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白石×仁王×菊丸


海上の小夜曲ーSerenadeー

※大学生(二十歳)くらいな設定。



平日は学校行って講義受けて、夕方や土日はバイト三昧なんていう目まぐるしい日々を割と楽しく過ごしていた冬のある日の夜。

今日は金曜日であり、本来ならまだまだバイトに精を出してる時間のはずだけど、今日は何故だかいつも頑張ってくれてるから帰って良いよと言われてしまった。

更には明日と明後日も休みで良いから、というオマケ付きで。

もっというと月曜日の講義も先生の都合で休講になってる。

突然降って湧いた三連休をどう過ごそうか、と同居人2人───蔵と雅治を探すも、まだ帰ってきてないらしく、部屋はもぬけの殻。

そういえば2人共今日は遅くなるって言ってたっけな、と朝の会話を思い浮かべながら、ひとまず飲み物でも飲もうかと紅茶を注いだカップ片手にダイニングテーブルの椅子を引こうとした時、ちょっとした異変に気が付いた。


「ん…?なんだろ…?」


テーブルの上に置かれていたのは“菊丸英二様”と書かれた封筒。

差出人は蔵と雅治。

普通の郵便物にしては豪華なそれに首を傾げながら中身を取り出すと、二つ折りにされた招待状。


「なになに…“本日、午後9時より海上クルーズにご招待します”…?え?なに、どーゆーこと?」


ますますわけがわからずにクエスチョンマークを浮かべていると、タイミング良く鳴り響く携帯。

その聞き慣れた着信音は現在部屋に居ない雅治のもので。


『英二、今どこじゃ?』

「家にいるけど…ねえ、なあに?この封筒…ってか招待状って」

『ま、見ての通りじゃ。とりあえず三泊くらいの旅行のつもりで支度しときんしゃい。暫くしたら蔵ノ介がそっちに行くからな』

「え、ちょ…雅治…っ!」


用件を言うだけ言って、それじゃあな、と電話を切る雅治にため息を吐きながらも、謎だらけとはいえ旅行というキーワードに否が応でもテンションが上がってくる。

ひとまず家中をぐるりと見回し、手頃な大きさの鞄にお気に入りの服など色々と詰め込んでいく。

一段落した所で蔵に電話しようと携帯を操作し始めた時、外からクラクションの音が聞こえてきた。

まさかと思いベランダから身を乗り出して下を覗くと、予想通り、蔵が車を止めてこちらに向かって手を振っていた。


「おーう、英ちゃん、どないや?ちゃんと準備出来たかー?」

「うん!」

「ほな、早よ降りておいでや」


元気良く返事を返すと、急いで戸締まりをして階段を駆け下りる。

そこには、まるで執事みたいに恭しく一礼する蔵がいて。


「お迎えに参りました、お姫様」

「あは、ありがと。けど…今日は2人共一体どうしたのさ?」

「そりゃあ、まあとりあえず後のお楽しみっちゅーわけや」


さ、乗った乗った、と俺の背中を押し、手早く荷物も積み込むと、夜の街に向けて車を走らせた。



───────………‥‥



「わあ…」

「やっぱ何回見ても東京のレインボーブリッジは綺麗やんなぁ」


あの後暫く夜の街を蔵が運転する車で走り抜け、見えてきたのは東京湾に架かるレインボーブリッジのイルミネーション。

招待状にも海上クルーズと書かれていたし、海へ向かうんだろうというのは容易に想像出来たけど、次の瞬間目に飛び込んできたものは、流石の俺でさえも予想を遥かに上回るような光景だった。


