本編
アリスとエドワードが退学したと聞いたのは、その数日後であった。
アリスは今は禁忌魔法を使ったとして拘束され、エドワードは例の私への暴行未遂の件で家族から勘当となったらしい。ちなみに、暴行未遂については内々に処理された。エドワードの両親の耳には入っているが、公にはされていない。うちの両親の耳にも入ってない。おそらく、目立ちたくない、大きな問題にしたくないと考えている私に配慮した殿下の采配であろう。
とはいえ退学の件は学校内では大きな噂となり、私の耳にも当然届いた。
執務室で兄と私の魔法の検査をしている際、アラン様がやってきた。そして、彼は勢いよく頭を下げた。
「ごめん。オリヴィア嬢。話は聞いた。うちの弟が君の心に傷をつけてごめんなさい」
アラン様の言葉が心からの謝罪であることが伝わる。アラン様は謝る必要はない。アラン様はエドワードの兄でしかないのだ。彼の謝罪が私を少し居心地悪かった。
「顔をあげてください。アラン様……アラン様は悪くないので謝らないでください」
アラン様が未だ深々と頭を下げているのが申し訳ない。エドワードとアリスがすべて悪いのだ。
「オリヴィア嬢は優しい子だね」
別に優しくはない。普通のことを言っただけだ。
アラン様がそう言うと同時に、フィーリオ殿下「アラン、用が終わったら、ちょっとこっちに来い」という言葉が聞こえた。アラン様はフィーリオ殿下のところへ向かった。
2人は執務室を出ていった。部屋の中は、私と兄の2人きりになる。
「エドワード、もともと家では肩身狭い思いをしてたみたいなんだ」
兄が語り始めた。
「アランは優秀な男なんだ」
「ええ」
わかくして、国内1の魔導師であるこの兄──レナードと並び、フィーリオ殿下の臣下となっている。この間のアリスをとらえるまでの動きも完璧であった。また、父からの話の中でもアラン様は頭の切れる優秀な男という話が出る。
1度、アラン様とアラン様のお父上である大臣が話しているのを見たことがあるが、大臣はアラン様を随分と信頼しているようであった。
文句なしの跡取り息子である。
「学園でもな。成績はトップクラスで、俺よりも成績はよかった。魔法関係の授業以外はな」
想像が容易い。勉強は得意であったのだろう。それに比べて、エドワードの成績は後ろから数えた方が早かった。
「学園に入学した時のエドワードは今よりも酷くなかったらしいんだ。でも、兄には及ばなかった」
たしかに、学園初等部の頃──だいたい10年くらい前はそこまでヤンチャなイメージはなかった。目立った印象のない、良くも悪くもごく普通の生徒だった。
劣等生でも、優等生でもなかった。
「比べられてたんだろうな。きっと」
兄がぼやく。なるほど。それが今のエドワードに繋がるのか。
自分の実力が及ばない、とても優秀な兄。そして、兄と自分と比べる声。それがエドワードの弱さを増幅させたのか。
兄がさらに話を続ける。
「あの時、アリスの意識がアランに行ったことも、何となく気がついてたらしい。アリス、わかりやすいからな」
愛する女性が、嫉妬心を抱いている兄に心を寄せてしまったら。その心を察するのは容易かった。
エドワードも悲しい男だ。悲しくて、哀れな男だ。
とはいえ、一方的な婚約破棄だけではなく、暴行未遂を行ったことに関しては決して許されることではない。勘当されても仕方がないとは思う。
「よし、検査おわったぞ」
「なんか分かった?」
「まあ、オリヴィアが凄いってことが分かった」
「すごいって……」
あまりにも適当な検査結果で呆れてしまった。何かわかった上ではぐらかしてるのか、本当に「凄い」ってことしか分からなかったのか、真実は兄しか分からない。
開いていた窓から風がさらさらと流れ込んだ。私と兄の銀色の髪の毛が揺れる。
ふと、兄が「そういえば」と声をあげた。壁際にあった小さな棚から黒い箱を取り出す。
「これ、もっといて」
パカッと箱を開けた。中に入っていたのは、透明な宝石が埋め込まれたネックレスだった。白銀の繊細なデザインで、私好みのものである。
「なにこれ……受け取っていいの?」
「もちろん。ちょっと前から作ってたんだ」
兄がネックレスを取り出し、私に渡した。
「オリヴィアの魔法を強化する器具だよ」
「すごい、つくったの?」
「ああ」
兄が自慢げな顔をする。
兄は魔法を実際に使うだけではなく、こういう魔法器具を作るのも得意だ。こういう兄の姿を見ると、この人は本当にすごい人なんだなと思う。
「つければいいの?」
受け取ったネックレスの金具を私は外した。兄が首を縦に振る。
「ああ。今まで魔法を使う時、自分自身が対象になったり、対象に触れたりして魔法が発動していただろ? それを使えばその必要がなくなる。そのネックレスの飾り部分を握ればいい」
「握って念じるってこと?」
「そうそう」
なるほど。私はそれを身につけた。魔法器具だとは思えない。ただのオシャレなネックレスのようである。
「オリヴィア」
兄が優しい声色で私に呼びかけた。「なに?」と相槌をうつ。
「お兄ちゃんはオリヴィアを信じてるから」
「あら、王国1の魔導師に言われると嬉しいわ」
「やっぱり、いい女だな。オリヴィアは。さすが俺の妹」
