本編

オリヴィアが選んだのは、自分が1番いいと思ったドレスであった。モルセット邸にて、オリヴィアが自室に戻ったあと、応接間にて。

仕立て屋が手際よく帰る準備をする。

「ではこれで。数日後にはお届けいたします」

この仕立て屋は魔法でドレスを作っているため、仕上がるのが早いらしい。

仕立て屋を見送って、私たちは応接間に2人っきりになった。

「レナード、代金は私に請求してくれ」

「フィーがオリヴィアにプレゼントするのか?」

「……ああ」

「好きな女の子を自分で飾りたいんだろ。仕方ないな……立ててやるかあ……」

レナードはニタニタといたずらっぽい笑みを浮かべた。からかいモードに入っている。

「俺が両親に婚約者に推薦しておこうか?」

「別にオリヴィアは求めてないだろ」

「分からないぞ。オリヴィアも楽しそうだし」

「それはフィオナとして関わってる時だろ?」

レナードが「なあなあ」としつこいくらいに話しかけてくる。こいつに自分に色恋沙汰を伝えると、やっぱりこうなるのだ。

これ以上、絡まれるのもめんどくさい。

「オリヴィアに先に帰ったって伝えてくれ」

私は瞬間移動の魔法を展開させる。緑色の魔法陣が私の足元にあらわれる。

「あっ、逃げるのか!」

そんな言葉を背に、私は瞬間移動した──

※※※

あっという間に、舞踏会の日になった。豪華絢爛な王宮の広間。王国一の広さを誇るものである。

そこに多くの貴族たちが集まっていた。談笑し、立食式のディナーを嗜み、広間の中央では男女が踊っていた。軽やかな音楽が響き渡り、シャンデリアの光が空間を覆う。

私は柱の影に身を潜めながら、会場内を見渡す。

……オリヴィアはまだいないようだ。たしか、レナードも共に来ると聞いている。

「おお、殿下! やっと見つけましたぞ」

1人の中年男性が私に語りかけてきた。その脇には若い女性がいる。

わざわざ逃げてきたのに……と思ったが、私は彼らに向かった。

「こんばんは。カッセール公」

「いやはや、相変わらずご立派ですなぁ……殿下……」

2人が一礼する。そして、女性が照れくさそうに私を見つめた。目が合ったため、にこりと微笑む。

「この子は私の娘でヘレナと言います。ヘレナは見ての通り器量が良くて、気立てがいいんです」

なるほど。私の婚約者候補として売り込みに来たのか。

「もしよろしければ、1曲踊っていただけませんか?」

カッセール公がそう言う。

……さて、どうするか。迷っていたその時であった。

王宮の使用人が私の元に駆け寄ってきた。

「フィーリオ殿下、モルセット公がいらっしゃいました! オリヴィア様とレナード様もおります」

私は慌てて広間の出入り口を見た。そこに居たのは、モルセット家の人間であった。

その中でもオリヴィアは光り輝いて見えた。

……本当に綺麗だ。淡い黄色のドレスが、オリヴィアの美しさを引き立てる。オリヴィアのメリハリある上半身のボディラインはしっかりと見えるが、露出は少ないため上品に見える。

髪の毛も綺麗にまとめられ、化粧もいつもより華やかだ。

男性たちの視線がすべて彼女に集まる。

「すごい綺麗……」

「モルセット嬢、今婚約者いないよな……?」

「今、アプローチしたら……」

男たちのそんな声がワラワラと沸き上がる。

「失礼」

私はカッセール公とその娘に一言言って、モルセット家の元へ向かった。

「おや、殿下」

そう言ったのはモルセット公であった。モルセット公は国内の魔導師たちを統率するような有能な男性であるが、見た目や雰囲気は穏やかそうな男性である。

「このような王族主催の立派なパーティーに呼んでいただいて……我が家の名誉でございます」

綺麗に一礼する。

「王に挨拶したいのだが、どこにいますかな?」

「父はモルセット公が来たときいたら、すぐ来ると思うのですが……」

そう思い、周りを見渡すと、遠くから父と母がやってくるのが見えた。父は嬉しそうな顔をしながらこちらに駆け寄ってくる。

モルセット公と父は幼い頃からの付き合いであるという。父はモルセット公に多大なる信頼を寄せているのだ。

「エリック! 元気そうでなによりだ」

「いやはや。国王もお元気そうで。今回はこのような立派なパーティーにお招きいただき、ありがとうございます」

モルセット家の面々が綺麗な礼をする。

「まぁまぁ、ゆっくりしたまえ!」

父が大きな声で笑い飛ばした。父は豪快な人間である。良くも悪くも裏表はないが、少し暑苦しい。

私はちらっとオリヴィアを見た。キラリと頭に光る髪飾りを見る。

それは、私があげたレスノアの花のバレッタであった。私が見つけると同時に、母が目ざとくそれを見つけた。

「あら、レスノアの花の髪飾りね」

オリヴィアに語りかける。母はレスノアの花が好きなのだ。オリヴィアは目を丸くして、髪飾りに触れた。そして、ほんの少し目を逸らしてレナードを見る……というか、睨みつける。

レナードはそっぽ向いた。

なるほど。レナードがなんか仕組んだのか。

「これ、いただきもので……」

オリヴィアが母にそう返す。母はにこりと微笑んだ。そして、「すてきね」と一言返したあと、モルセット公の夫人──ルーシアの方へ向いた。

オリヴィアが照れくさそうに俯く。

今だ。

「オリヴィア」

そう語りかけた時、この場にいたレナード以外の人間が怪訝な表情をした。フィーリオがオリヴィアに話しかけるのは何事かといいたげな反応である。たしかにそうだ。極秘任務やフィオナとしての関わりはあるが、公の場で彼女と関わるのは初めてである。

私はオリヴィアに手を差し出した。

「約束通り、踊ろうか。オリヴィア」

空気がざわめいた。父も母も、オリヴィアの両親も目を見開く。

「はい」

オリヴィアが少し頬を赤らめながら私の手をとった。そして、私たちは広間の中央に出た──
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