本編

「アラン! 」

オリヴィアとアリスを尾行したその後、私はすぐにアランに会いにいく。私の執務室にはいると、あたりまえのようにレナードとアランがいる。

アランはケロッとした顔で、私を見た。何事もないかのように、そこに立っている

「フィー、どうしたの?」

「アラン、お前アリスといただろう?」

浮気か?と思ったが、冷静に考えてアランがリアーナを裏切るような男だとは思えない。しかし、ではなぜアリスといたのか。

アランは「ああ」と心当たりがあるような相槌を打つ。

「転移魔法の件でアリスと接触してたんだ。リアーナにも了承済みだよ」

異世界転移魔法のクリーンオッツ家の関与が疑われたのは、幾分と前のことであった。しかし、その際疑われたのはクリーンオッツ家含め、数十にも及ぶ家であった。

そこまでは私も聞いている。

「仕掛けた探知機が反応したんだ」

ここからはじめて聞く話だった。もう少しマメに報連相して欲しいものである。

「まずはクリーンオッツ家に訪問したんだ」

アランの弟であるエドワードは、アリスと婚約している。それについての話をすると言うと、クリーンオッツ公はなんの疑いもなく、彼を招いたらしい。

「クリーンオッツ夫妻と話したが、異世界転移に関わる手がかりはなかった。探知機の反応もなかった」

「クリーンオッツ夫妻の関与はないと判断し、狙いを娘のアリスに絞った」

「そう。んで、アリスに接近したんだ。アリスと仕立て屋に行ってね。そこでアリスが脱いだ服からこんなものが出てきたんだ」

そう言って出したのは、1枚のメモだった。見慣れない文字であった。

「なにこれ……」

「異世界の文字だ。見るのも恥ずかしいが、アランの好きな物、嫌いなもの、性格──そして“攻略方法”とやらがこと細やかに書いてある」

「攻略方法?」

人に対して攻略方法。いまいちよく分からない。

「アリスがもしかして──」

「ああ、十中八九、異世界転移者だ」

なるほど。思えば、クリーンオッツ家の令嬢の幼い頃に会ったことはない。それどころか、数ヶ月以上前の記憶もない。噂も、存在も。すべて、すべて。

それも彼女が数ヶ月前にここに来たと考えれば納得する。

「メモを見るとどうやら、異世界に俺たちが登場するゲームがあるらしい」

「ゲーム? 私たちが登場するってどういうことだ?」

「ああ、異世界でのゲームってのはチェスやトランプじゃないらしい。どうやら物語があって、その物語に沿ってプレイヤーが操作するような形だ」

「なるほど」

この世界がゲームの世界として描かれているのか。

「今回の大量異世界転移魔法の件、もしかして全員──」

「かもしれんな。このゲームとやらが、女性が男性と恋愛を楽しむゲームらしい」

「ということは、女性をターゲットにした方がいいか……」

思えば、犠牲になったオリヴィアも、この間も女子学生も女性だ。消えてしまった犠牲者の記憶を我々が持ってない以上、断言はできないが何かしらの因果関係があるのかもしれない。

そんな話をして、この場はお開きとなった。

翌日の朝、レナードから連絡があった。今日アランがメモについて本人に問い詰めるからそれについていけというものであった。

学園には行かず、フィーリオの姿でアランと合流する。

アリスと会ったのは、学園の裏側の通りであった。表通りから外れているため、人通りはほとんどない。

私は木陰に隠れ、アランの様子をうかがう。

「アラン様!」

どこからともなくアリスがでてきた。アリスは躊躇いなくアランの腕に抱きつく。

アランはちらりと目配せをした。そして、アリスと少し距離を置いた。

アリスはモジモジと照れくさそうに俯く。

「アリス、少し話があるんだ」

「なに、アラン様」

「この間の話だけど……僕はね、自分のことをちゃんと知ってくれている人としか結婚したくないんだ」

アリス、もう結婚の話までしてたのか……。アリスの変わり身の速さに少し引いてしまう。

アリスが衝撃を受けたような顔をした。

「そんな! 私はすでにあなたのことはなんだって知ってるわ!」

アリスが声を荒らげる。

「あなたがパンケーキが好きなことも、あなたの哲学書を読むことが好きなことも……」

おそらく、例のゲームとやらで知った情報なのだろう。私は異世界の言葉は読めないが、そんなことが書いてあったのか。アリスがさらに言葉を続ける。

「あなたがとても優しいことも、自分の身長が低いことを気にしててシークレットシューズを履いていることも、顔が中性的で威厳がないことを気にしてることも……」

アリスがペラペラと話す。

アランが身長のことと顔を気にしていることについては、私もはじめて聞いたことであった。アラン……気にしてるのか。顔も端正だし、身長が低いのもそこまで大切なものでは無いから、気にしなくてもいいと思う。

アランのこめかみがピクリと動いた。

「でも、私ならあなたを救えるわ!」

アリスの声は、今日イチの大声であった。アランのこめかみのシワが段々と深くなっていく。

「そのことは誰にも言ってないはずだ。もしかして……」

アランがポケットから何かを取り出した。例のアリスのメモだった。

「これに書いてあったことをそのまま言ってるのかい?」

アリスがアランの手元を見て、目を丸くした。

「なんでアラン様がそれを持ってるの!?」

「ごめんね。怪しいから漁らせてもらったよ」

「それは……」

アリスが膝をつく。

「私、ヒロインなのよ? アラン様、私あなたを幸せにするわ」

「エドワードすら幸せにできなかったのにかい?」

「それはエドワードが……!」

「言い訳する気かい?」

「だって……だって!」

アリスが泣き叫ぶ。

「フィー、拘束するぞ」

「ああ!」

私は木陰から表に出て、アリスに駆け寄る。そして、泣きわめく彼女の手を縄で結んだ。もう少し抵抗されるかと思って2人できたが、そんなことはなかった。

「私は……私はヒロインなのにっ……!」

アリスが涙と唾を飛ばしながら叫んだ──その時。私のポケットの中が震えた。それは、アランも同じようで。私とアランは同じタイミングで、ポケットの中の鏡をとった。

鏡の中からレナードの姿があらわれる。

「学園で反応だ! 体育館だ! 今、オリヴィアに行ってもらってる」

「分かった」

私は鏡を閉じる。

「フィー! 行ってくれ。俺はアリスの対応をする!」

「ああ!」

私は瞬間移動の魔法を展開させた。足の魔法陣と同時に、目の前の景色が変わる。

体育館だ。オリヴィアが門の前にいる。彼女は今にも魔法を使いそうな気配だ。

今は彼女の力を少しでも温存させたい。

私はオリヴィアに駆け寄る。そして、彼女の身体を後ろから抱きしめた。無意識の行動だった。

「こんなところで魔力を使うのは勿体ない」

そう言うと、彼女の顔が私を見上げた。その丸くて大きい目をさらに丸くさせる。アメジストのような瞳がこぼれ落ちそうだった。

「フィーリオ殿下!?」

カナリアのような綺麗な声で言う。

私は己の剣を抜いた──
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