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過去ログ


LOVE GAME



「ハッピーバースデー!ふーじっvV」


そんな恋人の声が耳に届き、言い終わるや否や背中に衝撃を受けた。


「ありがとう、英二」


まぁ、恋人になってからというもの、毎朝背中に衝撃を受けているせいか、今では苦にはならないが。


───…最も、初めから僕は英二のことに関しては苦に思うことなんて一つもないけど。


「ねぇ、ふーじっ?」

「なぁに?英二」

「帰りさぁ、俺の家寄ってってね?」

「うん、わかったよ」

「えへへ~vV楽しみにしててにゃ♪」


本当に彼は良く笑う。

そして笑顔が凄く似合う。


───…惚れた欲目を抜きにしても。


「本当、菊丸は笑顔が似合うな」

「うんうん!だよねー!」


ほら、やっぱり。

クラスメイトの声を遠くに聞きながら、再び英二へと視線を戻す。


(───…本当、いつでも楽しそうだね、英二は)


そんな彼の姿を見ていると僕まで楽しくなってくる。

前までの僕ならそんなことは絶対になかった。

顔こそいつでも笑顔だったが、心から楽しいと思ったことは数える程しかないと思う。


「───…楽しそうだな、不二」


引退してから行く機会がめっきり減ってしまったテニス部。

今日は皆で僕の誕生日会を開いてくれた。

そんな最中、主役そっちのけで騒ぎ始めた英二達を、ドリンク片手に眺めていると不意にそんな言葉が横から掛けられた。


「…楽しいよ?」


意味ありげな彼の言葉の真意を理解し、僕もまた意味を含ませ、そう言った。


「やはり、英二のお陰なのかな?それは」

「聞かなくてもわかってるんでしょ?」


僕がそう言えば、苦笑いのようなものを顔に浮かべながら、彼―…乾は皆の輪のなかに入っていった。


(確かに、英二のお陰だよ)


彼が居なければ気付かなかったことも、大して気にも止めなかったことも、彼が居れば楽しく思えた。

逆に言えば、彼が居なければ何もかもが楽しくなくなる。


「僕は相当、君に嵌っているみたいだよ…」


誰にも聞こえないくらいの声で英二に向かって囁いた。

そんな僕の声は聞こえていない筈なのに、英二は僕に満面の笑顔を向けた。

するといきなり、僕の所に来て、僕の腕に自分の腕を絡めたと思うと、


「俺達、ちっと先に帰るよん♪皆は残りの料理、楽しんでね~☆」


と、突拍子もないことをさらりと言ってのけた。


「ってことで不二っ!早く帰る支度してっ!」

「え、ちょっと英二っ?」

「ほら、早く早くっ!」


いきなりの展開についていけないながらも言われるがままに帰りの支度を整えた。

その間にも部員達は開いた口が塞がらないと言わんばかりの表情で僕達を見つめていた。


「よっし!んじゃ行こ!不二っ!みんな、バイバーイ♪」

「あ、はい!ありがとうございました!」


そんな状況下でも後輩達は日頃の努力の成果か、ほぼ反射的に挨拶をした。


「どうしたの?英二?」


突然の突拍子のない行動の理由を、学校からしばらくしたところで問掛けた。


「だってさ、俺の家でも色々用意してるし、29日の間に2人で居れる時間、短くなっちゃうじゃん!」


彼の突拍子のない言動、行動には随分慣れたと思っていたのに。

僕としたことが、数秒思考が停止してしまった。


「ふーじっ?ね、不二ってば!」

「あ、あぁ、ごめん英二。そうだったんだ。凄く嬉しいよ。ありがとう、英二」

「えへへ、行こ?不二っ!」

「うん、そうだね」



(───…本当、君は僕を楽しませたり喜ばせたりする天才だね)


天性の才能か。

はたまた惚れた欲目なのか。


───…どちらにせよ、


(僕もまだまだ、だね)


今、この場にあの生意気な後輩が居たならば、きっと言われていたであろう言葉を口にする。


(完璧主義者の僕としては、このまま終わる訳にはいかないよね)


自分ばかり喜んだりしていたのでは割りに合わない。


「───…英二に出来て、僕に出来ない筈がないもの」

「え?にゃーに?不二?」

「フフッ、なんでもないよ」

「変な不二ーっ!」


今はまだ、教える訳にはいかない。


徐々に徐々に僕と居る喜びを教えてあげる。

僕が居なくちゃ楽しくない。


(───…そう言わせてみせるよ)



その時になったら教えてあげよう。

僕がどれだけ君に嵌っているか。


そして教えて貰おう。


───…君がどれだけ僕に嵌っているか。



まるでそれは終りの見えないゲームのよう。


恋の駆け引き。


僕が君を、君が僕を好きでいる間は終わることのないもの。



(…Game Start!)



【…END…】
(2008/02/29)
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