キャラソンシリーズ
01.7月の雨~is this love?~
《サヨナラ、しよ?》
そう自分から切り出したのはつい先日。
ひたすら悩んで迷って考えて、それでも今の俺には、いや、俺達には最良の選択だと思って出した答えのはず。
「…なのに、」
悲しい、なんて思ってる自分が情けなくなってくる。
《英二は今日も元気だなぁ》
《あたりまえっしょ!テニスしてると幸せだもーん!》
《英二らしいな》
テニスが何より大好きで、学校も大好き。
もちろん勉強はあんまり好きじゃないけど。
でも、本当、青春真っ只中って感じで何もかも毎日スッゴク充実してた。
《桃城武です!よろしくお願いしまーすっ!》
《じゃあ、桃ね!俺は英二!菊丸英二だよんっ》
《はいっ!よろしくお願いします!英二先輩!》
そんな中、出逢って、生まれた小さな恋心。
大きくなるのに大した時間は掛からなかった。
《好きだよ、桃》
《俺も、英二先輩が好きです》
本当に人を好きになるってことを、初めて桃が教えてくれた。
そんな大事な人で、大事な想いなのに。
《なに、お前?同性で恋愛ってか?笑わせんな》
《ありえねーだろ、普通》
《……っ!》
それと同時に世間の目がこんなにも冷たいってことも、初めて知った。
そんな難題だらけのこの恋を。
到底俺には今の生活投げ捨ててでも、続けていける自信なんて少しもなかった。
何より、自分の受けたこの痛みを桃にだけは、味わって欲しくなかった。
「───だから、“バイバイ”したんだよ…」
それでもやっぱり。
忘れるどころか膨れ上がって、破裂しそうな程に。
「…好き、だよ…っ!」
代わりに流れ出すのは涙だけ。
本当の好きを知ったのが初めてなら、そんな好きな人から離れて知った痛みも初めて。
あんなにも充実していた毎日が苦痛でしかなく。
何をしていても、考えるのはやっぱり、桃のことで。
──人は何故失ってから大切なものに気付くのか──
前までわからなかったその言葉が矢のように胸に突き刺さる。
大事だからこそ。
それ以上に失って悲しいものとなどないはずなのに。
───────………‥‥
「…星が綺麗だぁ…」
そんなことを考えてたらいつの間にか夜で。
泣きはらした目を擦りながら空を見上げた。
「…星が頑張れ、って言ってるみたい」
広大な星空は優しく世界を包み込む。
そんな空を見ていると、勇気が湧いてくる気がする。
「ね。大五郎…俺は、桃以外何もいらない。桃も、そうかな?」
なんて、答えるはずもない縫いぐるみに話しかけたりして。
「………え?」
だけど、一瞬、ほんの一瞬。
それこそ泣きはらして幻覚が見えたのかもしれないけれど。
大五郎が、頷いた気がした。
そう思ったときにはもう俺は家を飛び出してた。
行く先はもちろんひとつだけ。
「桃…っ!ごめんっ…」
走りながら呟いた。
ひとりで居るから答える人は誰もいないとわかっていても、声を出さずにはいられなかった。
「…英二…先輩…!?」
しかし、それに答えたのは今まさに逢いたいと願った愛しい人であった。
「…桃…っ桃ぉ…!」
「え、英二先輩…!?」
奇跡のような巡り合わせに嬉しくて泣きながら抱き付いた。
「…ごめん……ごめんなさい……っ!桃のこと…キライなわけじゃない!…不安で…みんなに否定されるのが怖くて…」
すると桃が不意に言葉を遮るように、今まで緩く抱き締めていた腕の力を込めた。
「わかって…ましたよ。先輩の気持ち。だって俺も…思ってたことですから」
「え………?」
「だから、“サヨナラ”って言われたとき、引き止めたらダメだ。仕方ない、って割り切った」
その言葉に、既に桃も俺と同じ痛みを味わったんだと、悔しくて唇を噛んだ。
そんな俺を見て、桃はまた喋り出した。
「…つもりでした。でも実際では全然割り切れてなくて。やっぱ、俺には英二先輩がいないと駄目みたいっす」
そう言っていつも通り、眩しいくらいの笑顔を浮かべた。
その表情に、胸に突き刺さっていたもの全てがなくなっていく気がした。
「俺…だって、桃がいないと駄目だもん!なんにも楽しくないんだもん…っ!」
その言葉に嬉しそうに頷くと、俺の涙を大きな手で優しく拭った。
「…もう、英二先輩のこと、これからぜってー離したりしませんから。俺達は運命だって信じましょう」
そして、耳元で囁かれた。
「…うん、約束、だよ」
絶対、桃から離れない。
桃がいれば他は何もいらない。
「…大好きだよ」
もう、二度と大切なものを見失わないように。
───星空に見守られながら、誓いのような口付けを交わした。
(I will become your...
...destiny...)
*2009/09/06 加筆修正
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