「な、何この船…っ!」

「何って、見ての通り、豪華客船やないか。ほなこれ乗るでー」

「え、うそ…っ!?」


そう、そこに佇んでいたのは一般庶民ではまずお目にかかれないであろうほどの大きさの豪華客船。

俺が唖然として見上げている間も蔵は平然と車を走らせ、そのままその船に乗り込んだ。


「やっと来たな」

「そない待たせてへんやろ。しかもまだ時間の5分前やで」

「…え?あれ…?何で、跡部……じゃ、ない…?え、まさは…」

「英ちゃん」


船の中の駐車場で車を降りて荷物を下ろしていると、聞き覚えのある声がして振り返った。

やはりというか何というか、これほどの豪華客船に簡単に乗れるくらいだから、跡部が関係してるとは思ってたけど、その姿を見て瞬時に違和感を覚えた。

指摘しようと口を開いた所を隣にいた蔵が人差し指を口にあてて、やんわりと押し留めた。


「ほら、つべこべ言わずにさっさと行くぜ、とりあえず部屋だ」

「ほら、英ちゃん」

「あ…うん」


両側から蔵と跡部───もとい雅治に手を引かれ、赤い絨毯の敷かれた長い廊下をひたすら歩く。

そうして、暫く歩いた後、辿り着いた扉の前で立ち止まった2人は勢い良く扉を開け放った。


「う、わ…広い…っ!」

「そらそうや。この船で一番のスイートルームらしいからな」

「しかも、窓から見える景色も一番じゃ言うてたかの」


今住んでるマンションより遥かに広い部屋に、驚きが隠せないままキョロキョロと見回している間、雅治は変装を解きながら窓辺に腰掛け外を眺めていて、蔵は3人分の飲み物の用意をしている。

初めて来たというのに、何だか様になっている2人に若干悔しい思いを抱きつつも、未だにわからないことがたくさんあるため、説明を求めて2人に向き直る。


「ねえ、ホントに何なの?」

「何って…やっぱり思った通りやったな、忘れてるわ英ちゃん」

「よーく思い出してみんしゃい。今日は何月何日じゃ?」

「11月25日…?」

「せや、ほんなら月曜は?」

「28日…?あ、あーっ!」


蔵の淹れてくれた紅茶を一口啜って問い掛ければ、逆に2人に質問を投げかけられてしまい、再び困惑しつつも素直に答えると、ある一つの事実を思い出す。

最近あまりゆっくりする時間がなくてすっかり忘れてた。


「…俺の、誕生日…?」

「しかも、二十歳のな」

「もちろん最初から誕生日は祝うつもりやったけど、せっかく二十歳の誕生日やしな、いつもより特別っぽい事したかったんや」

「で、でもこんな高そうな船に部屋だし…、そういえば、明日からバイトや講義が休みだって俺まだ言ってなかったし…」


確かにそれならば2人の不可解な行動には説明がつくけど、それにしたって色々と都合が良すぎるんじゃないかと、余計に混乱して、訊きたかったことが支離滅裂のまま口から飛び出す。


