本編

強引に性的行為をしようとする描写が出ます。未遂ですが、ご注意ください。

──

体育館での出来事があった後。私は学校が終わったあとに王宮に向かうこととなった。本当は体育館の件の後すぐ向かおうとしたが、フィーリオ殿下に学業を優先するよう言われたのだ。

1日の授業が終わった頃、兄上からの連絡があり、迎えに行くから学園から少し歩いた木の下で待つよう言われた。

私はそこへ向かう。門から外へ出て、待ち合わせ場所に向かおうとした──その時。

「おい、オリヴィア」

荒々しい声が聞こえた。……誰の声だっけ。

私はくるりと振り返る。そこにいたのは、エドワードであった。

「オリヴィア、少し話がある」

「ごめんなさい。時間が無いわ」

「すぐ終わるから」

そう言ってエドワードはグイッと私の手首を掴んだ。力加減ができていない。

「痛いんだけど」

「いいから来い!」

エドワードは声を荒らげる。グイグイと私の腕を引っ張る。

「ちょっと……!」

普段であれば魔法でなんとかできる。しかし、今日の体育館の件で私は魔力が枯渇していた。使える魔法は限られている。

エドワードと共にやってきたのは、学園から徒歩数分の路地裏であった。

「なあお前」

手首を掴んだまま、エドワードが語りかける。どこか偉そうな態度に私は少しイラッとしてしまう。睨みつける私を無視して、エドワードは話をつづけた。

「また、婚約してやるよ」

「…………は?」

何言ってんだ。この人は。婚約してやる? そんな上から目線でものをいえる立場なのだろうか。

「顔は美人だし、身体はエロいし。アリスなんかよりいい女だ」

エドワードがニヤニヤとしながら、私を舐めまわすように見る。

こいつ……アリスが離れていったから、私に戻ってきたのか。

「なにより、おまえと結婚したら将来の地位は約束されたもんだ」

気持ち悪い……! 鳥肌がたつ。頭が真っ白になった。

「いやよ」

はっきりと断言する。エドワードはふっと鼻で笑った。

「冗談言うなよ」

「冗談じゃないわ。1回婚約破棄したくせに。都合よすぎるわ」

私が言い放つ。私はエドワードの手を振り払う。エドワードの眉間のシワが深くなっていく。

「私はあなたが婚約者じゃなくても生きてけるわ」

そう言って、彼から離れようとした──その時。エドワードが再びがっしりと腕を掴んだ。今度は両腕だった。私の身体を地面に押し倒す。

「いった!」

背中を強打した。エドワードが顔を寄せる。


「そうだ……。既成事実、作っちまえばいいかぁ……」

両手を上に挙げられ、エドワードの左手で抑えられる。足で蹴りあげようとするがその前にエドワードの膝で遮られた。

……まずいかもしれない。

ぷちぷちと私の服のボタンを外していく。だんだんと私の下着があらわになっていった。

「やっぱいい身体だなぁ……!」

彼の手がゆっくりと胸に触れた。下着越しで、こいつの気持ち悪い感触が伝わる。

視界が霞んでいく。これは、涙のせいか。

「やめて!」

いやだ……。

涙がこぼれ落ちる。

たすけて……

たすけて……!

そう願った刹那──

私の目の前に影がさっと入った。

「なにやっているんだ。お前」

背後に立っていたのはローブで身体を覆う、フードを目深に被った人であった。兄かと思ったが、声が違う。

「で……んか……?」

「オリヴィア、ごめん。こんな怪しい格好で」

フードを外したその中にあったのは、フィーリオ殿下であった。

「殿下!?」

エドワードが声をあげた。驚きと恐怖の声であった。エドワードの手と抑えていた膝の態勢が緩んだ。私はそのすきにエドワードの手を振り払い、エドワードを蹴りあげる。

「ぐっ……!」

怯んだすきに、私はエドワードの身体から逃れた。そして、フィーリオ殿下の背に隠れる。

「お前、こんなこと許されると思ってるのか!」

「オリヴィアは俺の婚約者だ!」

「ちがうわよ!」

婚約破棄しているのだ。もう他人である。フィーリオ殿下の前で誤解を招くようなことを言わないで欲しい。

「オリヴィアがお前なんかを相手するわけないだろ……」

殿下はため息をつく。

「はやくいけ。この件については後で処遇を決める」

「……は? なんで俺が……」

「早くいかないと切るぞ」

殿下が剣を抜く。エドワードは「ひっ」と小さな悲鳴を出し、路地裏から去っていった。

エドワードが私たちの視界から消える。それと同時に、私の腰がぬけた。ぽろぽろと涙が出る。

助かった……。

……怖かった。

「オリヴィア……」

何か暖かいものに覆われる。フィーリオ殿下の身体だった。殿下が私の背中を撫でた。

「待ち合わせの場所に行ったんだけど、いなかったから探してたんだ。ごめん。遅くなっちゃって」

「大丈夫です。むしろ早かったくらいだわ……」

「本当に……待ち合わせ場所から近くにいて良かった」

殿下のおかげで貞操が守られたのだ。感謝の気持ちしかない。

「ありがとうございます」

私は殿下の身体を抱き締め返した。ただひたすら、殿下の胸で泣く。しばらく、言葉は出なかった。私の口からこぼれたのは嗚咽だけだった。

しばらくして。私の心が落ち着く。

冷静に考えると、とんでもない状況だ。婚約者でもないのに一国の王子に抱きついて、一級品の服を涙でぐちゃぐちゃにしている。

「ごめんなさい!」

私は慌てて殿下からはなれた。そして、はだけた衣服を正す。

まさか殿下が来るとは。迎えに来ると聞いた時、てっきり兄が迎えに来ると思っていた。

「気にしないで」

殿下はそう一言、優しく言う。きっと気を使ってくれてるのだろう。本当に優しい男性である。

「移動するけど、瞬間移動で大丈夫?」

殿下の言葉に私は頷いた。早く兄の所へ行かなければ。

「ええ」

殿下は私に手を差し出した。私はその手に、自分の手を重ねる。

「いくよ」

その声と同時に、足元が緑色に光った。私たちは光に包まれ、瞬間移動する。着いたのは、王宮の例の執務室であった。
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