魔力か。陽だまりのように温かい魔力だ。私を守ってくれようとする意志を感じる。
殿下の魔力と私の魔力、両方を込めて。私の救いたいという願いをこめる。
彼女たちが消えていいはずないじゃない。犠牲になっていいわけないじゃないか。
こんな一方的に巻き込まれて。ただの理不尽である。
それに──
私はアリスの姿を思い返す。
異世界転移してきた者。
なぜ、彼女が異世界転移してきたかは分からない。
だけど、最後に会った彼女の姿は惨めなものだった。
異世界転移が本当に幸せなものなのだろうか。異世界に残してきた家族は? 友達は?
もし、家族も友達もいる異世界に幻滅してここに来たのなら、それはただの現実逃避だ。異世界転移して現実逃避しても、あらわれるのは新しい“現実”である。
そりゃそうだ。ここはゲームの中じゃない。関わるのはゲームの登場人物じゃない。
人間だ。心があって、個性があって、人生がある。仕事だってある、社会だってある、文化だってある。そんな簡単に新しい人生が築けるわけじゃない。
でも、異世界転移者そのものが悪い訳では無い。彼女たちだって、こちらから犠牲者が出ることなんて知らず巻き込まれただけだろう。悪いのは──
そんなことを知りつつも、人間の弱い心につけ込んでいるこの術の術者だ。私はそいつを許さない。
この世界の人を害するなんて許せない。
この世界の人は、私が全員守る。
その心が届いたのか、私たちが放つ光が強くなった。
そして──
彼女たちを覆う黒い炎は消え去った。すべての女性が意識を失う。しかし、彼女たちは穏やかな寝息を立てていた。
私たちは全員を助けたのだ──