「まあまあ、とりあえず落ち着きんしゃい。一つずつ説明する」

「まずバイトと講義についてやけどな、それは俺から休みにしたって下さいって頼んできたんや」

「え、で…でもそんなこと一言も言ってなかったし…!」

「そりゃあ、言ったらサプライズじゃなくなるからのう」

「で、船は雅治が調達してきた」

「ちょいと跡部に変装して、乗せてくれないかって言うたら案外簡単にオーケーしてくれてな」


昔から突拍子もないことを考え付く雅治と、一見常識人に見えるけどやっぱり突拍子もない蔵のサプライズには流石に驚いたけど、嬉しいことには変わりなくて。

最近ゆっくり3人でいる時間もなかったし、3、4日くらい色々忘れて楽しむのも良いのかな。

そう思ったら、感謝の気持ちが溢れてきて、勢い良く2人に抱きつくとそれぞれの頬にキスをする。


「ありがと、蔵、雅治」

「ええんや、英ちゃんが笑ってくれたら俺らは嬉しいんやから」

「…まあな。けど俺はどうせならこっちが良かったけどな、」


優しく頭を撫でてくれる蔵の笑顔に見惚れていると、横にいた雅治に顎を掴まれて振り向かされる。

あ、とかなんとか思う間もなく唇に音を立ててキスをされた。


「…雅治、ズルいんちゃうの?」

「え、…あ……」

「これでおあいこじゃな」


英ちゃん、と蔵に優しく呼ばれて振り返れば、先ほどの雅治と同じように唇にキスをしてくる。

そして3人で顔を見合わせると、誰からともなく笑いが漏れる。

こうして、久方振りののんびりした時間を大いに満喫しながら、その日の夜は更けていった。



───────………‥‥



「うはーっ、遊んだ遊んだ!」

「流石に疲れた…」

「でも、楽しかったな」

「うんうん、ホントなんでも揃っててびっくりしたー」


それからこの丸2日間、温水プールに入ってみたり、テニスコートでテニスしてみたり、レストランのバイキングでお腹一杯食べてみたり、とにかく遊び尽くした。

現在は日曜日、つまり27日の夕食後、蔵が淹れてくれた紅茶を飲みながら、テレビを見たりしてのんびり寛いでるところ。


「あ、そろそろ時間やで、雅治」

「ん…?ああ、」

「?…何?時間って」

「そら英ちゃん、誕生日はまだまだこれからが始まりやで?」

「英二、11時になったらこの店まで来てくれんか?」

「オシャレして、な?」


蔵の呟きに気怠そうに返事を返した雅治が、船の中にあるらしい店の名前と場所が書かれた紙を俺に差し出し笑顔を浮かべると、欠伸をしながら部屋を出て行く。

それに続くように、蔵も笑顔を浮かべて俺の頭を数回ぽんぽんと撫でると部屋を出て行く。

またしてもわけがわからないまま1人取り残された俺は、とりあえず時間を確認してみる。


「10時、か…」


後2時間で日付が変わる。

きっとまた何かサプライズをしてくれるつもりなんだろうと思う。

本当に俺は幸せ者だな、と暖かい気持ちに包まれながら、今か今かと時間が来るのを待っていた。



───────………‥‥



「多分ここ、だよね…?」


あれから、急いで着替えて、いつもより丁寧に髪を整えていたらあっという間に約束の時間。

雅治に渡された紙を頼りに最上階の一番奥の扉に辿り着いた。

他に人影はなく、もっと言うと部屋の中からも気配がしない。

若干の不安が頭を過ぎるが、とりあえず確認してからでも遅くはない、と目の前の扉に手を掛ける。


「…失礼しまーす…?」


恐る恐る開いた扉の隙間から中を覗き込むが、部屋の中は真っ暗で様子が全くわからない。

部屋を間違えたのかもしれない、と踵を返そうとした瞬間、どこからともなく聞こえてきたBGMに足を止めて振り返った。


「………え?」


更に呼応するかのように次々と灯されていく無数のキャンドル。

漸く明るくなった部屋を再度見回せば、部屋の中心に佇むスーツ姿の2人が笑顔で手招きしていた。


「ほら、こっち来てよう見てみんしゃい、良い眺めじゃ」

「この店、今夜だけは英ちゃんと雅治と俺の貸し切りやで」

「…わあ…」


手招きされるがままに2人の側まで近付き、言われるまま外を見ると思わず感動の溜め息が漏れる。

俺の目の前に昂然と広がっていたのは、満天の星空と大海原。

店の半分くらいの面積の天井と壁がドームのように一面ガラス張りなため、それが一度に見渡せる。


「気に入ったか?」

「うんっ!」

「ほな、ケーキでも食べへん?」


きっとそうそう見れないだろう景色に目を輝かせてガラスに張り付いていると、ワゴンにケーキや飲み物を乗せて、蔵がこちらへゆっくりと歩いてきた。

大きく頷くと、一番見晴らしが良さそうな窓際の前に置かれた丸テーブルの椅子を、ごく自然な仕草で雅治が引いてくれる。


「まあ…料理上手な英ちゃんには適わんかもしれんけど、愛はちゃんとたくさん籠もってんで?」

「…俺は予想以上の蔵ノ介の不器用さに随分と驚いたぜよ」

「2人で作ってくれたの?」


早速席についてケーキを眺めていると、2人の口から予想外な事実が飛び出してきて、驚きと嬉しさが半々のまま首を傾げる。

