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激短編



「ねー丸井くん。わたしと仁王くんって付き合える可能性どれぐらいあると思う?」
ぐだりと俺の机に垂れた女子。艶のあるくせっ毛に、長い睫毛。
「えっ、お前仁王の事好きなの!?てか喋ったことあんの!?」
思わず出た大きい声に、彼女はしー、と長い人差し指を唇に当てた。
「聞こえるってば!」
焦ったようにふるふると首を振った彼女のその表情は初めてで、思わず息を飲む。
「ま、頑張れ。応援してる。」
初めて、彼女に嘘をついた。

「ブン太!!!におーくんと付き合えた!!!」
うっれしそうな声、満面の笑顔。おそらく1番に知らせようと走ってきたのだろう、少しだけ乱れた息。
彼女が自分を磨くことをどれだけ頑張って、仁王に話しかけることにどれだけ緊張していたのか、俺だけが知っている。
「お!良かったじゃん。」
また、嘘をついた。

彼女には嘘ばかりついていたと思い返す。同棲を始めたのだと報告をくれた時も、喧嘩したと家を飛び出してきた時も。
早く仲直りしろよ、お前らには仲良く居て欲しいんだから、なんて。さらりと口から飛び出す嘘にはもう慣れたもので、まるで自分自身をペテンにかけているようで。
けれど彼女の幸せは自分の事のように嬉しいのも本当のことで。彼女が幸せになれればなんでもいいなんて思えるほど俺はお人好しじゃないし、できてもない。けれど、確かに、彼女の笑顔は俺の幸せだった。
「ブン太!」
彼女はいつかの時と同じ、満面の笑みで俺を手招きした。
「よっ。美人じゃん。」
それは嘘をつき続けた俺には珍しい本音。彼女は照れくさそうに笑って、そんな彼女の背からぬっと長い手が伸びる。
「なーんじゃ、浮気か?」
「ばか。」
彼女の肩を抱く仁王と、それに嬉しそうな彼女と。つくづく、コイツにだけは叶わないと思い知らされる。
「仁王も似合ってんじゃん。」
「えぇじゃろ。」
自慢げに笑う仁王は男の俺から見ても格好よくて、彼女が惚れてしまったのも無理は無い。
「おめでとう。幸せになれよ。」
きっと、最後の嘘をついた。彼女はありがとう、と呟いて。それから、綺麗な真っ白なドレスを翻した。あぁ、そのベールをあげるのが俺だったら、なんて。そんな叶わない妄想を頭の片隅で考えた。
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