本編
フィーリオ殿下に連れ出され、広間の中央にでた。
殿下の両手をとり、流れるリズムに身を委ねる。
周りの視線を感じる。そりゃそうだ。婚約破棄された令嬢と、一国の王子が踊ってるのだから。令嬢たちの視線も感じる。私が踊り終わったらその後、彼女たちに時間を割いてくれるだろうから、待っていて欲しいところである。私でさえ踊れるのだから、あなた達も踊れるはずだ。きっと、私が来る前までもほかの令嬢たちと踊ってただろうし。
「綺麗だよ。オリヴィア」
殿下が何気なく褒めた。その言葉に顔を赤くしてしまう。
たしかに素晴らしいドレスだ。フィオナが選んでくれたドレスは私好みで、私にとても似合うものであった。
「この会場で1番輝いてる」
にこやかな笑みを携えながら、殿下が言った。
殿下は優しいのだ。女性だったら、誰にでも言ってるはずだ。私に限った話ではない。ほかの令嬢にも言ってるはず。リップサービスだ。勘違いするな。
胸よ、高鳴るな。
この人に恋してもつらいだけだ。
揺れ動く心にそう言い聞かす。
「バレッタ、つけてくれたんだね」
殿下が私のバレッタについて触れる。気持ち嬉しそうな顔をしている……気がする。
「これは……兄が……」
つい、モゴモゴ言ってしまった。兄に対して、フツフツとやるせない怒りが湧いてくる。あの男はなぜ、わざわざこれを選んだのか。
……まるで、私が殿下に見せつけるようではないか。
気まずい。こんな特別な日に殿下からのもらい物を身につけるだなんて、「あなたに気がありますよ」って言ってるようなものである。
「うれしいよ。つけてきてくれて」
殿下は気を使ってそんなことを言ってくれた。本当にこの人は優しい。
あっという間に1曲終わった。本当に時が短く感じた。
許されるならば、もう一曲踊りたい。
いや、踊らなくてもいい。もう少し一緒にいたい。一緒に話したい。一緒に──
そんな思いが頭をよぎる。だが、相手は王子だ。私以外にも彼と踊りたい女性は山ほどいる。
ここで別れよう。家族の元へ行こう。そう思い、殿下の手を離した。
「待って、オリヴィア」
離そうとした手を、逆に殿下に捉えられてしまった。腕をガシッと掴まれる。
「少し疲れたから外で休憩しないか?」
殿下の提案に私は迷わず頷いた。まだ、もう少し彼といられる嬉しさしか、今の私の頭にはなかった。
私たちは、華やかな会場を背にする。殿下の手に私の手をのせて。私はエスコートされながら、王宮を歩く。しばらくして、人ひとりいないような場所に行き着く。
コツンコツンと、私の足音が廊下に響く。
ドキンドキンと、私の鼓動の音が耳に伝わる。
殿下に連れられてきたのは、例のレスノアの花が咲いた中庭であった。遠くから微かに舞踏会の音が聞こえ、月がレスノアの花を照らす。まるでレスノアの花が光り輝いているかのようだった。
本当に美しい。
美しすぎて、言葉も出なかった。
「この庭は母上が私に作らせた庭なんだ。私が生まれた時に、記念として作らせた庭なんだ」
殿下がそう言いながら、私をエスコートする。私は彼に連れられるまま中庭の小道を歩く。
そういえば先程、皇后は私のレスノアに反応していた。たしか、はじめてここに来た時に殿下がレスノアの花を「私と母が好きな花」と言っていた。
レスノアという花は、2人にとって特別なのか。
「オリヴィア」
殿下が甘い声で名前を呼んだ。そんな声で呼ばれてしまったら、勘違いしてしまうじゃないか。
私は殿下の顔を見る。
この世のものとは思えない、美しい顔立ち。月明かりがサラサラとした金色の髪を照らす。
「なんですか?」
殿下の呼び掛けに応じた。できるだけ、この胸の高鳴りが伝わらないよう明るく、友達と話す時のような声を心がける。すると、殿下は真面目な面立ちでこちらを向いていた。
「この異世界転移魔法の件が終わったら」
「終わったら?」
続きの言葉を待つ。
終わったら、何かがあるのだろうか。
殿下は少し目線を逸らした後、いつも通りの穏やかな笑みに戻った。
「転移魔法の件がおわっても、私と関わってくれるかい?」
「もちろん!」
言うまでもない。たしかに殿下とはこの転移魔法の件で、はじめて関わった。とはいえ、趣味もよく似ているし、居心地もよい。
ここだけの縁では終わらせたくない。
そうだ。フィオナにも紹介しよう。きっと、フィオナとも趣味が合うだろうし、仲良くできるはずである。
刹那──甘い空気を打ち破るかのように、兄との連絡手段である鏡も震えた。これが震えたということは、どこかで異世界転移魔法が……。
開くと、兄の荒い声が聞こえた。
「転移魔法がくる──しかも大規模のだ」