兄がいたずらっぽく笑った。
アリスは今は禁忌魔法を使ったとして拘束され、エドワードは例の私への暴行未遂の件で家族から勘当となったらしい。ちなみに、暴行未遂については内々に処理された。エドワードの両親の耳には入っているが、公にはされていない。うちの両親の耳にも入ってない。おそらく、目立ちたくない、大きな問題にしたくないと考えている私に配慮した殿下の采配であろう。
とはいえ退学の件は学校内では大きな噂となり、私の耳にも当然届いた。
執務室で兄と私の魔法の検査をしている際、アラン様がやってきた。そして、彼は勢いよく頭を下げた。
「ごめん。オリヴィア嬢。話は聞いた。うちの弟が君の心に傷をつけてごめんなさい」
アラン様の言葉が心からの謝罪であることが伝わる。アラン様は謝る必要はない。アラン様はエドワードの兄でしかないのだ。彼の謝罪が私を少し居心地悪かった。
「顔をあげてください。アラン様……アラン様は悪くないので謝らないでください」
アラン様が未だ深々と頭を下げているのが申し訳ない。エドワードとアリスがすべて悪いのだ。
「オリヴィア嬢は優しい子だね」
別に優しくはない。普通のことを言っただけだ。
アラン様がそう言うと同時に、フィーリオ殿下「アラン、用が終わったら、ちょっとこっちに来い」という言葉が聞こえた。アラン様はフィーリオ殿下のところへ向かった。
2人は執務室を出ていった。部屋の中は、私と兄の2人きりになる。
「エドワード、もともと家では肩身狭い思いをしてたみたいなんだ」
兄が語り始めた。
「アランは優秀な男なんだ」
「ええ」
わかくして、国内1の魔導師であるこの兄──レナードと並び、フィーリオ殿下の臣下となっている。この間のアリスをとらえるまでの動きも完璧であった。また、父からの話の中でもアラン様は頭の切れる優秀な男という話が出る。
1度、アラン様とアラン様のお父上である大臣が話しているのを見たことがあるが、大臣はアラン様を随分と信頼しているようであった。
文句なしの跡取り息子である。
「学園でもな。成績はトップクラスで、俺よりも成績はよかった。魔法関係の授業以外はな」
想像が容易い。勉強は得意であったのだろう。それに比べて、エドワードの成績は後ろから数えた方が早かった。
「学園に入学した時のエドワードは今よりも酷くなかったらしいんだ。でも、兄には及ばなかった」
たしかに、学園初等部の頃──だいたい10年くらい前はそこまでヤンチャなイメージはなかった。目立った印象のない、良くも悪くもごく普通の生徒だった。
劣等生でも、優等生でもなかった。
「比べられてたんだろうな。きっと」
兄がぼやく。なるほど。それが今のエドワードに繋がるのか。
自分の実力が及ばない、とても優秀な兄。そして、兄と自分と比べる声。それがエドワードの弱さを増幅させたのか。
兄がさらに話を続ける。
「あの時、アリスの意識がアランに行ったことも、何となく気がついてたらしい。アリス、わかりやすいからな」
愛する女性が、嫉妬心を抱いている兄に心を寄せてしまったら。その心を察するのは容易かった。
エドワードも悲しい男だ。悲しくて、哀れな男だ。
とはいえ、一方的な婚約破棄だけではなく、暴行未遂を行ったことに関しては決して許されることではない。勘当されても仕方がないとは思う。
「よし、検査おわったぞ」
「なんか分かった?」
「まあ、オリヴィアが凄いってことが分かった」
「すごいって……」
あまりにも適当な検査結果で呆れてしまった。何かわかった上ではぐらかしてるのか、本当に「凄い」ってことしか分からなかったのか、真実は兄しか分からない。
開いていた窓から風がさらさらと流れ込んだ。私と兄の銀色の髪の毛が揺れる。
ふと、兄が「そういえば」と声をあげた。壁際にあった小さな棚から黒い箱を取り出す。
「これ、もっといて」
パカッと箱を開けた。中に入っていたのは、透明な宝石が埋め込まれたネックレスだった。白銀の繊細なデザインで、私好みのものである。
「なにこれ……受け取っていいの?」
「もちろん。ちょっと前から作ってたんだ」
兄がネックレスを取り出し、私に渡した。
「オリヴィアの魔法を強化する器具だよ」
「すごい、つくったの?」
「ああ」
兄が自慢げな顔をする。
兄は魔法を実際に使うだけではなく、こういう魔法器具を作るのも得意だ。こういう兄の姿を見ると、この人は本当にすごい人なんだなと思う。
「つければいいの?」
受け取ったネックレスの金具を私は外した。兄が首を縦に振る。
「ああ。今まで魔法を使う時、自分自身が対象になったり、対象に触れたりして魔法が発動していただろ? それを使えばその必要がなくなる。そのネックレスの飾り部分を握ればいい」
「握って念じるってこと?」
「そうそう」
なるほど。私はそれを身につけた。魔法器具だとは思えない。ただのオシャレなネックレスのようである。
「オリヴィア」
兄が優しい声色で私に呼びかけた。「なに?」と相槌をうつ。
「お兄ちゃんはオリヴィアを信じてるから」
「あら、王国1の魔導師に言われると嬉しいわ」
「やっぱり、いい女だな。オリヴィアは。さすが俺の妹」
兄がいたずらっぽく笑った。
