キャラソンシリーズ


02.STAND UP



「いっくよーっ!」


今日も元気にコートに響き渡る声に、思わず2人は手を止めた。

声の主を見れば楽しそうな笑顔でラリーをしていた。


「…今日も元気だね、英二は」

「手、止まってますよ。不二先輩、ホントあの人好きですよね」

「そのセリフ。越前にだけは言われたくないな」


ひとつ離れたコートではそれとは対照的な雰囲気を醸し出す2人がいた。

会話をしているくせにお互いの顔など全く見ずに菊丸だけを見つめていた。


「…でも、ホント悔しいなぁ…手塚ばっかり、」

「…全く、あんな堅物部長のドコがいいんだか…」


しかし、2人が見つめているのは菊丸本人でもあり、菊丸の目線の先の人物であった。

彼らも想いを寄せるだけあって、その想い人が自分達と同じような意味合いを込めた視線を誰に送っているかは、聞かずともわかることだった。


「…僕と居るときはあんな顔、しないくせにさ」

「部長の前だといつもあんなんですよね」


その時不意に菊丸がこちらを向き、笑顔を浮かべた。

菊丸特有の誰しもを惹き付けてやまない満面の笑みを。


「…でも、諦めが悪いよね、僕らも」

「ホントに…罪な人だね、あの人は」


それを見せられてしまえば、選ぶ選択肢はひとつのみ。

そしてそこで初めて2人はお互いに向き直った。

不適な笑みを浮かべながら。


「先ずは打倒部長ってとこですかね?」

「フフッ…チャンスは僕の方が多いよ。どうする?越前」


ゲームを再開し、喋りながらも2人の思考は勝利へのステップを描いていた。


「諦められられるくらいなら、最初から本気になんてなってませんよ」


それはゲームの決着と共に、想い人を手に入れるまでのステップ。


「フフッ…確かにね」


そして、まさに今、その想い人がそんな2人を楽しそうに見つめていた。

それを知るのは相手をしていた堅物部長、手塚だけであった。



───────………‥‥



「部活終了!」

『「ありがとうございましたっ!!!」』


しかし、今日も決着が着かぬまま終了時刻を迎えてしまった。


「負けてくれれば良かったのに」

「…そっちこそ」

「今日も手塚の勝ち、だね」

「不二っ!おちびっ!」


2人して悔しさを露わにしていたとき、手塚と喋って居るとばっかり思っていた菊丸がすぐ目の前まで来ていた。


「今日も決着、つかなかったんだって~?」

「うん、まあね」


するとそれまで楽しそうに笑っていた菊丸が、およそ菊丸が見せるような笑みではない、全てを見透かすような瞳で2人を見つめた。


「…っ、英二?」

「…先輩…?」


そんな瞳に身動き出来ない。

あらゆる予感が駆け回って、煩いくらいに心臓が高鳴り始めた。


「頑張って、ね」


明らかに含みのある言い方をして、ぱっといつもの表情に戻ると軽快な足取りで部室へと消えていった。

そんな姿を暫く唖然と見ていると、2人はゆっくりと顔を見合わせた。


──気付かれている──


「先輩、もういいんじゃないっスか?」

「まだまだ、早いよ」


気付いていて尚そんな言葉をかけるのだから、期待されていると思っていいのだろう。


「要は、落としたもん勝ちってことっスよね」

「…困ったもんだよ、英二には」


それならば益々、負けるわけにはいかない。

今までイメージでしかなかった勝利という道がようやく現実味を帯びてきた。

きっとそれは到底イメージだけではない、眩しい程の世界に違いないだろう。


「譲りませんよ、誰にだって」

「…僕だって」


その、眩しいくらいに輝く世界に続く道を歩くために。


「…さあ、行こうか」

「…ウィーッス」


今しか出来ないことだけを、思い描いて。



───想い人の元へと確実な足取りで向かっていった。


(…STAND UP!)



*2009/09/06
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