激短編
「柳生くん、一緒に帰ろ〜!」
今日も彼女は俺…ではなく柳生を誘いに教室までやって来る。きっかけは柳生が彼女と毎日一緒に帰っているという情報を入手したこと。まさか柳生が好きなのか、なんてただの同級生にするには面倒な嫉妬をして、俺はとうとう柳生を問い詰めた。
それなのに柳生からは「彼女に直接聞いたら良いのでは?」なんて面倒な…もとい真っ当な事を言うから、仕方なく独断で入れ替わることにした。
許してくれんしゃい、やぎゅ。おまんの名誉に傷はつけんぜよ。
「お待たせしました。」
彼女ににこりと笑って見せれば、彼女は少し目をぱちくりしてから、思い出したようにふにゃりと笑った。そんな可愛らしい笑顔を柳生には向けているのか。
「帰ろ、柳生くん。」
自然に向けられる言葉に、大人しく彼女のあとをついてゆく。校門を出て、しばらく歩いて。コンビニでアイスを買って、今日の理科の先生の雑学は面白かったなんて話をして。それから、彼女はやけに神妙な顔をした。
「それでね、本題なんだけど。」
ごくりと、唾を飲む。
「やっぱり仁王くんに告白するには直接のがいいと思う……?」
一瞬だけ頭の中にハテナが浮かんで、それからこれは自分の話だと気づいた。どういうことか、なんて言葉は飲み込む。俺は今柳生なのだから。
「告白……とは……恋愛の……ですか?」
「え、当たり前じゃん。毎日相談してるでしょ?」
「えっと……仁王、くんは直接だと嬉しいと言っていましたが……」
頭が追いつかなくて、口からどうにか言葉を紡ぎ出す。
「そうなの!?助かる〜。ちなみにそもそも私って認知されてるかな?」
「当たり前でしょう。」
「めっちゃ食い気味じゃん。」
けらけらと彼女が笑う。天真爛漫な笑みを可愛いと思うだけの余裕は俺に残されていなくて。浮かれきった思いが大きくなる。
「今日もね、部室からテニス部見てたんだぁ。」
格好いいし、廊下で見る時もさり気ない優しさと笑顔が素敵で、なんて彼女の口から次々に紡がれる言葉に顔が緩まないよう、高鳴る心臓を必死に抑える。
「ほんとに……好きなんだぁ。」
彼女のしみじみとした声に、表情に、彼女の前で偽りを続けることに少しだけ、居心地の悪さを感じる。
俺も好きじゃ、なんて言葉が言えるはずもなくて、掌を硬く握り込む。今更、目の前の相手が俺だなんて言えるわけもない。
嫌われるかもしれない、そんな思いが大きく胸の中に渦巻いた。
「昨日はすいませんでした。部活が長引いてしまって……先に帰っていて下さったようで良かったです。」
翌朝。そんな言葉を口にしながら私に話しかけたのは柳生くん。いつも私が恋愛相談をしている。こんな私の相談にも紳士に乗ってくれて、本当にいい人だ。
「ううん、柳生くんと一緒に帰ったよ。」
私の予想外の答えに柳生くんはメガネの奥の長い睫毛を1回瞬かせて、それからため息をついた。
「まさか。」
「部活が長引いてるのは窓から見てたし、その後にミーティングもあるのに柳生くんがいつもの時間に来るわけないのにね。」
くすくすと笑ってしまう。別に変装した仁王くんを見破れるわけでもない。本当に柳生くんだと思ったし、写真で見ても映像で見ても区別はつかないだろう。ただ、女というのはどうしても好きな人とその周辺に関する観察力は鋭くなってしまうもので。
「どちらがペテン師なのか、考えものですね。」
柳生くんの少し弾んだ声はこの状況を楽しんでくれているようで、首をすくめて見せる。
予鈴が鳴ると同時に手を降って柳生くんに背を向けた私は聞こえていなかった。
「まぁ、恋愛相談なんて口実で彼女と一緒に帰宅する特権を手に入れている私も充分……。」
ペテン師なんですけどね……なんて、そんな言葉。
