年下攻めバカップルシリーズ


01.桃城×菊丸



「エージ先ぱーいっ!」

「にゃあっ!」


今日も平和な青学テニス部。

今や馴れつつある光景もやはり、部外者から見れば可笑しなことこの上ない。

掃除当番であったらしい彼、桃城武は光の速さで着替えを済ますとコートでストレッチを行っていた菊丸英二に一目散にわき目もふらず飛び付いた。


「はぁ…びっくりしたぁ」

「あはははは、いやもうエージ先輩見たらつい」

「…もう」


豪快に男らしく笑う桃城に、満更でもなさそうな、寧ろ嬉しそうな笑みを返す。


「あーもう、先輩は可愛すぎていけねーなぁ、いけねーよ…っん」

「ちょ、…んっ…」


そしてその笑みに吸い寄せられるように口付けた。

念の為にもう一度確認しておくが、此処はテニスコートである。

部活前である。

フリータイムとはいえ部員は全員いる。


「…今月28回目、っと…」


しかし、というかなんというか、個性派揃いの青学テニス部。

完全スルーである。

唯一、青学のデータマン乾貞治が怪しげな空気を醸し出しながらさらさらとノートに書き綴っているだけであった。

けれど、こういうとき一番に注意するであろう厳格部長、手塚国光でさえ完全スルーなのだから、この部活では珍しいことではないということが伺える。


「…ねぇ、先輩達」

「…あ?何だよ越前」

「どした?おちび?」


完全に2人の世界に入りかけていたところに無遠慮に割って入ったのは言わずと知れたスーパールーキー越前リョーマ。


「…もう部活始まるんだけど」


物凄く不機嫌そうに目で邪魔だと訴えかける。

そう。

なんてったって菊丸英二。

密かな青学テニス部、いや、中学テニス界の愛すべき存在。

謂わばアイドル。

初めは多くが2人の交際を反対したが、時間が経つにつれ諦めるものが続出。

しかし、やはりというか何というか流石はスーパールーキー。

彼だけは未だ諦めていないのだ。


「…あははははっ!」

「…なんすか、桃先輩」


そんなルーキーの心情を理解している桃城はまた爽やかに笑い飛ばした。


「ひーっ、腹痛ぇ」

「…桃、先輩?」


口元をひくひくと震わせながら、怒りに任せてツイストサーブの構えに入った。


「ちょっとちょっとー!おちびちゃーん!」


其処へルーキーの心情なんぞつゆ知らず、2人の間に割って入って桃城を守るように抱き締めた。


「…なんすか英二先輩?今イイトコなんすけど」


前に英二が現れてはボールを打ち込める訳がなく、渋々ラケットを下ろしつつ訊ねた。


「あのねぇ、おちびちゃんは毎朝桃の自転車で来れるんだから部活の時くらい俺に貸してくれたっていいダロ?」

「………は?」

『「あははははははっ!」』


訊ねた彼本人以外、完全スルーを決め込んでいた部員全員が、そのあまりにも的外れな発言のお陰で爆笑の渦に巻き込まれた。


「え、えー?にゃんでみんな笑うのっ!」


あまりな笑われように思わず誰ともなしに訊ねた。


「いや、ははっ…、最高だ、よっ…英二…ふふっ」


未だ腹を抱えながら明確な答えを返さずに笑い続ける不二周助の横で、滅多なことでは仏頂面を崩したことのない手塚が表情を保つことに必死である。


「おっ、珍しく手塚が必死だな。そうか、手塚の笑いのツボは英二の天然、っと…」


こちらもまた楽しそうにノートに書き綴っている乾を見て手塚は我に帰った。


「…っ、全員グラウンド20周だ!!!」

「…え、えーっ!?」


収集つかない事態になりかけていた青学テニス部に今月一番の手塚の怒声が響き渡った。


「お、手塚、今月一番の声の大きさだな」


尚もまだいちゃつきながらグラウンドに向かう2人を眺めながら、乾もパタンとノートを閉じて列の最後についてグラウンドに向かった。


───今日も青学テニス部は平和なようです。



*2009/09/01
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