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白石×菊丸


逢いたくて。



4月13日午後11時。

後1時間で日付が変わる。

つまりは、後1時間すれば4月14日になるのであって、つまりは、後1時間すれば俺の誕生日になるのである。


「………はぁ、」


なのに気分が晴れてくれないのは、何より大事な恋人と遠距離だからなのか、その距離を縮められない自分の無力さを思い知らされたからなのか、はたまた、普段逢えない分、特別な日だからこそ逢いたいと願うからなのか。

いずれにせよ、嘆いたところで状況は何一つ変わってはくれない。


「…声だけでも、」


聞きたい、と思うのと手が伸びたのはほぼ同時で、だがしかしその手が携帯に触れる前に、それは軽快な音を鳴らし着信を知らせた。

その聞き慣れた着信音とディスプレイの名前を見て、頬が緩む。

たったそれだけで先ほどの憂いをかき消してしまえるのは、たとえ遠くに居ようとも、少なくとも今だけは自分と同じことを考えてくれていたのだと実感出来るからに他ならない。

緩む口元をそのままに、通話ボタンを押して耳にあてる。


「…白石?」

「おん、英ちゃんの王子様、白石蔵ノ介やで?」

「にゃはは、にゃーにそれ?」

「違うんか?」

「違わないよ?いつだって、白石は俺の王子様だもん」


夜だということを懸念してか、控えめに呼び掛けてきた可愛い恋人に、返事を返す。

そんな冗談めかした言葉にさえ、茶化すわけでもなく本気で向き合ってくれる彼は、心から自分を好きでいてくれているのだと、自惚れても良いと思う。

そうしてささやかな幸せに浸っていると、更に言葉を連ねてきた。


「いつも、どんな時も、白石は俺をちゃんと迎えに来てくれる」

「…当たり前やん」

「俺ね、いっつも、すごーく嬉しいと思ってるんだよ」


続いて紡がれた言葉は更に幸せを与えてくれる。

沈んでいた気持ちを押し上げてなお、余りあるほどに。


「…だからね、」


一旦区切られた言葉の後、聞こえてきたのは窓ガラスに何かがぶつかる音。


「…なんや?」


少々不審に思い、窓ガラスまで近付いてカーテンを開け、ついでに窓も開けて身を乗り出す。


「……な、に…っ!?」


そこに見えたのは、満面の笑みを浮かべてこちらを見上げている、逢いたくて逢いたくてたまらなかった、何より大事な恋人で。

乱雑に携帯を放り出し、一直線に玄関まで駆け抜けて扉を開く。


「英ちゃん…っ!」


何故、だとか、どうして、だとか、思うことはたくさんあった。

けれどもまずそれよりも、愛してやまない恋人がここにいる、その現実を噛みしめたくて、強く強く抱き締めた。


「…来ちゃった」


背中に手を回しながら、悪戯っ子のように楽しそうに笑う彼に、こちらも笑い返した。


「…ホンマ、嬉しいわ」

「白石は、いつも迎えに来てくれる方だから、俺がどれだけ嬉しいか、わかんないでしょ?」


言いながら、少しだけ体を離して瞳を真っ直ぐに見つめてくる。

そうして暫く見つめ合った後、ふにゃりという擬音がとてもしっくりくるような、柔らかい笑みを浮かべた。


「今、白石が嬉しい、って思ったのよりもっとたくさん、俺は嬉しいって思ってるんだよ」

「…っ…ホンマ、こういう時の英ちゃんには適わへんわ」


再びお互いを見つめ合うと、どちらからともなく唇を重ね合う。

いつも逢えない距離も、時間も、全てを埋めるように。


「あと、10秒…」

「…せやな、」


お互いを見つめながら、ゆっくりと距離を縮めていく。


「「3、2、1…」」


2人でゼロと呟くのとほぼ同時に、再び2人の唇が重なった。


「誕生日おめでとう、くら」



*2011/04/14
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