今日も彼女は俺…ではなく柳生を誘いに教室までやって来る。きっかけは柳生が彼女と毎日一緒に帰っているという情報を入手したこと。まさか柳生が好きなのか、なんてただの同級生にするには面倒な嫉妬をして、俺はとうとう柳生を問い詰めた。
それなのに柳生からは「彼女に直接聞いたら良いのでは?」なんて面倒な…もとい真っ当な事を言うから、仕方なく独断で入れ替わることにした。
許してくれんしゃい、やぎゅ。おまんの名誉に傷はつけんぜよ。
「お待たせしました。」
彼女ににこりと笑って見せれば、彼女は少し目をぱちくりしてから、思い出したようにふにゃりと笑った。そんな可愛らしい笑顔を柳生には向けているのか。
「帰ろ、柳生くん。」
自然に向けられる言葉に、大人しく彼女のあとをついてゆく。校門を出て、しばらく歩いて。コンビニでアイスを買って、今日の理科の先生の雑学は面白かったなんて話をして。それから、彼女はやけに神妙な顔をした。
「それでね、本題なんだけど。」
ごくりと、唾を飲む。
「やっぱり仁王くんに告白するには直接のがいいと思う……?」
一瞬だけ頭の中にハテナが浮かんで、それからこれは自分の話だと気づいた。どういうことか、なんて言葉は飲み込む。俺は今柳生なのだから。
「告白……とは……恋愛の……ですか?」
「え、当たり前じゃん。毎日相談してるでしょ?」
「えっと……仁王、くんは直接だと嬉しいと言っていましたが……」
頭が追いつかなくて、口からどうにか言葉を紡ぎ出す。
「そうなの!?助かる〜。ちなみにそもそも私って認知されてるかな?」
「当たり前でしょう。」
「めっちゃ食い気味じゃん。」
けらけらと彼女が笑う。天真爛漫な笑みを可愛いと思うだけの余裕は俺に残されていなくて。浮かれきった思いが大きくなる。
「今日もね、部室からテニス部見てたんだぁ。」
格好いいし、廊下で見る時もさり気ない優しさと笑顔が素敵で、なんて彼女の口から次々に紡がれる言葉に顔が緩まないよう、高鳴る心臓を必死に抑える。
「ほんとに……好きなんだぁ。」
彼女のしみじみとした声に、表情に、彼女の前で偽りを続けることに少しだけ、居心地の悪さを感じる。
俺も好きじゃ、なんて言葉が言えるはずもなくて、掌を硬く握り込む。今更、目の前の相手が俺だなんて言えるわけもない。
嫌われるかもしれない、そんな思いが大きく胸の中に渦巻いた。
「昨日はすいませんでした。部活が長引いてしまって……先に帰っていて下さったようで良かったです。」
翌朝。そんな言葉を口にしながら私に話しかけたのは柳生くん。いつも私が恋愛相談をしている。こんな私の相談にも紳士に乗ってくれて、本当にいい人だ。
「ううん、柳生くんと一緒に帰ったよ。」
私の予想外の答えに柳生くんはメガネの奥の長い睫毛を1回瞬かせて、それからため息をついた。
「まさか。」
「部活が長引いてるのは窓から見てたし、その後にミーティングもあるのに柳生くんがいつもの時間に来るわけないのにね。」
くすくすと笑ってしまう。別に変装した仁王くんを見破れるわけでもない。本当に柳生くんだと思ったし、写真で見ても映像で見ても区別はつかないだろう。ただ、女というのはどうしても好きな人とその周辺に関する観察力は鋭くなってしまうもので。
「どちらがペテン師なのか、考えものですね。」
柳生くんの少し弾んだ声はこの状況を楽しんでくれているようで、首をすくめて見せる。
予鈴が鳴ると同時に手を降って柳生くんに背を向けた私は聞こえていなかった。
「まぁ、恋愛相談なんて口実で彼女と一緒に帰宅する特権を手に入れている私も充分……。」
ペテン師なんですけどね……なんて、そんな言葉。