私は殿下と顔を見合せた。
殿下の両手をとり、流れるリズムに身を委ねる。
周りの視線を感じる。そりゃそうだ。婚約破棄された令嬢と、一国の王子が踊ってるのだから。令嬢たちの視線も感じる。私が踊り終わったらその後、彼女たちに時間を割いてくれるだろうから、待っていて欲しいところである。私でさえ踊れるのだから、あなた達も踊れるはずだ。きっと、私が来る前までもほかの令嬢たちと踊ってただろうし。
「綺麗だよ。オリヴィア」
殿下が何気なく褒めた。その言葉に顔を赤くしてしまう。
たしかに素晴らしいドレスだ。フィオナが選んでくれたドレスは私好みで、私にとても似合うものであった。
「この会場で1番輝いてる」
にこやかな笑みを携えながら、殿下が言った。
殿下は優しいのだ。女性だったら、誰にでも言ってるはずだ。私に限った話ではない。ほかの令嬢にも言ってるはず。リップサービスだ。勘違いするな。
胸よ、高鳴るな。
この人に恋してもつらいだけだ。
揺れ動く心にそう言い聞かす。
「バレッタ、つけてくれたんだね」
殿下が私のバレッタについて触れる。気持ち嬉しそうな顔をしている……気がする。
「これは……兄が……」
つい、モゴモゴ言ってしまった。兄に対して、フツフツとやるせない怒りが湧いてくる。あの男はなぜ、わざわざこれを選んだのか。
……まるで、私が殿下に見せつけるようではないか。
気まずい。こんな特別な日に殿下からのもらい物を身につけるだなんて、「あなたに気がありますよ」って言ってるようなものである。
「うれしいよ。つけてきてくれて」
殿下は気を使ってそんなことを言ってくれた。本当にこの人は優しい。
あっという間に1曲終わった。本当に時が短く感じた。
許されるならば、もう一曲踊りたい。
いや、踊らなくてもいい。もう少し一緒にいたい。一緒に話したい。一緒に──
そんな思いが頭をよぎる。だが、相手は王子だ。私以外にも彼と踊りたい女性は山ほどいる。
ここで別れよう。家族の元へ行こう。そう思い、殿下の手を離した。
「待って、オリヴィア」
離そうとした手を、逆に殿下に捉えられてしまった。腕をガシッと掴まれる。
「少し疲れたから外で休憩しないか?」
殿下の提案に私は迷わず頷いた。まだ、もう少し彼といられる嬉しさしか、今の私の頭にはなかった。
私たちは、華やかな会場を背にする。殿下の手に私の手をのせて。私はエスコートされながら、王宮を歩く。しばらくして、人ひとりいないような場所に行き着く。
コツンコツンと、私の足音が廊下に響く。
ドキンドキンと、私の鼓動の音が耳に伝わる。
殿下に連れられてきたのは、例のレスノアの花が咲いた中庭であった。遠くから微かに舞踏会の音が聞こえ、月がレスノアの花を照らす。まるでレスノアの花が光り輝いているかのようだった。
本当に美しい。
美しすぎて、言葉も出なかった。
「この庭は母上が私に作らせた庭なんだ。私が生まれた時に、記念として作らせた庭なんだ」
殿下がそう言いながら、私をエスコートする。私は彼に連れられるまま中庭の小道を歩く。
そういえば先程、皇后は私のレスノアに反応していた。たしか、はじめてここに来た時に殿下がレスノアの花を「私と母が好きな花」と言っていた。
レスノアという花は、2人にとって特別なのか。
「オリヴィア」
殿下が甘い声で名前を呼んだ。そんな声で呼ばれてしまったら、勘違いしてしまうじゃないか。
私は殿下の顔を見る。
この世のものとは思えない、美しい顔立ち。月明かりがサラサラとした金色の髪を照らす。
「なんですか?」
殿下の呼び掛けに応じた。できるだけ、この胸の高鳴りが伝わらないよう明るく、友達と話す時のような声を心がける。すると、殿下は真面目な面立ちでこちらを向いていた。
「この異世界転移魔法の件が終わったら」
「終わったら?」
続きの言葉を待つ。
終わったら、何かがあるのだろうか。
殿下は少し目線を逸らした後、いつも通りの穏やかな笑みに戻った。
「転移魔法の件がおわっても、私と関わってくれるかい?」
「もちろん!」
言うまでもない。たしかに殿下とはこの転移魔法の件で、はじめて関わった。とはいえ、趣味もよく似ているし、居心地もよい。
ここだけの縁では終わらせたくない。
そうだ。フィオナにも紹介しよう。きっと、フィオナとも趣味が合うだろうし、仲良くできるはずである。
刹那──甘い空気を打ち破るかのように、兄との連絡手段である鏡も震えた。これが震えたということは、どこかで異世界転移魔法が……。
開くと、兄の荒い声が聞こえた。
「転移魔法がくる──しかも大規模のだ」
私は殿下と顔を見合せた。
