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財前菊


大阪観光?



いつものように授業を受けて、いつものように部活へ行く。

習慣化されたその行為に少々飽きを感じながらも、一つ欠伸をして歩き慣れた道を進む。


「………え?」

「あ、財前だ!やほーっ!」

「…は、はあ…?」


だがしかし、辿り着いた先の部室の扉を開いて俺の目に飛び込んできたものは、明らかに通常通りのものではなかった。

最早さっきまでの眠気も軽々と吹っ飛び、目の前の状況に説明をつけるべく頭をフル回転させる。

それでも全く持って納得のいく答えが出くる気配すらない。


「お、なんや?光が珍しくフリーズしとるみたいやないか」

「まあ、無理もないわ」

「あんな、今日は青学、行事の振り替えで休みやったんやて」

「で、今日金曜やろ?しかもなんや珍しく今日から3日間部活もあれへんらしいで」

「せやからこの機会に大阪満喫プチ旅行!っちゅーわけや」


とかなんとか考えていたのが丸分かりだったのか、先輩達が代わる代わる説明をしてくれた。

まあ、その時の顔が見たこともないくらいの輝いた笑顔だったのは少々不愉快ではあったが。

…というか、そもそも。


「…俺、聞いてませんけど」

「おん、そら言うてへんもん」

「…………………」


本当にこの人達は何を考えているのか、全く検討もつかない。

呆れて溜め息を吐けば、それまで俺達のやり取りを黙って見ていたらしい、所謂この問題の中心人物がいつの間にか目の前に居た。


「ね、財前!今日から3日間、短いけどよろしくね?」

「…は?よろしくって…」

「あ、せや、言い忘れとったわ。今日から3日間は菊丸クンと大阪観光やから部活休みやで」

「…はあ?」


菊丸さんから発せられた言葉に怪訝な顔をしていれば、本日2度目の意味不明な部長の言葉。


「ねえねえ、そういえばさ、何処連れてってくれんの?」

「そら菊丸の行きたいとこなら何処でも連れてったるで」

「ほんなら道頓堀までワイとたこ焼き食いに行かへん?」


そして、再び呆れかえって口も開かなくなった俺を気にするでもなく部員全員が菊丸さんに話し掛けたり、色々と構ってやっている。


「…ふん、意味わからんわ」


そんな光景に腹が立ち、吐き捨てるように言葉を紡ぐと踵を翻す。

もちろんそんな俺を気にとめる奴など居るはずもなく、普段なら思いっきり部活時間中のはずのこの時間に、テニスコートではなく校門に堂々と足を向ける。


「…っ、ねぇ、待ってよ…!」


そして丁度校門に差し掛かったあたりで、走って追いかけてきたらしい菊丸さんに呼び止められた。


「…なんです?」

「…やっぱ…怒ってる?」

「………は?」


思わず振り返って顔をのぞき込むと、今にも泣きそうな瞳でこちらを見つめる視線とぶつかった。

確かに腹が立ったのは事実だが、それはあくまでも菊丸さんを構い倒すあの人らに対してであって、決して菊丸さん本人にではない。

けれどこんなしおらしい姿を見せられると、余計にこのままあの人らの所へ返すのは勿体ない。


「そう思うんなら、この3日間のうちどれか1日くらいは、俺と2人っきりで過ごしませんか?」

「…っ、え…?」


ただでさえデカい目をよりいっそう見開いて、更にはみるみるうちに朱に染まっていく頬をみれば、流石に誰でも気付くだろう。

つまり、そういうこと。


「まあ、でも姫さんから言わすのは男が廃るってもんですからね」

「…ざ、財前…?」

「よう聞いとって下さいね、」


その細い体を引き寄せて、至近距離から瞳を見つめる。


「好きですよ、菊丸さん」

「…え、あ………んん…っ」


そう耳元で囁くと、相手の返事も待たずにその唇を塞ぐ。

すると菊丸さんの後ろ、ナイスタイミングで現れた先輩ら。

丁度ええ機会やし、この人は俺のだって見せつけとこ。


「…残念だったっすね、先輩ら。まあそういうことなんで、この人には手ぇ出さんといて下さい」

「…え、み…みんな…?」


今まで気が付かなかったのか、赤い顔で後ろを振り返る菊丸さんの腕を引いて歩き出す。

これであの狼の集まりみたいな集団に放り込まずに、堂々と俺の家に泊まってもらえるわ。


「…ね、財前」

「何です?」

「俺も、好きだよ」


言いながら擦り寄ってくる菊丸さんの頭を撫でつつ、今までで一番だろう幸せを噛みしめた。





(…な、何でや…!)
(一番無愛想だった財前が…)
(あらあら、でも菊ちゃんやっぱり見る目あるわあ~)
(浮気か!小春!)
(そういうユウジも菊丸に浮気しとったんじゃなかと?)
(……………(ぽかーん))
(あ、アカン…!金ちゃんのキャパシティー越えとるわ…)





⇒⇒⇒おまけ



翌日。


「…で、何処行きたいんです?」

「えっとねー、あれ、ジンベイザメ見たいの!ジンベイザメ!」

「ああ、海○館ですね」

「そうそう!」

「…あ、海○館といえば、菊丸さんアレ知ってますか?」

「アレ?」

「結婚式挙げれるんですよ」

「へえ…それは素敵だね」

「で、どっちがええんですか?」

「…何が?」

「海○館でジンベイザメと、ディズ○ーランドでミッキーと、どっちで結婚式挙げたいですか?」

「…あ、それは悩むなあ…」

「まあ、そんなに焦らんとじっくり考えたって下さい」





謙「あ、アカン…」

白「邪魔したろ思って来たのに、隙があれへんやないか…!」

ユ「…ふ、2人ともエラい目ぇ血走ってんで…コワい」

千「どげんしたと?金ちゃん」

遠「……………飽きた」

小「あらあら、まあ確かに意外と大人なデートですものね」

謙「ひ、光のクセに…!」

白「っちゅーかアイツ、俺らが来てんの知っててワザと見せ付けてんのや…!有り得へん…!」

ユ「そもそも尾行すること自体オカシイとは思わんのかい…」

千「突っ込んだら終わりばい…」

遠「たこ焼き食いに行こ」

小「じゃあアタシも!」



*2011/11/07
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