過去ログ


たったひとつのい事



───今日は七夕。

前までの俺なら願い事はたくさんあったと思う。

ゲームにお菓子に洋服に。
テストと点が少しでも上がりますように、とか。

でも、今年はそんなことどうでもよくなっちゃうほど…


……──叶えたい、願い事があるんだ。



『ね!ね!不二はさ、願い事ってあるの?』

「どうしたの?急に。」

『どうしたの?って、今日は七夕でしょ?』


───今日は7月7日。

イベントが大好きな英二のことだ、何気なく聞いただけなのだろうと

少し寂しい気持ちにはなったものの、


「僕は特にないよ。」


と、嘘を吐いてしまった。


───本当はあるんだよ。

今日だって七夕に託つけて、きっと叶うはずもない願い事をした。

それは今日だけじゃなく、いつも。だけど。

僕の願いは何時でもひとつ。

君に出逢った日から変わることなく、ずっと。ずっとある。


───けど、

今まで伝えられなかった。

拒絶される可能性の方が高いと思ったから。

でも…可能性なんてあくまで可能性でしかない。

進んでみなくちゃ、その先に何があるかなんて誰にもわからない。



───伝えて、みようかな。



『……そ、っか…』

「…英二?」


やっぱ、さ…

不二の願い事が俺に関することだったら、なんて。

自惚れてたのかも。

そーだよね。

俺と不二は“親友”

それ以下でもなければそれ以上でも、ない。


───でも。

言わなきゃなにも変わらないよね。

受け止めてくれるか、拒絶されるか、

それは不二次第。

いつか不二が言ってた。

“いくら可能性が低くたって、それはあくまで可能性でしかないんだよ。

先に進まなきゃ、何があるかなんて誰にもわからないよ。”

そうだ。

先のことなんて誰にだってわからないんだ。

だったら俺は、


───伝えてみようと思う。



───────………‥‥



「『…え?』」


僕が英二の家に向かおうとしたら、

英二が、

………いた。


『不二?なんで…?』

「それは僕が聞きたいよ。」


少し間を置いて英二が話しだした。


『………俺は…………、不二に、逢いたかったから。』

「………え…?」

『不二に、逢いたかったの。』


…大好きだから。
という、英二の小さな囁きを僕は聞き逃さなかった。


───あぁ。君は何時でも真っ直ぐに気持ちを伝えてくれていたんだね。

普段、何気ない時でも好きと伝えてくれる君。

それに、親友以上の感情が込められていることに今、初めて気が付いた。


「……僕もだよ。英二。英二が…大好きだよ。」
『…スッゴク嬉しい!
俺の中で一番叶えたい願い事だったから。』

「嬉しいよ。英二。
僕だって同じ気持ちだったんだから。」


戸惑っていたのが嘘のようにスラスラと言葉がでてきた。


───たったひとつの願い事が叶う瞬間ってどれだけ幸せなんだろう。

織姫と彦星みたいに毎日逢えない訳じゃないけど。

初めて想いが通じた者達にとっては、

まさに、織姫と彦星になった様な錯覚に陥る。


『…ね。織姫と彦星、ちゃんと逢えたかな?』

「…当たり前でしょ?
織姫と彦星が僕たちを逢わせてくれたんだから。」

『そーなんだ?でも、それなら良かった!…ありがとー!』


空に感謝の言葉を送りながら、


幸せを手にした2人は帰路についた。



【…END…】
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