すると、珍しく少し照れたように目を逸らす雅治と、いつもより3割り増しの笑顔を浮かべる蔵。


「ホント、幸せ者だなー…俺」

「そら、こっちのセリフやで」

「そんなことないよ、俺なんか蔵や雅治みたいにこんなすごいことしてあげられないしさ、」

「………英二、」


ここまで用意してくれただけでも充分過ぎるくらいなのに、俺のために2人が得意でもないケーキ作りをしてくれたというのがたまらなく嬉しくて、とても幸せで。

思わず申し訳ないと、謝罪の言葉が口をついて出そうになったけれど、今この2人が望んでいるのはそんな言葉じゃないから。


「…だから、蔵と雅治がこうやって俺に愛情注いでくれる以上にもっともっとたくさん、俺が愛情、蔵と雅治に注いであげる」


俺の両脇に座る2人の手を包み込むように握り微笑みかける。

しばらく面食らったように黙り込んでいた2人は互いに顔を見合わせ、困ったような、それでいてとても嬉しそうな笑みを浮かべた。


「………ったく、とんだ殺し文句ぜよ。今日は俺らが英二を喜ばせる番じゃろーが」

「ホンマやで、英ちゃんが俺らのこと喜ばしてどないすんねん」

「だって、してもらってばっかってのは何かイヤなんだもん」

「…ほな、しゃーない、ちょお時間早いけど、アレ出すか、」

「………ああ」


ちょっとしてやったり、とか思っていたのだが、まだ何かあるらしい2人の物言いに、ここ数日で何度目だろうか、首を傾げた。

その間に蔵と雅治は立ち上がり、それぞれ俺の両側で片膝を付く。

まるで王子様みたいな2人の仕草が久しぶりに心臓を高鳴らせる。


「今までそれらしいことは何回も言うてきてると思うけどな、」

「英二の誕生日っちゅー俺らが一番大事に思っとる日、しかも二十歳になる節目のこの年に改めて、お前さんに言いたいことがある」

「これまで…いや、これまで以上にもっと、俺らが他の誰よりも英ちゃんを幸せにしてみせる」


そんな俺もお構いなしにしゃべり始めた2人は、一旦言葉を区切ると小さい箱を差し出してきて、俺に向けてその蓋を開ける。

キャンドルの淡い光と月明かりに照らされて煌めくそれは、愛する人がいるのなら、きっと誰でも一度は願ったことがあるだろう物。


「「一生、死ぬまで、俺らと一緒にいてくれますか?」」

「………っ……」


2人と想いが通じ合った時も相当な感動だったけれど、今のこれはそれ以上、つまり俺が今まで生きてきた中で一番最高の感動。

心が2人の愛で満たされる。

言いたいことは山のようにたくさんあるのに、そのどれもちゃんとした言葉にはなってくれない。


「…全くもう、幸せ過ぎて涙出てきちゃったじゃんか、」

「そりゃあ本望じゃな」


やっとの思いで何とか絞り出した俺の言葉に、悪戯っぽい笑みと綺麗なウインクで答える雅治。

その表情を幸せな気持ちで眺めていると、蔵が俺の左手を取って、薬指に唇を寄せて囁いた。


「愛してんで、英ちゃん」

「…俺も、愛してるよ、蔵」

「愛しとうよ、英二」

「…愛してるよ、雅治」


2人とそれぞれ愛の言葉を交わしあうと、それぞれが俺の薬指に指輪をはめてくれる。

2人に貰った2つのリングは、デザインこそ違うけれど、どちらも2人の個性がよく表れていて、何より2つ付けても違和感がない。

それどころか、お互いがお互いの良いところを際立たせているようにさえ見えるのだから、それがまるで2人みたいで嬉しくなる。


「…ありがと、嬉しい」

「実はコレを0時ぴったりにやろうと思っててんけどな」

「なら、0時ぴったりは飲み物で乾杯でもしたらどうじゃ?」

「ほんなら、大人の階段登った記念っちゅーことで、俺と英ちゃんはシャンパンで乾杯しよか!あ、雅治はコーヒーな?」

「…俺も後一週間で二十歳じゃ」

「まあまあ、とりあえず今日は我慢して、3人揃ってシャンパンは雅治の誕生日のときにしよ?」


さっきまでの真剣な空気はどこへやら、小競り合いを始めた2人を宥めて、グラスに飲み物を注ぐ。

携帯で時間を確認すれば、日付が変わるまで後もう少し。


「…おっと、こんなことしとる場合じゃなさそうじゃな」

「それじゃあ、英ちゃんの二十歳の誕生日と俺らの未来に、」


やっぱり小競り合いなんかしてても2人は俺の動きに気を配ってるらしく、俺の少しの表情の変化で時間が近いことを読み取った。

あっさり小競り合いを止めた2人を含めて3人でカウントダウンをしながら、グラスを高く掲げる。

3人の左手薬指には、愛の証と未来への約束が明るく煌めく。

…どうか、この煌めきが永遠に、そして一つも欠けることなく続きますようにと願いながら。


「「「乾杯!」」」





(ほんならついでにアレもやっとかへん?娘さんを俺らに下さい!っちゅーベタに有名やつ)
(…いや、俺娘じゃないし)
(っちゅーか、英二はホントの家族よりむしろ青学の保護者達の方が色んな意味で厄介じゃろうな)
(え、不二達のこと?まさか…)
(…いや、でも乗り越えなアカン第一関門や…!諦めへんで!)
(…ふっ、当然じゃ)



*2011/11/27
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