本編

「舞踏会の時着るドレスって選んだの?」

昼食を食べている時、ふとフィオナにそんなことを聞かれた。

「…………まだ決めてない……」

バタバタとしててすっかりと忘れてしまっていた。もうそろそろ決めとかないとまずい。

「どんなのがいいか、さっぱりだわ」

頭をかかえる。 ちなみに前回は両親に決めてもらった。しかし、婚約破棄の後私の婚約相手探しに躍起になっている両親に今話しかけるのは少し気が引ける。絶対、婚約云々の話に繋げられるし……

兄にきくかとか考えるが、兄が女性のドレスを探すなんて想像できない。

家にドレスはたくさんあるが……

「そうだ!」

私はフィオナに向かった。

「今日うちに来ない? 私のドレス、選んでちょうだい」

フィオナなら、私に似合うドレスをきっと選んでくれるだろう。私は期待を込めて、彼女に言った。

彼女は目を丸くする。

少し困らせてしまったか。

「ごめんなさい。急に言われてもって感じよね」

「いやいや、オリヴィアのドレス選ばせてもらえるなんて、光栄だよ」

フィオナが穏やかな笑みを携えた。そして──

「私でよければ協力させて」と言った。

1日の授業が終わり、約束通り私の家へ向かう。ちょうど今日は両親はいない。使用人たちがフィオナを迎える。

すぐに私の部屋に向かった。

「ドレス、出してくるわね」

メイドたちにも手伝ってもらい、自分か持ってるドレスを一式出してもらう。

「何色がいいかしら」

「オリヴィアは綺麗だから何色でも似合うと思うけど……」

フィオナはドレスを丁寧に見る。私は彼女の言葉を待つ。

その時。

「オリヴィアー、なにしてるのー」

ノックもなしに誰かが入ってきた。私とフィオナは同時に声の主を見る。

「兄さん……」

兄はここがレディの部屋であることなんてお構い無しに、部屋に入ってくる。正直、この人が私の部屋に入る時はいつもこんな感じだ。

「ああ、ドレス選んでるのか」

兄が私のドレスをまじまじと見る。そして、ちらりとフィオナを見た。

「フィオナよ。私の友達」

「ああ、フィー……じゃなくてフィオナね。よろしく」

フィオナも「よろしく」と返す。

……なんか、フィオナが少し気まずそうなのは気のせいだろうか。

「新しいの買えばいいじゃないか。オリヴィアのドレスは古いデザインしかない」

兄がそう言った。そして、ちらりとフィオナに目配せをする。

「フィー……オナもそう思うよな?」

「うん」

フィオナが頷く。

兄が手際よく仕立て屋を手配する。兄が呼んだ仕立て屋はすぐに駆けつけてくれた。部屋ではなく、応接間で対応する。

「およびいただき、ありがとうございます。今日はオリヴィア様に似合うドレスを精一杯仕立てて差し上げますわ」

仕立て屋は応接間いっぱいに布やカタログ、試着用ドレスを並べた。

「今の流行りはね……」

仕立て屋が話を進める。レースがふんだんに使われたドレスに、逆にほとんど使われてない大人っぽいドレス、胸元がガバッとあいたドレスに、タートルネックになっているドレス……様々なデザインが並ぶ。着るのに勇気がいりそうなデザインも多い。

「うちのオリヴィアはスタイルがいいから、ボディラインがしっかり見えたやつがいいと思う」

「いや、それはオリヴィアにははしたないって。胸元が開きすぎだ」

「じゃあこれは」

「いや、それはお前の趣味だろ。絶対こっち」

兄とフィオナがそんなやり取りをする。いつの間にか、2人は打ち解けている。というか、打ち解けすぎている気がする。

「兄上とフィオナはお知り合いなの?」

気になって兄に問うてみる。

「まあね。ナイショの関係ってとこかな」

兄が肩を竦めながら言った。

…………もしかして、恋仲?

たしかに兄の恋模様も、フィオナの恋模様も聞いたことがない。恋仲だとしても、不思議ではない。

てなると、フィオナは私の姉になるかもしれないということか? それは少し嬉しいが、フィオナを取られたような複雑な気持ちになる。

「オリヴィア、これとかどう?」

「いやいや、ぜったいこれ」

2人がそんなやり取りを交わしながら、ドレスを決めていく。ドレスの仕立ては私が思ったよりも時間がかかった。

──

舞踏会の日はあっという間にやってきた。私は今、身支度をしている。

ドレスは淡い黄色のドレスを切る事にした。黄色のドレスであるが、デザインは大人っぽいため子どもっぽく見えない。耳には黄色のイヤリングを、首には兄から貰ったネックレスを身につける。

メイドに身を任せ、髪の毛のセットが終わりそう……となった時。ノックもなしに扉が開いた。

「やあ。オリヴィア」

あらわれたのは兄であった。

「兄上……」

妹とはいえ、いい歳の乙女の部屋に勝手に入るなんて、あまりにもデリカシーが無さすぎる。兄はそんな私の心を無視して、ズカズカと入ってくる。

「綺麗だね。オリヴィア」

「ありがとう」

「もう終わった?」

「まだよ」

「へえ……」

兄がちらりと視線をずらした。目線の先にあったのは、開けっ放しになっていた私のアクセサリーケースであった。

兄はそのアクセサリーケースの元へ移動する。そして、そこから何かを取り出した。小さいものであるため、何を取りだしたのか分からない。

「オリヴィアにこれをつけてあげてくれ」

「かしこまりました」

私のヘアセットを任せているメイドにその何かを渡す。

「ちょっと! 何を渡したの!?」

「まあまあ。そんな悪いものじゃないって」

兄がはぐらかす。その間もメイドは髪の毛をまとめている。そして、兄からもらい受けた「それ」を私の髪につけた。

「あなた、何をつけたの……?」

メイドに問いかける。しかし、メイドが口を開く前に兄が「言っちゃダメ!」とその言葉を遮った。そんな怪しいものがついているのか。もう一度、問い詰めようとした──その時。

ガチャっと扉が開いた。

「レナード様、オリヴィア様。お時間です。旦那様と奥様がお待ちです」

あらわれたのは、父に仕える初老の使用人であった。

髪飾りをつけかえる時間はない。仕方ない。これで行くしかない。不満はあるが、兄の「悪いものはつけてない」という言葉を信じることにする。兄の優しさであると信じよう。

馬車に乗り、会場に向かった。
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