年下攻めバカップルシリーズ
02.越前×菊丸
「うーん…あうう…」
部活も何もないある日曜日の朝。
清々しい朝というのはこういうことを言うのだろう。
「んーっ!…あれ?」
そんなことを思いながら体を大きく伸ばすと、何だかいつもよりベッドが狭い気がする。
まさか、と思いつつもゆっくりと布団を捲ると見慣れた姿を発見した。
「…ちょ?え…?…にゃっ!おおお…おちび…っ!?」
「…ふあ…ん?…あぁ…そーだ、オハヨ、先輩」
「あう、おはよ、おちび!…じゃなくて!」
寝起きも完璧なまでに絵になるルーキーを見て思わず返事を返したものの、この異常事態に突っ込みを入れるべく言葉を発した。
「先輩、今日も可愛い…」
「え?…あ、いや…んっ」
…が、しかし。
言葉を発しかけた口は目の前のルーキーのそれで塞がれてしまった為にその先を紡ぐことは叶わなかった。
「…もう、おちびってば…」
「そんなこと言って、イヤじゃないクセに…」
最早完全に先程の疑問など遠い空の彼方へと吹っ飛んでしまっている。
そしていよいよ本気モードに突入したらしい越前が本格的に菊丸にキスを仕掛けようと顔を近づけた瞬間。
「英二ーっ!!!」
「え?うわーっ!」
「…ってぇ…!」
説明しよう。
この一瞬の間にこの空間の状況は一変したのである。
と、いうのも先程越前が菊丸に顔を近づけた瞬間、勢い良くこの部屋の扉が開き菊丸家の長男(つまりは英二の兄である)が侵入してきたのである。
そしてそれに驚いた菊丸はこれまた勢い良く越前を突き飛ばした。
しかし、不運、ルーキー。
突き飛ばされただけならまだ良いものの、2人が居たところはベッドである。
故に、ルーキーはベッドから勢い良く突き落とされた、と言った方が正しいだろう。
「…あ、ごめんっ!おちび大丈夫ーっ!?」
「…大丈夫っス…」
流石の菊丸家の長男もまさかこんな事態になるとは想定外だったらしく暫し動きが停止した。
「…おはよう、英二」
「ふぇ?…わわっ!」
けれどやはり菊丸家長男。
そんなことくらいで落ち着きを無くす程、まだ落ちぶれてはいないらしい。
まるでそれが自然の流れであるかのように菊丸を抱き上げ、抱き締めた。
流石菊丸家三男。
中学テニス界でアイドルなら家でもアイドルらしい。
「お…おはよ、兄ちゃん。あの…下ろして?」
「にゃろう…」
それでも離す気のないらしい長男に痺れを切らし、越前が引き離しに掛かろうとした時、ぱたぱたと廊下を走ってくる軽い足音と同時に怒ったような声が聞こえた。
「ちょっとお兄ちゃん!いい加減にしたらっ!?」
そして姿を現したのは、菊丸家の長女。
素早く菊丸を長男から引き離すと何の迷いもなく長男に平手打ちを食らわせた。
「…いって…なにすんだよ!」
「それは英二の台詞よ!いったい何回言えばわかるのかしら!」
そしてこちらもまた自然の流れのように説教をしながら、およそ普通の女性では有り得ないような強い力で長男を引っ張って行った。
「あ、そうだ!英二も越前君も邪魔しちゃってごめんなさいね。朝ご飯出来てるから早く降りてらっしゃい」
数歩進んだところでくるっと振り返り、満面の笑顔でそう言い残すと階下へ降りて行った。
「…先輩?」
「…え?…んっ」
暫く茫然と事の成り行きを見守っていた2人だが、いち早く我に帰ったスーパールーキーが行動を起こした。
「…なにすんの、おちび?」
「何って、キス」
「…あのねぇ」
「イヤじゃないでしょ?」
そう言って不敵に笑う顔を見ればイヤと言えないのはいつものことで。
「適わないなぁ、おちびには」
「アリガトウゴザイマス」
目を閉じれば優しく触れるルーキーに、まぁいっかと思うのもいつものこと。
───暫く甘い空気を堪能した後、2人は仲良く手を繋いで元気良く階段を降りて行った。
*2009/09/01